マクロスΔ 紅翼星歌〜ホシノツバサ〜   作:ハシタカノミコト

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Mission08 陰謀 エグザミネーション III

 

遺跡の深奥部にあったのは意外なものだった。

 

「これって……」

 

「ミネラルウォーター……ですね」

 

レイナとマキナが空けた侵入路の先は開けた空間となっており、それに見合う大きい地底湖が広がっていた。

水を吸い上げるためのパイプやポンプ、それを貯めておく貯水タンクが雑然と配置されおり、軍の納入に使うコンテナも雑多に置かれてある。

その1つを開けたハヤテとミラージュは拍子抜けしたような声を出して、中に詰められたそれを手に取っていた。

 

「本当だ。海外輸出用だからラベルが少し違うけどケイオスにも搬入される物だね」

 

「確か軍にも納入されているはずだ。以前見たことがある」

 

「じゃあ何か?ウィンダミアの連中はわざわざ首都じゃなくてこんな遺跡くんだりまで来た挙句、あんな大仰な機械持ち込んでボトリングやってるってのか?」

 

「そんなはずないだろう」

 

「わーかってますよ」

 

不機嫌そうなメッサーから語気の強いツッコミが入るが、当のメッサーも困惑しているようだった。

どう見ても、何度見てもここは10人中10人が地下水の取水施設と答えるだろうし、その取水した地下水のボトリングを行う施設だと答えることだろう。

 

「——まさか次元兵器の冷却プラント!?」

 

「ミラージュの懸念もわかるけど、偽装にしては大がかりすぎるわ。それにフォールド物質は検知されていないし……」

 

「うーん、ということは外れか〜。骨折り損の水だらけ〜」

 

「ケイオスにも軍にも納入されている水……もしかして」

 

ジッと考え込んでいたレイナが何かを閃いたかのようにホログラム・スクリーンを起動して何かを調べ始める。

 

「何かわかったのレイナ?」

 

「これまでのヴァール化の発症、軍関係者が61.4%」

 

「まさかこれにヴァール化を誘発する物質を仕込んでいるとか?」

 

「貸して」

 

戯けるハヤテの横から颯爽とボトルを奪い去っていったレイナが計測用のカプセル型マシーンを放り込む。

 

「どう?」

 

「ナトリウム、カリウム、ヴォルド重炭酸塩……ただの水」

 

「そう……」

 

特に目立った成分が発見できなかったらしく、サンプリングの結果に不満であるというように言葉を溢した。

 

「ねえねえ、みんな」

 

満面の笑みでやってきたのはフレイアだった。

 

「美味しそうなおやつがこんなにあったんよ〜」

 

手にしていたのは箱いっぱいに詰め込まれた大量のリンゴ。

 

「銀河リンゴか。おそらくそれも軍への納入品だろう」

 

「銀河リンゴ……たしか正式名称はウィンダミア・アップル。安いけど栄養価が高く軍では重宝されていたはず」

 

「へぇ〜そうなんか。知らん間にみんなウィンダミアのリンゴ食べてたってことなんかね」

 

「!!」

 

フレイアの一言を受け、レイナがまたしても何か思いついたように、今度は計測装置に取り付いた。

 

「軍に納入されている水とリンゴ。ほとんどの人は銀河リンゴがウィンダミア産だと知らない……」

 

ホログラムのキーボードを叩きながら流れていく情報を段階的に処理していく。

そのスピードは凄まじく、その場で見ている誰もが付いて行けず、答えを待つのみになる。

 

「出た……」

 

結果はすぐに出た。

レイナの一言で、全員が息を呑む。

 

「リンゴのポリフェノールと、ミネラルウォーターに含まれるヴォルド重炭酸塩が結合することで高濃度のセイズノールが精製される……」

 

「「「「!!!!」」」」

 

「なるほど……そういうことね」

 

カナメは苦々しげに唇を噛んだ。

 

「?どういうことね?」

 

この場でただひとり、フレイアだけがレイナの言った言葉の意味を理解していなかった。

 

「ここの水とウィンダミア・アップルを取り込むと、体内でヴァールを誘発するセイズノールが合成される……」

 

「それって……!」

 

「おそらく他の惑星の遺跡にも同じ成分の水が存在していてウィンダミアはその水とリンゴを使って人為的にヴァール化を促進。風の歌でマインドコントロールをしていたってところね」

 

「ウィンダミアのリンゴをそんなことに……!」

 

フレイアが何か言おうとした、その時だった。

洞窟内にけたたましく警報が鳴り響いた。

 

「!?」

 

「見つかったか?」

 

「嘘!?セキュリティは全部レイレイが握っているのに!」

 

「撤収するわよ!マキナとレイナは脱出経路の確保!ミラージュ達は念のためサンプルの回収!メッサーくんとスバルくんは守備をお願い!」

 

動揺が広がるメンバーを叱咤するようにカナメの言葉が飛ぶ。

やはりリーダーらしくこのような緊急事態にも慣れているようだった。

 

