原作なんて興味ないです。でもロストテクノロジーには興味あります。────研究熱心で少しズレた感性のスクライアの天才少女が無印原作開始前のユーノ君と共に学園生活を送るだけのお話。

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フェレット少女の魔法的日常

 とあるミッドチルダの魔法学院。そこにスクライアの少年、ユーノはいた。

 年は6歳、つまり、彼は今年入学したばかりの初等部1年生である。

 これはすなわち、まだ念話や魔力スフィア形成といった魔法の初歩を習っている段階であり、まだ幼くデバイスを使うことすらできず魔法の基礎中の基礎から教え込む段階だ。術式に触れて、魔力の運用に慣れて、魔法を肌で感じるというのが基本方針となる。

 

 ユーノは図書室にいた。

 

 第一管理世界ミッドチルダは文明の発展が著しくほとんどの情報はデータ化されており、紙などの媒体はあまり使われない。

 しかし、やはり本が好きな人種というのは絶滅しないもの。それを示すように、図書室には相当な量の本が存在している。多くは児童書や絵本であり、古代ベルカ由来の童話であったり、なかにはどこぞの管理外世界で有名なマンガもあった。

 

 図書室は閑散としており、本を読んでいるのはユーノともう一人。彼の隣にいる彼と同じ年頃の少女だ。

 ゴムひもでまとめられた肩までの長さの薄い茶髪、クールな印象を感じさせる切れ長の碧眼を持つ少女は大層大人びた雰囲気を漂わせている。

 

 彼女とユーノの本を読む表情は非常に似ていた。

 瞳は爛々と輝き、目線は忙しなく動き、口元は釣り上がり、時折眉間にシワを寄せたかと思えば、目を見開いて一つのページを眺めたりする。ちなみに余談だが、独り言をかなりのペースで呟いていたりする。

 

「ねぇ、エル。今読んでいる本どんな感じ?」

 

 本を読み終えたらしく、ユーノはゆっくりと息を吐きながら隣の少女に語りかける。

 すると、彼女は表情を和らげ、けれど、目線は本に向けたまま答えた。

 

「……なかなか面白いですね。結界魔法の術式構成をこれでもかというぐらい細かく分解して解説してくれています。高等部から借りてきたかいがありました。ユーノ君にとっても参考になると思いますよ」

 

「へぇ、終わったら僕にも読ませてね。こっちの管理世界遺跡名鑑も考察がしっかりしていて読み応えあったよ」

 

「その本、スクライアにもありませんでしたか?」

 

「こっちの方が新しいみたい」

 

「なるほど。そうでしたか」

 

 そんなやり取りをして、ユーノは次の本を読み始めた。

 

 およそ入学したばかりの新入生とは思えない会話。そばでこのやり取りを聞いていた司書は頭を抱えて「たまには児童書でも読んでよ……」と呟いていた。

 

 この二人はほぼ毎日図書室に来て、暗くなるまで本を読んでいくのだ。

 それだけなら別におかしくないのだが、この二人全く初等部の本を読もうとしない。

 中等部から本を借りて来て、暗くなったら本を返しに行くということを毎日やっているのだ。しかも今日は高等部からも借りてきたらしい。

 そんな初等部の新入生とは思えない行為を続ける彼らは司書達の間でのブラックリスト入りする存在になっていたりする。

 

 「ユーノ・スクライア」と「エルフィン・スクライア」

 

 彼らは「スクライアコンビ」、「スクライアの血の繋がらない双子」、「博士兄妹」と称されている。

 尤も、血の繋がらないといっても同じ部族だから血は繋がっているのだが。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 日も暮れ始めた頃、一部の未読の本をしまい、それ以外の本を返却した二人は下校の準備を始めていた。

 

