オリ主が逝くリリカルなのはsts   作:からすにこふ2世

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第13話

 

 

「今日はあなたが強く望んでいたことが叶う日です」出勤前に見たテレビの占いで、星座占いの運勢第一位のコメントで言っていた。そして、今日はホテルアグスタの警備について話す予定なので、それでいい場所に配置してもらえるとか、きっとそういった類の事だと思う。些細な事だ。

 

「明後日ホテルアグスタへ行く事になっているので、その警備について話し合いたいと思います。私となのは、はやてはアグスタで出品される物の監視を担当する事は決まっているので、外の警備と要人の警護、どちらかを選んでください。残った方を、六課のメンバーで引き受けます」

「要人……」

 

 要人というと、やはり管理局の高官あたりか。ならば仇が混じっている可能性もゼロではない。むしろ佐官クラスの人間が多いようなので、十分にあり得る。機会も将官ほど警備は厚くはないだろうし、当然あるだろう。もし無いようなら作ればいい。

 

「リストを見せてもらえませんか」

「どうぞ」

 

 渡された資料に書いてあるオークションへの参加者名を片っ端から読んでいき、ある名前を目にする。

 ヘンリー・グスタフ……階級は一佐。俺の家族をぶち壊して、人生を大きく変えてくれた犯人の一人……何年も思い続けた仇の一人。望みが叶うというのはこの事か。案外占いというのも当たるものじゃないか。

 

「どうしました? そんな怖い顔して」

「いや、笑ってただけです。見覚えのある名前があったもので」

 

 この男……どう殺したものか。一人を殺すために残りを諦めるような事になっても困る。目撃者が多数いる状況での殺しは控えておくべきか。どうにかして一対一の状況に持ち込み、証拠を可能な限り残さず殺す。難しいな。多分不正の一つや二つや三つくらいはしてるだろうし、それを確たる証拠を持って追求。反撃されたら正当防衛で殺害。これも一週間ほど間が空いていればまだしも明日となると時間が足りない。

 とりあえず渡された書類にサインをしてからフェイト執務官に返却する。

 

「誰?」

「このヘンリーというク……男、管理局に入るきっかけを作ってくれた人達の、一人なんですよ」

 

 クソ野郎と言わなかった自分を後で褒めたいものだ。思い出せば人の親を殺して、妹もレイプして、私に拷問までして……裁判では金で無罪を勝ち取って。クソ野郎としか言えない奴なんだがな。もっとひどい言葉で表現するべきなのかもしれないが、私の貧弱な語彙ではこれが限界だ。

 

「そうなんだ。でもその顔は?」

「笑顔が怖い、と妹に昔言われてたんですがね。どうも、笑顔を作るのは苦手なんです」

 

 もうそんな事は二度と言われないだろう。辛い事だ。原因や作った奴に死をもって償わせてもあの頃には戻れない。あの頃の家族は戻ってこない。なんだかやるせないが、殺ると決めたからには最後まで殺ろう。一人残らず、確実に。

 それにしてもジュエルシードだったか。あれがあればこの願いも叶えられるのだろうか。もしも叶うのだとすれば、無理にでも奪いたいものだが……冷静に考えればまず無理だろう。ロストロギアは質量兵器よりもさらに厳重に保管されるものだし。

 

「そうなんだ。妹さんて、どんな子なのかな、君に似て素直じゃないのかな?」

「昔はいい子でしたよ。いつも後ろをついて来て、離れませんでした」

 

 昔は。小さな体で、花のように可愛らしい笑顔で、「お兄ちゃん」と呼んで慕ってくれていた。だというのに今では「殺す」だの「死ね」だの「殺してやる」だの叫びながら首を締めてくる。本当に、昔のことは思い出すたびに嫌になる。鬱になりそうだ。

 

「今は?」

「……」

「どうなの?」

「申し訳ありませんが……話したくありません。思い出したくもないんです」

 

 目頭を抑えて、声を震わせて涙をこらえるふりをする。私は人を騙すのも、自分を騙すのも得意だ。世渡りをしている内にいつの間にか身に付いていた能力だが、演技が上手というのは悪いことではないだろう。特に交渉事だったり、こういう風に話したくないことを追求させないためには。

 

「ご、ごめん……そんな事になってるなんて、知らなくて」

 

 顔を青ざめて、慌てた風に話す彼女。反省しているようだが、大事の前の小事。昔にはもっとひどいことをされたわけだし、この程度のことに一々怒ったりはしない。少しだけ嫌な気分にはなったが、悪気があって聞いたわけでもない。少しだけ気になっていることを聞いて、答えてもらえたら許そう。

