「…」
体の震えが止まらない。
『次は必ず…殺す。』
男の放ったその言葉が頭から離れない。
あの時、『ショート・テレポート』を発動させていなければ、俺は間違いなく死んでいた。
禁忌魔術『ロストエナジー』
あの魔法に掛かれば最期。
肉体の内側、魂を焼かれ、対象者は肉片一つ残さずこの世から存在を抹消される。
その魔法を喰らいそうになったのだ。
今まで、向こうの世界でもヒヤッとするような事はあったものの生きてきて初めて、『生』と『死』の選択を迫られた。
…待てよ。
あの黒ローブの男は何で俺に執着してるんだ?
俺があいつの姿を見たから?まぁ確かに都合が悪いだろうが、姿を見たのはガルフも同じ。
なら、あの時ガルフの事をなぜ殺そうとしなかったのか。
…考えても仕方ないか。
早い事、方陣を処理して皆と合流しないとな。
「…よし、落ち着いた。」
俺は深呼吸をして体の震えを何とか抑え込み、次の方陣の場所へと走り出した。
一方その頃、そのまま馬車に乗り込み王様の護衛をしているエストとイリア。
もうすぐ王都に到着するとな報告を受けて、ヒロトに『コネクト』をつなごうとして居た…のだが。
「…あれ、ヒロトさんと繋がらない…?」
「…?へ、どういう事だよ。」
もう何回か繋ごうとしてみるも、ヒロトのコネクトが切れているようで全く繋がらない。
聞こえてくるのはノイズのような雑音だけ。
だが、2人は大声で何度も呼びかける。
「ヒロト!おい、返事しろ!」
「ヒロトさん!…ま、まさか…!」
2人は最悪の事態を想像し、次第に焦り始める。そんな2人を見かね、ザヴェルが宥める。
「まぁ落ち着きたまえ。…ヒロト殿は用事を済ませたらすぐに帰ると言って居たではないか。仲間である君達が彼の言葉を信じなくてどうする?」
その言葉に2人はハッとして、椅子に座る。
だが、その顔からは不安の色がうかがえる。
「…心配か?」
「はい。…ヒロトさんが強いのは分かってるんですけど…。」
「…何かと無茶しようとするんですよね、あいつは。」
「…そうか。」
と、その時。
隊の先頭を歩いて居たダラス将軍から連絡が入る。
『陛下。間もなく王都に到着…な、何だ!?あれは!』
「どうした!何が起きているのだ!」
「…王都が…王都が燃えています!!」
「「「!?」」」
馬車にいた皆がその報告を受けて驚きの表情を見せる。
そして、急いで外に出てみると街を囲む高い壁の内側が赤く光っている。
2人が突然の事態に焦っていると、ダラス将軍が慌てる騎士団の人達に的確な指示を出している。
「第一小隊!緊急の出入口を確認しろ!!第2、第3小隊は万一の事態に備え正面からの突入を試みよ!」
「「「はっ!」」」
将軍の指示を受けた騎士団員たちはすぐに切り替えて各々の役割を遂行し始める。
「陛下、壁内には大勢の市民が残されており、ヒロト殿の報告によれば残っていた騎士団員や魔術師団の者にも少数負傷者が出ている模様です。…公爵様が王城に来ておられることを考えると、ご無事だとは思いますが…。」
「確かに、王城にはシーヴィルさんが居られますし護衛団の方々もおられますからね。」
将軍の考えにエストが賛同するが、イリアが何かを思い出したようにふと呟いた。
「なぁ、ヒロトが言ってた話だけどさ。
今って王族の人達が内部の人から狙われてるかもしれないんじゃなかったっけ?」
「え、うん。確かにヒロトさんはそう言って…。」
そこでイリアが何を言いたいのか分かったエストはサッと顔を青ざめさせ、隠し通路の確保に向かった隊に大きな声で呼び掛ける。
「そっちは…!!」
だが、その声が彼らに届く事はなく。
大きく轟く爆発音とともに、壁の一部が吹き飛んだ。
「「「「…!」」」」
「…遅かった…。あたしがもっと早くに気づいてたら…!」
かなりの爆発範囲だった。
あの様子だと、あの騎士達は死んでしまっただろうか。
誰もがそう思い、自らの甘さを悔やんでいると、急に声が投げ掛けられた。
「おい、勝手に殺してやるなよ。」
その声の主はヒロトだった。
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数分前
「…よし、これで全部解除したな。要領が分かればすぐに片付くもんだな。」
俺は機能を停止した魔道具を踏み潰すと、王都の方向へと走り出す。
それなりに時間はくっているから、もしかしたらもう王都に到着しているのかもしれない。
そんな事を考えながら王都へ続く道を疾走していると、何やら変な匂いを乗せた風が吹いてきた。
「…焦げ臭いな。何か燃えてんのか…な?」
ふと空を見上げれば、王都の方向が淡く赤色に光っている。
だが、今はもう陽も落ちている。
俺は最悪の事態を予想して、王都へと足を急がせる。
「くそっ…これじゃ間に合わない!…いっその事、王都にテレポートしちまうか!」
そしてテレポート。
風景が歪み、目を開けると俺の知っている王都とは全く違った光景が広がっていた。
…いや、一度だけ見たことがある。
あの夜と同じ、王都の街が焼けていた。
「…!こうしちゃいられない、早くあいつらの所に!!」
俺は城下の正門へと駆け出す。
だが、正門への道が瓦礫で埋め尽くされ、気がつけば一面焼け野原。
…魔法を使うしかないか。
あたりに人の気配を感じないのは何処かへ避難して行ったか…もしくは死んだか。
これ以上犠牲を増やさないためにも急がないとな。
「凍てつけ!!『フローズン・アストラ!』」
瓦礫を氷塊の中に埋め、その上を全速力で駆け抜ける。
すると、正門から少し離れた場所に何かが積まれているのが見えた。
確かあれは『爆砕の魔晶』。
衝撃を与えれば大爆発を起こす危険なものだったと、書庫の本を漁っていた時に見たことがある。
「…何であんな所に…?」
と、その時。
その魔晶の山の裏に扉の様なものが。
そしてその扉が開けられようとして…!