 唐突だが、スクライアは部族内の繋がりが強い集団である。

 彼らにとって、部族=家族、これは幼くして両親を亡くしたユーノにとってはなおさらだった。

 特に、ユーノとエルフィンは同い年だったこともあり付き合いが多く、それこそ実の兄妹のような関係である。

 とはいえ、二人が親しくなったのは同い年ということ以外にも要因がある。

 子供離れした頭の良さだ。

 頭が良すぎるために話の合う子供がお互い以外にいなかった。そのため自然、一緒にいることが多くなったのだ。

 

 だがしかし、そんな彼らは、むしろ彼らだからこそ、ある問題を抱えていた。

 

 

 未読の本をしまったユーノは唐突に少女に問いかけた。

 

 

「ねえ、エル。…………………………………………友達できた?」

 

 

「…………………………………………そういうユーノ君こそ、友達はできたんですか?」

 

 

 先ほどの読書の時の親しげな雰囲気はどこへいったのか。何やら重々しい雰囲気のなかお互いを牽制しあう二人。

 

「僕は、クラスの委員長とお話をしたよ。

 …………何故か、中間テストでは首を洗って待ってろ、なんて怒鳴られたけど」

 

「私は、デバイスマイスター志望の娘さんとデバイスについてのお話をしました。

 …………急に用事を思い出してどこかへ行ってしまいましたが」

 

 

 優秀すぎると集団から浮いてしまうものである。出る杭は打たれるとも言う。

 実はこの二人、お互い以外に友達がいない。

 

 常に一緒に行動しているように見えるが、二人は違うクラスだ。

 入学して既に1ヶ月。にも関わらず、同じクラスに友達がいない。

 

 二人とも、他の子どもと話が合わないのだ。

 なにせ、ユーノの好きなものといったら、遺跡、歴史、古代文明、本、魔法。

 エルフィンも似たようなものである。

 どこに、古代文明に詳しい子供がいるというのか。

 

 そもそも、ミッドの魔法学院である以上、ミッド出身の生徒が大半なのだ。スクライアである二人はミッドの流行や習慣には疎い。魔法の話をするにせよ、二人のレベルが高過ぎてやはり話が合わない。

 

 つい先日、ユーノはクラスメートにこんなことを言われた。

 

 

 トモダチ・スクナイヤ。

 

 

 大人びている彼であるが、その時は思わずOHANASHIしてしまいそうになったと供述している。……まあ、OHANASHIした方が、かえって某自称平凡な少女のように友達を作れたかもしれないのだが。

 

 なお、ゴロが悪いせいか、その蔑称がアダ名になることは避けられたらしい。

 

「ユーノ君、私、思うんですが……、名前を呼べば友達なんて嘘っぱちじゃないですか?」

 

「ハハハッ。断言するけど、そんなの絶対あり得ないよ。

 そんな簡単に友達を作れるなら僕達はこんなに苦労しないよね。」

 

「ええ、友達のいる子(リア充)ならではの発言ですね。

 ユーノ君もそんなことを言う人がいたら容赦なくツッコミを入れるといいですよ」

 

「うん、誰が言った言葉か知らないけど、絶対あり得ないよね。

 というより、この年の子供は名前で呼ぶのが普通だから、知り合い=友達、になっちゃうよ。大事なことだから何回も言うけど、絶対あり得ないから」

 

 あまりにも友達づくりが煮詰まったせいか、どこかの誰かに対して八つ当たりじみた文句を言う二人だった。

 数年後、ユーノはある少女と出会い、この時のやり取りを思い出すことになるがそれは別の話だ。

 

 

「ところで、エル。名前を呼べば友達! というのがあり得ないのは当然として、そもそも友達ってどこから友達になるのかな?」

 

「やはり無難に、お互いが友達と認め合ったら、じゃないですか?

