何を言ってるかわからねーと思うが俺も(ry
「——で、なんで私まで」
そう言って大きなため息を吐いたのは、私服にしては妙に気合が入っている格好のミラージュだった。
「プレゼントって何買っていいかわかんねぇんだよ。どうせお前も用意するんだろ?」
腕を組んでボヤくミラージュの隣にいるのはハヤテだ。
近くの手すりに寄りかかって、吹き抜けになっているモールの一階に並ぶ店を遠目に眺めながら、宥めるように言う。
「はぁ……」
「なんでそこでため息なんだよ」
「そんなことだろうと思っていたからです」
ミラージュはまた大きなため息を吐くと、鞄からキュルル——女子寮で飼っているウミネコ——の装飾が施された携帯を取り出し、ホログラム・スクリーンを投映する。
そこには画像付きでリスト化されたプレゼント候補がズラリと並んでいた。
「おー、プレゼント候補か。さすがはミラー……高くねぇか?」
「何言ってるんですか。女性へのプレゼントですよ。そんなこと言ってたら何も買えません」
確かにハヤテの言う通り、そのプレゼント候補リストに書かれた物の値段は高かった。
いくつかは値段相応の物もあるが、明らかにゼロがひとつ多いものもある。
「……なあミラージュ。これ自分が欲しいものを並べただけじゃねぇの?ほら、このチェックが——」
「違います!ちゃんとデイジーデイジー今月号に載っていたお誕生日に欲しいものアンケートの結果です!!」
「お、おう」
ハヤテが言い切る前に、ミラージュがセリフを食ってかかった。
そのあまりの剣幕に驚いて後ずさりするが、ハヤテにとってはそれ以上に、ミラージュがそのような女性誌を読んでいるということも意外だった。
(てっきり空戦の教本ばっか読んでると思ってたけど、案外女らしいとこもあるんじゃねえか)
「まったく……。それで、予算はいくらなんです?そのくらいは考えてきたんですよね?」
「え?……予算?」
「まさか、考えてきてないんですか!?」
「あー、いや……つ、つか金じゃねーだろプレゼントは!要は気持ちがこもってればいいんじゃね?」
「そうも言いますけど、それでも——」
「ほら!見に行こうぜ!」
今度はハヤテがミラージュのセリフを食ってかかり、返事も待たずにずんずんと歩いていった。
その後ろ姿を見て、ミラージュは頭に手を当てて三度、大きなため息を吐くと、その背中を追って自分も歩き出した。
◆
「マキナ、ターゲットが動いた」
「ほほう、まあまあいい感じなんじゃない?」
「なんかこう、付き合い始めのぎこちなさが残るカップルって感じだな!」
そう言って物陰から顔を出したのは、チャック、マキナ、レイナの三人だった。
モールの構造を利用して、吹き抜けを跨いだ反対側の店からハヤテとミラージュの様子を覗いていた。
*
「……しかし参ったなぁ。メッサーもだけど、何貰ったら喜ぶんだフレイアのやつ」
店頭に並んだアクセサリーをひとつ、ふたつと手にとって眺めてみるが、どうも腑に落ちない。
どれもこれも、フレイアのプレゼントとしてはイマイチのような気がした。
そもそも様々な職業を転々としてきたハヤテにとって特定の誰かを祝うことなどほとんどなかった。
実家を出てからは母にまともに会ったこともないし、母の誕生日には、その時いた惑星の有名な何かを送るくらいで深く考えたことは一度もない。
そういう意味では、
「中尉に関しては私もよくわかりませんが、フレイアさんの事なら私よりよく知ってるんじゃ……?」
「そうか?アイツの好きなもの……歌とリンゴ以外わっかんねぇ」
これも違う。と言って手にした小物を棚に戻した。
「……もしかして、フレイアさんのこと好きだったりするんですか?」
「は?いきなり何言ってるんだ?」
「あ、いえ。その、いつも仲が良さそうにしているので、そうなのかなって」
「んーそうか?でも、アイツは単なる友達……じゃねぇな。相棒……でもないし……仲間?」
「なんで最後に私に聞くんですか!」
「あっははは!悪い。まぁなんだな。見てて飽きないというか、面白いっていうか。一緒にいるととんでもないことに巻き込まれたりするからな、そういう意味では好きだぜ」
