どうか温かく見守ってください。
––––初体験とは狼狽えるものだ。
俺こと山田一郎も当然そうだ。
特に仕事などがそうであり、初仕事で理不尽なプレゼンとなるとそれはもう文字通り頭が真っ白になる。
結局そんな理不尽やメンドくさい対人関係などが嫌になり、俺は田舎で畑を耕す事を選んだ。
ここなら出会いは最小限であり、なおかつ自由だ。
今までは完成品を扱うだけの人生だったが、生産することに異常な程しっくりと来た。謂わば天職というやつだろう。
そして俺はゲームが好きだった。
特に『モンスターハンター』シリーズはやり込んでいると言っても過言ではない。毎回次回作の引き継ぎにはお金があり過ぎて困るレベルまで匹敵する。
きっと武具を“生産”というところで波長が合ったのだろう、どうやらやり始めた学生時代から私の天職は決まっていた様だ。
一応何度かこの世界に入りたいと考えたことがある。
現実逃避の中二病な考えだが、割とマジで思った時期があった。
というのも、余りにも機械に囲まれた生活というのは堕落にへと引きずり込まれる。自分が田舎暮らしが天職だった様に、自然溢れる世界でノビノビと暮らすことに無意識に憧れを持ったのだろう、毎晩白昼夢を期待しながら夜を過ごした事を鮮明に覚えていた。
……うん、『夢』だからこそ思っていたのだ。
さて、現状を把握しようか。
––––紅葉溢れる様々な自然。
––––透き通るとはこの事だと断言する程綺麗な小川。
––––何故か全力疾走している俺。
––––背後から迫る『雷狼竜』。
夢に見ていた白昼夢だと信じたいが、生憎自分の思い通りにはならない。それどころか五感や肺を酷使している実感、恐怖に駆られる生存本能がリアルに感じる始末。
これらが示す事、それは––––––––
『GRUaaaaaaaaaaaa!!』
(イヤァァァァァァァァ––––––ッ!!?)
【悲報】俺氏、モンハン世界にトリップした様です。
(ちょっ! マジで洒落にならねぇよ⁉︎)
記憶が正しければ、普段通りにモンハンをプレイしてから床に就いたはず。それが目が覚めたら大自然のど真ん中、加えて見に覚えのない所持品とゴツい装備。
事態が把握出来ず、取り敢えず人を探そうと持てる知識を総動員して下山を決行、そして……
––––パキッ
小枝を踏んだ音を聞きつけた『雷狼竜ジンオウガ』と(リアル)鬼ごっこすることとなった。
びっくりする程前後の温度差が激しい事に絶望する中、俺は必死で逃げた。
草木を掻き分け丸太を避け窪みを飛び越える。火事場の馬鹿力とは言ったものか、プロのパルクール並みの技術で逃走する。
しかしそれでも獲物を狩る狼からは逃れられない。
障害物を避ける俺とは違い、縦横無尽に突き破るその姿はまさに捕食者。獲物を喰らわんとする碧い瞳が俺を射抜く。
何の救いもない中、私はただ逃げる事しかできなかった。
(くそっ! 何とかして逃げ切らないと………って、虫が多いなこの場所は⁉︎)
道中ヤケに虫が多い事に気がついた。しかもその虫、何らかの拍子に潰してしまうと電気が走る。
かれこれ接触などで潰してしまうことが多々あり、その痺れが追い付かれる要因の一つなってしまっている。しかもそれは段々数を増して来ている。
(とにかく川だ、川を辿れば人に会う。最悪滝に飛び込め––––––––)
川沿いに人が住むのは先住民の知恵、つまり何らかの集落があり、ジンオウガも対処してくれる事を願うしかない。
そんな淡い期待を待っている時、ある違和感を覚えた。
––––電気を発する虫が多い?
もはや常識が続かない事ばかりで失念していたが、俺はその事実に気がついた。
モンハン界だとそれは雷光虫という虫だろう。ハンターはシビレ罠、一般人だと明かりとして重宝されるそれは生活や狩猟の必需品といっても過言では無かった。
……嫌な予感がする。
一筋の汗を流しながらそう後ろを振り向いてみる。
そこには今にも我慢が解けそうなジンオウガが発光していた。
––––––オワタヽ(^o^)/
『GRUAAAAAAAAAAAA!!!』
【悲報】ジンオウガ、
その時、一筋の声が聞こえた。
「ご主人、こっちニャッ!」
(いや、誰っ⁉︎)
発音源を向くとそこには金属系の装備で整えた漆黒色のネコが居た。この世界でネコということはつまりアイルー、そんなアイルーから呼ばれた自身の一人称に疑問を持ちながらも示される方向を見ると、そこは『崖』であった。
(なに、俺にFlying awayしろってか……無理に決まってるだろ!)
