先の模擬戦から数日。模擬戦の結果は中将にも伝えられたらしく、八神二佐が呼び出されて嫌味を言われた、と話していた。非魔導師でも魔導師と戦えるという証明となったのは、私からすればかなりいい成果だ。しかし彼女にとってはそうではないらしく、部下たちを褒めていると「隊長なら隊長らしく事務仕事をやっていろ」と言われ書類の山を渡されてしまった。部下を労うくらいさせてくれてもいいのに、と思わない事もない。
「手が止まってるよ」
物思いに耽る暇すら与えてもらえないようだ。隣で書類の山を少しずつ片付けていくもう一人の執務官に注意される。
「はぁ……」
ため息をつきながら書類を捌く。こんなもの、私がやらなくても手の空いてる奴にやらせればいいのに。予算が分けてもらえると安易に考えて併合を選んだのがいけなかったのか? しかし何にせよ働かねばならないのは階級がなんだろうが、役職がなんだろうが同じなわけで。結局は働かなければならない。世知辛い世の中だ。
「そういえばさ、君が管理局に入った理由を聞いてなかったね」
唐突に話しかけられる。仕事に飽きてきたから話でもして気分を紛らわそうとしているのだろう。
「特にありません」
本当の理由を言うわけにはいかないので、適当に茶を濁しておく。しかし、クロノ・ハラオウンの妹なら知っていてもおかしくないような気もするが、知っていればもう少し警戒心を持って接してくるか、あるいは排除しに動くか。
「でも、理由が無いとあれほど強くはなれないよね。仲間もついて来ない」
そう来るか、厄介な質問だ。こんな時に都合よくスクランブルでもかかってくれればいいものを。
『緊急連絡。ガジェットドローン出現、出撃準備をお願いします。繰り返します……』
なんとまあ都合のいい時に出て来てくれたものだ。少々不謹慎だが、ガジェットを差し向けた奴には感謝しなければな。おかげで尋問タイムを回避できた。
「スクランブルですよ、一等空尉殿」
「……そうだね、また聞かせてもらうから」
頼むから諦めてくれ。黙っているのも辛いんだから。書類を途中そのままにし、私の部隊に割り当てられたロッカー室へ走る。ロッカーには迷彩服やゴーグル、ガスマスク等、銃以外の色々な物が置いてあり、最早物置の様相を呈している。
そこで手早く着替えを終えて、次は保管室の鍵を開けにいく。もう隊員が全員保管室の前でスタンバイしていたので、さっさと開けて中の銃と弾を取らせる。今回の武装はアサルトライフルと拳銃のみ。ヘリから銃を撃ち、弾かれるようなら機銃掃射を行う予定だ。
「全員、自分の銃は持ったな」
「はい」
「よし、施錠する」
きっちりと鍵をかけておかないと、誰かに入られたら始末書ものだ。始末書を書くのは面倒なので、鍵はしっかりとかけておく。ちなみに、この鍵のスペアは机の鍵のかかった引き出しの中なので、私以外がこの扉を開ける事はできない。
「この課に移ってからの初仕事だ。活躍すれば中将からお褒めの言葉がある。かもしれない」
「報酬は?」
「素晴らしい質問だ2号。個人的に出してもらえるように頼んでおこう」
「よっしゃぁ!」
出してもらえるかどうかわからないのに喜ぶとは、安上がりなやつだ。
「行くぞ」
ヘリの発着場まで急いで走り、整備されていつでも出撃でき、全武装に弾を満載にした戦闘状態攻撃ヘリに集合する。
隣には機動六課に元からあったヘリがあるが、こちらのはそれよりも大きく、装甲もかなり厚いようだ。扉を開き、すぐに乗り込む。全員乗り込んですぐに扉を閉めようと、手を掛けた瞬間……
「……」
「……」
こちらを親の仇のような目で睨むランスター二士と目が合った。私が何かした覚えも無いので無視し、扉を閉めて副操縦席に座り、ベルトを締める。
「離陸する」
「了解」
