機体から降り、目の前に並ぶデルタ小隊の面々の前に立つ。
左から猛禽類のような鋭い目つきにモヒカンのよう髪型の身長が一番高い男、赤毛であご髭を蓄えており、前髪に一部メッシュを入れてるらしい屈強な男。古代日本のサムライがしていたチョンマゲのような髪型に首に片側3つ計6つのエラのようなものも付いている半魚人のような男。
まさに三者三様といった風体だ。
「まずは礼を言っておく。ワルキューレの防衛感謝する」
真ん中の赤毛の屈強な男が前に出る。
先ほどの通信で聞いた声と同じだ。
ということは彼がデルタ小隊の隊長だろうか。
「デルタ小隊隊長のアラド・メルダースだ」
「……どうも」
差し出された手を、オレは反射的に握り返した。
ごつごつとした外見に似合わず、子供のように柔らかい手だった。
幾度もの猛訓練をくぐり抜けて、何度も何度も血豆を潰し、手の皮膚がボロボロになるまで使い込んだ飛行機乗りの手だ。
「さっきの戦いは映像で見せてもらった。ヴァール化したゼントラーディの機体を4機無力化、さらにアンノウンのゴーストを撃墜。大したもんだ」
「たまたまです」
「だとしても、だ。……まあこっちとしては、そろそろフーファイターの素性を明かしてもらえると助かる。ミラージュの奴が敵じゃないとは言ってたが、こっちは初対面なんでな」
頭に手を当て苦笑いをするアラドだが、その眼は笑っていなかった。
ある種の猛禽が獲物を見定める眼。
事と次第によっては殺すことも辞さない、というような歴戦の戦士の眼。
それは後ろの2人もそうだった。
モヒカンの男はこちらを睨みつけ、利き手は身体の陰に隠している。
もう1人の男は、下手な受け答えするんじゃねえぞという眼でこちらを見ている。
「フロンティア新統合軍第13戦闘航空団サジタリウス小隊元所属。星那スバル少尉です。今はレディMにスカウトされてデルタ小隊に入隊するためラグナに向かっている最中です」
「レディM……?」
アラドが怪訝そうな顔つきになる。
数秒の静寂、一瞬とも、あるいは無限とも思えるような静寂の末、再びアラドが口を開く。
「そうか!お前が今度デルタ小隊の新メンバーになるスバルか!」
先ほどまでの戦士の顔はどこへ行ったのやらと言わんばかりに——今の今までそんなこと忘れていたというような笑顔で肩を叩いてくる。
「まさかこんなところにいるとは思わなくてな」
「まあオレもこんなところで会えるとは思いませんでしたよ」
豪快に笑うアラドの切り替わりの早さと勢いに終始圧倒されて、苦笑いになってしまう。
「メンバーを紹介しておく、後ろの背が高いのがメッサーだ。小隊内ではアタッカーを担当している」
メッサーと紹介されたモヒカンの男は一歩前に出てくる。
怪訝そう——というより、あれがデフォルトの顔だと言わんばかりに厳つい顔をしている。
「メッサー・イーレフェルト中尉だ。デルタ小隊副隊長も兼任している、よろしく頼む」
簡潔に済ませ、すぐ後ろに戻る。
どうやら無駄なことが嫌いなようだ。
「で、こっちがチャック。電子戦・早期警戒を担当している」
チャックと紹介されたのは先ほどの半魚人のような男だ。
ニカッと人懐っこい笑顔で手を差し出してくる。
「チャック・マスタング少尉だ。よろしくな新入り」
「あ、ああ……」
「ん?ラグナ人を見るのは初めてか?」
オレが首元のエラのようなものをもの珍しく見ているのに気づいたのか、気を使ってくれる。
「……まあな。ともかくよろしく」
そこで、ふと気づく。
ミラージュの姿がどこにもないのだ。
彼らの後方にある可変戦闘機を見ると、緑、黒、黄、臙脂の4機が鎮座している。
しかしミラージュの姿は見当たらない。
オレがミラージュを探していることに気づいたのか、隊長は同じようにキョロキョロ辺りを見回しながら口を開いた。
「ミラージュのやつ、どこいったんだ?」
すると、後ろから声が聞こえてきた。
「ってぇ……なんだよいきなり!」
「軍用機を無断で乗り回すなんて!一歩間違えれば作戦に混乱が生じ、被害が拡大していたかも知れない!小さなミスが命取りになるんです!」
