※彷徨い日記・母神様外伝   作:ふま

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※彷徨い日記(母神様外伝・カカシ編)

 

 

「___コレ、一緒に食べようかと思って・・・さ!」

 

こんなシチュエーションで言うセリフではないな。

 

格子戸の向こう側、八香はポカンと口を開け、びしょ濡れになって佇む俺を凝視してる。

片手にぶら下げた土産の籠、このドシャ降りの中、傘も差さずにこの時間に現れるものだから・・・

そりゃ驚くわ。だけど、この時間に若い女性が男を家に招き入れるにはそれなりの覚悟がいる。

別に俺はこの状況を利用しようと考えた訳じゃない___”会いたくなった”

純粋にただ、それを押さえ切れなくなって・・・この非常識な時間に馳せ参じた次第で。

怒られないで済む様に媚やら照れを隠すかに指で頬を掻きながら、笑って籠を持ち上げて見せた。

 

「道端でね、農家のお婆さんが売ってたんだ。あんまり__美味しそうな桃だったからさ。」

「_____!」

 

ガララと小気味良い音をさせ俺の目の前ギリギリまで近寄って来る。上向き加減の、小さな顔。

何か言いたげな熱の籠る、潤んだ瞳。少し痩せたんじゃないか・・・?頬の膨らみがやや削れてる。

俺は___会わない間に、何があったかと心配にもなる。だが敢えて普段通り、明るく振舞った。

俺以上に彼女は心配症だ。実は「身も心も、めっちゃ疲れてる」と気取られない様に、ね。

 

「もっと早く見にくれば良かったねぇ__良い診療所じゃない。」

「テンゾウ殿のお陰です・・・そんな事より早く中へ。」

 

俺を土間に通し、ダ!と一旦奥に引っ込むと彼女はタオルと湯の入った手桶を手に戻って来た。

 

「そこに・・・。」

 

入り口に腰掛けさせては急いで俺の頭や体の水分を拭き取り、今度は靴を脱がし始めた。

任務帰りとバレないようにマントを脱いできたってのに・・・バレちゃってるんだものな。

相変わらず、何も訊かないんだな。されるがまま、暖かいお湯で足を洗いだした君にそう思う。

こんな事、本当はさせたくないのに___俺は今、癒され途中で・・・抵抗できないんだ。

 

「ごめんね。突然来て、そんな事させちゃって・・・。」

「___直ぐに着替えを出しておきます。このままお風呂にお入りなさいませ。」

「・・・いいの?・・・じゃ、お言葉に甘えようかなー。」

 

怒ってるのかもしれない。いつも無表情だから判り辛いけど、言葉が冷たく感じる。

彼女が自立して一ヶ月。

この診療所兼、自宅に移ってから俺は一度も顔を見せなかったから・・・。

いや、寧ろ逆か? こんな時間に会いたくも無い男が図々しく押しかけて来たって事で。

 

「此方へ」

 

案内されて上がり込むと潜った竹の暖簾の音が小気味よくチャラリと音を立てる。

受付の台と、シンプルなソファと机。待合室っぽい。

ウナギの寝床のようなこの建物はL字型になっており、向こうに一番奥の壁が見える。

寝台の置いてある部屋を通り過ぎ、角を曲がる。此処からがプライベートな域になるらしい。

 

本当に小粋で、テンゾウの技と彼女のセンスで出来た素晴らしい合作なのだろうけど

どうしてだか新築であるが故の、この木の匂いに____俺は胸が痛んでしょうがない。

 

切っ掛けは自の国の御館様である___

あの祭以降、鎖国を止め、観光に力を入れ始めたお陰で随分と潤ってきた。

そこで三代目を通して、八香にこの土地を買い与えたという訳だ。

そして建築を請け負ったテンゾウが・・・余計な事をした。

以前から俺との同居に八香の事を心配していた彼は、女心を擽る様なデザインを研究し、

家具などの相談をする傍ら、独り立ちする様にと彼女を少しずつ説得していたのだった。

 

(ま___確かに、俺のとこなんかより快適だよね。大窓で眺めもいいお風呂だし・・・ん。)

 

ピカ!ゴロゴロゴロ・・・・!・・・ドン!

