悪役お姫様でゴメンあそばせ   作:れべるあっぷ

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8話:騎士をも殺す

 話しは少し遡り――――。

 1年A組、剣崎恭介は12歳で<騎士>の称号を手に入れた。

 世間では<最年少騎士>などと騒がれているが、彼にとってその称号すら通過点でしかなく、上に立つ者にとって取れて当たり前。狙うシリアルナンバーは<1>。そして、偉大な警察庁のトップすら踏み台でしかなく、この国の癌を焼き払うためにこの国の頂点すら狙っている。

 野望に取り憑かれた鬼神の如く、正義を振りかざし1を救うために10を犠牲にすることだって厭わないだろう。逆に10を生かすために1を殺すこともできる男は、そんな彼の正義のためにC~Fクラスの生徒を囮にして屋敷に置いてきた。

 それが己の信じる正義だと信じてケムルズの町へ向かった。

 剣崎の実力は本物だ。世間で騒がれている以上の実力をA組とB組の生徒たちは垣間見た。エリート集団の誰が見ても文句のつけどころのない本物の<騎士>であることを明白だった。実力を疑わなかった。確信に変わった。<英雄の卵>でさらに<騎士>の<剣崎>だ。俺たちは剣崎に付いて行けば勝てる。間違いなく彼は学年最強だ、と……

 森を抜け山を降り街道へ出てきた。少し進めば川が見え、のどかな草原が広がっている。先ほどまであれほど殺伐として息苦しかった空気が嘘のような光景が広がってくる。平和な象徴のような大地をエリート集団が通り過ぎて行く。エリート様達が各々に発動した魔法効果により強化された軍団だ。旅人が街の外で見かければ魔物の軍団よりおっかないと腰を抜かすだろう。

 だから、誰も疑わなかった。俺たちが最強だと。

 

「前方500m先ーーーっ!!強敵、発見ーーーっ!!10秒後に衝突ーーーっ!!」

 

 魔法によって視力と魔力感知を強化されたA組の生徒とが叫んだ。

 そこは旅人の休憩場所。小川のせせらぎが憩いの場所になって日陰を作る岩に敵が腰を下ろしていた。腰を下ろしていたと云うよりかは、彼らを待っていたと云うべきか。屋敷から脱走する者を抹殺するために待機していたと捉えるべきか。どう見ても異形。全身が黒い鎧に身を包んでいた。他のガイコツ兵とレベルが違うのが誰の目に見ても明らかだった。

 そいつはスマホを手に彼らを待っていた。ゲームのアプリでノルマをこなしポーションをひたすら作って待っていた。

 

「何者だろうと怯むな、僕の後に続けー!!」

 

「「「「おおーーーーっ!!」」」」

 

 ここまで彼らは自分たちの勝利を疑わなかった。しかし、それは間違いである。たかがナンバー<32>の騎士が敵う相手ではない。

 決着は一瞬だった。剣崎の首が飛んだ。

 

「「「「俺たちの剣崎が死んだーーーーっ!!?」」」」」

 

 トップの死。騎士の死。最強の死。絶対の死はエリート集団の結束を容易く崩壊させた。さて、彼らの評価はいかほどに。

 

 

 

☆――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「ナンバー<32>の早々の退場。日本のレベルが露呈してしまわれましたかな……」

 

 視点は少し替わり話しはとある高層ビルの一角。

 世にもブラックな会社と名高い㈱ハロー社の会議室で、初老の男がアゴに蓄えた白髭をモジャモジャさせてモニターを見ていた。

 

「ふん。ただのネクロマンサーだと侮った剣崎のガキがマヌケなだけだ」

 

 白髭モジャモジャじいさんの発言を悪態で返すのは中年の男性。

 最近皮下脂肪が悩みである小太りのおっさんは会議にもかかわらず注文したピザを食べコーラを飲んではやはりモニターに釘付けである。

 

