悪役お姫様でゴメンあそばせ   作:れべるあっぷ

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9話:鬼退治

 1年A組、剣崎恭介は夢から覚めた。

 夢から……というのはいささか御幣もありなんだが、似たようなものだ。それは彼だけに限ったことではなく、クエストに強制参加した総勢245名の新入生は学園の各教室のそれぞれは指定席で夢うつつ夢うらら眠りについていた。

 そして、剣崎が目を覚ましたようにクエストでゲームオーバーになった生徒たちは次から次へと目を覚ましていった。

 魔法学園と云えど校舎は西洋のお城っぽくもなく一般高校のような造りであり、敢てそれらしい魔法学園特有の特徴を述べるなら外観内観全てが白銀の世界で覆われた高校の校舎だ。そんな机も椅子も白銀でコーティングされた指定席で夢から覚めた彼らは自分に置かれた状況下に戸惑い、その席に各1台ずつ設けられたモニターに映る光景を見て思いだす。誰が、どこで、何をしていたのかを……

 A組もB組もC組もD組もE組もF組もゲームオーバーになった生徒は、この後も引き続きクエストを観戦しなければならない。先に死んだとしても、負け犬だとしても、無力で惨めで後悔しても特別授業を最後まで受けなくてはいけない。途中退席もできない。

 彼らはもう二度と参加できないこのクエストの結末を指を咥えて見届けなければならない。

 ただし、彼らはクエストの意味を履き違えていた。

 

「裏切り者を探すクエストとはよく言ったものだ……」

 

 英雄の卵を値踏みするクエスト……それは理解した。そういうシステムがあることは知っていたから。だが、それはついでであることも理解した。

 裏切り者が<愚者王の剣>を狙っていることも理解した。

 ただ、理解も足りていなかった。

 モニター越しに映っていたのは、もう1人の……否、本物の裏切り者によって助っ人に駆けつけた水原生徒会長が心臓を一突きされる瞬間映像だ。誰かは目を逸らし誰かは頭を抱えた。

 ナンバー<32>とナンバー<5>の日本が誇る<騎士>をも殺すクエストに誰もが絶句した。

 そして、まだクエストに参加している生徒たちはこの事実を知らない。いや、剣崎もまだ真実を知らなさ過ぎた。

 

(旧家なら……この<特別授業>をクリアできるのだろうか……)

 

 御伽噺でしかない<愚者王>が存在してはならない。

 <愚者王の剣>を振りかざして魔人を復活させてはいけない。

 癪ではあるが、もうライバル視している妖怪退治屋に託すしかなかった。

 

 

 

 

☆――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 一方その頃、ケムルズの町へ向かう妖怪退治屋こと木船京率いる強行軍総勢59名は、屋敷を脱出しては山を降り街道へ抜けた。

 ミンチィ伯爵から受け取った<(ゴーレム)>に跨り超然たるスピードで駆けていく。騎乗が下手な乗り手にでも揺れを一切感じさせず、バランスが保てるよう考慮された優れものだ。それがロリコン愛好家のミンチィ伯爵が敬愛して病まないミラ王女へのプレゼントを考えていた土壌魔法であることは、さて置いて。

 のどかな草原が広がる大地はファンタジーの世界。横を振り向けばスライムみたいなぶよぶよした水色のモンスターもちらほら見受けられる。要注意モンスターの1匹である2角カンガルーは集団で昼寝をしていたり、ここがやはりゲームの世界なのではないかという錯覚に陥ってしまいそうだ。

 さてさて、モンスター達はスルーしてそのままケムルズの町へ繋がる街道を駆け抜けていきたいところだが、いきなりボス戦と洒落込もうか。小川のせせらぎに寄せた旅人の休憩場、そのぽつんと埋まっている岩山の上に乗りて奴が待っていた。

 A組とB組を壊滅させた黒騎士がアプリでポーション作りをしながら待ちわびていた。

 

「て、敵を発見……っ!!」

 

「距離200m……っ!!」

 