 

案内されたお風呂に入って間もなく、外の様子が変わった事に気付く。

嵐になってきたらしく、激しい風のうねる音。大窓に映った縦に走る稲妻、そして地響きがした。

俺は舌打ちしたい気持ちになる。ヨリによって・・・・、俺が来た時に限って___

あの夜を彼女に思い出させてしまうのではないかと・・・胸騒ぎを覚え、急いで湯船から上がる。

脱衣所にはいつの間にか渋い色の浴衣が畳んで置いてある。急いで袖を通して帯を締めた。

 

「停電か・・・おーい、八香____?」

 

どこかに落雷があってか廊下に並んでる足元の小さな行灯だけを頼りにリビングに戻る。

薄っすらと小さな灯りはヒトツだけ。堀られたテーブルの上の、太短いロウソクが揺らめく。

気配はするんだが・・・、彼女が見当たらない。

 

「少し、お待ちを」

「____!?」

 

少し震えた声・・・?ピカ・・・!!と、また稲光が光ったお陰で、タイル張りのキッチンの前で耳を塞ぎ、しゃがみ込んでいる彼女をようやく見つけた。

やはりか____雷が怖いのではない。

俺が彼女を奪ったあの夜・・・

まるで左門が怒り狂ってるかの様に雷が鳴り、稲光は彼女の泣き顔を何度も照らした。

今、彼女は___左門の怒りを、あの時と同じに感じて許しを乞うているのだろう・・・。

 

「八香・・・? 大丈夫だ・・・、おいで。」

 

俺は闇に慣れてきた目で彼女の元へ行き、その背中を抱き起こした。

八香の肩があまりに酷く震えるもので思わず抱きしめる。いつかの様に__トントンと

その細い背中を手の平で叩いて落ち着かせてる。彼が責めているのは俺なんだから・・・。

 

「解っているのです___この世に背を向けた私を・・・必死に呼び戻して下さった事___」

「あぁ・・・。俺は”この後、ずっと八香に恨まれるんだろう”と覚悟はしてたんだけどね・・・。」

「恨んでなど・・・おりませぬ・・・。」

 

稲妻が景観の良いリビングに反射する中、俺達はとうとう”その話”に触れ始めた。

抱きしめられる事に慣れていないのも相変わらずで、そう云うとおずおずと俺に掴まり出す。

滅多にない彼女の所作。俺は本心であろうその答えに安堵の溜息で八香の首元に顔を埋めていた。

この一ヶ月でお互い・・・いつか、話さなきゃならないって思える様になっていたんだな。

 

間もなく雷鳴は遠のき、やや収まってきたかの雨風の音だけになる___

彼女の体の強張りが解けていくのを腕の中で感じ取る。八香がこのまま離れてしまう気がして、

思わず「ダメだ」と口走ってしまった・・・、より窮屈にさせてしまったのは云うまでもない。

 

「・・・カカシ殿___この暗雲の兆しを知った時、予感はしておりました。」

「俺が・・・訪ねて来るって事を・・・・?」

「ええ。ですが、もうこの時間・・・もう諦めておりましたけれど。」

「本当にすまない・・・なかなか会いに来れなくて・・・。」

 

君がまんまとテンゾウの策略に嵌り、家を出た後、俺はやはり恨まれていたんだと誤解してね。

覚悟してたとは言え、女々しい俺は自分が傷つくのをどうにも止められなかった。

時々浮かぶ君を思い出せば「何故だ?」どこかで納得できないものを心に抱え持っていた。

この場所は少し外れた程度の場所なのに、足はどんどん遠退いて行き・・・。

八香そのものを、無かった事にしようか___子供みたいに、俺はそう思う事さえあった。

そんな折に三代目から粋な計らい?があって・・・

 

『 これはワシからじゃ、日頃の溜まった疲れを癒して来るがよいぞ? 』

 

君が此処で仕事を始めて暫く、俺をはじめ上忍優先で割引チケットが配布されてさ。

格安で、君の治療を受けられると知ったアスマやガイ、そして特上のアオバ、ライドウまでが

こぞって八香の治療で癒されて帰って来ては、その評判を広めちゃうものだから・・・。

 

『医療忍術もいいが、流石に心までは癒してはくれんからなァ!』

『気づいたか?彼女から何とも云えない良い匂いがするんだよなァ・・・。』

『あー、そうそう、ふわッっと甘い___桃の食べすぎじゃないかってぐらいの___』

『アスマさん!ガイさんも・・・!シーッ・・・・!』

 

とか、俺が近くに来ると何に気を使ってか皆、君の話を止めちゃうからね。余計気になるでしょ。

影では俺が”巫女ロス”に陥ってるとか、ゲンマが俺の事を「お義兄さん」と呼ぶ日も近いとか、

結構ヒドイ事云われてることぐらいは知ってるけどね;前者は認めるけど、後者は許さんよ!?