 もう少し言うなら、双方が気のおけない仲となれば……だと思います」

 

「それなら、気安く会話する仲になれば友達になるのかな」

 

「おそらくは……」

 

「でも、エル。僕らにはその会話が難しいんだよね」

 

「はい、共通の会話がありません」

 

 テレビ、ゲーム、授業、宿題、家族、休日の出来事。

 男子なら下ネタや悪戯。

 

 どれも話題として使えそうもない。

 下ネタなど、仮に友達ができたとしても、代わりに何かを失う気がしてイヤだ。

 主に自分のキャラとか。

 

「うーん、要は興味を引く何か……それがあればいいんだよね」

 

「そうですね……」

 

 そうして考え込む二人。だが、この二人は1ヶ月かけても友達を作れなかったのだ。そんなものをすぐ思いつくぐらいなら1ヶ月もボッチをやっていない。

 

「はあ……こうしていても仕方ありません。とりあえず家に帰りましょうか」

 

 結局、彼らは結論を出せなかった。

 

 

 

 

 

「普通に友達になりたいって言えばいいんじゃないかしら……?」

 

 そんな司書の呟きがあったことを彼らは知らない。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 今年で60歳になる管理局員カーライル・スクライアは溜息をついた。

 その原因は今年から家にホームステイするようになった二人の子供の会話内容だ。

 

「私が思うに、親しみやすさを演出するには挨拶が一番だと思います。

 毎朝教室に入る度、おはようございますと大声で言ってみるのはどうですか?」

 

「おはようございますは基本一日一回だよね。ちょっと弱いかなあ。

 一発芸なんてどうだろう? 上手く行けば皆から話しかけられると思うんだ」

 

 カーライルは目の前の色々とズレた会話に思わず頭を抱えた。

 知識に長けたスクライアにおいてなお天才児と呼ばれる子供。初めて会ったとき、その利発さに舌を巻いた。あれでは初等部低学年の授業などつまらないだろうと考えたものだ。

 

 しかし、この場においては頭の良さが空回りしている。

 

 何を議論しているのかと思えば、友達の作り方である。

 正直、変に考えずクラスメートに話しかけろと言うのが無難だろう。

 

 

(ほんっと、スクライアの子供ってのはこんなのばかりか……)

 

 実はスクライアという一族、大部分が友達作りが下手である。

 何故か。それは彼らが、趣味:遺跡巡り、と履歴書に書くような特殊な(ズレた)感性の人間だからだ。

 ある程度いろいろな人と関わりを持てば、大分その辺りは改善されるが、ミッドに来たばかりの子供にそういった期待はできない。

 

 スクライア=ボッチ筆頭候補

 

 これはミッドの教育機関では既に定説とされていたりする。

 

 だが、しかし……。

 

(まあ、簡単な解決策があったりするんだけどな)

 

 スクライアは昔からボッチ集団と言われてきた。一方で、スクライアは知識の民である。多くのスクライアの民が友人の作り方を模索してきたのなら、先人の知恵というものが存在するのは当然なのだ。

 

「なあ、二人とも。スクライアに伝わるこんな言葉を知ってるか?」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 翌日の魔法学院初等部、クラスで孤立していた少女、エルフィンは教室の扉を開ける。

 多くの生徒はソレに気づかず雑談を続ける。しかし、気づいた者はソレに驚き、驚愕は伝搬していく。そして…………。

 

 

 

 

 

 ────困ったときはフェレットになれ。

 

 そこには小動物が立っていた。

 

 

「何だアレ!?」「か、かわいい……」「どっから来たの!?」「二足歩行!?」

「フェレットだろ、アレ!?」「おいしそう」「おいでおいで!」

 

 多くの子供は動物好きである。

 この日からエルフィンはフェレット少女としてクラスの人気者になったという。

 

 

 

 

 

 一方、ユーノは何故か淫獣と呼ばれた。




 初投稿です。なんだこれ……。
 ユーノと女オリ主の魔法学院生活を書いてたら、色々暴走。
 ユーノ君がボッチ設定に。スクライアがボッチ集団に。
 そして、ユーノ君がまさかのなのはアンチ的発言。

 連載作品のつもりで書きましたが、短編でいい気がしたので短編として投下。
 いつか気が向いた時に続きを書きます。

 この話だけだと、転生設定全く必要ないな……。


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