その彼の過去の話です。
「…此処は、何処だ?」
目を覚ますと、俺は真っ暗な闇の中に居た。
風がなく、匂いもなく、勿論光などない。
…そうか、俺はあの時背後から襲撃されて死んだのか。
我ながらあっけない最期だった。
これでは騎士になった意味がないではないか、俺は…友との約束を守れなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今から一年ほど前のこと。
俺はこの国の騎士団に入団しようと、志願を出しに来て居た。
志願を出し、試験に合格し、俺は晴れて公国騎士団に入れることになったわけだったのだが…。
「…獣人風情が、良い気になりやがって。」
「獣臭いのはゴメンだ。…失せろよ。」
国王が変わり、少しは異人種への差別が和らいだかと思った俺が間違っていた。
確かに獣人である俺を快く迎えてくれる者は多くいる。
…だが、前国王を支持する騎士や貴族にとって俺という存在は邪魔でしかなかったのだろう。
どの隊に入ろうにも、必ずその上に着く貴族にはじかれ、孤立していった。
「…俺の居場所はないのか?」
そう思い詰め、騎士団を辞めようかと思って居た時、背後から不意に声をかけられた。
「君がガルフか?」
その声はとても低く、重みのある声。
だが、その中には優しさが混じって居た。
「はい、私がガルフ・サヴァリスですが…。貴方は…?」
「これは失敬。俺はザウロ・リングレナル。公爵家で護衛団の団長を務めている者だ。」
公爵家で護衛…。俺には縁のない話か。
「君、新人の中でもかなり成績が優秀だそうじゃないか。君のような人材が護衛団に入ってくれれば俺たちも助かるんだがな。」
「勧誘なら止めておいた方がいいですよ。…もし仮に貴方が私を護衛団に入れたとしましょう。公爵様や他の仲間はどう思うでしょうか。」
またはじかれて、孤立するだけ。
それでまた心に傷を負うのなら俺はもう誰とも一緒に居たくない。
「ウチの仲間はそんな奴らじゃない。…君が獣人であるからといって差別するような奴らはウチの団には居ない。」
だが彼は諦めようとしない。
そのうち、俺は彼の話す事を少しづつ信じるようになって来た。
「頼む、ウチの護衛団に入ってくれ。君の様な者が居てくれれば本当に助かる。」
「…分かりました。」
此処に本当に俺の居場所があるのなら。
俺はそんな藁にもすがる様な思いで公爵家護衛団への入団を決めた。
「そういえば、君がなぜ騎士団に入団したのか、その理由を聞いていなかったな。」
「私が騎士団に入った理由…ですか。」
俺が騎士団に入った理由。
それはある1人の友人との約束だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「なぁガルフ。お前は将来何になりたいんだ?」
「俺か?さぁ…何だろうな。」
俺が生まれたのは公国の中でもかなり田舎の方に位置する村。
其処には前国王の政策によって王都から追放させられた獣人たちが集落を形成し暮らして居た。
そして、俺には親友がいた。
名はフェン。俺と同じオオカミ系の獣人だった。
「まだ決まってないのか?そうだ、…俺の夢、聞かせてやろうか?」
「いや、別に良い。」
「そう固いこと言うなよ。…俺はさ、騎士になろうと思う。そんで、獣人だってやってやれるんだ!ってのを人間に見せてやりたいんだ。」
「お前が騎士に?…ハハハッ。」
「わ、笑うなよ!…俺は真剣にそう思ってるんだ。」
「悪い。…だが、騎士になろうにも今の公国の状況じゃ無理だろう?王が変わってすぐではまだ偏見も残っている。」
「そりゃそうだろうけど、俺はその壁を乗り越えて、絶対に騎士になってやる!って、決めてるんだ。」
「壁を乗り越える…か。お前らしいといえばお前らしいのだろうか。」
「褒めるならもっと分かりやすく褒めてくれよ。」
「別に褒めてない。…騎士、か。」
今まで考えたこともなかった。騎士になんてなれる訳が無いと、ずっとそう決めつけていたからだ。
「面白いな、お前の夢は。」