「間に合えっ!『ショート・テレポート!』」
そして、轟音が轟いた。
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「…ふぅ、何とか間に合ったみたいで良かったよ。」
俺は魔晶の近くにテレポートすると、その周りに分厚い氷壁を張り、爆発の威力を抑えた。
即席だったために完全には威力を殺しきれなかったが、騎士達も大きな怪我はなく、皆無事な様だ。
「すまない、助かったよ。まさか非常用の隠し通路が爆破されるとは…。」
非常用隠し通路の爆破…か。
敵側も先のことを予測してたって事か。
「…ヒロト、ごめん。あたしがもっと早くに気づいてたらこんな事にならなかったのにさ。」
そう言ってイリアが俺や、騎士の人達に頭を下げる。
…責任感じてたか、やっぱり。
「謝らなくていいよ、むしろよく気付いたじゃんか。結果的に騎士達は助かったわけだから気にすんな。」
「う、うん。」
「あの、ヒロトさん。…用事って何だったんですか?」
後ろで俺とイリアの様子を見ていたエストがそう聞いてくる。
…別に隠す必要もないし教えるか。
「召喚方陣の破壊と回収…かな?何か役に立ちそうだったしさ。…それに、面白いものも見つけたし。」
そういって俺は、コバルトみたいな敵から取ったガラス玉を取り出す。
エストはそれを俺から受け取って少しの間みると、
「…これ、召喚方陣の形式と同じですよね?もしかして、これが『コア』というものでしょうか?」
「コア?…何だ、モンスターって核みたいなもんがあったのか。」
なら白獣だってそのコアを破壊すれば一撃だったんじゃ…?
「いえいえ、核があるのは一部のモンスターだけで…って、今はこんな話をしてる場合じゃないでしょう?」
「おっとそうだった。…王様は無事か?」
「はい、イリアちゃんが先に気づいてくれたお陰で。」
「だってさ、イリア。」
俺とエストの会話を聞いていたイリアはほんの少しだけ明るい顔になった後、俺の服の袖を引っ張ってこう答えた。
「早く行こう。…王都の人達を助けないとさ。」
「そうだな。…将軍、俺たちで先陣をきります。壁の中は瓦礫で道が埋められて移動が困難になってるんです。」
先程も道を切り開くために瓦礫を凍りつかせてきたが、大人数で移動するとなれば破壊してしまった方が早いのかもしれない。
「…待て、君はテレポートを使えただろう?それで我々を王城まで飛ばすことはできんのか?」
「あ、そうだ。その手があったか。」
別に瓦礫だらけの危険な道を歩く必要は無かったな。
「…でも、同時に転送するには俺の体のどこかに触れてないと無理なんですよね…。流石にこの人数を一気に転送するのはちょっと…。」
1人の体に何十人もの人が触れるというのは物理的にも俺の気持ち的にも無理がある。
「では、君達と共に数名の騎士を付けよう。我々はここで陛下をお守りする。…壁の中よりは安全の確保も容易だろう。」
「分かりました。…それでは。」
俺の右手をエストが握り、左手をイリアが握る。
普通なら恥じらうような場面なのだろうが、どうにもそんな気持ちにはなれない。
…まぁ、この状況だしな。
そして、テレポートの準備が完了した頃、馬車から王様が降りてきた。
「この国の主としてこの様な願いをしてしまっては良くないのだろうが…。どうか、私に代わってこの国の民を救ってくれ。」
「…勿論。任せてください、王様。」
俺のその答えに彼は少し微笑むと、俺の瞳を真っ直ぐ見据え、一言。
「…どうか、御武運を。彼等に神の加護あれ。」
…俺たちの無事を祈ってくれたそうだが、当人である神様は夢の中であった。
そろそろ王都編クライマックスが近づいてきました。
…あれ、そういやまだ黒幕決めてなかったな。