マクロスΔ 紅翼星歌〜ホシノツバサ〜   作:ハシタカノミコト

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Mission09 覚醒 イグニッション II

 

「——メッサーそっちに行ったぞ!!」

 

通信機越しにスバルの鋭い声が飛ぶ。

どうやら敵の一人が自身の位置を把握し、迫っているらしい。

 

「了解した、こちらで対処する。お前はハヤテたちを守れ」

 

「言われなくても!」

 

通信が途切れる。

空になった弾倉を再装填し、階下から迫る新統合軍兵士を牽制するように弾をバラ撒く。

 

「キリがないな……ッ!」

 

スバルの言っていた刺客は予測より遥かに早く現れた。

新統合軍兵士たちの間を縫うようにして、外套をまとった男が高速で接近する。

 

「ヤツか」

 

メッサーは取り乱すことなく、至って冷静に迫る金色の騎士を狙撃する。

が、相対した騎士にとって弾丸を避けることは造作もないことであり、首を僅かに傾けるだけで回避してみせた。

そのまま猛禽類のような跳躍で、一瞬のうちにメッサーへ肉薄し、文字通り必殺の斬撃を放つ。

が、メッサーもその一撃を銃身で受け止め、鍔迫り合いのような形になる。

 

キースの双眸が僅かに開いた。

彼にとってウィンダミア人と地球人は比べ物にならないほど身体能力の差があると思っていたし、事実そうだった。

だが、目の前にいるこの男は自身の反射速度に追いつくだけでなく、あまつさえその一撃を受け止めてみせたのだ。

 

「我が風を読むか。……貴様が死神だな」

 

「お前は……白騎士!」

 

互いの問いに肯定はしない。

だが確信を持って言葉を発したことは間違いない。

目の前にいる相手は、アル・シャハル、ランドール、イオニデスで戦った相手であると、その確信があった。

 

メッサーはただ冷静に、膂力で剣を押し返し、銃口を向けて発砲した。

しかし、たとえ至近距離であろうとキースがそれに当たるはずもなく、外套を目くらましのようにはためかせ、逆にムーンサルトのような蹴りで銃を吹き飛ばす。

 

「くっ……」

 

すかさず腰に忍ばせた拳銃に手を伸ばすが、負傷した右手が痛みほんの一瞬、動きが鈍る。

だが、キースにとってはその一瞬で十分だった。

首元に剣が当てられ、勝敗が決する。

 

メッサーの瞳がキースを見た。

キースの瞳がメッサーを見据えた。

 

「…………」

 

諦めもなく、憎悪もなく、ただ生存を求める男の目がそこにあった。

キースは黙ったまま首元に当てた剣を鞘へと戻す。

 

「……なんの真似だ」

 

「生身で終わらせるには惜しい男だ。貴様との決着は空でつけよう」

 

戦いの中で情けをかけ、戦士としての誇りを侮辱したことをキースは理解していたし、メッサーも後ろから撃つなど戦士としてあるまじき侮辱であると理解していた。

だからこそ、キースは何も言わずに去って行く。

メッサーもただ去っていく騎士の後ろ姿を見送る。

アル・シャハルで出会ってから始まった因縁に、今度こそ決着をつけるために。

 

そのメッサーの耳に聞き慣れたメロディーが響く。

それはハヤテたち救出のための、ワルキューレの戦術ライブが始まったことを意味していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「隊長!敵の防衛網に穴が!」

 

「始まったか!?」

 

モニターに映し出されていた敵反応のひしめき合う宙域図にいくつもの穴が発生する。

それに呼応して眼前の低軌道上を行き交う光点の数が明らかに減っていた。

 

「アラド!」

 

その宙域図を遮るようにしてモニターにアイシャとの通信が繋がった。

目の色を変えて興奮しているのか、落ち着いた雰囲気は微塵も感じられない。

もっとも、本人がそう振る舞っているだけで周りから見れば全く隠せていないのが現実であるが。

閑話休題(それはともかく)

アイシャが顔色を変えて、しかも普段見せないような興奮の仕方をしているとなれば大方の予想はついていたアラドであったが——

 

「どうかしましたかアイシャ博士?」

 

「どうもこうもないわよ!これ見て!」

 

——送られてきたデータを見て、目を剥いて驚いてしまった。

 

「こいつは……」

 

モニターに映された波形は虹色に輝き、その規模を拡大しつつある。

それはワルキューレ創設当初から在籍するアラドにとってはもう見慣れてしまった、フォールドウェーブの観測データの波形だった。

 

「ワルキューレの歌に呼応して、ヴォルドールの遺跡が目覚め始めているの……!」

 

「ウィンダミアが仕掛けたサウンドエナジーシステムとか新型の兵器とかじゃないんだな?」

 

「当たり前でしょ。このフォールドウェーブは現代の人類じゃ再現できないものよ。間違いない……この惑星(ホシ)当たりよ!ああもう!やっぱりあたしも一緒に行っておけばよかった!!」

 

そうすると余計に話がややこしくなって拗れるから待機にしたんだ。とは言わなかった。

アイシャの様子を見れば、その選択が正解だったと如実に語っている。

 

「——隊長。ワルキューレが歌ってるってことはアイツらしくじったんじゃ……?」

 

「どうだかな。何にせよ、行動を起こしたのなら助けに行くだけだ。突っ込むぞデルタ3!」

 

「ウーラ・サー!」

 

「あ!アラドちょっと待って!」

 