「あいつ、スマホ見てるぞ……」

 

「き、木船さん……っ!!」

 

「おっしゃ、任せときぃっ!!」

 

 京たちの作戦が開始される。200m手前で京以外は左折し草原へ進路変更した。

 

「メガネ君たちも気をつけやー!!」

 

「木船さんもケムルズの町で……っ!!」

 

 京を除いた58名の強行軍は街道から離脱する。京を1人囮にしてメガネ君達はケムルズの町へ向かった。これが一番の策だ。賭けでもあった。妖怪退治屋がA組とB組を壊滅させた脅威に対抗できるのなら。時間稼ぎができるのなら……

 だから京は黒騎士と対峙する。

 真っ向から、小細工無しに、ただのグーパンチで……草原の方へ進路を変更したメガネ君たちに狙いを定め剣を構える黒騎士をぶっ飛ばした。

 ガギンと金属の塊を殴ったような重厚そうな音と共に50mほど、それはあまりに重すぎて飛距離を伸ばせなくともあの黒騎士を吹っ飛ばした。

 

「自分の相手はウチやで」

 

「………」

 

 ウインクしてみせる京。

 街道を転げる黒騎士。遠めから見ていたメガネ君たちは口をポカーンと開けて、そして、それは確信に変わった。

 いける―――と思った次の瞬間、黒騎士の姿が京の視界から消えていた。

 

「―――――っ!?」

 

「………」

 

 京の背後へ回った―――のではなく、メガネ君たちの方へ超高速移動したのだ。先頭で<(ゴーレム)>を走らせるメガネ君の前に回りこんだのだ。

 京はナメぷをしていたために判断を見誤った。

 まだ距離を十分稼げていなかった。黒騎士は常識で計ってはいけなかった。あそこの街道を通る新入生全員への抹殺命令を任されているのだから。

 メガネ君を殺したら次はその後ろのギャルだろう。そして、童貞野郎たちの順番で殺していくのだろう。弱者から殺していくのだろう。

 黒騎士は剣を振りかぶってメガネ君の首へ狙いを定めた。

 

「うわぁぁああああああああっ!?」

 

「………」

 

 突然のこと過ぎて情けない驚きの声を上げるメガネ君。魔法を発動することも防御することも躰すことさえもできなかった。

 だが、彼はまた京に助けられた。京が<(ゴーレム)>を寄越した。

 

「た、助かったけど、あのヒト滅茶苦茶すぎるよ……っ!!?」

 

「………」

 

 ほんと馬がゴーレムでよかった。

 良識のない京は<(ゴーレム)>を投げて寄越しては黒騎士の注意をこちらに向けたのだ。<(ゴーレム)>が真っ二つになり……メガネ君たちから注意を逸らすことに成功し、追撃にと旅人の休憩所の目印である岩山さえ投げ寄越したのだ。

 黒騎士も無視できないレベルの大きさだった。斬るのではなくバックステップで後退して回避するが、もう既にその後方には京が移動していて胴体をがっちり掴んでいた。相手の脇から腕を通して首の後ろで両手を組み変え、そのまま状態で身体を後ろに反らしては女の子がするような技ではない必殺が炸裂した。

 あまりにハチャメチャな京に彼らはこう思っただろう。黒騎士より敵に回したくない女だということ。

 流石に2ダウンもらった黒騎士も意識を切り替えざるを得なくなるだろう。

 

「はよ、行きぃやメガネくん。ウチもいつまでこのバケモン相手できるかわからんでー」

 

「わ、わかった。ありがとう……っ!!」

 

「………」

 

 今度こそメガネ君たちは黒騎士の攻撃範囲から逃げ切ることに成功した。

 黒騎士も彼らが逃げていった方向へと身体を向けるがまた京が立ちはばかるため、追うのは諦めた。まずは京を倒してからということだ。

 

「あ~あ、ウチっていっつも貧乏くじばっかや~。やけどなぁ、ここを通りたかったらウチを倒して行きぃや」

 