少し離れた位置でハヤテとミラージュが口論していた。
というかあの〈VF-171〉に乗っていたのハヤテだったのか。
様子を見ていると、ミラージュがハヤテの胸ぐらを掴んで鬼気迫る表情で詰め寄っていく。
「戦場を甘く見ないでください……!」
「へっ、アンタもミスってたろ?」
「っ!はぁ!?」
まさか言い返されるとは思ってなかったらしく、たじろぐミラージュ。
「見てたぜ。フォーメーションを組んで飛び上がる時、アンタだけタイミングがズレてた」
「なっ……」
「甘く見てるのはそっちじゃないのか?」
ハヤテのその言葉を聞き、耳まで真っ赤にして絶句するミラージュ。
隣の隊長があちゃーと言わんばかりに頭に手を当てる。
どうやらオレが見てないところで彼女がフォーメーションのミスをしたらしいことはだけはわかった。
見かねた隊長が助け舟を出そうと向こうへ歩いていく。
「ミラージュ!何してる、帰るぞ」
ミラージュは、隊長を一瞥すると、再びハヤテへ向き直り——
「苦情は広報までお願いします!」
——と、再開発地区でも言っていた謎の捨て台詞を残し隊長とこちらへ帰ってきた。
ミラージュは興奮冷めやらぬといった表情で、まだ耳の先が赤い。
ツカツカ歩いて戻ってくるミラージュと目があった。
そして、その後ろにある〈VF-25〉を見てキョトンとした顔になる。
それもそのはず、彼女は今の今までハヤテと口論をし、一連の話を何1つ聞いていないのだから。
再開発地区でも伝えようとしたが、その前にヴァールが発生してそれどころではなくなったからな。
隊長とオレを交互に見つめ、こっちを指差しあんぐりと口を開き、開いた口が塞がらないような顔で固まる。
「この間話したろ?レディMからの紹介でデルタに新しいメンバーが入るって」
「は?え……聞いてません隊長!」
「あれ?言ってなかったか?」
「言ってません!」
隊長に抗議の声をあげるミラージュをメッサーは呆れるように、チャックは笑いながら見ていた。
「改めて、よろしくなミラージュ」
「あ、はい。よろしくお願いします……じゃなくて!」
差し出された手を握り返し挨拶したかと思えば、頭を抱えて悶絶するミラージュ。
その様子を見て、なぜ隊長たちがあの様な対応を取ったか理解した。
(ミラージュってイジられるキャラなんだろな、きっと)
ならオレも、と言わんばかりに手土産で持ってきた菓子折をコックピットから引っ張り出し、ミラージュへ渡す。
「これフロンティアのお土産、バジュラクッキー。クッキーは嫌いか?」
地球外生命体で惑星フロンティアの先住民であった彼ら、その幼体を模したそのクッキーは、今でも現地でプチブームを起こしているのだ。
そういえばランカさんもアイくんとか言って飼ってたな。
オレには可愛さとかさっぱり理解できなかったが。
「これはご丁寧に……じゃなくて!!」
再び抗議の声を上げ、バジュラクッキーを持ったまま、また悶絶する。
(でもお土産はしっかり受け取るのな)
「さーてそれじゃあ帰るとするか。メッサー、チャック帰投準備だ」
「了解」
「ウーラ・サー!」
頭を抱えているミラージュを放置し、隊長はさっさと自身の機体へ歩いていく。
ふたりも各々の機体に乗り込み、着々と帰投準備を始める。
「隊長!話はまだ……!」
「わかったわかった。話はアイテールで聞いてやるからお前も準備しろ」
駄々をこねる子供を宥めるような口調で、でも手は止めずテキパキと機体を起動していく。
「スバル!お前も来い、俺たちの拠点まで運んでってやる」
「了解です!」
そそくさと機体へ乗り込むと、待機状態のシステムを再起動する。
アビオニクスに表示される機体の状態は頭と左腕を損失しており、装甲やエンジンも万全とは言い難い。
だが、飛行する分には問題ないはずだ。
風防を閉じると、熱核バーストエンジンを噴かして飛び上がる。
すでに隊長たちデルタ小隊は先に出発しており、ワルキューレの輸送機に追従する形で大気圏離脱コースに入っている。