「それは酷な話しじゃない?まさか聖英国最強の騎士(・・・・・・・・)だと誰が想像するのよ?」

 

 ピザからこぼれ落ちそうになった伸びたチーズを口を開けては、レロっと出した舌で受け取りエロティズムを誘発させるのはスーツ姿の美魔女。

 先の2人よりも歳が一回りも二回りも違ってアラサーだが……性別は男で、やはりコーラをズズズと飲んでいた。

 

「まぁ、アレよね……噛ませ犬に変わりないのだけど」

 

「ふん、ナンバー<99>なら1分ぐらいは持ちこたえただろうに」

 

「ふぉっふぉっふぉっ、ここで<最弱騎士>を引き合いに出すのか。おぬし」

 

「どちらにしろ、その発言は彼らにとって不名誉極まりないッスね」

 

 このメンバーの中ではまともな常識人の部類に入る好青年は苦笑いをする。

 しかし、彼も今日は無礼講ということでピザの最後の一切れに手を伸ばした。そして、美魔女と手が重なり頬を染められたので素早く引っ込めたのは正解である。

 

「そういえば、この前議題に上がってたわね。ナンバー<99>は騎士か否か……だったっけ?」

 

「アイツ、今追い込まれているんだろうな。元騎士として同情するぜ」

 

「でも、元ナンバー<54>程度なら私でも倒せそうだわ」

 

「あ?」

 

 美魔女に挑発されたのは柄の悪そうなオッサン。

 東西南北の帝王に出てきそうな仁義無き社員。縦のストライプが入った高級な白スーツに身に包み、しかもその顔には痛々しい傷跡が残っているのが印象的だ。社内にこんな強面がうろつかれていたら社員たちに同情するしかないのだが。元騎士と名乗る顔が怖いオッサンは紙コップをグシャリと潰し美魔女にガンを飛ばした。

 

「2人とも、ここで喧嘩しないでくださいッス」

 

 仲裁に入る良識のある好青年。しかし、視線はモニターに釘付けだ。

 

「そ、そうですよ!しゃ、社長も見てないで止めてください!」

 

「いいぞ、いいぞ、もっとやれー。オモチロー」

 

「あ、貴女は黙っててください。こ、このおチビちゃん……っ!!」

 

 化粧もせず色気もない残念地味子……という言葉が的を得ているか。しかし、メガネを外してお洒落すれば化けること間違い無しと社内では噂になっており、まさか自分の知らないところで社長を筆頭に密かに地味子をプロデュース計画が進行中だということは彼女は知らない。

 そんな地味子だが、さすがに会議室で戦闘になって巻きぞいを喰らうのはゴメンだと、たとえ相手が各上だろうが言うべきことはちゃんと言う。ツッコミを入れる。それも地味子の美徳だ。

 しかし、だからといって地味子の言い分を社長が聞くかは別の話である。

「ははっ」と笑うだけで、こちらはスマホのアプリに夢中でそれどころじゃないし、モニターの中の出来事(・・・)そっちのけでポーションの製造真っ最中だ。

 だから、ポーション製造に夢中になっている社長の代わりに、彼の右腕であるロリっ子が答えて反発し合っているのが今の状況だ。なにより地味子をイライラさせるのは、ロリっ子もアプリに夢中でポーション量産していたりで自分の意見がテキトーに流されていることだ。

 

「なんにしてもだ。AとB、両クラスが揃いも揃ってなんたる体たらく、今年の卵は不作かもしれんな」

 

 役員とは良いご身分で会議という名の極上の娯楽。サッカー観戦……もといゲーム観戦でモニターを横目に小太りのおっさんは再度ピザのメニューへ目を通していた。ちなみに、この後ピザを頼むわけだが、デリバリーじゃなくジャンケンで敗者が店まで足を運んで買いに行くルールだ。

 

「まさかだけど、ソレも狙ってやったのなら相当の腹黒さだわ。あの子」

 