「………」

 

 お決まりの台詞。

 ついでにお決まりのグーパンチをお見舞いする―――が、顔面スレスレの所で黒騎士は左手で京の右手首を受け止めた。そのまま捻り千切るつもりだ。

 

「ほざけ……っ!!」

 

「………」

 

 すかさず右拳を引っ込めた京は、その勢いを殺さずステップして後ろ回し蹴りをお見舞いする。先ほどとは反対方向の顔面直撃コースだが、それすらも黒騎士は受け止めた。足首を掴みそのまま持ち上げてスカートの中が見えようが見えまいが、宙ぶらりんの京を地面に叩きつけるのもいいだろうが、右手に持つ剣で生首を刎ねるのもいいだろう。ハムをスライスするように横なぎに剣を振るう。しかし、それよりも素早く反応した京はもう片方の足で黒騎士は顔面を思いっきり蹴った。踏んだというのが正しい表現で、JKの足の裏……という表現は御幣もあるかもしれないが、そのご褒美を黒騎士は甘んじて受け仰け反った。

 掴まれていた足首は解放され、その隙に京は体制を立て直し体制を低くしたまんま黒騎士に突進した。黒騎士は後ろにぐらつく態勢を踏みとどまり頭上に掲げる剣を真下に振り降ろした。肉塊を斬った手ごたえはなく地面に亀裂を入れるだけで、京はそれを回避していて、黒騎士の剣を持つ右手とは逆の手を掴み、さらに態勢を崩すように引っ張り右足を思いっきり蹴り上げた。足払いされた黒騎士の視界はひっくり返るが、その視界の端には獰猛な笑みを見せる京とあのグーパンチを顔面目掛けて振り下ろしていた。黒騎士はとっさに反応して右腕を振るい上げていた。足払いをかけられようとも視界を逆さまにされようとも五体満足なら右腕は動く。主に忠誠を誓った騎士の剣が京の胴体、否、右拳を……手首から上を切り落とすことも可能だった。

 しかし、京の右腕が切断されることはなかった。まるで別の生き物のように、まるで蛇のようにウネウネと突き出された剣を躰し黒騎士の顔面に、やっとグーパンチがヒットした。その衝撃は黒騎士の背にある地面に亀裂を入れるほどだった。小さなクレーターを作るほどだった。

 黒騎士相手に3ダウンと1本取ったのは京が初めてだ。

 賞賛ものだろう。拍手を送ろう。流石は妖怪退治屋、これまで幾度と無く妖怪を退治してきたのだろう。大妖怪すら討ち取ってきたのだろう。<騎士>の称号が無くても実力は申し分なかった。まして、魔法も陰陽術も使わず良くやったと関心するほどだ。

 それでナメぷした代償が右手なら笑い話にもならないがな。

 

「自分、えらい硬いなぁ。鎧のお化けかいな……??」

 

「………」

 

 結局、ダメージを負ったのは京の方だった。

 サイのガイコツよりも硬い鎧は無傷だった。一撃目のグーパンチが通ったからといってニ撃目が通用するとは限らない。何故、京は顔面も覆われた漆黒の鎧に魔法的意味合いが掛けられているかもしれない、と想像できなかったのだろう。もちろん、その質問は意地悪でしっぺ返し的な魔法をあのバトル中の最中に発動したなどという回答は用意していない。

 ただ単純に鎧がダイヤモンドのように固くて京の殴り方が雑で、それでいてナメぷしたのだから、ただのしっぺ返しにあっただけだ。素人が電信柱を殴れば拳が痛むようにな……

 黒騎士は何事もなかったようにゆっくりと起き上がった。京は右手を庇い距離を取った。今度はコッチが反撃する番だ。

 

「―――――っ!??」

 

「………」

 

 聖英国最強騎士の反撃だ。

 

「ちょ、ま、待ちぃ……っ!??」

 

「………」

 

 私の黒騎士(ルクシード)は敵に甘くない。だから、待たない。京の喉元だけに狙いを定め剣を振るう。

 