「さすが最新鋭機……でも、こっちも負けてらんないな」
フットペダルを押し込み、少し遅れてデルタ小隊へ追従する。
〈VF-25〉は8年前の機体ではあるが、中身自体は最新のものへ入れ替えているため、現行機に匹敵するくらいの性能は持たせてある。
もっとも、カタログスペックではデルタ小隊の〈VF-31〉には遠く及ばないので、模擬戦をしたら確実に負けるだろうが。
ただあくまでそれは机上の計算に過ぎない。
仮に機体性能が互角だったとしても、結局最後にモノを言うのはパイロットの操縦技術だ。
本当のエースパイロットなら旧式でも勝ってみせるだろうし、どんなに新しい機体に乗っていたところで、操縦技術が壊滅的ならただの案山子だ。
無論、どちらも持っているに越したことはないが。
◆
デルタ小隊に追従し、大気圏を突破すると、すぐ近くに、旧時代の空母を思わせる戦艦がこちらへ向かって来ているところだった。
「見えたぞ。あれが俺たちデルタ小隊の母艦〈アイテール〉だ」
通信機越しに隊長の声が聞こえてくる。
「あれが……デルタ小隊の母艦」
新統合軍の母艦に見えないこともないと思いながら機体を前進させる。
特に大きなミスもなく甲板に着陸した〈VF-25〉を、甲板の誘導灯に従い格納庫へ納める。
SFチックな音を立ててエアロックが作動し、格納庫内に空気が満たされた。
続いて人口重力発生装置が作動し、心地いい重力が身体を包む。
ヘルメットを外し、風防を開くと、圧縮空気が抜ける音ともにハッチが開き、中からツナギを着た整備士たちがぞろぞろと出てきて、オレの機体の周りに人だかりができた。
「うおっ、〈VF-25〉じゃねぇか!」
「こんな辺境で拝めるとはなぁ……」
「〈VF-31〉の前進翼もいいがこっちの可変翼もいいよなぁ」
皆口々に物珍しそうに〈VF-25〉をあれやこれやと見ている。
確かに〈VF-25〉は8年前の機体ではあるが、現在ではライセンス生産で銀河各地で製造されている機体のはずだ。
もっとも、新統合軍が使うような〈VF-171〉に比べれば高価でそうそう手が出るものではないのだが。
そういう意味では確かに、珍しい機体なのかもしれない。
「スバル!こっちだ」
どうしようか迷っているところに、隊長から助け舟が出される。
オレは整備士たちに整備を依頼すると、隊長の元へ小走りで向かった。
「これから世話になる艦内を案内する前にワルキューレのメンバーに挨拶するぞ」
隊長が先行して、それについて行く。
メッサーはといえば、こちらに目もくれず飛行ログらしきものをタブレットで見て何やら分析しているようだ。
「フロンティアじゃこんな奴らと戦ってたのか……」
後方で何やらチャックの声が聞こえる。少し振り返って見ると、先ほどのミラージュに渡した土産を開けているところだった。
(……土産開けるの早すぎだろ)
「見た目は昆虫の類のようですね」
ミラージュはクッキーをポリポリ齧りながら色々な形のものを手に取り見ている。
「どうした?行くぞ」
振り返った隊長はどこから出したか干物らしきものを齧っている。
(さすがケイオス……軍隊とは違って自由だな)
格納庫を出てから、隊長に付き従い歩くこと数分。
同じような景観の廊下を歩いていると、とある一角のドアの前で隊長が立ち止まる。
「ここだ」
部屋へ入ると、そこは談話室やカフェを思わせるようなスペースで、いくつもの椅子やテーブル、外が見える窓が設置されている。
そこの一角に、彼女たちはいた。
アル・シャハルでヴァールを鎮圧するために命がけで歌を届けた美女たち。
先程までの煌びやかなステージ衣装ではなく、制服のようなものを着て各々くつろいでいるようだった。
「アラド隊長!どうしたんですか?」
隊長より明るめの赤毛の女性が近づいてくる。
「お休みのところすいませんねカナメさん。実はレディMから話があった新入りが来たんで挨拶させようかと」
カナメと呼ばれた女性は隊長の後ろに控えていたオレを見つけるとニッコリ微笑む。