「何だよ!お前ちょっとバカにしすぎだぞ!」
「いや、違う。そういう意味じゃ無い。…お前と同じ夢を俺も追いかけてみようかと思ってな。」
「へ?…じゃあ、お前も騎士団を志望するってことか?」
「今の話を聞いてなかったのか?」
すると、フェンの顔がどんどんと明るいものになっていく。…何でそんなに喜んでるんだ?って位に。
「フェン、騎士団の入団試験はいつなんだ?」
「え、うーん。…分からない。」
そんなことだろうと思った。コイツはいつも肝心なところで抜けている。
入団試験の日程を確認した俺たちは、その日まで剣の鍛錬と集団戦法の基本と応用、その他諸々を一から勉強し始めた。
「えっと…。なぁ、ガルフ。この場合はどうするんだったっけ?」
「…前衛が突撃した後に周りから崩すんだろ?お前本当に大丈夫なのか?」
「俺は本番に強いんだ!」
「はぁ。」
そして月日が流れ、入団試験まで1ヶ月をきった頃。…事件が起きた。
「盗賊だ!皆、盗賊が襲いに来たぞ!」
俺たちの集落を盗賊が襲いにやって来た。
奴らは無差別に家を焼き払い、住人を殺しては持ち物や金品を片っ端から盗んで行く。
俺たち2人はすぐに盗賊の元へ向かい、剣を構えた。
既に警吏はやられていて、戦える者も殆ど居なくなっていた。
「おいこら盗賊!俺たちの村で暴れてるんじゃねぇ!」
「あぁ?うるせぇぞてめえら!!」
「…やるしかないか。まぁ最初からわかっていたんだがな。」
そして、俺たちは抜いた剣を盗賊たちへ向け、突撃体勢に入る。
「「『シフト・アクセル!』」」
同時に速度強化の魔法を発動し、怯んでいる盗賊の下っ端たちを蹴散らしていく。
この時俺たちは、絶対に負けるわけがないと油断していた。
そしてあらかた片付き、残り数人まで追い込んだ頃。
フェンが一度魔法を解き、正面から銃を持った盗賊に突っ込んでいく。
そして魔法を発動させようとしたその時だった。
…背後から心臓を縦断で撃ち抜かれた。
「そ、んな…」
「フェン!!」
俺は急いでフェンの元へ後の盗賊を切り捨てながら向かう。
「フェン!しっかりしろ!」
俺がフェンの体を抱き抱えた頃にはもう既に手から熱が失われ始めていた。
「ハ、ハハ…。油断しちまった。」
「それ以上喋るな!待ってろ、今診療所に連れてってやるからな!」
そして俺がフェンを持ち上げようとすると、フェンは俺の腕を掴んで制止した。
「ガルフ…。俺は多分、助からない。だから、お前に頼みがある。」
「最後とか言うな!」
顔から赤みが引いていき、どんどんと白くなっていく。
「俺の…夢。騎士になる…ことだ。…この夢を…お前に託す…ぜ。」
そしてフェンは静かに目を閉じた。
俺の腕を掴んでいた手が力なく地面に落ちる。
俺は泣いた。叫び、地面に拳を何度も叩きつけた。
そして同時に決意した。
必ず騎士になって、フェンの夢を叶えてやろうと。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「…すまない、フェン。」
暗闇の中、俺はそうポツリと呟く。
すると、声が帰って来た。
「終わるなんてなしだぜ?お前は俺の夢を叶えてくれるって約束したじゃねぇか。」
「…!?フェン、フェンなのか!?」
そう問い返した瞬間。辺りが眩い光に包まれる。
そして目を開けると、俺の目の前には死んだはずのフェンがいた。
そして、俺の肩をポンと叩くと小さく、だが俺の背中を押すようにしてこう呟いた。
「生きろよ、俺の分まで。」
「…ッ!!」
ニカっと笑ったその笑顔を最後に、また辺りが光に包まれる。
そして次に気がついた時。
俺は公爵家のベットの上で眠っていた。
「…帰って来たのか?俺は。」
「…!?ガルフ!目を覚ましたのか!」
隣に座っていた団長が起き上がった俺の方を向いて驚く。
「…不思議な夢を見ていました。俺の友人が生きろと背中を押してくれたんです。」
団長は「そうか。」と呟き、俺の方へ向き直る。
「よくぞ帰って来た!誇り高き狼の騎士、ガルフよ!」
「…!ただいま戻りました。…団長。」