 

「ゲンマが申しておりました。”あの人は今、部下の事でイッパイ・イッパイじゃないか?”と」

 

ああ、そうだな。最近サスケの様子がおかしくて俺は正直、君に構おうなんて思いもしなかった。

八香なら___何かあっても、悟ってくれるという甘えがあったのも否めない。

気が滅入っている時に、そんな情けない自分を君に悟られたくはなかったと言うのもまた本音だ。

 

「ゲンマが・・・彼も時々来てるの?」

「ええ・・・、お徳な回数券4束を購入して下さってるので・・・。」

 

回数券・・・だと・・・!? しかも、4束って! あいつめ、週何回来るツモリでいるんだ!

これは__ヤツがこのエリアに侵略して来るのも時間の問題だぞ___

 

「・・・おっ・・・?」

 

停電が収まったか、パ!と灯りが一斉に着いた。やっとキッチンの全様が見える。

此処は彼女の生活スペースであり__黒と白のタイルのかわいいキッチンに繋がるカウンターは

壁側の格子戸を背に、戸を開ければ裏庭が覗く。キッチン側の仕切りの向こうに掘り炬燵の様なテーブルもちゃんとあり、けして華美でもなく、どちらかと言えばノスタルジックに感じるぐらいホッとさせる空間だった。そのテーブルの奥に隠れているドアの向こうが寝室の様だ。

むむ・・・あの近さか。如何わしい事件が勃発しそうな気配がぷんぷんする。

 

もしも・・・だ。今日の様なタイミングで彼が来たりしたら____非常にマズイ。

 

 

想像してしまう___(以下、俺による妄想的な予想)

注※カカシの脳内での勝手な妄想なので詳細は不明。ほぼ音声?のみにて御楽しみ下さい※

 

事情がまるで解ってないゲンマは、ただ彼女が雷を恐れているのだと思うだろう___

 

____『大丈夫だ、落ちてきやしねぇよ・・・。ほら、こっち来い・・・!』

『解っております・・・あッ・・・、』

 

ピカ!と光る稲妻に声が途切れ、また身を強張らせたまま動けずにいる八香の腕を引いた。

暗闇の中で為す術なく、半ば強引に彼に抱すくめられても彼女の震えは止まらないだろう。

 

『雨を降らせる事ができても雷は苦手なんだな・・・こりゃ、いい時に来た・・・。』

『今、ニヤニヤしておいででしょう;』

『あれ?なんで解った? カワイイとこあるじゃねーのって、なぁ・・・?』

『んッ___こんな時に、何を・・・・!』

 

耳が弱い彼女を知ってて・・・低く、甘く、”なぁ?”と息を近づけた。

稲妻は光るわ、音は激しいわで余計力が入らず逃げようとするも、ままならず。

 

『ヨシヨシ・・・、怖くねーから・・・安心しろ・・・? ん____?』

『ぁッ・・・・やめ・・・だめ・・・だ・・・・!』

『此処じゃダメってか___? どうなんだ・・・返事は・・・?』

 

耳に唇が這い出し、イヤイヤする彼女に追い討ちが掛かる。生暖かく・・・ジュっと音がした。

 

『だ・・・ダメェッッ・・・・!』

『フフ、よく言った___』

 

確信犯の黒い笑みを見せ、フニャフニャになった彼女をドアの奥へと抱き去る____

 

 

 

ダメダメダメ!! 人の耳を犯しておいて、そんな誘導尋問するみたいな悪い男なんかに!!

完全に三代目の人選ミスだコレ!彼とっくに”何とも云えない色香”に惑わされてるからね!?

ゲンマ推薦に反対するべきだった__水晶でこっそり覗いて鼻血ブーでもすればいいよ!?

 

「カカシ殿___? ちょっと苦しい;」

「エ!? あ、ぁあ、ゴメン。」

 

ついワナワナと、抱きしめたまんまだったの忘れて力が入っちまった・・・;落ち着こう、俺。

呼び捨てはさせられているが、八香にとってはまだ”ゲンマ殿”で変わり無い事を俺は知ってる。

そして本人も___だから”これを機に”距離を縮めるツモリではいるだろうな;

 

「また心配ごとが増えちゃったな・・・。」

「・・・え?」

「いや・・・ね? この台風の時期にさ、君を独りにしておけないなって。」

「わ・・・、私なら大丈夫です、お気になさらず・・・。」

 

ま・・・一筋縄では行かないか。世話になったテンゾウの手前もあるだろうし?