好きだぜ。
その言葉はおそらくハヤテが思ってる意味とミラージュが思っている意味では違うだろうし、理解もしていた。
でも、それでも、やはり口に出して言われると、金槌で頭を叩かれたようにガツンと衝撃を受けた。
「そうですか。でもそういう気持ちが恋の始まりと言うじゃないですか」
「へぇ。お前はそうなのか?」
「ほ、本によるとです!」
「なんだ、お前の経験談かと思った」
「そ、そんなわけないじゃないですか……私は今まで恋愛とかデートとかそういうものは……」
「お、これなんかいいんじゃねぇか!」
ミラージュは勇気を振り絞って何かを言おうとした。
だが、隣に立つこの男は、そんな当惑など知らぬ様子でまたプレゼント選びに戻っていた。
それが腹立たしくもあったし、つくづく彼がこういう人間なのだと、ミラージュは痛感させられた。
*
「何言ってるか聞こえないけど……ハヤハヤがニブニブなことを言ったのはわかったかなー」
「ああ、俺もなんとなく雰囲気でわかったぜ。あーくっそ!こんなことならドローンでも持ってくればよかった!」
ハヤテとミラージュの会話はここからでは聞こえない。
でもハヤテのあっけらかんとした顔つきと、対照的に曇ったような面持ちのミラージュを見て、そう思った。
「近くの監視カメラくらいならハッキングできる」
「……いや、流石にそれはやり過ぎだろ。やめとけやめとけ」
すでにホログラムスクリーンまで持ち出して準備万端なレイナをチャックが制していると、マキナのポケットに入っている携帯が震えた。
「うん?メールかな?」
取り出して確認してみると、メールが一通受信していた。
送信者はニナ・オブライエンとなっている。
「誰から?」
「ニナニナからメールが届いたみたい。開いてみるね」
店内の商品棚の裏に隠れて、端末を中心に円を作る。
ホログラム・スクリーンを二、三度操作して、メールに添付されたファイルを開いた瞬間——
「「ええぇーーーーっ!!!???」」
——マキナとチャックが、あまりの衝撃に、周りの目もはばからずに大声を出して立ち上がってしまう。
店内の客が全員ギョッとして、その声がした方を注視していた。
それに気づいたふたりは慌てて自分の口を抑えると、そっとしゃがんで商品棚の影に隠れ直した。
「おいおいおいこれどういうことだよ!」
今度は声のトーンを落として再開。
三人が再びマキナの端末から投映されたホログラム・スクリーンを見る。
それは、スバルと美雲がレンタルバイクにタンデムしている瞬間を捉えた写真だった。
「わかんないけど、でもこれは間違いなく」
「デート」
「くっそー!スバルの野郎うまいことやりやがって……!」
立ち上がろうとするチャックの肩を、マキナとレイナが両側から抑えて、座らせる。
「まさかスバスバとクモクモがそんな関係だったなんてねー」
「完ぺき予想外」
「どうすんだよ、ハヤテとミラージュも気になるけどこっちも気になってしょうがないぜ」
「うーん、確かに私も気になるけど……レイレイ、ハヤハヤとミラミラの様子は?」
「……いない」
「「え!?」」
「見失った」
レイナはそっと陰から反対側の店前に立っていたハヤテたちの姿を探すが、どこを見ても見当たらない。
どうやら別の場所に移ってしまったようだ。
「あちゃー、スバルの方に気を取られちまって見失ったのか」
頭に手を当てながら、隠れる意味をなさなくなった店からチャックが出てくる。
「これからどうしよう、レイレイ」
「やっぱり監視カメラをハッキングして……」
「だからそれはやめとけって」
後に続いて出てきたマキナとレイナだが、レイナはまだ諦めていないのか、またしてもホログラム・スクリーンを投映して、ハッキングの準備をしていた。
——その時だった。
端末を取り上げようとするチャックの手からレイナが避けた瞬間、吹き抜けになった二階から一階の様子が見えた。
ほんの一瞬だけ捉えた視界の端、ふたりの男女が店頭に並んだ商品を見ている姿が目にとまる。
