「ガルフ!?」
公爵家に墜落して来た物体は、爆心地へ向かい元凶を討ちに行ったガルフだった。
「ヒ、ヒロト。ガルフは生きてんのか?」
イリアが心配そうに顔を覗かせる。
学校で脈の測り方とか応急処置とかの仕方は習った事がある。
「脈はある。…でも気絶してるみたいだ。直ぐにヒールだ。」
服は煤で汚れ、背中から血が流れ、帰って来たガルフは既に虫の息。
俺は急いでヒールを掛け、ガルフの傷の治癒を行なう。
他の傷は直ぐに修復できそうだが、背中の傷が深い。
いくらヒールを掛けても塞がらない傷に苦戦していると神様から通信がきた。
『…ううむ。これはかなりマズイのぉ。相当深く刃が入っとるからヒールじゃ効果が薄い。『エルヒール』を使うといいじゃろう。』
(分かった。…『エルヒール!』)
先程よりも強い光がガルフの全身を覆い、その光が背中の傷へと集まっていく。
「ヒロト殿!何があった!?」
程なくして爆音を聞いた皆が集まってくる。
「…ガルフが墜落してきたんです。それも全身傷だらけで、背中に深い傷も負ってました。」
「ガルフが…?」
「…よし。傷は塞がりました。ニヒルさん、俺じゃ専門的なのは分からないんで後、お願いしてもいいですか?」
「ええ。後は任せてちょうだい。」
「団長。この後の護衛任務はどうしますか?」
「無論、続けるさ。まだ時間がある。ガルフは救護の者が居たはずだ。そこで安静にさせよう。」
その後、公国騎士団と魔術師団が負傷者の救護などを行い、被害の拡大は防ぐ事ができたそうだった。
…犠牲者が出てしまったが。
そして翌日。
俺はガルフの傷が気掛かりだったこともあり、食事を摂りに行く前にガルフが眠る部屋へ行く事にした。
「えっと…確か、ニヒルさんが言うにはこの部屋だったよな。」
俺はその部屋のドアをノックする。すると中からザウロさんの声が聞こえてきた。
「俺です。ヒロトです。ガルフの様子が気になったので…」
「ヒロト殿か。…入って来てくれ。」
俺は部屋に入ると、ガルフの眠るベットの側で難しい顔をしながらザウロさんが椅子に座っていた。
「…ガルフ、大丈夫そうですか?」
「ああ、容体は安定しているらしい。まだ意識は戻っていないが戻るのも時間の問題だろう。…また君の力に助けてもらってしまったな。」
「いえ、俺は当たり前のことをしたまでです。」
「…そうか。なぁヒロト殿。君もガルフの傷が気になったと言っていたが…やはり君から見ても不自然か?」
そう、ガルフの傷が気になっていた理由というのはその傷口と深さがあまりにも不自然だということだ。
「ザウロさんもそうでしたか。」
「ああ、どうにも引っかかってな。…まぁ今は食事を摂って休もう。その間に考えてまた明日の朝にでも此処で。」
「そうですね。…それじゃあ俺は先に行きますね。」
広間に戻ると、大量の皿を持ちながらイリアがこちらに歩いて来た。
「あ、ヒロト。…ガルフを見に行ってたのか?」
「そうだけど…。ってお前その皿なんだよ?」
「何って…。食べた皿を片付けてんだろ?」
いや、そうじゃないだろ。とツッコミを入れてやりたかったが余計に話がややこしくなりそうだ、やめておこう。
…というかコイツの胃袋は底なしなのだろうか。
「…取り敢えずその皿置いて来たらどうだ?」
「あ、そだな。」
今まで自分の持っていた大量の皿の存在を忘れていたのだろうか、ハッとした顔をすると厨房の方へと走っていった。
少しして、イリアが飲み物を持って帰って来た。
「ヒロトはまだ朝御飯食べてないんだろ?取り敢えずジュースでも飲んどけよ。」
「え、ああ。サンキュー。」
「じゃ、あたしちょっと外の空気吸ってくる!」
俺は席に着くとテーブルに置いてあるパンの籠から一つとって食べる。
そのまま放置していたからだろうか、若干パサパサしているが中に入っているカスタードクリームの様なものが美味しい。
と、そんなことを思いながらパンを囓っているとザウロさんが広間へやって来た。
「ザウロさんもどうぞ。美味しいですね、このパンは。」
「ああ、頂くよ。…む、パサパサだな。」
俺が渡したパンを囓りながらザウロさんがそんなことを呟く。
「ここに置きっぱなしでしたからね。」
「そうか。いつもならガルフが『食べないのなら片付けますよ?』って言って、厨房の方へ持って行くんだがな。」
「そうなんですか。…まぁアイツらしい様な。」
そんな会話を交わしていたその時、家令のヴィルさんが広間のドアを開けて入って来た。
「ザウロ殿。王城から貴方宛に通達が届いておりますよ。送り主は『公国魔術師団 ジーマ・アルナス』」
公国魔術師団?確かアリエさんが所属している…。
ザウロさんはヴィルさんから封筒を受け取ると中の内容を読み始めた。
「『先日の王都襲撃事案の件について、関係者である貴殿等にも王城へ来ていただきたい。その際、貴殿と雇った護衛の者を連れてくる様。』…召集の命令か。」
「『雇った護衛の者』…って俺たちの事ですよね。」
「そうだな。…すまんが王城まで同行願いたい。」
「王城か〜。…緊張するなぁ〜。」
「公爵様の時みたいに変な話し方になるなよ?…エストは元気にしてるかな?」
「あ、そっか。今、エストは王城にいるんだったな。」
イリアとそんな会話をしながら、俺はもう一度昨日の事に思考を巡らせる。
…あのガルフの傷、どうにも不自然だ。
ガルフは騎士団の中でも凄腕のルーキーだと神様も言っていた。仮に刺されたとして、抵抗はするだろうしあんなに綺麗な傷口になるだろうか。
拘束された様な跡はなかったけど…。
『…随分と悩んでおるようじゃなぁ。やはりガルフの傷が気掛かりか?』
(…神様はどう思う?てか、見えてんじゃないのか?)
毎回思うのだが、天界にいる神様なら物事の表裏全てを把握してそうなものだ。
『…別に教えてやっても構わんのだが、それではお主に成長がないであろう?』
なるほど、それはごもっともだ。
(楽しようとすると帰ってマズイ事になりがちだからな。…よし、また1から頭を整理して考え直すか。)
『それが良いじゃろう。ではな、』
…さて、まずは目の前の事を片付けてしまおう。
「そろそろ着くぞ。此処がアルカゼニア公国のアイギシュタ城だ。」
これで第2章 第1部の本編が完結です。
後もう一つ、オマケを挟んで第2部へと続きます。
第2部からも読んでいただけると嬉しいです。