でもね___ああまでして、君を左門から引き離したからには俺にも責任があるんだ。

偶然にも知った君の体の秘密が露見すれば・・・由々しき事態を招きかねないからね。

 

『可愛がるのも良いが毒に当たらぬ様に・・・』___

 

嘗て彼女の処女を奪った男が、そう悪僧から忠告を受けていた。勿論、痣に毒などはない。

ハチのカオリと書いて八香と名づけたのはその悪僧・下弦だったと言う。

赤子だった彼女に何故そんな名前を付けたのか___これは偶然なのか・・・?

 

アスマやガイ、そして通り過ぎただけのナルトが気付いた彼女の香り。

それとは別物のその香りに気付いた時には__既に雄と化し、何の罪悪感も感じさせない所か

とろける様な快楽を簡単に”幸福”とすり替えてしまう・・・依存性のある、麻薬の様な媚香。

抱かれて初めて芳香を放つ___こんな危険な肌の持ち主は噂にも聞いた事が無かった。

 

「ねぇ、カカシ殿?」

「ん___?」

「浴衣、その色にして良かった・・・よくお似合いです。」

「え・・・? もしかしてこれ・・・君が?」

 

俺のバカ___! 自分の着てる浴衣を見る為、自分から彼女を手放してた。

暇を見て、毎日少しずつ縫ってくれいたとは・・・そう云われてナンだかテレる。

 

「そっか・・・嬉しいな。じゃー来年はコレを着て、一緒に花火でも観に行こっか。」

「_______」

「八香・・・? どうした___?」

 

俯いた彼女、急にカウンターの向こうへ向きを変え出したんだ。

咄嗟に手首を取ってグイと引っ張る___何で?いけない事云ったか? 俺・・・。

顎に手をやれば抵抗し、ガンとして顔を見せまいとするんだ・・・何か泣かす様な事が??

 

「そんな事をしても無駄なんだなぁ____それッ・・・!」

「!?」

「ぁ____」

 

ヒョイッと、”高い高ーい!”しておいて俺は___

予想外にも何故か口を一文字に結び、真っ赤になってる彼女に唖然としてしまう。

 

「や・・・八香?」

 

ぷぃ・・・!とナナメ下に顔を反らし、今度は降ろしていた長い髪で表情を隠した。

顔を見ちゃったものの、俺はどうしていいか解らなくなる;

彼女のこんな赤面した顔を初めて見たんだ、ナニゴトかと内心慌てるでしょ・・・?

 

「___一体・・・、」

「カカシ殿が___そんな事を言うから・・・。」

「そんな事って、花火のコト?」

「縫いながら___同じコトを・・・願っておりましたゆえ・・・。」

「_____・・・。」

 

段々とそう云う声が尻つぼみにボソボソと小さくなって行くんだ・・・。

君が___こんな俺を、待っていてくれたと・・・云う事?

俺、おかしいのかな・・・? いい歳こいて、目が醒めた様に八香をジっと見て。

 

「ゴメン、俺いま_______キュン死にしそうなんだけど・・・・・・・・。」

「か、カカシ殿? 大丈夫でございますか!?」

 

同時に俺はウンと自分を戒めてる。こんな彼女を__”八香そのものを、無かった事にしようか”

なんて、いっ時でも考えていたとは本当に馬鹿だ。またヒトツ、後悔するとこだった・・・。

何故か心配顔の彼女を取りあえず、降ろしてあげてから”キュウ”と息を鳴らしてしまうほど抱き締めたのは当然の行為で。

 

「間にあって___良かった・・・。」

「・・・・ぁ・・・。」

 

髪と、頬の間に手を差し込み・・・静かに唇を合わせた瞬間、彼女の体がぷるッ・・・と震えた。

それでスイッチ入っちゃって___俺は思わず激しく求めそうになる自分を抑えてる。

このまま寝室まで押し流したい衝動に駆られては、ダメだ。それはダメなんだと言い聞かせてた。

そっと唇を解くとつい溜息が零れる。八香の頬と吐息の熱が俺の首筋に、その温度を移してた。

 

