「シーヴィル様。ヒロトさんをお連れしました。」
俺はアリエさんの案内で、再びシーヴィルの部屋へやって来た。
さっきの話の続きというか、全く別の話というか。
「それでは失礼します。」
「ありがとう、ご苦労様。」
シーヴィルは俺を連れて来たアリエさんに礼を言うと、俺に席に着くよう促す。
「ちょっと待っててよ。お茶入れてくるからさ。」
「…自分で淹れるのか?」
「僕、自分のことはなるべく自分でやりたいんだよねぇ。まぁ昨日はゴタゴタしてたから別だけどさ。」
そして、食器の入った棚の上に置いてあるビスケットみたいなお菓子の箱を取ると、それと一緒に紅茶を持って来た。
「そのビスケットねぇ、僕が遠征に出る前にリドルトで買って来たものなんだよ。」
「リドルトで?へぇ…こんな店もあったのか。」
リドルトに滞在してたのってほんの数日だったからな。…帰ったらこういう店とか3人で見に行こうかな。
「…ん。美味しいな、この紅茶。」
「でしょ?淹れ方とか茶葉の選抜とかの仕方はヴィルに教えて貰ってるからねぇ。」
ヴィルさんにか。あの人の淹れる紅茶も美味しかったな。
と、本題を忘れるところだった。
「それで、さっきの話の続きは?」
「ああ、そうだったねぇ。」
シーヴィルは手に持ったビスケットもどきを食べ終えると、あの真面目な口調でこの王都で起こっている事について話し始めた。
「まず、ヒロト君。今この国の情勢がどうなっているのかは、把握してるのかな?」
「この国の情勢?王族が何者かに狙われてるとか、そんな感じの事か?」
というか、そのぐらいしか知らない。
…十分大事件だけど。
「そう、まずこの国で起きている事件の一つがそれだ。でも、その騒動の裏で何か大きなものが動き始めている。」
「それが二つ目か?」
「僕はそう考えてるよ。…実は現国王の政策がどうにも前国王を支持していた貴族や国民たちの反感をかっているらしいんだ。」
なるほど、それが命を狙われている原因なのか。
「前国王はこの国に異人種を入れたがらなかった。どうにも、異人種の事を差別的な目で見て居たそうでね、その政策に反対した騎士や国民たちが国王の退位を求めたんだ。」
「それでその国王は退位したのか?」
「いや、前国王ガゼル・クレウス・アイギシュタはその反対運動を武力で制圧した。」
…今の地球で起きてる事と同じか。
つまり国王は独裁体制をとり、国民を武力という鎖で縛り付けたのか。
「でも、武力で押さえつけるその体制を見た現国王で当時、第一王子だったザヴェル・クレウス・アイギシュタは王の政治に反対する貴族や国民らと共に前国王である父にこの政策を辞めるよう直談判をしたんだ。」
「それで…どうなったんだ?その王子は。」
「見事、国王の政策を止めたのさ。…でも、彼にとっては悲しいことでもあった。」
悲しいこと?…一体、何があったんだ。
「国民からの反感を受けすぎた前国王、ガゼルはその後、実の息子である現国王、ザヴェルによって遠い辺境の国へと追放になった。…ザヴェルにとってもそれは辛いことだっただろう。」
「…実の父親を追放してしまったんだからな。ガゼルはどうなったんだ?」
「追放された先の村で疫病に掛かり、死んでしまったと、僕は聞いているよ。」
悲惨な人生だな。…と、また本題から少し逸れてるような…。
「さて、此処からが話の本題なんだ。その後、王子ザヴェルは国王に就任して、どの種族でもこの国で暮らせるようにしたんだ。」
「うんうん、それで?」
「けど、前国王のガゼルを支持して居た一部の貴族や国民はその政策に納得ができなくてね。…そして、裏である組織を結成した。」
ある組織?…あの夜街に襲撃を掛けたあの組織のことなのだろうか。
「彼らは『影』を組織した。…その名の通り、前国王の追放に関係する人物を影から襲って表舞台から消す。」
「つまり…暗殺するって事か?」
「その通り。そして、その組織が狙っているのが王族の命、そして王の椅子だよ。そこに座ってしまえば、この国を思う通りに操れる。」
その言葉を聞いた瞬間、言葉が出なくなった。
…この国ではとんでもない事が起こっている。それを再認識したからという理由もあるが、それ以上に人間が此処まで醜いものかというのを目の当たりにしたからという方が大きい。
「…早く止めないと。この国がガゼルの時みたいに…!」
「その『影』に出資をしている人物を割り出して居場所を吐かせてしまえば良いんだけども、拷問は禁止だからね。」
確かに拷問は流石に酷い。…でも他に方法なんて…。あれ、待てよ。
「できる!俺のこの能力なら!!」
いきなり大声をあげた俺の事をシーヴィルがキョトンとした目で見る。
「あ、ごめん。…でも、俺の能力があればそれが可能かもしれない。」
「え?…そうか!確かに君の能力なら可能だ!」
俺は肝心な事を忘れて居た。
『どの属性、無属性すらも操れる魔術の能力。』
「シーヴィル、無属性魔法の書を貸してくれ。俺も一冊持ってるんだけど、まだ全部じゃないはずなんだ。」
「分かった、テレポートで僕の書庫へ行こう。あそこならどんな魔法でも見つけられる。」
これで事件の真相に、少しでも近づけるはず。…待ってろ『影』。俺が絶対にぶっ潰してやる!
「さあ、僕に捕まって!」
「分かった。…よし!」
「それじゃあ行くよ。…『テレポート!』」
そして辺りの景色が歪み始める。
そして次に目を開けた時、其処には大きな本棚が大量に置かれた部屋に居た。
次回はヒロト達が居なくなった公爵家の話です。