「殺る気満々か……っ!?」

 

「………」

 

 仰け反る京。

 あと数センチで切っ先が届いていた。なら横一閃ではなく突きで串刺しにしよう。

 されど、横に首を傾け回避した。

 しぶとい。

 ならば、フェイクも織り交ぜていこう。上段・中段・下段に斜め斬りからすくい上げて目潰しに土煙を撒き散らし蹴りも加えて、しかし、あくまで本命は横薙ぎ一閃して京の生首を狙った。空間さえも切り裂きかねない一閃だ。バチバチと黒い稲妻のオマケ付きだ。

 だが、京はしぶとかった。

 フェイクで身体を斬り刻まれても本命だけはしっかり見極めて紙一重で躰していた。

 しぶとい、しぶとい、とてもしぶとい。

 

「はぁはぁ……」

 

「………」

 

 しぶと過ぎ。

 

「はぁはぁ、どないしてん?もうこれで終わりやないやろ……??」

 

「………」

 

 それで時間稼ぎをしているつもりなのだろうか。

 不恰好で無様で泥臭くて潔くなくて滑稽でしぶとい。京はあと何分持つだろうか。後何分で死んでくれるのだろうか。首を討ち取られるのが先か出血多量でゲームオーバーになるのが先だろうか。

 それとも魔法で焼き焦がるのが先だろうか……

 黒騎士は魔法を発動する。単純明快な<土壁魔法(グレートウォール)>を発動する。京の左右と後方の3方向に土の壁を作った。そこに<炎弾魔法(ファイアーボール)>を投げ入れた。丸焦げになりたくなければ空へ逃げるしかない。そして、跳躍した先には黒騎士が待っており首を刎ねて終了だ。

 なのに京はこともあろうことかソレをグーパンチした。

 左拳で殴って<炎弾魔法>は爆発した。

 

「あっち~……っ!!?」

 

「………」

 

 バカがいた。たぶん、いつものクセでグーパンしてしまったのだろう。

 だか、今が倒すチャンスではないだろうか。京は左手は負傷した。血だらけだ。両手が使い物にならなくなったのだ。それはもうロクに動かせないということだ。

 なら、念には念を入れて黒騎士はもう一度、魔法を発動する。否、このまま魔法で押し切れそうだ。

 黒騎士は魔法を発動する。真正面から<風刃魔法(エアースラッシュ)>をブチ込み、真上から<雹嵐魔法(ヘイルテンペスト)>を降らした。まぁ京なら<風刃魔法>ぐらい、まだ動く四肢で対処できるだろうけが<雹嵐魔法>はそうもいかない。

 

「………」

 

 魔法にもランクがあり、上級魔法師がよく使用するA級魔法<炎弾魔法><風刃魔法>ならともかく天災クラスのSS級魔法<雹嵐魔法>はヒト1人のため使うような魔法じゃない。もちろん、その魔法は使用者の魔力によって威力は異なり、黒騎士の放った魔法の雹のサイズはおかしい。

 辺り一面に雹の墓標が出来上がっていた。

 

「………」

 

 やりすぎたようだ。

 

「………」

 

 視界が悪くなった辺りを見渡しても、京の遺体がどこに転がっているのかわからない状況下になってしまった。

 いくら京が強くても私の黒騎士(ルクシード)には勝てない。念のため遺体を捜し首ちょんぱして確実に葬ろう。

 さて、京のお墓はどれだろうか……と、黒騎士は遺体を探そうとした、その時だった。

 

「いやー、アカンで自分。殺し合いはもっとスマートに! やで」

 

「………っ!?」

 

 ………。

 京はしぶとくもまだ生きていた。

 いつの間にか雹の上に座っていた。血だらけの負傷の右手をひらひらさせ、あれだけの攻撃を受けながらもケラケラ笑っていた。

 血まみれ少女はどこか異常だ。ネクロマンサーよりも不気味さえ感じる。

 それよりも不可解なことがあった。何故、今まで気付かなかったのだろう。何故、疑問を持たなかったのだろう。何故、京は血を流しているのだろう。精神体なら斬られたとしても傷跡はエフェクトされるが血は出ない。腕を切り落とされても出血しない。グロテスクにならない……鮮血を垂れ流すのは肉体を持つ者のみだ。