「おい!スバルはどこだ!?」

 

メッサーが手にした突撃銃を持ったまま辺りを見回すが、遺跡に共に侵入したスバルの姿が見当たらない。

 

「クモクモもだよ!」

 

マキナも同じように辺りを見回して美雲の姿がないことに気づく。

こんな時に、と誰もが思い、まさかスバルまで、と思った。

 

「やむを得ないわね。美雲とスバルくんを探しながら脱出するわよ!メッサーくん、先導をお願い!」

 

「了解です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は、ワルキューレ一行が地底湖に侵入した頃に遡る。

美雲とスバルは、ふたりで遺跡内部を進んでいた。

というのも、レイナとマキナが作った侵入口に全員が入って行く中、美雲だけは何故か違う方向を向いていた挙句——

 

「……呼んでる」

 

——などと言って勝手に別方向に進み出したからだ。

すでにスバル以外のメンバーは洞窟に侵入していたため、いまさら他のメンバーを呼び戻すこともできず、かと言って憔悴した美雲を見た後では単独行動をさせる訳にもいかず、一緒に行動することになったのだ。

 

暗闇の中をわずかな明かりだけを頼りに美雲はどんどん進んで行く。

その後から続くスバルは辺りを見回して、あることに気づいた。

 

「ここは……連中(ウィンダミア)の手が届いていないみたいだな」

 

先ほどまで進んでいた通路は工業的な材質で作られた床や壁だったが、今歩く通路は石材や削り出した岩で構成されているものらしく、所々に壁画さえ描かれていた。

 

「私を呼ぶのは……誰」

 

ボソリと美雲が呟く。

すると、進行方向に光が見えた気がした。

辿り着くとそこは行き止まりであるが、何かに使われるような場所であることは理解できた。

 

「遺跡の中心部……か?」

 

部屋は大きい円形の広間になっており、天井からは光が差し込んでいる。

その光が照らす先である部屋の中央には祭壇のような台座らしきものが鎮座し、本来の役目を果たせぬまま佇んでいる。

それを囲うように柱が規則的に配置されており、何かが行われていた場所だったことは明白であった。

この遺跡を使うもの達が滅んでから幾星霜、放置されてきたこの場所は、経年により荒れ果てていたが、それでもなお荘厳で厳格な雰囲気があるような気がした。

 

「私を呼ぶのは……プロトカルチャー ?」

 

祭壇の中心に立ち光を見上げる。

スバルには聞こえない何かを彼女は感じているようだ。

光の中に立ち、身体の前で手を組む美雲の姿は洗礼を受ける聖職者のようであり、ステージの前の余韻に浸る歌手のようであった。

 

「なあ美雲。そろそろここにきた理由は説明してくれないか?」

 

「あら、スバルいたの?」

 

どうやらスバルが付いてきていることに気づいていなかったらしい。

美雲は表情は崩さずに淡々と言ってのけた。

 

「最初からいたっつーの!というか今の今まで気づかなかったのかよ!」

 

「……冗談よ」

 

(……ぜったい嘘だ)

 

振り返った時に、美雲の双眸が少しだけ大きく開き、眉が動いていたことをスバルは見逃していなかった。

もっとも、美雲もそれを悟られまいと、すぐいつもの表情に戻っていたが。

 

だがスバルは反目で訝しむように見つめるだけだそれ以上何も言うことはなかった。

 

「で、理由は説明してくれるのか?美雲」

 

「——そうね。スバルには聞こえないのかしら」

 

「何がだよ?」

 

返答を聞いた美雲の視線はスバルの胸元に、ペンダントのように下げられたイヤリングに向けられていた。

とはいえそれもまた一瞬のことで、その行動の意味は理解出来なかった。

 

「聞こえないのならいいわ」

 

素っ気なく返すと、美雲はまた前を向いて何をするでもなく光を見上げて佇む。

 

「……?」

 

(何が言いたいんだ?このイヤリングもじっと見てたし……)

 

美雲を見つめながら、首から下げられたイヤリングを指で遊ぶ。

いつもは左耳にイヤリングをつけているのだが、今回は任務ということもあり外していた。

とはいえお守りみたいなものなので置いてくるわけにもいかずこうしてペンダントのようにしているのだ。

 

手持ち無沙汰に暇しているスバルが広間の壁画を見ようとした瞬間——

 

——追いつけない 君はいつでも この場所から 何を見てた——

 

——今まで沈黙を保っていた美雲が突如として歌い出した。

 

「なっ!?」

 

あまりに唐突な出来事に鳩が豆鉄砲を食ったような顔で固まってしまう。

だが、美雲はそんなスバルすら気にも留めず、ただ歌い続けている。

 

「潜入任務中なのに何考えてんだ……ッ!」

 