「そうなんですか。あれ?でも予定だと明後日くらいに到着って聞きましたけど」
「運がいいのか悪いのか、たまたまアル・シャハルにいたんですよ。可変戦闘機で大立ち回りをするオマケ付きでね」
そこで彼女は戦場で1機だけいた〈VF-25〉のパイロットがオレだったということに気づき、なるほどといった顔になる。
「えっと……星那スバルです。よろしくお願いします」
「ご丁寧にありがとう。カナメ・バッカニアです。ワルキューレのリーダーとマネージャーを兼任してます。これからよろしくねスバルくん」
差し出された手を握り返す。
女性特有のスベスベで柔らかい手だ。でもただ柔らかいだけではなく、戦場で歌うためのトレーニングも欠かさず行っているプロの手をしている。
「それで後ろにいるのが——」
「はーい!マキナ・中島だよ!よろしくねスバスバ!」
カナメさんの自己紹介より早く名乗りを上げたのは、桃色の髪をツインテールに結った柔らかい雰囲気の少女だった。
パッと見た感想として、彼女は他のワルキューレのメンバーに比べて露出が多い気がする。
胸元やお腹をはだけさせた扇情的な姿は、正直、目のやり場に困る。
(……スバスバってなんだ?)
できる限りマキナを直視しないようにするが、その謎の呼び方には疑問符が残る。
それを補足するかのように、テーブルの対面に座るライトグリーンのショートヘアの娘が口を開いた。
「マキナはこういう娘だから、気にしてはいけない」
隊長と同じく干物を齧りながら説明をする。
ここじゃ干物が流行しているんだろうか。
「そ、そうか。覚えておくよ……で、君は?」
「レイナ・プラウラー。よろしく」
挨拶を終えるやいなや再び干物を咀嚼し始めるレイナとの名乗った少女。
(え……終わり?)
マキナとはまた違った方向で癖のある娘だな。
オレはそれだけ理解すると、それ以上聞くことはなかった。
(まあ、みんなのことは追い追い知っていけばいいか)
「ところで!さっき飛んでた〈
「え、は?め……メサバル?」
またトンチキな名前を出され困惑してしまう。
「マキナはメサイアのことを言っている」
喋ったと思ったらまた干物を齧るレイナ。
翻訳してくれるのはありがたいけど、なんで要所要所でしか喋らないんだこの娘は。
「まあ、そうだな。〈VF-25〉はオレの機体だ」
「ふわぁ〜やっぱり!〈VF-1〉の流れを正統に受け継いだって感じのデザインなんだけど、でも技術の進歩に合わせて洗練されたデザインになった近年稀に見る傑作中の傑作!つまり——キャワワ!だよね!」
「きゃ……きゃわ?」
そんな感じで、オレは終始レイナ・マキナコンビに圧倒されっぱなしだった。
カナメさんは苦笑いで見つめ、隊長に至ってはいつの間にか姿を消している。
そうして、そこからは完全にマキナの独壇場となった。
オレを椅子に座らせ、〈VF-25〉の始まりから語り始め、何年乗っているか、性能はどれくらいか、理論値だけならどこまで戦えるかなどなどを根掘り葉掘り聞かれた。
自身でもどれくらい時間が経ったかわからないくらいになってきたところで、レイナが干物——干したクラゲらしい——がなくなったので部屋に取りに行くというところで、マキナの話は終わった。
「それじゃあスバスバ、またね〜」
マキナとレイナが部屋を退出し、オレとカナメさんが残される。
「お疲れさま」
「なんかドッと疲れました……」
机に突っ伏し、カナメさんが運んできたコーヒーに口をつける。
さすがにしっかりした店ほどじゃないが美味しいコーヒーだ。
「ワルキューレのメンバーはあともう1人いるんだけど……どこかに行っちゃったみたい」
「……そういえば戦場で見かけたっきりだな」
アル・シャハルでライブ中、ボーカルを務め、一際存在感を放っていた菫色の髪の女性がここにはいないのだ。
「美雲はライブ以外では単独行動が多いからね」
どうやら彼女の名前はミクモというらしい。
漢字では〈美雲〉と書くそうなのだが、たしかに雲のように自由な人らしい名前だと思った。
