マクロスΔ 紅翼星歌〜ホシノツバサ〜   作:ハシタカノミコト

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Mission06 仇敵 ファインド・アウト III

 

——翌日、惑星イオニデス、衛星軌道上。

 

3機の〈VF-171(ナイトメアプラス)〉が哨戒パトロールで編隊を組んで飛行していた。

 

「隊長聞きました?ウィンダミアの空中騎士団がまたひとつ惑星を落としたらしいですよ」

 

隊員の1人が、パトロールに飽きたのか雑談を始める。

惑星ランドールの宣戦布告からすでに数週間が過ぎようとしているが、未だに惑星イオニデスにその魔の手が迫る気配はなく。

最初こそ身構えていた上層部も含めて、いつしか今までと同じような形だけのパトロールをするようになっていた。

 

「おー怖いねえ、怖いから早くパトロールを終わらせてビールでも一杯やりに行きたいねえ」

 

本来咎めるべき立場の隊長ですらこの様である。

 

「一杯付き合いますよ、隊長」

 

「よし、んじゃさっさとパトロールは終わらせるぞ」

 

操縦桿を傾けて、母艦への進路を取ろうとしたが、それを遮るようにレーダーがIFFの反応を捉え、中断させられる。

 

「なんだ一体?」

 

「隊長、接近する機体があります。このIFFは……41飛行隊の連中ですね」

 

「おかしいですね。この宙域は我々の管轄のはずですが……」

 

「ったく面倒くせえ、居眠りでもしてるんじゃねえのか」

 

隊長はフォールド通信の周波数を同調させ、接近する41飛行隊にコンタクトを図る。

 

「こちら54飛行隊。41飛行隊持ち場から離れてるぞ、戻れ。聞こえてるか——」

 

何度か呼びかけて見たが反応はなかった。

機体はぐんぐん近づいてくる。

その時だった——

 

「た、隊長!」

 

「今度はなんだ?」

 

「歌が……聞こえます」

 

「歌だあ?」

 

何を言ってるんだとでもいいたげな怪訝な顔になる。

だが、隊長の耳にも部下の言っていた歌は聞こえることになった。

 

草原を駆け抜ける風のような声

宇宙にいるというのに、パイロットスーツを着ているというのに、透き通った爽やかな風を感じた気がした。

荘厳な祈りにも似た歌が鼓膜を揺する。

 

それと同時にアビオニクスがロックオンされたアラートと、攻撃を受けているアラートを同時にかき鳴らした。

途端に意識が現実に引き戻される。

アラートが示した方向を確認すると、上方から接近してきていた41飛行隊の〈VF-171〉が持つガンポッドが一斉に火を噴いた。

 

「!? 散開しろ!」

 

指示を出すが、時すでに遅し。

逃げ遅れた一機は降り注ぐガンポッドの雨を受け、蜂の巣のように穴だらけになり、爆散した。

 

「隊長!ノーマ3が撃墜されました!」

 

「わかっている!……なぜ味方が攻撃を!?」

 

「……隊長!まさか」

 

嫌な予感が隊長の脳裏を過ぎった。

するとノイズ混じりの通信が傍受される。

 

「イオ……ス新統……各隊に通……。ヴァール……発生、繰り返す、ヴァールが……した!」

 

通信と同時に現在の戦況が送られる。

表示された図にはイオニデス衛星軌道上の各所で味方同士の戦いが発生していた。

しかし、悠長に通信をしている暇はない。

今まさに彼らも味方から攻撃を受けているのだから。

 

「隊長!どうするんですか!」

 

「くっ……!」

 

フットペダルを押し込み、熱核バーストエンジンを噴かす。

一機の〈VF-171〉が隊長機に向かって接近してきていた。

 

「うおおおお!!」

 

雪崩のように迫るミサイルをフレアで牽制する。

爆炎の中から飛び出すように出てきた〈VF-171〉かれ逃げるために大きな軌道を描いてシャンデル、その機動の中にガウォークへの変形を組み込み、敵となった味方の上面を捉える。

一瞬の逡巡の後、操縦桿のトリガーを引き、ガンポッドが放たれた。

ヴァール化した味方はそれを避けようとはせず、奇しくも先ほど落とされた部下と同じような形で蜂の巣にされ、あっけなく爆散した。

 

