「はぁ、はぁ…。」
魔物達の突然の襲撃を何とか凌ぎ、皆が息を切らしながらその場にへたり込む中、ただ一人(?)の吸血鬼だけは、自らが刈り取った者の屍を山のように積み上げ、その上に立っていた。
その死体の数はゆうに100は超えているだろう。
俺たちもかなりの数を倒していたはずなのだが、俺たちが一匹倒す間に奴は十匹ほどを薙ぎ払っていた。
「お前、半端ないな。やっぱ、アンデットの王ってだけの事はあるな。」
俺がそう声をかけるも、ウヴィアルからの返事がない。
「おーい、聞いてんのかー?」
今度は作業をしていたイリアが声をかける。
…だが返事がない。
敵の追撃が来る前に隠し扉に入りたいのだが、何をボーッとしているのだろうか。
「ヒロトさん、開きましたよ。これでこの先に進めます。」
先程の襲撃で鍵が歪んでしまった木の扉を瓦礫でこじ開けたエストが呼びかける。
中には人がいるかもしらないから魔法を使って生存者を怪我させてしまっては元も子もないという理由で、エストは人力による開錠を試みていたようだ。
エストとイリアが扉を開けて下へと進んでいく中、未だウヴィアルは死体の山から降りてこない。
あれか、例え自分に牙を剥いたといっても同胞である魔物達を手にかけた事を悔やんでいるのか。
「ウヴィアル、取り敢えず下の層に移動しよう。…気持ちは分かるけど、今は公爵様達の安全を確保するべきだろ?」
俺がそう促すと、やっとウヴィアルが降りてくる。
…それはもうスッキリした表情で。
「よーし、チャージ完了だ。」
「チャージ完了…?って、どういう事だよ。」
「ん?ああ、優越感に浸っていたのだ。貴様にズタズタにされた俺のプライドを回復するためにな。」
「くだらない事すんな!こっちは急いでんだよ!」
心配して損した…。
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王城内部 隠し部屋
「…轟音が止んだ…。」
「皆、安心してくれ。どうやら脅威は去ったようだ。…もうしばらくの辛抱だ、きっと誰かが我々を助けてくれる。」
公爵様が避難させた皆を心配させまいと、お声をお掛けになる。
あの時、公爵様が咄嗟の判断で指示を出されたお陰で、陛下が不在であったのにも関わらず迅速な対応が出来た。
しかし、敵が我々の居所を掴むのは時間の問題だろう。
今現在ここにいる者で戦えるのは俺達護衛団とシーヴィル様直属の魔術師達。
ここが外ならば話は別かもしれないが、今いるのは狭く、暗い部屋の中だ。
大勢で戦おうものならば、まず間違いなくここに避難している民に被害が及ぶ。
故に、見つかればそれで全てが終わる。
「…ガルフ。今の我々の使命は公爵様と民達の命を絶対に守る事だ。たとえ、自らの命を投げ打ってでもな。」
「ええ、分かっていますよ。…最も、そうならない事を祈るばかりですが。」
そう、切に願った俺の願いは神に届がなかったのか、入口の方から複数の足音が聞こえてくる。
その音はだんだん大きくなっていき、俺達は警戒を強める。
…此処までか。呆気ないものだ、せっかく拾った命をもう失うことになろうとは。だがしかし、公爵家に国に忠誠を誓った一騎士として最後まで退かずに戦わねば、背中を押してくれたあいつに笑われてしまうな。
後ろではニヒルさんとバラクさんが皆を守るようにして立ち塞がる。
そして、その前に俺と団長。そして魔術師団の者達。
「皆、絶対に守り切るぞ。…構えろ!」
団長の合図で全員が臨戦態勢をとる。
…そしてその時がやって来た。
「みんn」
「此処に居たか、下等な人間共よ!アンデットの王である我が相手をしてやろうぞ!」
…!ヴァンパイア!?