「なっはっは、代弁するならリア充爆発しろって感じッスかねー」

 

「わ、笑い事じゃないですけど……」

 

 だから極上の娯楽になるのだろう。

 強者が弱者を捻り潰すのも気持ちいいだろうが、その逆もまた然り。弱者が強者を掌の上で踊り転がすのも一興だ。

 しかも、今回の敵は愚者(ネクロマンサー)だ。

 誰もが観ずにはいられない衝動に駆られる。ネクロマンサーを利用したゲームなど、それを行っただけで犯罪行為とほぼ同義語だ。だから、誰もやらないし観もしない。そんなゲームを観ただけでも罪なのだから。それほどまでにこの世界は愚者(ネクロマンサー)に敏感だ。しかし、愚者を観たいという欲求を押さえきれないのが今のこの世界の本質だ。

 だから、今のこの世界に定められたルールはとても危うい。

 

「それに比べりゃ、今年のC~F組までの生徒は面白い面子が揃っているもんじゃ」

 

「そういや旧家の若頭がいたなー。試験ナメぷしてF組になったらしいが……」

 

「ふん、ふざけた従者を引き連れていたようだな……」

 

「あの子、唯一A組の生き残りッスねー。クラリスちゃん問題よりこっちの方が地味にヤバくないッスか?」

 

「それよりあのメガネ君とかどうかしら?生徒会長の姉がいたり話題性あり。面白そうな子じゃない?」

 

「わ、わたしは、あの雷撃魔法が得意な子が気になりました」

 

「俺は……魔法もロクに使えなかったのに入学できた女の子が気になるかな」

 

 最後にロリコン発言をしたのは今まで会話に参加せず、タバコを吸いながらモニター観戦していた営業部の顔である。社長からほど遠い席に腰掛けてタバコの煙に気をつける辺りチキンで、だったら初めから吸わなければいいだけなのだが、それは彼のプライドが許さなかったらしい。

 たとえ、ロリコンと陰口を叩かれようともへっちゃらなのだが、彼の変なプライドはたとえ格上相手でもタバコは吸い続けるのだ。

 そんなニコチンとロリコン(不名誉)をこよなく愛する彼は無償髭を擦りながら本題に切り替えた。

 

「で……ボス。それはそうと今回は流石に不味いんじゃ?この見世物(クエスト)は今に始まったことじゃないが、今回のビジネスに愚者(ネクロマンサー)が混入していたことが問題だ。しかも、あの<愚者王>と結びつけてきた。彼らも黙っちゃいない。そこんとこ、どうお考えで??」

 

「また会社宛にミサイルぶっぱされるッスよー」

 

 彼らというのは動画配信を買ったお客様たちのことだろう。

 ハロー社の見世物(ビジネス)は録画版とLIVE版があり、やはり生で臨場感溢れる映像を見るならLIVE版と各機関もアホみたいに手を出しお買い上げになるお客様達が多い。リピーターは各クエストを必ず購入し、一時も英雄の卵たちの活躍振りを見逃さないと血眼になるそうだ。

 こうして魔法に関連する機関から声が掛かる生徒がいたり、就職活動を有利に進めたりできる聖都魔法学園の生徒にとって素晴らしいシステムである。もちろん、聖都魔法学園の体裁も考えて表向きは売り上げの1割は学園側へ収めている。が、社長は完全に学園理事長をナメきっているので、裏でどんなやり取りを行われているのかは定かじゃない。学園理事長の名誉のために今は何も言わず置いておこう。

 それよりも、今取り上げられるべき問題は、そのLIVE版の中身の内容が今年の新入生の特別授業……だけで説明が終わっていることであり、異物(ネクロマンサー)が混入していることは当然ではあるが一切触れていないし警告しなかったことだ。警告したところで無意味だが、中身を開けてからのお楽しみで彼らはそれを観ただけ被害にあう。