「はぁ……はぁ、くそっ!」

 

「隊長!78飛行隊との通信も途絶えました!彼らもマインドコントロールを——ッ!」

 

通信の途中に最後の部下が落とされた。

アビオニクスに写っていたリアルタイムの映像が砂嵐となる。

報告から察するに洗脳された78飛行隊の攻撃で撃墜されたことは明白だった。

 

「——なっ!……味方同士で殺し合いかよ!」

 

隊長の顔が渋面に歪む。

軍人とは言え人の子である。

本来背中を預け会うはずの仲間が洗脳されて、それだけで命のやり取りしなければならない敵となる。

その事実を突きつけられて苦悩していた。

 

しかし、追い打ちをかけるように再びアラートが鳴る。

レーダーには一個中隊規模の機体が、戦域に接近していた。

 

「敵の増援……!?」

 

宇宙を見上げる。

その機体に見覚えがあった。

ブリーフィングのデータで見た暗緑色の単発エンジン機のシルエット。

惑星ランドールで全銀河に宣戦布告した惑星。

来るはずがないと高を括っていた災厄の凶星がついに惑星イオニデスに訪れたのだ。

 

「——空中騎士団!?」

 

隊長の顔が驚愕で固まる。

そんなはずがない、来るはずがない。

脳が現実を無理やり否定する。

だが、眼前に迫る機体は間違いなくウィンダミアの空中騎士団のものだった。

抗いようのない現実を認めさせるようにミサイル接近のアラートが鳴る。

そして次の瞬間、隊長の視界は白を通り越して紅蓮の光で包まれた。

 

 

 

 

 

 

「惑星イオニデスにてヴァール症候群(シンドローム)が発生した。俺たち第三戦闘航空団及びワルキューレに出動要請がかかっている」

 

デルタ小隊の隊長であり、ラグナ第三戦闘航空団司令代行でもあるアラド・メルダースは、一同を見渡し、口を開く。

デルタ小隊をはじめとした、アルファ小隊、ベータ小隊が、決して広いとは言えない〈アイテール〉のブリッジに集まっていた。

その一団の脇には、ワルキューレの姿もある。

すでに〈アイテール〉は〈マクロスエリシオン〉から分離しており、イオニデス衛星軌道上へ向かうため、フォールド時空間内を航行していた。

 

「新統合軍の兵士もすでに70%以上が操られ、空中騎士団も現れたらしい」

 

「70%も……!?」

 

声を上げたのはハヤテだった。

軍人として日が浅いハヤテでもわかるほど、新統合軍は全滅に近い状態に追いやられているのは明白だ。

そもそも戦闘単位において、部隊の70%が損失とは割合で言えば3割に過ぎない。

だがそれは後方の兵士、衛生兵など所属する全ての部隊を統括して見たときの単位であり、戦闘担当の損失として見れば、実に6割もの戦力が敵に寝返ったということになる。

残りの4割がどこまで抵抗できるかは部隊の練度にもよるが、どちらにしろ長くは持たないだろう。

だからこそ、ヴァール症候群(シンドローム)の発生と共に、各小隊とワルキューレにスクランブルがかかったのだ。

 

「俺たちデルタとワルキューレはいつも通り戦術ライブを敢行しヴァールの鎮静化を図る。アルファ、ベータ小隊は防衛に回ってくれ」

 

「「了解!!」」

 

アルファ、ベータ小隊の隊長が敬礼し、それに習うように部下も敬礼した。

 

「アラド少佐、まもなくイオニデス衛星軌道上へデフォールドします」

 

「了解だ。アルファ、ベータ小隊は先行して発進、その後俺たちデルタが出る。今まで連戦連敗だからな。奴らに借りを返すぞ!以上だ!」

 

 

 

 

 

 

〈アイテール〉はイオニデス衛星軌道上、アステロイドベルト付近にデフォールド後、即座に発進シークエンスに移行した。

甲板を滑るようにして淡灰色のクリップトデルタ翼を広げたアルファ、ベータ小隊の〈VF-31A(カイロス)〉が宇宙へ飛び出していく。

 

「アルファ、ベータ小隊発進完了、ポイントチャーリーの防衛に向かいました」

 

「続いてデルタ小隊の発進準備に入ります」

 

〈アイテール〉艦内に管制官の声が響く。

パイロットスーツを着用し終えたスバルは格納庫へ向かう道を進んでいた。

 

(こんなに早くチャンスが訪れるなんてな……出てこい〈黒百合の悪魔〉!)

