「到着だよ。…さてと、無属性魔法の書物があるのは何処だったかなぁ。」
そう言ってシーヴィルはキョロキョロ辺りを見渡しながら探し始める。
「広いな…こんなとこからどうやって探すんだ?」
そこにあったのは何千や何万といった数字では足りない程の本棚がズラーっと並んでいる。
壁にはもちろん、一体どういう原理でそうなっているのか、部屋のいたるところに本だ本棚が浮いている。
「おーい、置いていくよー?」
「あ!待ってくれよ。」
俺は急いでシーヴィルを追いかける。って、あれ?なんか走ってる感覚がないんだが…。
「浮いてる…!?」
そう、俺は何故か浮いているのだ。とは言っても地面から数センチほどだが。
だが、不思議とバランスは崩れない。
俺だけなのかと思い、シーヴィルの足元をワイドセンスを発動させて見てみる。
すると、シーヴィルもまた浮いているのが見えた。
俺はシーヴィルに追いつくと、何故俺たちの体が浮いているのかを尋ねる。
「実はねぇ、この部屋はある魔道具を使って特殊な魔素を充満させてるんだ。だからこうやって…。」
そう言うと、シーヴィルは足元に力を込めて飛び上がる。
するとどうだろう、その体はどんどんと高く浮き、部屋の天井にまで届いた。
そして、ゆっくりと地上に降りて来る。
「こんな風に、空が飛べるんだよねぇ。」
「だからあんな所に本棚が浮いてても取りに行けるんだな。」
「そういう事だねぇ。…さて、気を取り直して探し始めようか。」
そう言って何処までも本棚が続いている通路を歩き始めた。
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「ガルフ、もう動いても大丈夫なのか?あまり無理はするな、お前は怪我人なんだぞ?」
団長がそうやって気遣ってくれているのは有難いが、それよりもあの男の事を公爵様に報告しなくては。
「団長。公爵様は今居られますか?」
「ああ。今はご自分のお部屋で国王から受け取った書物を読んで居られるはずだが?」
「…今この国の裏で少し、いや。かなり厄介な事になっているかもしれません。」
「…何?それはどう言う事だ。」
「公爵様のところへ行きましょう。…そこで話します。」
「うむ、分かった。」
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探し始めて数十分が経った。
今の所、全く見つからない。…というか、自分が管理する書庫なのだからちゃんと場所くらい覚えておけないものだろうか。
「…見つからないな…。シーヴィル!そっちは見つかったか?」
「うーん…参ったなぁ。何処に入れたんだったか…。」
『ヒロトよ。魔法を使って探せば良いのではないか?探知の魔法をお主は覚えとるはずじゃが。』
(おっと。その手があったか。)
「『サーチ!』」
えっと…、無属性魔法の書物は…。お、あった。
「見つかったぞー!窓際の棚だ!上から…、多分9つ目だ!」
「…そ、そうだった、そうだった。そこに入れたんだったねぇ。ふぅ、助かったよ。」
「毎回こんな具合なのか?時間がかかって仕方がないだろ。」
「そうだね。もう少しスムーズにならないもんかなぁ。」
いや、自分で整理しろよ。
「じゃあ、探していこうか。」
「そーだな。」
…何だろうかこの違和感は。いや、ここに来たのは初めてで、こいつとも会うのは初めてなんだから違和感なんて覚えるはずもないんだが…。
何かが俺の中で引っかかってる。
「…?どうしたんだい、ぼーっとして。」
「え、いや。何でもない。…よし!それじゃあ始めるか。」
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「…失礼します。」
公爵様のお部屋の扉を開けると、難しい顔をし、眼鏡をかけて書物を読みふける公爵様の姿があった。
すると、こちらに気づいた公爵様が目覚めた俺の姿を見てこちらへ駆け寄ってくる。
「…おお!ガルフ、目が覚めたのか!」
「ご心配をお掛けしました。」
「傷は痛まないのか?かなり酷い状態だったものでな。」
やはりこの方は優しい。自らの命が狙われているかもしれないというのに俺の心配をしてくれている。
「ええ、体の方は何とも。…そういえば、ヒロト達の姿が見えないのですが…。」
「ああ。彼らは今王城に居るのだ。シーヴィルがそう提案したらしい。」
王城に…?シーヴィル様がそのような事を言うなど、珍しいものだ。
「…それで、用件は何だ?話があるからここに来たのだろう?」
「そうだ、ガルフ。一体どうした?『かなり厄介な事になっているかもしれない』と言っていたが。」
「ええ、その事なのですが。…私が爆心地へ向かったあの夜。どうやら『影』が動いていたようなのです。」
「『影』…か。やはり動いておったか。」
「それで、あの爆破の首謀者は。」
「…首謀者は殺し屋集団『ヘルズキール』の首領。ゼア・バナードです。」
「ゼアだと?…だが、奴は魔力が少ないために魔法での戦闘は殆どしなかったはずだが?」
「『媒体』だな?…そうであろう?ガルフよ。」
なんと鋭い勘だ。まだ何も言っていないのに当ててしまわれるとは。
「ええ、奴は形取っただけの大剣に魔晶を埋め込み、コロナボールによる爆破工作を行っていました。」
「…して、ゼアはどうした?」
「…ゼアは黒装束の男によって跡形もなく消されました。」
「な!?消されただと?」
あの夜、俺は確かに見た。ゼアは黒装束の男に助けを乞うた。だが、その男は魔法を唱え、ゼアの肉体を跡形もなく消し去ったのだ。
「では、お前が墜落して来たのはその男の仕業か。」
「はい。背後から不意にナイフを突き立てられ、身動きが取れなくなったところを謎の魔法で吹き飛ばされました。…もっと警戒していれば、あの様な事態にはならなかったというのに…。申し訳ありません、公爵様。団長。」
「良い、顔を上げよ。…しかし、謎の魔法か。その黒装束の男は何と唱えておった?」
そう公爵様に言われ、あの夜の出来事を思い出してみる。
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「な、何故だ…!?何故裏切る!?」
「…言っただろう。雑魚は要らんと。…消えろ。『ロストエナジー』」
「な、あぁぁぁ!!!!」
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「…無様だな。それでも公国騎士団の騎士なのか?」
「な、何だ…と?」
「『タクト』」
「な、何を…!」
「じゃあな、狼の騎士。」
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「…確か、『ロストエナジー』と『タクト』だったかと。」
その単語を聞き、公爵様の顔が重いものになる。
「公爵様…?どうかなされましたか?」
「…至急、王城へ移動だ。兄に報告せねばならん。」
そう言うと、公爵様はいそいそと移動の準備を始める。
団長はと言うと、指示が出たのちすぐに護衛団の団員を招集しに行った。
「…公爵様。あの男にお心当たりがあられるのですか?」
「…ガルフよ。お前が戦ったその黒装束の男が使った謎の魔法。『タクト』に関しては只の移動制御魔法なのだが、『ロストエナジー』これに関してはとても危険な魔法なのだ。」
そして、準備の手を止めると、俺の方へと向き直られる。その顔は先程とはまるで違う、重々しいものだった。
「…もう一度問うぞ。聞き間違いではないのだな。確かに、その男は『ロストエナジー』と、唱えたのだな。」
「…間違いありません。」
「ガルフ。…その男の使った魔法。『ロストエナジー』は…。」
そして、一呼吸置くと、重い声で、一言。
「…禁忌魔術だ。」