 すなわち、この世界でアチラ側の人間は私以外あってはならないことだ。

 

「何年ぶりやろうか。血肉が踊るとはこのことやな………」

 

「………っ!?」

 

 それは陰陽術と呼ぶのだろう。

 魔を滅する……それは魔法とはまた違うルールの上に成り立つ極東の地の術式。黒騎士に異変が起きた。異常をきたしていた。なるほど、京はいつの間にかソレを発動していた。そう、あの右手だ。使い物にならないと思っていた右手。アレは黒騎士を騙すための演技(フェイク)であり、まだ動かすことが可能だった。その場合、それも黒騎士の相手をしながら密かに術式の発動条件をクリアしていたなら……己の血を触媒にして術式を描いていたとしたら……あぁ、だから血を流すまでナメぷしていたのだ。

 

「ちょっと引かんといて欲しいんやけど、ウチがこの世で1番キレイやと思ってんのは血やな。メガネ君の作る氷と屍のアートも捨てがたいんやけど、やっぱ血が1番ええ。生命の源やし、人助けにも使えるし、魔法にも陰陽術にも妖術にも使えるし、あと、ホンマ引かんといてほしいねんけど、健康なヤツってやっぱり美味しそうに見えるし……」

 

「――――っ!?」

 

 漆黒の鎧に亀裂が走った。屋敷と同じ光景が再び起こる。

 足掻けどソレは鎧の隅々まで行き届き閃光が迸る。黒騎士は悪足掻きに剣を投げつけた。術者を殺せば術式も解ける。だが、京は右手で、正確には人差し指と中指で白刃を受け取ったのだ。

 最後の抵抗も虚しく浄化する。昇華されていく漆黒の鎧。黒騎士の声にもならない叫びが異世界を轟かせる。

 誰が予想できただろう。

 聖英国最強の騎士が妖怪退治屋に一本も二本も取られた。京が危険人物だということもわかっていたのに。対策が甘かったということか。普段ナメぷしていた理由がわかったところでもう遅い。こんな所でしくじっている場合じゃないのに。ルクシードも同じ気持ちだろう。だから、咆哮していた。

 無念ではないが残念ではある。京がナメぷしていたかのように、私達もナメぷし過ぎていた。

 でも、まぁいいか……第二ラウンドで勝てば。

 

「冗談キツいで、自分。本体は浄化してくれへんのかい……」

 

「………」

 

 フシューとルクシードは息を吐いた。それは京への返事でもあった。鎧はアンデットの性質を持っていて昇華されたがな。

 

「しかも、なんやねんそのナリは……」

 

「………」

 

 京は戸惑っている。

 ルクシードの正体を知って絶望を覚えたようだ。京は優秀だ。有能な京だからこそルクシードの正体を知っている。

 

「これじゃまるでサイボーグやんか……」

 

 否、そんなちゃちなものじゃないだろう。

 

「いや、それも<カラクリ>なんか??」

 

「ご名答ダ、若キ妖怪退治屋………」

 

「ははっ、なんや自分……喋れるんやんか……」

 

 京の本質が血であれば、ルクシードの本質は不確定だろうか。

 所詮、人工知能搭載のサイボーグや自我を持つ魔導人形とは似て非なる存在。それは金属生命体のようなこの世界で確立されていけない不確定で曖昧な存在。正体不明というのが正しくも、敢て呼ぶならそれはもう<カラクリ>だ。フォルムは不完全なサイボーグと云えばいいだろうか。金属のボディは所々がスカスカで金属の骨が見え隠れしている。片目だけしかなかったり、肺や心臓などにあたる臓器のパーツがかけていたり、動いていたり、金属繊維の筋肉も無駄に表現していたり、さしずめ金属の人体模型のような不気味で不恰好な不完全体だ。しかし、生前と変わらず彼は生きている。それはネクロマンスよりも蛮行で大罪で反逆精神旺盛で支離滅裂でこの世の理を一切否定した魔法なのかもよくわからないチートの力で彼はこの世に蘇った。私達、愚者(ネクロマンサー)が無理だった偉業をあの方が成し遂げたのだ。不可能を可能にした。死者を蘇らせてくれたのだ。