 

「デルタ小隊各機MMPブースターパック、及びプロジェクションユニットを装着!」

 

「デルタ各機はポイントエコーに向かい戦術ライブを行なってください。また星那スバル少尉は〈アイテール〉で待機です」

 

「なっ……!」

 

唐突に名指しで名前を呼ばれたことでスバルは立ち止まる。

だが艦内放送は一方的なものであり、こちらからどうこうできるものではなかった。

 

「おいおいそりゃねえだろ」

 

デルタ小隊は本来予備も含めた15名で編成された一個飛行中隊規模の部隊となるはずだった。

しかし、ヴァールが蔓延する戦場で戦うという特性上、ヴァールに耐性があるパイロットではならない制約がある。

その条件を満たすパイロットは少なく、現在ではスバルを含めた6名でしか活動できないため、交代要員はいないのだ。

そんな状況下でアラドが何を企んでいるかはスバルには理解できなかったが、無謀としか言いようがないことだけは理解できた。

 

だからこそ、スバルは命令を無視しても戦場に出ようとした。

戦力が足りなくなるという建前を利用して、自らの復讐を果たすために。

 

「……?」

 

格納庫に続くドアを開けようとパネルを操作したが開く様子はない。

パスワードを間違えたかと思い2、3度打ち直すが、やはりエラーとなった。

 

「なっ……まさかロックされてる!?」

 

スバルがロックされたドアと格闘している頃、ドアを挟んだ向こう側では、アラドとメッサーが自分の機体へ向かっているところだった。

アラドがドアに細工をしたことは言わずもがなである。

 

「アラド隊長、少し強引だったのでは」

 

「言って聞くような奴じゃないだろ?それにお前だってスバルの飛び方がおかしくなっているのは気づいてたはずだ」

 

「……確かに、戦闘のたびに何かを探すように飛んでいました」

 

メッサーはアラドの問いに答える。

本来スバルはメッサーと互角にやりあえるくらいの実力は持っているのだ。

しかし、自らの仇を探すことに集中するあまり、操縦がおざなりになっていたのだろう。

だからこそ、昨日のように反省会という形で気づかせようとしたのだが、無駄に終わってしまったようだ。

 

「そういうことだ。おそらくこの戦闘でスバルが探してた奴は出て来るだろう。そいつと戦えば負けるのは間違いなくスバルだ。負担をかけて悪いが、頼むぞメッサー」

 

「……最善は尽くします」

 

叱咤するようにメッサーの背中を叩くと、アラドは自分の〈VF-31S〉の元へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

コックピットで機体のシステムをスタートしていたアラドの脳内では、昨晩の出来事が蘇っていた。

カナメ・バッカニアと最高級品であるバレッタネコクラゲのスルメを齧りながら晩酌をしているところに、急にアイシャ・ブランシェットから通信が来たのだ。

 

「アラド、少しいいかしら」

 

普段から研究一筋であるアイシャは必要がない限りは自分から連絡をすることはない。

もちろん何かを頼めば快く引き受けたりもするが、自身が研究していることか、余程のことがない限りは基本的にノータッチなのだ。

そのアイシャが連絡を寄越したものだから、当然アラドは驚く。

 

「アイシャ博士から連絡なんて珍しいですね。一体何の用です?」

 

驚きつつも平静を保ちながら、いつものようにスルメを囓る。

 

「星那スバルについてよ」

 

アイシャから出てきた言葉にアラドは再度驚いた。

同時に、スバルが何かしでかしたのかと、訝しんだ面持ちになる。

 

「アイツが何かしでかしましたか?」

 

「いえ、まだしでかしてないわ」

 

まだということは、つまりこれから何かをやらかすかもしれないという事だ。

それを想像して、アラドはウンザリしたような顔になった。

ただでさえハヤテという問題児を抱えているというのに、さらにスバルが何かをやらかしたのなら、後始末やら何やらで胃に穴が空きそうになるのを想像したからこその顔であった。

