オリ主が逝くリリカルなのはsts   作:からすにこふ2世

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第12話

 今日は休みである。本来なら出勤する日なのだが、機動六課への嫌がらせに部隊全員の分の有給休暇を前日に無理やりねじ込んでおいた。その休みを使って妹の見舞いへ行こうと思ったら病院に門前払いされたので、仕方なく海へ釣りに来ている。なぜ釣りをしているのかは私にもわからない。なんとなく、待つのが好きだから釣りに来ている。釣り場がいいのか、入れ食い状態で、そろそろクーラーボックスがいっぱいになる。

 

「やあ、こんにちは」

 

 その男は、白衣を着た紫の長髪、目つきはやや悪い。有名な指名手配犯、ジェイル・スカリエッティによく似ている。というのが第一印象だった。

 

 しかしながらこんな所に高名な犯罪者が来るわけがない。犯罪者、指名手配犯というのはもっとヒッソリとしていて然るべきなので、きっとよく似た別人なのだろう。釣りに来るような格好には見えないので、散歩をしている最中に見慣れぬ釣り人を見つけて気になって話しかけたのだろう。

 

「釣れるかな?」

「まあそれなりに」

 

 軽く言葉を交わし合ってすぐ。男はすぐ横に腰を下ろした。

 

「精神病院で、門前払いされてたね」

「見ていたんですか」

「散歩のコースに君が居てね。知人でも入院していたのかい?」

 

 答えるべきかどうか悩んだが、相手は全く知らぬ人間だ。相手も私を知らないはず。話しても別に問題はないだろう。知っていても別に問題ない。マスコミの記事のネタにされても「だからどうした」と鼻で笑ってやろうと思いながら口に出す。

 

「ええ、家族が。もう何年も前に……犯罪の被害に逢いましてね。私と、妹だけが生き残って。まあ、その妹も心に傷を負って入院してます」

「それはそれは……何も考えずに聞いてしまった、申し訳ない」

「構いませんよ。隠すようなことでもないです」

 

 のんびり時間を潰そうと思っていたが邪魔が入ったので、リールを巻いて釣り糸を巻き上げ回収する。今日はアパートに戻って寝よう。いくら疲れや痛みを知らない体でも偶には休息も必要だ。 

 荒んだ心を癒すには、海を見ながら釣りをするのもいいが、ゆっくり何も考えずに寝るのも悪くない。悪い夢さえ見なければ。しかしそれも薬を飲めば夢を見ることもなくぐっすりと眠れる。

 

「余計なことを聞いてしまったのと、釣りの邪魔をしたお詫びに食事でも奢らせてもらえるかい?」

「初対面だというのに、いいんですか?」

「いいんだよ。どうせ一人で食べるより、何人かで食べたほうが美味しいだろう? まあ、拒否もさせないがね」

 

 言葉に並々ならぬ悪意を感じ、さらには誰も居ないはずの背後から足音がしたので、サプレッサーのついた拳銃を抜いてスカリエッティ似の男に発砲。命中もせず、途中に割り込んだ見覚えのある格好の女に弾かれた。

 真後ろから一瞬で正面に回りこみ、更には銃弾を弾くとはとは大した移動速度と技量だ。戦っても勝ち目はないだろう。銃の安全装置をかけ、ホルスターに収める。それから両手を頭の後ろで組んで、降伏の意思を示す。

 

「それが一番賢い選択だよ。なに、ただ話をするだけだから警戒しなくてもいい」

 

 この女の格好は、以前見た戦闘機人と同じだ。ただ前に見たのよりもプロポーションは遥かにいいが。それはともかく。隙はあるのだが、仕掛けてもあの速度を持ってすれば勝負にならない。そして、それを従えるということは、こいつはジェイル・スカリエッティその人となるわけだ。まさか指名手配犯が平日の真昼に外を出歩いているとは思わなかった。

 

「話が洗脳に変わらない保証は?」

「無い。私は嘘を言わない人間だ、信じてもらえないかな?」

「嘘をつかない人間なんて居ない。少なくとも私はそう考えている」

「手厳しいね。まあ、事実だ。目的を明かすとだね、少し取引がしたいのさ。詳しいことはそこのレストランで話そう。トーレは普通の服を着てついて来てくれ」

 

 抵抗も拒否もできないので、スカリエッティの後ろを殺す機会を伺いながらついていく。しかし、チラリと後ろを見るたびにトーレという戦闘機人に睨まれるので、結局襲撃をかけるのは断念してレストランへ入る。そして店員に案内された席へ座る。椅子が繋がっているタイプの席だったので、逃げないようにか隣にワンピースを着て変装した戦闘機人が座り、対面にスカリエッティが座る。