歌を止めさせようと一歩踏み出し、気づく。

美雲の歌に呼応するかのように、祭壇を囲っている柱が光を浴び始めているのだ。

それは雫が水面に落とされ、波紋となって広がるように美雲を中心に拡散していく。

柱の模様が輝きを増し、壁画に淡い光が宿って、描かれた絵を浮かび上がらせる。

長い年月を超えて、今再び、本来の役目を果たすべく、パラガナール遺跡が起動しようとしていた。

 

しかし、それを遮るような乾いた拍手の音が、辺り一帯に無機質に響いた。

それを受けて歌っていた美雲も、見ていたスバルもその音の出所を求めて振り返る。

 

「いやぁ、素晴らしい歌ですね。流石はワルキューレのエースボーカルと言ったところでしょうか」

 

コツコツと足音を響かせて暗闇から姿を現したのは、大統領官邸に侵入した際に見た男だった。

菫色の長髪に、閉じられた細く長い瞳。

映像で見るよりもしっかりした身体つきの男は——

 

「——宰相補佐……ジュリアン・ランヴェール!」

 

手にした拳銃を構えて、美雲を守るように立ちはだかる。

 

「おや、私のことをご存知ですか。ですが改めて自己紹介を。ウィンダミア宰相補佐のジュリアン・ジュスト・ランヴェールと申します。以後お見知り置き下さい」

 

無駄のない洗練された動きで一礼をする。

 

「白々しいわね。私たちが侵入したことに気づいていたくせに」

 

「……どういうことだ美雲?」

 

「監視し終えた後のことよ。貴方が去った後、映像の中でこの男が、仕掛けたドローンのカメラ見てを言ったのよ。見つけた、って」

 

「それって……」

 

礼をしているジュリアンの口角がわずかに上がった。

 

「まあそう邪険にしないでください。別に戦いに来たわけではないのですから」

 

「敵の言うことを信じるほど、オレは甘くないぞ」

 

ジュリアンは黄金に縁取られた華麗な純白の外套を纏っていた。

スバルの視線はその衣服の狭間から覗く1尺5寸ほどの長さに見える得物に向けられており、その視線に気づいたジュリアンはわざとらしくひけらかして見せた。

 

「これは護身用ですよ。気になると言うなら地面に置いておきましょう」

 

そう言って腰から剣を抜くと、床へ突き立てた。

 

「これで信じてもらえましたか?」

 

「…………」

 

両手を上げて戦意はないと表現するジュリアンはまるで仮面のように貼り付けられた笑顔のまま、眉ひとつ動かさない。

スバルはその問いに肯定も否定もせずただじっと正面から見据える。

拳銃を構え、引き金には指をかけたまま視線を外さない。

 

(こいつ……何を考えてやがる)

 

美雲と同じ髪色、似た顔立ちをした男は最初こそ美しいと感じたが、今はそのような感覚はなくなっていた。

慇懃無礼な言葉遣いや受け答えは、まるでのれんに腕押しをしているようにのらりくらりと躱されているようで、眉ひとつ動かさない表情では、その素顔を見ることも叶わない。

美雲に似ているのに、彼女の持つミステリアスさとは正反対とも言える胡散臭さが漂っていた。

 

「やはり信じてもらえませんか。まあ当然ですね」

 

言葉では落胆しているように見せているが、やはりジュリアンの面持ちは一ミリたりとも崩れていなかった。

 

「まあいいでしょう。今回は挨拶だけのつもりでしたから」

 

「なんだと……?」

 

「いずれまた会う時があるでしょう。話はその時まで持ち越させて頂きます」

 

ジュリアンは先ほどより深い礼をすると、外套を翻して去っていく。

あまりに自然な流れに一瞬呆気にとられてしまう。

 

「……!待て!話はまだ——!」

 

「そうそう、言い忘れていました」

 

立ち止まったジュリアンが振り返る。

 

「あなた方のお仲間ですが、どうやら見つかってしまったみたいですね」

 

その双眸はしっかりと見開かれており、暗闇の中、真紅の瞳が怪しく不気味に輝いて見えた。

 

「——何だと?」

 

「信じる信じないはお任せいたします。もし信じて頂けるのなら、その剣を使うといいでしょう。何しろお仲間の相手をしているのは空中”騎士団”なんですから」

 

口角を釣り上げ、騎士とは思えない邪悪な微笑みを見せると、ジュリアンは暗闇の中へと消えていった。

辺りには静寂が戻り、スバルと美雲がその場に残される。

 

「スバル……」

 

「行こう美雲。あの野郎の言うことが本当だったらハヤテたちが危ない。もちろんワルキューレもだ」

 

苦虫を噛み潰したような面持ちでスバルは目の前に突き立てられた剣を引き抜いた。

 

金と銀に装飾された剣は、儀礼用なのではないかと見紛うほど美しい。

剣の知識が皆無なスバルでも、大変な業物であると理解できた。

 

その剣を手に、スバルと美雲はハヤテたちの身を案じながら、広間を後にするのだった。

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