 罪に問われる。

 一言でいえばテロだ。ハロー社は叩かれるだろう。叩かれるどころかこの前みたいにミサイルをぶっ放されるだろう。S級魔法の塊が降ってくるかもしれない。もはや私を使っている時点で国際問題は避けられない。あのLIVE版は聖英国宮殿へ無料で提供している……

 ロリコンはそれを危惧している。

 聖英国のお姫様に最悪のアイテムを与えて魔人にでもなられたら戦争は待った無しだ。

 

「まー問題ないだろ。今んとこ、クレームの電話はかかってきてないんだろ?」

 

「いや、アンタの命令で回線全部切ってあるんだよ。今」

 

「あぁ、そうだったな。じゃあ、コレが終わるまで現状維持で、よろ」

 

 どうでもいいことのように、社長はポーションをひたすら作る。

 

「よろちくー」

 

「………」

 

 社長の右腕の追撃がウザいが、ロリコンも愛せるニコチン営業マンはもう1本タバコに火をつけて、気持ちを落ち着かせた。

 心を乱して焦燥しては相手の思うツボだと自分に言い聞かせて、この<特別授業(クエスト)>の終着点はどこなのか……想像を巡らせた。

 もう戦争は回避できないものなのか……で、あれば、この社長(ボス)は小蝿を振り払うかのように戦争をしかけてきた企業または国家の何者であろうとも容赦しない。たとえ、ホワイトハウスだろうがお構いなくミサイルを落とそうとする男だ。

 逆に英雄の眠るこの島を汚そうとしなければ戦争は回避される。

 ただ、クエストの終着点を想像するのに情報量がまだ足りない。

 

「そろそろ、次食べるやつ決めたか?おら、全員でジャンケンするぞ」

 

「ボス。酒も大量に調達していいですかな?」

 

「おぉっ、いいな宴会みたいなノリでいこーぜ。酒と女を買って来い!」

 

「駄目よボス。アナタはまだ未成年じゃない」

 

「おぉ、そうだった!じゃ、俺はジンジャーで」

 

「それに良い女ならここにいるじゃない………///」

 

「「「「「「………」」」」」」

 

「よし、地味子。お前が脱げ」

 

「ふぇぇえええ、なんで私!?そ、そそそんな困りますよ~……っ!?」

 

「いいではないかー、いいではないかー」

 

 いいではないかーを言ったのはロリっ子であるがな。

 カオスだ……とニコチン営業マンは思った。普段はアテにしているが今はアテにもならず、男子高校生特有の悪ノリで話しをはぐらかすばかりだ。ポーション製造マシーンの如く病的までにポーションを作り続けて一体何が楽しいのかわからないが。

 ボスが問題ないと言った。

 それが開き直りで言ってないのであれば問題ないのだろう。まだボスは彼らハロー社の重鎮にも知らされていない隠し玉を用意しているということになる。まだ明かされていない情報があるということだ。

 もったいぶって切り札を隠しているのだろう。

 そして、それは<特別授業(クエスト)>を観戦していればいずれわかるということだ。今、1人の部下があたふためいても社長(ボス)は動かない。喋らない。アホみたいにポーションを量産するだけだろう。

 そう結論付けるしかなかった。

 そして、内線が鳴った。

 

「は、はい。神野です……」

 

 地味子が受話器を取り応対に入った。

 

「はい……はい……えっ、えぇえええええええ!??」

 

「どうした地味子ぉ~??」

 

 絶対クエスト関係だが、我がボスはのんびりしていた。それはもう全てを見透かすかのように。

 

「あー、えー……えぇーと………しゃ、社長のお手を煩わせるわけには……こ、ここは私に任せてくださいっ!!」

 

「「「「「「は?」」」」」」

 