 

「スバルに〈黒百合の悪魔〉について調べて欲しいと頼まれたわ」

 

「ほう、それで何かわかったんですか」

 

「ええ、〈黒百合の悪魔〉がスバルの両親の仇であるということがね……」

 

その言葉にアラドは今度こそ驚かなかった。

というのも、星間複合企業であるケイオスは様々な部門を持ち、その中に諜報活動を専門とした部門もあるのだ。

デルタに入隊する前に隊員のことを把握しておく必要があるアラドは事前にスバルのことは調べていた。

6年前に〈フロンティア動乱〉と呼ばれる反統合勢力との戦いで、両親と妹が亡くなったことで天涯孤独の身となり、その後父親の教えを受けていた知人に引き取られて育てられたと聞いている。

 

「なるほど、敵討ちですか」

 

「肯定はしなかったけど十中八九敵討ちでしょうね」

 

アラドは歴戦の戦士だからこそ、敵討ちを考えている人間の末路を嫌という程見てきた。

それこそアイシャよりももっと多くの末路をだ。

 

「……マズイですね」

 

「ええ、だからお願いがあるの」

 

「お願い、ですか」

 

「ほとぼりが冷めるまでスバルを戦闘に出さないようにしてほしいの。そうしないと間違いなくスバルは死ぬわ」

 

「厳しいことを言いますね……」

 

スバルを戦闘に出さないということは、残りの5人の負担が増えるということだ。

ただでさえ人手が不足しているデルタ小隊だがメッサーに匹敵する戦力であるスバルの離脱は正直痛手という他ない。

そして、アイシャの言うほとぼりが冷めるまでというのは〈黒百合の悪魔〉を倒せということだ。

アラドとメッサーの二人掛かりであれば不可能ではないだろう。

しかしウィンダミアには〈白騎士〉がいる。

デルタ小隊の最大戦力であるメッサーをぶつけて五分五分の現状では〈黒百合の悪魔〉も相手にすることは厳しいだろう。

さらにスバルが抜けた状態では戦力ダウンも否めないため、〈黒百合の悪魔〉を倒すことは、ほぼ不可能と言ってもいい。

だが、出撃させればその憎しみに任せた戦い方でスバルは死ぬだろう。

どちらを選んでも茨の道、なればこそ少しでもリスクの少ない方を選ぶべきだとアラドは結論づけた。

 

「まあ、やるしかないでしょうな」

 

腹を決めて、齧っていたバレッタネコクラゲのスルメを喰い千切った。

 

「悪いけど頼むわね」

 

 

 

 

 

 

「ったく、ハヤテといいスバルといい、新人は面倒ばっかりかけてくれるな」

 

実際ハヤテをスカウトしたのはアラド自身であり、スバルをスカウトしたのはレディMとはいえ、それを承諾したのはアラドである。

実際、ラグナ支部では人格より実力優先でスカウトをしているともっぱらの噂であり、曲者揃いと、ワルキューレのスタント飛行をしていることから〈曲芸部隊〉なんて呼ばれたりもしている。

 

操縦桿を握りしめて、格納庫の向こうに広がるイオニデスの宇宙を、戦火が飛び交う星の海を見てニヒルに笑う。

かつて自分も新人の頃に自由奔放に振る舞い上官に怒られたことを思い出して、そして自由に空を飛んだ時の血の滾りを感じていた。

 

「デルタ小隊各機、MMPブースターパック及びプロジェクションユニットの換装終了、発進シークエンスへ移行します」

 

特殊装備への換装を終えた色とりどりの〈VF-31〉が〈アイテール〉の甲板に並ぶ。

 

——もうまもなく、奇跡のステージが、その二幕が開かれようとしていた。




今回スバルくんほとんど出番がなかった(´;ω;`)
まああの様子ではまともに戦闘なんてできないでしょうけども……。

さて、次回はアニメでいうところの6話後半にあたる部分です。
そう戦闘回です、グリグリ動かしたいと考えてますので、今しばらくお待ちを。

それでは(・◇・)ノシ
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