「八香___? ヒトツだけ、俺の我侭を聞いてくれない・・・?」

「わがまま・・・?」

「こんな嵐の夜は___俺の所に戻っておいで。」

 

返事を待つごく僅かな時間、まるで裁きを受ける気分でいた。

これで「嫌だ」と云われれば万策尽きる。そう云うなら、俺が此処に泊まるのもNGだろうし。

 

「___ご迷惑でなければ、そう致します・・・。」

「うん____そうしてくれれば俺も安心だ・・・。」

 

ほっとした・・・そして嬉しい。素直に俺は微笑んだ___君の背中をトントンしながら。

 

 

 

 

 

翌日は日曜であった___

カウンターキッチン後ろの格子戸を開ければ、昨日の天気と打って変わり快晴となっていた。

中庭の裏戸をノックする音が聞こえ、三つの鍵を外して小さなお客様を招き入れる。

 

「おはよう、ネジ殿___」

「おはよう御座います、八香さん。」

 

以前、ちょっとした事で知り合った、年下のお友達である。少しでもこの里に貢献できればと思い

此処では午前中の僅か2時間だけ、格安の朝食を提供している。カウンター席はたった5席しかない為、宣伝などはしておらず主にイルカ様の生徒さんらが利用されている。殆ど利益はでないが、これも近所の農家さんが要らない野菜を無料で提供して下さるお陰で栄養バランスの取れた朝餉を用意する事が出来たのだ。

 

時々こうしてネジ少年はやって来て朝食を食べて行く__何故かゲンマと鉢合わせした時は

ムっと顔を顰める事があるぐらいで、とても品のある落ち着いた少年であった。

出汁巻き卵、きのこのユズ味噌和え、そして川魚の塩焼きにお味噌汁と、桜漬けを残さず綺麗に

平らげて手を合わしている。きっと良い育ちをなさっているに違いなかった。

 

「今日、ネジ殿はとても運が良い___」

「と、おっしゃいますと?」

 

カウンター越し、膳を下げた私は眼を細め、剥いた桃を小皿に入れて差し出した。

 

「今日一番のりのお客様であらせられる___お土産に頂いた白桃です。召し上がれ。」

「おお・・・良いのですか?」

「ええ___誰かに御裾分けでも致しませんとバチが当たりそうで怖いのですよ。」

 

ネジ少年は眉間に皺を寄せ、小さなフォークを手にしたまま困った様な顔を見せている。

まるで人生の謎かけの様に感じたのであろうか、真剣に考えてまだ食べようともしない。

 

「つまりは何か良い事があったと云う事ですか?」

「客人が、自分の好物を覚えていて下さった___それだけで十分、良い事で御座いましょ?」

「あぁ・・・、それはそうですね・・・。」

 

少し戸惑いながらそう返す少年には、幸せに思う、と云う言葉を飲み込んで置いた。

さて__まだ奥で眠っているあの御仁は知っておられるだろうか。その、花言葉を。

 

_____”あなたの虜” 

 

知っていなくてもいい。私はこの些細で、とても馬鹿げた偶然に・・・独り、心を暖めていた。

夕べは『ごめん俺いま、急死にしそう・・・・』などと云われ、焦りもしたが__

今朝のバイタルは正常だった為、念の為の処置だけはしてある。

きっと過酷な任務でお疲れなのであろう。軽く食事を取ってすぐ居眠りを始められたので

寝室へと追いやり、寝かしつけておいた。

 

「もしや___あの特別上忍のゲンマさんですか?」

「いいえ___?」

「・・・! すみません、出すぎた事を・・・。では行って参ります。」

「なんの__今日も頑張っていらっしゃいませ。」

 

少年の好奇心であろうか? 彼はそう云うとお金を置いてから一礼、サっと消えた。

その頃___よもやカカシ殿が目覚めたとも知らず、私はイルカ様を出迎えていた。

 

「いらっしゃいませ___今日も薬膳粥になさいますか・・・?」

 

 

 

 

 

「_______ン。」

 

此処は___八香の寝室か・・・!?

朝チュンの、嵐の後の爽やかな朝___俺には彼女と一緒に眠った記憶は無い。

ただ何故か_____アレ!?? 俺、何で氷嚢当てられてんの・・・・!?

 

 

 

 

 

 

 

 

【end】

 

 

 

 

 

 

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