 地味子は部屋から出て行った。

 脱兎の如く、戦闘強化魔法を施して、これから魔王城に攻め込んでくる勇者を討ち取りに行くかのような気構えで出て行った。

 そして、1分後に帰ってきた。勇者に返り討ちにされて引き返してきた。

 

「ちょっと波浪くん!一体これはどういうつもりなのよ!!」

 

 下の階で騒々しくバトルが勃発していたのはわかっていた。地味子も魔法師のエキスパートであるが、相手が悪すぎたようだ。残念地味子、社長に気に入られたく功績を上げようと気合を入れたが泣く泣くの惨敗だ。

 相手は聖都魔法学園の生徒会長、3年A組水原つぐみだ。<騎士>と<巫女>の称号持ちのナンバー<5>に地味子が勝てるわけがなかった。

 

「うわー、また来たんスね……」

 

「お嬢ちゃんも懲りないわねぇ……」

 

「ふぉふぉ、健気と言うべきかもしれんのう」

 

「はー、やれやれ……」

 

 というか、いつものパターンだった。

 生徒会長が会社に乗り込んでくる光景は日常茶飯事で、毎回クエストをする度に訪れる定番もの。もう彼らは本社を英雄島から引き上げどこか場所が割れない所に引っ越した方がいいんじゃないかと思ってるぐらいにこの生徒会長には襲撃されていた。

 要するにいつものお約束というやつだ……。

 

「もうお前ら付き合ったらどうなんだ?」

 

「つ、付き合いません!誰がこんなヒトでなしのロクでなしなんかと……っ!!」

 

 いつものようにからかわれ、いつもの如く重厚そうな会議デスクをバンと両手で叩き抗議しにきた。

 

「そんなことよりも説明してもらえるかしら!!波浪くん!!」

 

「あー見ての通り、いつもどおりのビジネスだぜ??入学した弟くんの心配か??」

 

「違うわ!いえ、あの子も他の生徒たちも心配だけど、それよりも今回の首謀者の子の方がよっぽど心配だわ!なんで先に私に一声言ってくれなかったの!!」

 

 言ったら絶対めんどくさいことになっていた。今もすでにめんどくさい状況だがな。

 

「お前が心配することかい?赤の他人じゃん」

 

「本気で言っているの?その子、このクエストが終われば世界中から狙われるのよ!?赤の他人なんてよく言えたわね……っ!!」

 

 それが愚者であるネクロマンサーの定めだ。

 

「だから、アイツは俺様と取引をしたんだよ。水原」

 

 お前の出る幕じゃないと言い放つも生徒会長は引き返すつもりは毛頭ないらしい。

 

「私は君のやり方が許せない……」

 

「ならばどうする?」

 

「今すぐこの特別授業(クエスト)をやめさせなさい」

 

「へー俺様を脅すのか?」

 

 生徒会長が魔力を練り始めた。溢れ出る魔力の暴力はこの場にいる社長とロリっ子以外を消し炭にしかねないほどのキャパを秘めている。

 子供の喧嘩に巻き込まれた大人たちはたまったものじゃなかった。

 

「おいおい冗談じゃないぞ……」

 

「せ、世紀末突入だわ」

 

 ニコチン営業マンは咥えていたタバコを落とし、美魔女は意味不明な言葉を発してこれ見よがし好青年に抱きついていた。元騎士も中年太りのおっさんも髭モジャモジャしたおじいちゃんも白旗を上げるしかなかった。

 今回のクエストが普通じゃないのは初めからわかっていた。今回の生徒会長も普通じゃなかった。覚悟が違っていた。冷静さを失ったわけじゃないが、下手なことをして人的被害を出しかねないほどの危うさを今の彼女には秘めていた。

 要するに彼女は普通に怒っていた。

 生徒の命を危険にさらして、それを見世物にしてビジネスをする彼が許せなかった。

 だけど、格上相手に暴力で黙らせる手段は彼女のカードにない。話し合いも通じない。ここで争っても何の意味もない。

 生徒会長にできることは……

 

