オリ主が逝くリリカルなのはsts   作:からすにこふ2世

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なのはさん、stsの時点で成人だったか一歩手前だったか。その歳で魔法「少女」ってタイトルはおかしくないですか。心は少女? ならいいんでしょうか。

注意
其壱,今回は血が流れます(主人公だけ)
其弐,主人公(と持ち物)のせいでなのはさんが魔王化していますが、原作のなのはさんはスゴクヤサシイ人です。ウソジャナイヨ。


第17話

 模擬戦とは。読んで字の通り模擬的な戦闘の事で、本当の戦闘……つまりは殺し合いではない。よって死人を出すのが目的ではなく、殺傷兵器の使用は望ましくない。ということらしく、持ち込もうとした対空ミサイルと対物ライフルは没収されてしまった。

だが、模擬的とはいえ戦であるため、戦い、経験を積む事が目的である。よって一方的に殴られる事もまた目的に反するらしく、アサルトライフル(AK)とロストロギアで適度に反撃しろとの事だった。

 

 正直に言おう、勝つのは無理。静止しているならともかく空を飛び回る相手に弾をまともに当てるなんてのは無理だ。それが持っている銃がAKならなおさら。当たっても防御力に定評のある高町なのはのバリアジャケットは貫けないだろう。

 地上に降りてきたとして、ロストロギアを使った接近戦を挑むとしても、近寄る前にバインドで捕獲されて砲撃を食らいノックアウトされる。

 

「それじゃ、今日の模擬戦は事前の説明通り、私対ティアナ、スバル。あとはハンク君の1対3でするから。どんな作戦を練って来たのかは知らないけど、頑張ってね」

 

 ハンクというのは、私のファーストネームだ。ファーストネームで呼んでくれと頼んだ覚えはないが、この部隊なら仕方ない。

 あとの持ち物は破片手榴弾、閃光手榴弾、発煙手榴弾のみ。ちなみに前に呼ばれたティアナ・ランスター、スバル・ナカジマの二名とは全く会話したこともなく、まず戦力としてカウントはされていない。目標としての優先度は最低限となるだろう。

 

「実戦力で考えるなら100対3。私は逃げて隠れるから、助けは求めるな」

「冷静に言わないでください、准尉」

「准尉さんは、戦わないんですか?」

 

 戦わないのではなくて、戦えない。というのが正しい。

 

「立ち向かうなんてバカな事はせずに、素直に時間切れまで逃げるのが賢明な判断だと思うがな」

 

 なんと弱気な、と罵られ、軽蔑されてもおかしくない発言だが、私は銃を持っていて、少し肉体強化が使えるだけだ。あの女みたいな化け物からすれば街を歩く一般市民を捻り潰すのと何ら変わりないだろう。

 

「初手に目くらましと煙幕をする。音が鳴るまで下を向け。その後は任せる」

 

 高町なのはがデバイスを起動し、バリアジャケットを身に纏って宙へと舞い上がった。全力で飛べば攻撃は可能だが、外せば隙だらけ。通らなくても隙だらけ。よって両手を後ろに回して、三種の手榴弾のピンを抜く。

 

「それじゃ、模擬戦を始めようか」

 

 本人は模擬戦のつもりでも、他人からみればそうではなく、見る人が見ればそれは一方的な蹂躙。あるいは虐殺と呼ばれる類の行動だろう。さすがに殺されることはないだろうが。

 右手に持ったフラッシュバンと破片手榴弾を空中の高町へ投げ、左手のスモークグレネードを地面に転がす。

 フラッシュバンとグレネードは瞬時に迎撃されたが、太陽が爆発したような閃光を撒き散らし、耳を貫く爆発音を立てて破裂した。グレネードの破片が降り注ぐ前に煙幕の中をビルの影へと駆け出す。

 

「???!!」

「????!?」

 

 向こうで何か叫んでいるような気はしたが、音のせいで耳がやられ、一時的に聴覚が麻痺している。

 ここで手頃なゴミ箱を見つけ、中身を掻き分けて中に入り、蓋を閉じて底で寝転がる。シミュレーターがゴミ箱の中まで再現しているからといってそこに隠れるのはどうかと思うが、この際気にしないことにする。

 物理設定でなければ実体を持つ物を破壊することは不可能なので、どれだけ薄かろうと壁一枚挟めば容易に防げる。そして、相手も死人を出すわけにはいかないので物理設定には変更できない。よってここに居れば安全なのだ。あとは、模擬の制限時間である一時間がすぎるまで隠れていればいい。

 

 そして、数分経ったところで外が静かになった。しかし、外を見るつもりなど一切ない。顔を出したところをサーチャーに捉えられれば、蓋を開けられて魔力弾の嵐を叩き込まれるだろう。

 

「ハンク君……一体どこに居るの?」

 

 悪魔の囁きがすぐ近くで聞こえるが、冗談じゃない。このまま隠れ続けていればこちらの勝ちなのだから、呼吸と心拍以外で体を動かさず、石のように固まっておく。

 

「こっちに逃げ込んだんだよね、レイジングハート」

『はい、間違いありません』

「でもこっちは袋小路。壁をよじ登った跡も無いし」

 

 ……なるほど、二人はやられてしまったか。情けないとは言ってやるまい、当然の結果だ。蟻二匹が象に挑むのと同じこと。むしろ瞬殺されないだけ、よく持った方だ。

 