ヘリのローターが回転を始めて機内に大きな音が響き、徐々に回転音が大きく、早くなっていく。それからヘッドホンを装着し、外からの音を遮断する。
「隊長、今回の任務は?」
「モノレールを襲撃するガジェットドローンの排除。先行して空中と、外側に取り付いているのを機銃で撃ち落とし、突入の支援を行う」
と、携帯端末に送られて来た情報には書いてある。モノレールの積荷の中にレリックというロストロギアがあり、それに引き寄せられてガジェットが集っているのだとか。私も一応ロストロギアを所有しているので、私のところにも集まってくる可能性があるかもしれない。注意はしておこう。
「簡単な仕事だ」
「そう言わないでくれ。魔導師にとっては天敵とも言える相手なんだからさ」
「俺たちには的だぜ」
「レーザーやミサイル、機銃を撃ってくるのも居るらしい。油断はするな」
油断する一号と三号を諌める二号と四号。改めて、いい人材の揃ったいい部隊だと思う。六課に併合されても、変わったところはない。
「隊長、そっちに火器コントロールを移す。武器はロケットと機銃。操作方法はわかるか?」
「マニュアルに目は通してある」
「流石だ。高度上げるぞ」
ぐんと高度が上がり、ヘリポートと六課の隊舎が遠くに流れていく。上空から見ると、街並みもよく見える。道を歩く人々はまるでアリのようだ。
それから数十分ほど。移動を続けると、レーダーに多数の反応。反応の先には何かに取り付かれてしまい動けなくなったモノレールと、その周りを浮かぶ大量の豆粒のような何か。画像を拡大すると、それがカプセル型の機械に触手が生えたものである事がわかった。資料通り、単純な形……あれがガジェットドローンと言う奴なのだろう。
「こちら質量兵器運用小隊、オズワルド准尉。先行して敵戦力を可能な限り削るので、その後残敵の掃討と目標の確保を頼む」
『こちらヴァイス陸曹。了解しました』
「火器ロック解除。ドアガンも用意しろ」
『了解』
交戦圏内に入った。
「敵機射程圏内。機銃撃ってくれ」
トリガーを引いて機銃掃射を行いながら敵陣を縦に突破する。射線上に居る敵が次々と穴あきチーズのようになり、爆散していく。レーダーを見ると、敵の分布が縦一列に減っていることがわかる。効果はかなりあったようだ。
「もう一度し掛けます」
空中でターンして、また敵の中へ突っ込んで行く。レーザーが飛んで来るが、厚い装甲の表面を炙るだけで効果は現れない。やはり人を焼ける程度の出力ではこの装甲は抜けやしないらしい。ミサイルでもなければ問題ないようだ。
「魔導師かと思ったか? 残念。質量兵器でした! ハッハッハァ!」
ミサイル持ちは優先的に落とされ、食いこぼしはテンションがおかしくなってるドアガンナーに撃ち落とされて。まさに無双。このままなら六課の空戦部隊の出番はないだろう。
「そろそろいいだろう。撤退だ。後は六課のメンバーに花を持たせてやれ」
敵を八割ほど落としたところで撤退の指示を下す。あまり活躍しすぎるのもよくないだろう。
「その前に、少し荷物を軽くして行こう」
積んである対戦車ロケット弾を、空中に密集しているところへ数発。さらにいくらかモノレールに取り付く大きい奴にぶち込んで、あとは撤退。私の持つロストロギアに釣られたのか何機か後ろをついて来るが、放置でいいだろう。
「後続の部隊へ。空中の敵は粗方始末しておいた。あとは任せる」
『了解しました、准尉』
まだまだ弾も燃料も残っているが、暴れすぎて手柄を全部奪ってしまっても関係が悪くなるだけだ。あの様子なら車内にも侵入してるだろうし、手柄はこれで半分程度。この一件で少ない予算でもそれなりの活躍はできるが、予算があればより活躍できる、使いやすい部隊と認識を改めてもらえれば嬉しいのだが。