「ねぇ、水原くん。聖英国第三王女クラリス=E=クラウンさんの肉体は今どこにあるの……?」

 

 他の生徒達の肉体はちゃんと学園の各教室のそれぞれの指定席に着席している。眠りについて良い悪夢を見ている。だが、愚者(ネクロマンサー)の肉体は……

 

「うわ、お姫様ってバレちゃってるッス。そりゃ怒るのも無理ないッスね」

 

「しかも、私たちも知らない新事実……異世界は危ないから精神体だけのルールだったよね、ボス?」

 

「うげー、バッテリー14%しかねーじゃねーか……っ!!」

 

 もう、誤魔化しは効かない。隠し切れない。

 

「あちらの世界に肉体ごと転送するとか、どうかしてるわ……このヒトでなしっ!!」

 

「おーい、誰か充電器持ってきてないかー……??」

 

「人の話を聞きなさいっ!!彼女がゲームオーバーになったらどうなるのって聞いてるのよ!!」

 

「そりゃーおまえ……」

 

 ――――文字通りの死だ。

 

 それがわかっていたから生徒会長は怒っているのだ。泣いているのだ。

 社長の頬が叩かれる乾いた音が会議室内に響いた。

 

「私も……ゲームに参加させてもらうわよ」

 

「「「「「「は?」」」」」」

 

 数秒の沈黙。空白の間ができあがるほどの爆弾発言だ。

 

「おいおい、まじか……!?」

 

「ナンバー<5>のアンタがアッチに行けばゲームバランスが崩壊するわ。そうなったらもうそれは特別授業(クエスト)とは言わないの」

 

「そ、その通りだ。我々のビジネスの邪魔をしないでいただきたい!!」

 

「ははっ……いや、いいぞ水原。行きたければ行けばいいさ。送ってやる」

 

「「「「ボス!?」」」」

 

 ちょうどスマホのバッテリーの表示が0になった。

 社長(ボス)はスマホをデスクに投げ出し席を立った。背伸びして何か言いたげにじーっと見てくるロリっ子の頭をぽんぽん軽く叩いては水原生徒会長の隣に立った。

 

「ただし、条件がある。お前のスタート地点はケムルズの町だ。そして、クラリスが町に入るまでは妨害してはならない。それが約束できるなら<カラクリ>で転送してやるぜ」

 

「えぇ、わかったわ」

 

「じゃ、俺様の部屋に行こうか。お前ら、ちゃんとピザ買いに行っとけよ」

 

「ちょっと本当にこれでいいの?ボス」

 

「あぁ、いいんだよ。それより一人前多めに頼んどいてくれ。今日は腹がよく減る」

 

 そういって、社長は彼女を連れて社長室へと向かった。気がつけばロリっ子の姿も見あたらない。ピザの買出しジャンケンをバックレタた瞬間であった。

 

「まさか、ボスは初めから彼女を……??」

 

「いやいやいや、それは流石に……」

 

「で、ですが、あの人はいつも乗り込んでくるじゃないですか……」

 

「前代未聞だ……」

 

「おいおい、タバコがまた湿らされてるぞ。だから嫌なんだよ巫女様のご登場は……」

 

「し、しかし、ナンバー<5>と聖英国最強聖騎士、どちらが勝つのか……あぁ、誰もが魅せられるビックビジネスになるぞこれはっ!!」

 

 そんな検討違いも織り成すことながら物語は急展開へ……

 

 

 

 

☆――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 我々人類が文明を築いて暮らしている惑星<地球>があるように、どこか別の次元にある宇宙の銀河の端にも地球と似た惑星が存在する。