こちとら少しのサラリーマンと農民で過ごしてきた身だ。突然のバンジージャンプなど無理がある。
「ご主人ッ⁉︎」
結局この救いの手は無視するしかなく、そのまま走り続ける。
(––––だけど見えたぞ、光が!)
全力疾走が身を結んだのだろう、葉と葉の間に一筋の光が見えた。
抜けた先は恐らくひらけた場所、何らかの人里の手掛かりがあるに違いない。
つまりその手掛かりを頑張って辿れば助けを呼べる、という訳だ。
後ろを確認すると帯電したジンオウガが今にも飛び付く体勢を取っていた。
直感的にこのまま失速しなければその爪の餌食になる事は無いだろう、つまり––––––
(行っけぇぇぇぇェぇぇェ––––––––!!)
このまま走り抜けるしか無い!!!
––––ズルッ
(………へ?)
勢い良くひらけた場所に出たのは良いものの、着地時にぬかるんだ何かを踏んでしまった。
一瞬確認すると、それは『泡』だった。
反射的に前を確認する。そこには当然、しなやかな白い胴体を持つ狐、『泡狐竜タマミツネ』が超水圧ブレスを吐こうとしていた。
それも問題なのだがもう一つ問題が有る。それは
潤滑液と化した泡は脚全体へと纏わり付き、何とか倒れこむ事は防いだが、それでも止まらない。
そして滑る先にはタマミツネがブレスで歓迎して待っている………。
(ノオォォォォォォォォ––––––!!?)
▼
(くっ! ここまで苦戦するなんて………!)
既に防具の『ユクモノ・天』一式はボロボロの道着と化している事からこれ以上の狩猟は厳しいと言える。
渓流の不穏な空気を感じ取った村長から出されたクエストをこなしていた私は危機にへと陥っていた。
確か村人達も『見たことがない泡が沢山あった』『真夜中、狼の遠吠えが聞こえるようになった』と心配していた、そして私が対峙したのは前者の元凶であった。
最新のモンスターリストにも載っていない
被害にあった村人が言っていたように、あの泡は異常に滑る。そしてあのモンスターはそれを利用して縦横無尽に駆け巡る。
対して私の武器はガンランス、元より肉質の硬く動きの遅いモンスターを想定したソレでは相性は悪く、攻撃を中々当てられないでいた。
(何とかして動きを止めて竜撃砲を当てるしか……)
決意した私が行動に移そうとした時、それは起きた。
––––ズルッ
「きゃっ⁉︎」
しまった、と私は思った。強く踏み込んだ先には泡があったのだ。
「う、うそ……た、立てないっ⁉︎」
被害にあった村人がしばらく立てなかったという証言が身に染みて分かった。しかし今は状況が違う。私は現在そのモンスターと対峙しているのだ。
そして反射的に、モンスターの方へと向いてしまった。
「––––––あ」
そこには待ってましたと言わんばかりに口を開けて待っていた。
モンスターが口を開ける行為と言えば食事に威嚇、そして––––ブレスだ。
(だ、ダメ………)
終わる、終わってしまう。
あんな強者の特権を間近で食らうとなれば命の保証は無い。奇跡的に助かったとしても、ハンター道に支障が出るほどの傷が出来てしまうだろう。
私はユクモ村専属ハンター。
生まれ育ったこの村で恩を返す為にハンターとなった。
もし、今ここで私がハンターを辞めてしまえば、ユクモ村は流れ着くハンターしか頼ることしかできなくなってしまう。
近場にモンスターが出没するユクモ村ではそれは致命的だ。タダでさえ最近出没するモンスターが多いのに、これ以上こちらの戦力を減らす事は出来ない。
しかし、現実は非情である。
いくら嘆いたところで時が止まるわけでも無い、ましてや見逃される事は無い。
「あ、アーニャ––––––!!」
オトモアイルーのシロが事態を察して叫ぶ。しかし無駄だ、それで状況が好転するわけでもなく、発射体勢にあるモンスターの注意を引くことも無かった。
「––––––––ゴメン、皆……」
諦めの境地に達した私は来るであろう痛みに備え静かに目を閉じた。
––––バキバキッ!