その後ろ姿に見覚えがあった。
「スバルと美雲を発見」
「なに!」
「どこどこ!?」
三人揃って手すりの隙間から食い入るように階下を見つめる。
探し人のふたりはモダンなアクセサリーショップの前にいた。
ひとりは夜空のような群青色の髪をした長身痩躯の青年。
もうひとりは豪奢な菫色の髪をした他とは一線を画した雰囲気を醸し出す女性。
サングラスをつけるだけという申し訳程度の変装をして、物色しているが、三人にはバレバレだ。
「あの菫色の髪は間違いなくクモクモだね」
「……あんなんで変装できてると思ってるのか?」
などと言っているが、チャックは帽子をかぶっただけの簡単な変装で、顔は隠しておらず、マキナも眼鏡をかけるだけで、レイナに至っては変装すらしていなかった。
「よーしターゲット変更!スバスバとクモクモのデートを尾行するよ!」
「「イエス!」」
三人は子供のように悪戯っぽく笑い、サムズアップすると、また別の店へと移動を始めたスバルたちを追って行くのだった。
◆
——マクロス・エリシオン艦内
誰もいない静かな廊下をメッサーはひとり歩いていた。
ロッカーに残っていた自分の私物を入れた鞄を肩から下げ、先の戦闘の末、ヴァール化の影響でうまく動かなくなった左足を支えるように松葉杖をついて、おぼつかない足取りで進む。
「あ、メッサーくん!」
そんな時、進む先から自分の名を呼ぶ声が聞こえた。
顔を上げれば、そこにはタブレットを胸に抱えたカナメ・バッカニアがひらひらとこちらに手を振っていた。
「カナメさん、どうしてここに?」
「ブランシェット博士にデータを届けにね。そういうメッサーくんは?」
「……私物を片付けてました」
そう言ったメッサーの言葉を受けて、彼の大きな体躯に隠れた鞄を見て得心する。
「そっか、明日には行っちゃうんだもんね……」
一瞬だけ、カナメの顔が悲しそうに曇る。
が、すぐにいつものにこやかな笑顔に戻っていた。
メッサーがそれを見逃すはずはない。
だが、何も言おうとはしなかった。
「あ、ごめんね。足悪いのに立ち話なんかさせちゃって」
「いえ、お構いなく」
そう言うと、メッサーは会釈をして、またゆっくりと歩き出した。
カツンカツンと不規則に歩く彼の後ろ姿はどこか危うくて、転んでしまいそうに見える。
その姿を見送ろうとしたカナメは、意を決したような面持ちで、メッサーの後を追い、彼の肩にかかった鞄を取り上げた。
「メッサーくん、運ぶの手伝うわ」
「カナメさん!?悪いです。自分のことは自分で——」
「——できるよね。メッサーくんなら」
鞄を取り上げたカナメが、メッサーより数歩先に進んで立ち止まり俯く。
「でも、誰かに頼ることだって、悪いことじゃないのよ」
振り向いたカナメは困ったように笑っていた。
「メッサーくんは、いつも私たちを守ってくれたし、助けてくれたよね。どんな時でも、どんな場所でも」
「…………」
「私にできることは多くない、だからこんなことしかできないけど、せめて最後に少しくらいは手伝わせて、ね?」
「……わかりました。じゃあ下まで持ってもらってもいいですか?」
「うん、任せて!」
またカナメが笑う。
でも今度は困ったような笑顔じゃない。
心の底から嬉しい、そんな感情が溢れて出た笑顔だった。
それを見て、メッサーはつくづく思った。
優しくて、明るくて、眩しい彼女の笑顔を守るために今日まで戦ってきた。
命が果てるまでとはならなかったが、それでも彼女の笑顔を守れてよかった、と。
今、この目の前にある笑顔こそが、最上の報酬だ、と。
(……貴方に出会えて、本当に良かった)
心の底からそう思ったら、自然と頬が緩んでいた。
〜side episode〜
ハヤ「メッサーのプレゼント何がいいと思う?」
ミラ「うーん……中尉は機体を大切にしてますから、バルキリーを磨く油なんてどうでしょう?」
ハヤ「……それ喜ぶの整備クルーとマキナだけじゃね?」
ミラ「い、言ってみただけです!真に受けないでください!」
ハヤ「でも採用」
ミラ「え……」