 惑星の概念もまだ定かじゃない異世界<チェルリオン>では文明レベルはまだ中世ヨーロッパ並だが、確かに人々が文明を築いて暮らしている。

 私が熱中していた<MOGU×HIME>のゲームの世界観はここが元になる。波浪小太郎様の<カラクリ>によってスキャンし、ほぼ同じ世界観を電子コンピューターにインストールして、独自にアレンジしたイベントストーリーが展開されていく。それが潜伏している姫様を探す<MOGU×HIME>だ。

 だが、私たちが今大地に足で踏みしめているのは紛れも無く<チェルリオン>の異世界である。

 波浪小太郎様のクエストはムチャクチャでハチャメチャだがダンジョンや魔物の討伐が主で、異世界の現地民へ危害を加えたり迷惑をかけることは……ほとんどなかったらしい。時たま取り逃がした魔物が町へ侵入してきたりとかはあったそうだが、小太郎様は事前にクエストを行う領土の国へ申告している。町の警備体制は厳重である。根回しは抜かりなく<取引(ビジネス)>が成立すればダンジョンの使用許可をもらえるのだ。

 だが、今回のクエストは違う……

 今回のクエストは何の犠牲もなく終わることはない。<愚者王>を語ったからには覚悟が必要だ。そのために、私は肉体ごとコチラの世界へ転送する他になかった。私は私のためにこのクソッタレな人生に終止符を討とう。

 ミラは、ちゃんと作戦通り宮殿で大人しく待機してくれているだろうか……

 

「つくし……電話は出てくれないか」

 

 小太郎様を信用できなかった生徒会長はケムルズの町に精神体で転送され、第一に弟のメガネ君に電話をかけていた。なんたるルール違反。しかし、繋がらなかった。彼はもう強行軍の作戦真っ只中だ。

 そして、知るといい。悟るがいい。このクエストの真の目的を理解して後悔するがいい……

 

「み、水原さん?君もこっちに来たんだ??」

 

「え、なんで……黒夜(くろや)さんがここにいるんですか……っ!?」

 

 その男性は生徒会長もよく知る人物だった。親しい人物だった。そして、先日から連絡が取れなくなった元聖都魔法学園の先輩だった。

 

「いやー、ビックリだね。オレも、ほら、彼から依頼を受けてさ……」

 

「波浪くんから??」

 

「そうなんだよね、実は……まぁ、ナンバー<0>の頼みなら仕方ないでしょ。ほら、例のミラ・ラ・ら?王女様の護衛を任されたんだけど、はぐれてしまって困ってたんだ。水原さんはどこにいるかわかるかい??」

 

「い、いえ、私は今来たところですし、それにそんな話しは聞いていないんですけど……」

 

「あぁ、使えない奴を寄越しやがったのかあのクソガキ。じゃあ、もういいや……水原さんはもう用無しだ。バイバイ」

 

「え……っ!??」

 

 知っている者なら知っている。日本が誇るナンバー<99>、実際には序列108番目の最下位にあたる<最弱騎士>の黒夜文人(くろやふみひと)が手刀で……次の瞬間、画面の中の水原つぐみの心臓を貫いた。誰もが驚愕に声を出せなった。

 親しくしてもらってた分、相手に油断してしまった。頼れる先輩だった。問題児ばかりのクラスメイトの愚痴を親身に聞いてくれた。先輩が成績に伸び悩んでいる時はできる限り助力した。あれが初恋だったのかもしれない。だからこそ生徒会長の敗因はこれ以外にありえなかった。彼女は不意打ちになす術もなく反撃する余地さえ与えられず崩れ落ちた。

 これを見越して小太郎様は生徒会長を転送したのだろうか。

 これ以上にないサイテーな見せしめになっただろう。

 このクエストは騎士をも殺す。

 

「オレはオレより強い女が嫌いなんだよ……」

 

「く、ろや、さん………」

 

 モニター越しで起きた出来事はダレズゴア王国のみならず日本国を脅かす……否、2つの世界を脅かす事件の幕開けに過ぎなかった。




俺たちの剣崎と生徒会長は死んだ・・・
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