「『ッ!!?』」
それは木々が薙ぎ倒される音。
予測不可能な音に私もモンスターも発音源の方を向く。
その木々からこちらに飛び込んで来たのは一人のハンターだった。
装備は大剣であり、黄土色の防具と同じく荒々しい暴君を体現したもの。一目見ただけで私とは遥かに格が違うと断言できた。
(––––あ、危ない!)
しかしそんなハンターだからこそ一瞬の隙がどれほど危険かは熟知しているはずた。苦しくも泡に飛び込んでしまったハンターはそのままモンスターの方へ、モンスターもそちらが脅威と感じ取ったのか、ブレスを構えている。
「だ、ダメェェェェェェッ!!」
今まで一人で村を守り続けた彼女には、
何がどうであれ、他人の死を目撃することは生半可なものでは無い。例え覚悟をしていても、それだけでは足りないくらいに悲惨な物だからだ。
そしてそれが今、最悪の形で起ころうとしていた。
「––––––え?」
それは戸惑いの言葉だった。
目の前の現象が信じられないという、ハンターではなく一人の少女としての言葉だった。
––––––––
モンスターがブレスを吐く瞬間、厳密に言うと
加速していた事もあってか、その重装備を物ともしない芸術的な背面飛びは軽々とモンスターのブレスを躱し、モンスターの背後へと着地した。
しかし、それだけでは終わらなかった。
元々あのハンターを追っていたのだろうか、村人が言っていた狼の遠吠えの主であるジンオウガが木々から飛び込む––––––––その先にブレスが有るとは知らずに。
『GRUAAAAAAAAAAAA⁉︎』
特別でも無い限り、ブレスを防げる存在はほぼいない。耐性の無いモンスターなら尚更だ。
思わない攻撃で空中で体勢を崩したジンオウガはタマミツネに向かい落下していく。それも
ブレスという大技を撃った直後に動けるはずもなく、なす術なくその体躯が重なり合い––––––
『KYOOOOOOOOOON!!?』
––––凄まじく感電した。
強烈な不意打ちを喰らった両者はそのまま地にへと倒れこむ。痙攣しており息もしていることから死んではいないようだが、しばらく動けないのは確かだった。
「ご主人、大丈夫かニャ⁉︎」
「……あぁ、問題ない」
いつの間にかあのハンターはオトモアイルーと合流していた。オトモの様子を見るに、今の出来事は予測していなかったのだろう。
しかしそんな奇想天外な偉業を彼は成し遂げた。
しかし私は間近で目視したからこそ断言出来た。これは意図して起こったのだと。
現にハンターは疲弊した様子など一切見受けられなかった。
「ご主人様、大丈夫かニャ⁉︎」
「ご、ごめんなさい……腰が抜けちゃって……」
あれだけのものを見せられたのだ。泡の効力は既に切れているが、もうしばらく立てそうに無かった。
情けないがオトモに手を貸してもらおうと手を差し伸べる。しかしそれは人間の温もりのある別の手で握られた。
「……大丈夫か?」
それはハンターの手だった。
私のことを心配してくれたのだろうか、強引にではなく優しく引き上げる、バランスを崩して彼にもたれかかってしまっても何一つ苦言を言わずに受け入れてくれた。
(––––コレ、ヤバイかも……)
心臓の鼓動が速くなるのを感じる。
不謹慎だが、意識して男と密着するのはコレが初めてだった。
▼
(ヤベェ、第一村人? 発見してなるべく紳士的に接したけど、この後どうすりゃいいの⁉︎)
対してこの山田も女性経験は皆無だった。
職場でも初対面だと何を話して良いか分からず戸惑ってしまう。死の淵から生還した直後なら尚更思考が働かない。そんな彼が密着などされればどうなるか。答えはテンパる。
(ぬおぉぉぉっ! 意外とこの娘胸があって弾力がぁぁ––––––っ⁉︎)
このように下品な言葉が多発するくらいテンパる。
もう一つの作品が進まないでござる。
内容は固まっているのに文章にすると納得が行かない、だれか私に語彙力ください!