フットペダルを押し込み、エンジン全開で噴かそうとして、再び通信に割り込んできたアイシャによって、その勢いが削がれる。

 

「今度は何ですアイシャ博士?これから助けに行くぞって時に」

 

「その救出に使うだろうから持って行って欲しいのよ。スバルの機体を」

 

「! 調整は終わったのか?」

 

「ええ。たった今ハリーから連絡が来たわ。とっておきの改装も施してあるからお願いね」

 

アイシャはほくそ笑むと、パチリとウインクをしてみせた。

その通信からほどなくして、自動操縦になった真紅の〈VF-31F〉が姿を現わす。

一見したところ外観に改装された痕跡は見当たらないため、中身を弄ったのだろうと適当に考えると、アラドはとチャックは、レーザー誘導装置を真紅の〈VF-31F〉へと接続し、援護のために出撃したアルファ、ベータ小隊と共に戦火が飛び交うヴォルドールへと飛び込んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴォルドールの遺跡を飛び出すと、空はすでに戦場となっていた。

紅蓮の炎が空を染め上げ、ミサイルやフレアが光となって、瞬いては消える。

事前に取り決めた合流ポイントに辿り着くと、別行動をしていたワルキューレとメッサーが先に待機しており、辺りを警戒していた。

 

「来たか。無事なようだなスバル」

 

こちらに気づいたメッサーが構えていた銃を下ろす。

心なしか強張った面持ちが和らいだ気がした。

 

「おかげさまでな。状況は?」

 

「第三戦闘航空団が降下して新統合軍機と交戦している。隊長とチャックは俺たちの機体を持ってくるそうだ。それまで警戒は怠るなよ」

 

「わーかってる。メッサーもその傷であんま無茶すんなよ?」

 

スバルの視線は、メッサーの右腕に巻かれた包帯に向けられていた。

先ほどより出血しているのか包帯は半分ほど赤く染まっていた。

 

「それはこちらのセリフだ」

 

「? どういう意味だよ」

 

この間(イオニデス)のような戦闘は御免被る、という意味だ」

 

「ぜ、善処するよ……」

 

バツが悪そうに頭に手を当てるスバルの耳に聞き慣れた熱核バーストタービンエンジンの金属音が響く。

見上げれば、緑、黄、黒、真紅、臙脂、青の幻想的な翼が舞い降りてくる。

虹のごとき色彩を放つそれは、ワルキューレの翼であり、今やブリージンガル球状星団において最後の希望とも称されるVF-31の編隊だった。

 

「待たせたなぁ!デルタ小隊名物ジークフリード4機お届けだ!」

 

「さあデルタ小隊、機体に乗り込め!もうひとっ飛びするぞ!エアショーの時間だ!」

 

通信機からアラドとチャックの声が聞こえてきた。

ふたりとも普段の二割り増しくらいにテンションが高いのか、声が少し上ずっていた。

 

言われるまでもなかった。

スバルにとって、いやデルタ小隊にとって重力下の空こそが最高のステージなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

戦火の空を6つの光が駆け抜けていく。

それを遺跡の出口からロイド・ブレームはただ見つめていた。

デザイナーズグラスの奥の瞳が何を考えているかは定かではない。

それは本人のみぞ知るところだろう。

 

「ロイド様」

 

ふと声をかけられる。

凛と響く虹色の声。

振り返った先には、自身の補佐を務める男ジュリアン・ランヴェールが控えていた。

 

「ジュリアンか。どうした?」

 

「キース様から要請がありました。風の歌い手のお力が——ハインツ様のお力が必要との事です」

 

その言葉を聞いたロイドの表情がみるみる曇る。

苦虫を噛み潰したような渋面でどうすべきか考えているようだった。

当然だろう。

彼らの言う風の歌い手——ハインツ・ネーリッヒ・ウィンダミアはまだ齢10歳にも満たないほど幼いのだ。

その上身体が生まれつき弱いと言うハンデも背負っており、いくらウィンダミア人は寿命が短いと言っても、そんな彼が大勢のヴァールをマインドコントロールできるほどの強大な力である〈風の歌〉を歌えばどうなるかは想像に難くない。

だからこそ、ロイドは判断を下せずにいた。

それを見ていたジュリアンは沈黙を保っていた口をついに開いた。

 

「ロイド様。ハインツ様に玉座よりお出ましを願いましょう」

 

「ジュリアン……」

 

「たとえ幼くともハインツ様は王族です。己の身を削ってでも民を守るのが王族の務めであり、栄華の座に座る代価を払うのもまた王族の務めです。そこに例外はありません」

 

「——しかし」

 

「我らの正しさは、風の歌が立証するでしょう。さあ、ご決断を」

 

「……わかった。本国に至急打電を送れ」

 

「かしこまりました」

 

ロイドは優しかった、優しすぎた。

しかし、こと戦争においてそれは何の役にも立たない。

花の美しさが戦争に不要であるように、その優しさもまた、不要であるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

管制室へ続く道をジュリアンはひとり進む。

外では戦闘が繰り広げられているとは思えない静けさだった。

カツカツと靴の音だけが反響して響いている。

そんな道を進みながら、ジュリアンは笑っていた。

口角を吊り上げて、不敵な笑みを浮かべている。

 

「そう、我らの悲願を果たすためには、代価がまだ足りないのです」

 

誰に言うでもなく、呟く。

 

「流れる血も、響く歌の力も、何もかもがまだ足りない」

 

ジュリアンの笑い声は、通路を包む静寂に呑み込まれ、やがて消えていった。

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