 

「あーあ、完全にデキレースやんけ。ウチ、勝たれへんやん。ズルいで……」

 

 ルクシード本体はアンデット成分0%配合だ。つまり、アンデットではないので浄化という手は使えない。<カラクリ>の脅威は知る者なら誰もが知っている。

 だから、京は戦意を失いつつあった。

 

「妖怪退治屋のお嬢ちゃんはよく頑張っタ」

 

「うっさいわ……」

 

「シカシ、アレだ。我ガ主にも困ったものであル。こんな非常時にも関わらずポーション作りの命令も要求するのだかラ、たまったものじゃなイ。何が楽しくてポーションを量産しなければならないのだろうカ……アァ、ポーションといってもクエストを周回するためにスタミナを回復するアイテムであっテ、プレイヤーの体力を回復するアイテムのことではないのダ。ポーションなどとややこしい名称にするから勘違いする者もいるだろうニ、あの男ももう少し頭を捻るべきだったナ。マア、そんなことよりこのゲームの醍醐味は自分好みのオンリーワンな姫を探すことにアリ、決してポーションを量産するゲームじゃないのダ。それだというのに私ハ……ポーションばかりでクエストも周回できずパーティ内でもランクが低く雑用ばかり命じらレ、しかシ、主らは私を頼りにしてくれているのだから頑張らないワケにもいかズ、もうかれこれ<ポーション名人>なんて称号まで手に入れてしまっタ。これを名誉あるべきなのか不名誉と捉えるべきなのか悩ましいが姫のためダ……ア、イヤ、まだ見ぬ姫のためニ私はポーション作りに精進しなければならないという意味ダが。ちなみニ、私が今イチオシなのはやはりミラ王女のようにあの年頃に魅せる天使爛漫純粋無垢なお転婆姫ダ」

 

「自分、めっちゃ喋るやん……」

 

 ロリコン野郎の長話もそこそこに……

 

「さテ、若キ妖怪退治屋。君を倒すには少々骨がイル……」

 

 ルクシードがどこからともなく用意したのは駒だ。チェスとかに使うような盤上の駒。独自の駒。魔法細工の駒。どこぞのオモチャメーカーに制作を依頼した駒。動物の駒。

 駒に魔力を練りこみ手放し地面に落とした。

 

「あの男の作る魔法細工(オモチャ)も馬鹿にできないものだナ。あの男に掛かればこういうことも可能ダ」

 

 その駒はサイのガイコツに姿を変えていった。おおむねネクロマンスとは違った理解し難い召喚方法だった。されど京には見覚えのあるサイのガイコツだった。バチバチと雷を胴体に纏わせ咆哮していた。あれは屋敷で退治したザウルスだ。

 そして、彼一体じゃない。蛇、犬、像、ダチョウ、虎のガイコツもいる。

 

「少し殺し合いの趣旨を変えよウ。妖怪退治ならぬ鬼退治のナ……」

 

「へぇ、オモロイ例えを使うやん……」

 

「君の仕事も考慮してこその計らいダ。私が解き放った屍のアニマル軍団6体を阻止したければ私を倒してイケ。勿論、私ハ君ヲ通さないだけに徹しよウ。どうダ、シンプルなルールだろ??」

 

「ホンマよく喋るなぁ、自分……」

 

 さあ、6体の屍アニマル軍団はメガネ君たちの後を追いかけて駆け出していった。




自分でイラストとか書けたらいいんですけど・・・
感想お待ちしております。
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