 

「それでは、取引のことについて話そうか。断ってくれても構わない。断ったからといってどうするつもりもないから、安心して聞いて貰いたい」

「聞くだけ聞こう」

 

 店員に配られた水を飲みながら、メニューを開いて今の気分にあった食べ物を探す。肉という気分でもない。魚、は折角奢ってもらえるのに安いのはもったいない。適当な値段の魚介類。エビフライでいいか。パンにするか、カレーにするか。

 

「スパイにならないかい? 他の言い方をすれば、工作員。内通者。やってほしいことは情報の譲渡と内部工作による活動の妨害だ」

「質問をしてもいいか」

「構わない」

「エビフライはカレーかソースかどっちがいいだろう」

「……」

「……」

 

 横と前から二人分の冷ややかな視線が突き刺さる。これで調子は崩せただろう。

 

「二つ目の質問。どうして私に目をつけた? 他にも管理局員なら腐るほど居るだろう」

「理由は君の出自にある。管理局へ心からの忠誠を誓っては居ないだろう? 家族を皆殺しにした組織だ、いい気分がするはずもない」

 

 だから簡単に引き込めるだろうと。間違っていない。動くかどうかは対価次第だな。

 

「まあな。それで、対価は?」

「私に用意できるものなら何でも出そう。君は何を求める」

「妹の心を治せ。若しくは、暴行された記憶と家族を殺された現場の記憶を完全に消すだけでもいい」

「申し訳ないがその方法は知らないね。記憶とは脳に刻印されたもので、それを完全に消そうとすれば脳ごと消す以外に方法はない」

「そうか。残念だ」

 

 とりあえず注文を聞きに来た店員にエビフライカレーを注文する。

 

「私はコーヒーだけでいい」

「私にはカツサンドをください」

 

 注文を終えて店員が下がると、また話が始まる。

 

「資金の援助はどうだい?」

「今のところ必要ない」

 

 むしろ今必要なのは実績。機動六課を差し置いて、独立して予算をもぎ取れるだけの手柄だ。それもこのスカリエッティを連れて行けば一発で解決しそうだが……右を向く。

 

「なんだ?」

「改めて見ると、外見は普通の人間と全く変わらないな。と思っただけだ。見とれていたわけじゃないぞ」

 

 戦闘機人が居るからそれも無理と。通信で応援を呼べば大量に来るだろうが、事前に対策はしてあるだろう。無策で管理局員に会いに来る愚者ならば、指名手配されてまもなく捕まるはずだ。というわけで無理。

 

「これだけ人と近ければ、スパイが居ても気付きそうにないな」

「……」

 

 黙って目を逸らされた。これは黒だな。内通者が居るという考えは当たっていたか。

 

「なるほど。暴露されたらマズイことを知られているから、捕まえるに捕まえられないということか」

「察しがいいね」

 

 スパイは少なくとも機動六課内には居ない。だから私を誘った。そういう線で考えれば何もおかしいことはない。管理局に所属しながら管理局のことをあまり良く思っていない。加えて忠誠心もそこまでではない。つつけば崩せる砂の城に見えても仕方ないな。

 

「ドクター。私は仲間にならないのならここで殺すべきだと思う」

「殺るか? オススメはしないが」

 

 パンパン、と膨らんだポケットを叩く。この膨らんだポケットの中には倉庫にあった押収品のC4爆薬が100gほど入っている。起爆スイッチを押せば店ごとドクターが消し飛ぶ。

 なんでそんなものを持っているかと聞かれれば、護身のためだ。一度襲われているのだし、二度目があってもおかしくない。しかし常に持ち歩けるのは拳銃が限度。だが拳銃では威力不足なので、威力十分な爆薬を持ち歩こうという考えに至った。それだけだ。

 

「無理強いはしない。また考えておいてくれればいいさ」

「悪い話ではないからな。魅力的な対価があればいつでも話に応じるつもりだ」

 

 頼んでいたメニューが来たので、カメラで撮ってから食べ始める。今日は嫌な日かと思ったが、そこまで悪い日でもない。食事をした相手を犯罪者と戦闘機人ではなく、不審者にしか見えないオッサンと美しい女性と考えれば。あと情報も手に入ったし、悪いことばかりでもない。

 

 ちなみに、食事をした後何故かスカリエッティとのツーショットを撮るはめになった。トーレとも撮ったので、役得ではある。

 


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