それに、後ろにいるのは…。
「バカやろっ!」
「いだいっ!…な、何をするか。奴ら闘気を感じたから我はその闘気に応えようとしたのだが…。」
「…ちょっと待て、一体どういう事なんだ?」
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「…という訳なんだ。」
「なるほど、この街の混乱に乗じて逃げ惑う者達を襲おうとして居たが、それがヒロト殿によって止められて」
「脅迫したら命だけは…。と言い出したから、協力を条件に見逃したと。…にわかに信じがたい話のような気はするが、ヒロトが言うならそうなんだろうな。」
よかった、何とか信じてもらえたらしい。
…後ろにいる、シーヴィル直属の魔術師達はまだ警戒してるみたいだけど…。
「先程の轟音は君達が敵と戦ったからなのだな?」
「はい。…大部分はウヴィアルさんがやったんですけど…。」
あの時のウヴィアルの姿は、神気に怯えるアンデットではなく、どこに出しても恥ずかしくないアンデットの王 ヴァンパイアそのものだった。
…正直、ビビった。
まぁとにかく、皆の無事が確認出来てよかった、見た所怪我を負った人もいないみたいだし。
というか、良く全員が避難出来たな。
この街の住人って結構な数がいたはずなんだけど…。
「しかし、街の人々が少ない時に蚊の襲撃が起きるとはな。不幸中の幸いとはこの事だろうかな。」
「え?街の人が少ないって…どういう事だよ?」
ガルフの言葉にイリアが問いかける。
…確かに、街の住人が少ないってのはどういう訳なのかさっぱり分からない。
「実はな、先日起きた襲撃事件。あれを境にこの街の住人が半数以上、この街を離れ近くの街や村に避難しているんだ。」
「なるほど、それで避難がスムーズにいったのか。」
…それでもかなりの人数だ。
この人数が街にまばらになってた訳だからそれなりに時間を要したような気もするが…。
「あの、ヒロト君。」
「へ?あ、はい。」
後ろから話しかけられて、振り返ってみるとそこにはアリアさんが。
…この人俺の事君付けで呼ぶ人だったっけ?
「此処にいる人々はシーヴィル様が町全体を覆う魔法陣で此処にテレポートさせられたんです。…ですから、この街に残っていた人々は皆此処に集まってらっしゃいますよ。」
心を読まれてたのか?俺。
そして、久々の再会を喜んだのも束の間、その場にいたザウロさんが皆に声を掛ける。
「皆、聞いてくれ。…今の我々が置かれている状況は非常に悪い。敵は既にこの城の大部分を占拠し、街中も敵の雇ったならず者達がうろついている。今、シーヴィル様が私兵達を連れ王城の最上部へ潜入しておられる。…ヒロト殿達と合流した今、我々も敵に立ち向かうべきだとは思わぬか?」
その言葉に護衛団は勿論、その場にいる皆が賛同する。
…いつまでも、此処にいられる訳じゃ無い。
内部に裏切り者がいたのなら、この場所も突き止められるかもしれない。
そうなる前に此処を出て戦うのが一番いい策なのかもな。
「それでは今から指示を出す。公爵家専属護衛団は東の回廊を行き、先の塔を登る。
アリエ達は西の塔から登ってくれ。…シーヴィル様の私兵達は此処で皆を守ってくれ。」
「「「了解」」」
そしてそれぞれが準備を始める中、俺たちの元へザウロさんがやってくる。
「そしてヒロト殿達には正面の階段から突破してくれ。…正面突破ともなればかなりの難易度なのだが、君等ならやってくれるだろうと信じている。…頼んだぞ。」
「分かりました。…後で将軍率いる本隊が街を抜けてこの城へやってくるはずです。そうなれば、俺達が数の上で有利に立てるはずです。」
「そうか。…では陛下はご無事なのだな。」
「兄上は今どこに?」
「王様なら壁の外で本隊の騎士達が護衛しているはずです。壁の中よりも今の状況なら外の方が安全ですからね。」
「そうか。…すまんな、話を続けてくれ。」
「はい。…後はシーヴィルとどうやって合流するかですね。大分上に進んでしまっているのなら合流を考えずに突破するというのも手だとは思うんですが…。」
「それなら、ヒロトさんがコネクトを使って呼べば良いんじゃ…?」
「…実はこの城に入った時にも試したけど、繋がらないんだ。もしかしたら結界か何かが発動してるのかも。」
「うーん、厄介だな。…あ、そうだ!お前ヴァンパイアなら結界くらいすぐ解けちまうんじないのか?」」
「…俺は便利屋では無い。そこをはき違えて貰っては困るぞ小娘。しかし、結界が張られているのなら確かに厄介だ。」
…ん、待てよ。結界…結界を解く魔法なら何かあった気が…。
『お主はヴェールブレイクを使えるじゃろう?…もし結界が張られておるのなら、それを護符に撃つことで破壊できる。』
「…!また天敵の気配が!」
(なるほど、じゃあ護符を見つける必要があるな。でもまぁ助かったよ。)
「それでは総員散開!皆の武運を祈るぞ!」
「「「「おおおおお!!!」」」」
こうして、騎士団と魔術師団と冒険者とヴァンパイアによる王城奪還戦が幕を上げた。
王都編 第2部が完結しました。
本当なら2部構成で片付くはずだったんですが、予想以上に話が長引いてしまいまして…。
第3部からは遂に王都編がクライマックスを迎えます。
皆様のご期待に添えるように筆者は頑張ります。
(結局、2部では黒幕の正体は明かせませんでした。すみません。)
尚、今回はオマケがありません。
(新登場のキャラが少なかったため。第3部最終話の次にまとめて投稿します。)
*第37話の更新は諸事情により4日後となります。