 

「これからする質問に答えてくだされば、許しますよ」

「え、内容にもよるかなぁ……」

「それほど考えるようなものでもありません。もしも願いが叶うなら、あなたはどんな願い事をしますか?」

 

 突然聞かれると非常に難しい質問だろう。私はと聞かれれば、断然、過去の事件の消去だが。あの事件さえ無ければ今まで殺してきた多くの人間を殺さずに済んでいて、人並みに幸せな人生を送れていたはずなのだから。

 

「うん、今の平和がいつまでも続くとか。かな?」

「欲がないですね」

「うん、お金なんて働いてれば入ってくるし。階級もこれ以上上がってもね?」

 

 つまらないと言えばつまらない回答だが。堅実とも言える。こう欲がなければ賄賂を受け取ることもないだろうし、つまらない不正で処分されることもないだろう。こういう性格なら規則もキッチリ守ると思う。模範的な上司の姿だ。

 模範的であっても、下につきたくはないが。面白くない。

 

「そういう君は?」

「さっさと死にたいです」

 

 過去の事件を消したい、とは言えない。これはそこまで親しくもない相手に話すべきことじゃない。なのでもう一つの偽らざる本心から来る願いを話しておく。叶えることは簡単だが、叶える訳にはいかないこの願いを笑って言ってやる。今も、昔も、この先も、きっとずっと幸せなんて無いだろう。先が奈落しか無い人生なら、死ぬ以外にない。だが死ねない。私が死んだら妹の入院費用は誰が出す。まだ退院がいつになるかもわかっていないのに。もしかしたら一生あのままかもしれないのに。復讐も終わっていないのに、死ねるか。

 

「どうしてか、聞いてもいい?」

「幸せのない人生なんて、生きていても辛いだけですから」

「どうして幸せがないって言えるの?」

「理由は言えませんが、確信があるんですよ。そういうね」

 

 奴らを殺すのだって、結局は自己満足のためだ。人をいくら殺した所で、私の家族を奪った連中に近づくだけで―いや、むしろ奴らよりもより『悪い』人間になっているかもしれない―家族は帰ってこない。あの楽しかった生活は帰ってこない。あの頃には戻れない。

 

「……何があったのかは、私にはわからないけど。私も同じような考えをしたことがずっと昔にあった」

「へえ、そうなんですか」

 

 聞きたいことは聞いたし、これ以上の話に興味はないので中将へ送るレポートをさっさと仕上げていく。

 

「だからこそ言わせてもらうね。生きていれば、必ずいつか幸せになれる。だから希望を持って。死にたいなんて言わないでね。思ってもダメだから」

「では、任務の途中に殉職したいです」

「同じ事だってば」

「自殺なら保険金は出ませんが、任務中の事故であれば保険金が出ます」

「えっと、君には妹以外家族がいないはずでしょ? 誰が受け取るの?」

 

 作業の手が止まる。はて、隊の人間と中将以外には教えた覚えはないのだが。あの中将に機動六課のメンバーが聞きに行くはずがないし、かといって私の隊のメンバーが勝手に喋るとは思えない。

 結論。誰かが勝手に調べて勝手に話した。と言ってもそんなことをやりそうな奴は非常に限られてくるが。一応聞いておこう。

 

「教えた覚えはありませんが」

 

 腰に提げてある銃を抜き、徐に安全装置をかけたり外したりして遊んでみる。銃弾はもちろん装填してある。

 

「は、はやてが教えてくれたんだよ」

   

 ビンゴ。やはりあの女か。信用のおけない女だとは思っていたが、まさかこんな事までしてくれるとは。いくら部下とはいえ、犯罪行為もしていない人間の身辺調査をするのは職権乱用、もしくは越権行為ではないだろうか。これは中将へ報告せねばなるまい。

 

「そうですか」

 

 レポートを途中保存し、中将へのダイレクトメールを開いて先の件について書いて送る。これで中将からも注意が行くだろう。そして今度は使い捨てのアドレスを作って、そこから八神二佐への空メールを1000件ほど、ツールを使って連続送信する。そして送信後はすみやかにアカウントを削除。調べれば私が送ったということはわかるだろうが、先に喧嘩を売ってきたのはあちらだ。

 人の弱みを握れるのが自分だけだと思ったら大間違いだということを教えてやる。

 


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