「なんというか……ミステリアスな人ですね」
「そこが美雲のウリでもあるんだけどね」
どうやらミステリアスで単独行動は今に始まったことではないらしい。
しかし、カナメさんの表情はとても柔らかく、彼女のことを心の底から信頼しているのだと感じさせた。
(さすがはワルキューレのリーダー。メンバーのことをよく理解している)
「さて!私もアラド隊長に報告があるから行くね。それじゃあまた」
手をヒラヒラと振って部屋を出て行くカナメさん。
そうしてこの部屋にはオレだけが残された。
取り付けられた窓から外を見ると、〈アイテール〉——この船の名前らしい——はフォールド航行中らしく、時空間内を移動している。
目的地のラグナまでまだ時間がかかりそうだ。
「探検でもするかな」
ずっとここにいても仕方ないので、コーヒーを飲み干すと、オレは談話室を後にした。
◆
「……迷った」
探検すること数十分。
やはり初めて搭乗する艦を案内なしで探索するのは無理があったようだ。
「今どこだよ……」
軍用艦なのでその辺の観光船のように案内図がある訳でもないし、かといって道を聞こうにも船員なんて、そうそう歩いていないし、どうしたものか。
むしろその辺りのドアに入れば誰かいるだろうか?
オレは手近にあったドアに近づくと、センサーが自動で感知し、ドアが開いた。
そこは展望スペースのような場所だった。
視界一杯にフォールド時空間内の光景が広がる。
どうやらいつの間にか艦の先頭まで来てしまっていたらしい。
オレは自然と展望スペースの中に足を踏み入れていた。
「あら、先客?」
ふと後方から声がかけられ、我に帰る。
振り返ると、そこにはワルキューレのエースボーカル、戦場で先陣を切って歌っていた菫色の髪の美女がいた。
「アンタは……」
「美雲よ、美雲・ギンヌメール」
名乗りながらこちらへ向かってくる姿は、一切無駄のない洗練された動きだった。
オレはそんな彼女の一挙手一投足に、不覚にも見惚れてしまう。
「……あ、オレは」
「知っているわ」
言葉を遮られる。
その時、美雲の声を聞いて、記憶が蘇る。
アル・シャハルの空港に隣接された歓楽街で、ブルーグリーンの髪の淑女に声をかけられた、あの声と同じなのだということに。
「その声……歓楽街の」
「正解。あそこで一目見た時から、貴方は他の人とは違うってわかったわ」
そういうものだろうか。
他の人とは違うなんて考えたこともなかった。
どこまでいってもただの軍人、一般人だと思っていたからな。
……もしくは、自覚がないだけかもしれないが。
「これからよろしくね。スバル」
「ああ、よろしく」
差し出された手を握ろうとしたところで——
『〈アイテール〉各員へ通達。まもなく本艦はフォールド空間を抜けラグナ宙域にデフォールドをします。各員は衝撃に備えてください』
——艦内放送が流れた。
それから艦が軽く揺れたなと感じる間も無く、視界に広がっていたフォールド空間から星々が輝く宇宙へ切り替わった。
そして目の前には、映像でしか見たことのない地球と同じように青く輝く星〈惑星ラグナ〉が佇んでいた。
「あれが……ラグナか」
「そう、私たちワルキューレと貴方たちデルタ小隊の星。Welcome to ラグナ。歓迎するわ」
戦場で見た時と同じように、片手で薬指と中指を交差させ〈W〉を作る美雲。
オレも同じように〈W〉を作ろうと試みる。が——
「……指つった」
「フフッ、そう簡単にできるものじゃないわ」
一瞬だったが、笑う美雲は先ほどまでの大人の女性のような雰囲気ではなく、子供のような無邪気な笑顔で、そのギャップにまた見惚れてしまう。
「ま、精々頑張って。またねスバル」
そう言うと美雲は去っていった。
なんと言うか……マイペースな人だな。
オレは手すりに寄りかかり、どんどん大きくなる青い星を見つめる。
これからあの星が、オレにとっての新たな空になるのか。
惑星フロンティアで飛んだ空も気持ちよかったが、ここの空はどんな感じなのか、考えるだけで期待に胸が膨らんだ。