「……なるほど、考えたね。確かにゴミ箱の中に隠れていれば、魔法は通らない」

 

 煙幕の中を補足されていたのか。まあ、相手は機械とペアだ。仕方ないと言えば仕方ない。そして近寄ってくる処刑人の足音。アサルトライフルの安全装置を外して、左手で真上に構えておく。右手にはロストロギアを起動しておいて、後詰として持っておく。

 

「さあ、年貢の納め時だよ!」

 

 勢いよく開かれた蓋と、そこから差し込む光。逆光になってよく見えない顔に銃口を向けて、トリガーを引き絞る。

 

「うわっ!?」

 

 叫び声は聞こえるも、有効打にはなっていない。予め防御魔法を部分的に使っていたようだ。弾が顔に当たるより前に弾かれていた。

 魔法を使って強化した身体能力で、かなり無茶な体勢のまま剣を突き出す。防御膜に阻まれるが、構わずそれごと突き上げる。

 

「痛いなぁ……」

 

 5.45mm弾30発を至近距離で食らって、さらに普通の人間なら頭が胴体から離れる突きを食らって痛いで済むとは。わかってはいたが、圧倒的な戦力差だ。圧倒的すぎて笑えてくる。路地から飛び出して、表通りへと飛び出し、正面のビルの玄関ガラスを突き破って中へ逃げ込む。勝ち目が無いのだから、相手をするつもりは一切ない。

 

「逃がさないから」

 

 逃がすとプライドに傷がつくからか、と言いたくなったが口を閉じる。わざわざ怒らせる必要もなかった様子。上のフロアからガラスを突き破って入ってきたからだ。一瞬だけ呆気に取られたが、すぐ魔力弾とガラスが降ってきたので非常階段へ走り、防火扉を閉めて恐ろしい精度で飛んでくる誘導弾を防ぎ、それを背にして座り込み一度深呼吸をする。施設の内部まで精巧に再現されているシミュレーターに助けられた。

 

「全く……ああいう奴は一度一方的に殴られる怖さと痛さを知るべきだ」

 

 痛みも恐怖も感じないが。感じる時期はあった。その気になればすぐにでも捕まえて、砲撃でノックアウトするのも可能だろうに。どうしてそれをしないのか……ああ、逃げる様子を見て楽しみたいからか。趣味が悪いな。

 

「あるよ、一方的に攻撃された事」

 

 防火扉の向こうから声が聞こえる。声そのものは、愛する子に話しかけるような優しい声だが、その奥に込められた感情はまた別だ。背筋の凍るような憎悪がこれでもかと込められている。ここまで憎まれる事をした覚えは無いが……そういえば、私の持つロストロギアの効果に感情の増幅というものがあったような。ああ、きっとそれだ。

 

「そういう君はあるのかな?」

「……今まさに」

「そう……そういえば、君ははやてちゃんを撃ったらしいね」

「それがどうしました?」

「少し、その事について話を聞かせてもらいたいと思ってたんだ」

「模擬戦が終わってからにしませんか?」

 

 会話しながら息を整え、心臓が落ち着くのを待つ。体の強化をしているとはいえ、蛇のおかげで体の再生能力が高まっているとはいえ、病み上がりでこの運動は少しキツイ。酸素が足りない。消化に良い食事しかしていないから、エネルギーも足りない。ついでに言うと火力も足りない。

 

「そうだね。じゃあ、速く終わらせようか」

 

 先ほどの声とは真逆の。中身はさっきと同じ、強い憎しみの篭った冷たい声。その言葉に込められた意図をなんとなく把握。非常に嫌な予感がしたので防火扉から離れ、身体強化に使う魔力を増やし、跳ね上がった筋力で階段を1フロア飛ばしで上がる。

 

「クロスファイア、シュート!」

 

 あろう事か、防火扉を砲撃でぶち抜いて、空いた穴から階段へ侵入してきた。それはつまり魔法の設定が物理設定に切り替えられているということ。

 思考している日まではない、逃げなければ殺される。殺されるのは別にいいが、まだ奴らの死を見届けていない今死ぬ訳にはいかない。とりあえず上へ逃げる。

 

「言ったよね、逃がさないって」

 

 もう二つフロアを上がり、三階への扉を切り破って侵入。しかし後ろから追ってくる。正面には何もないフロアに、ガラスの窓。

 迷う暇はなく、ガラスの窓へ突っ込んで突き破り、また外へ。竜退治をした時にもこの位の高さまで跳んだはずだ、着地もいけるはず。

 

「っし!」

 

 地面に無事着地し、また逃げる。振り向かず、次に逃げ込む場所を探しながら逃げる。振り向きはしない、恐ろしい物が迫って来ているのはわかるから、ひたすら走る。

 背中に一発誘導弾が当たる。痛みはないが、衝撃で体勢を崩しそうになったからわかる。背中から足へと、ぬるい液体が流れる。それでも逃げる。今のところそれ以外に方法はない。

 

「待ってよ……どうして逃げるのかな。私はただ話がしたいだけなのに」

 

 振り返れば、彼女の顔は笑っていた。その背後には大量の誘導弾が浮いていて、それはまるでこちらを食い殺そうとする鮫の顎に見えた。逃げられるわけがない。

 私が軽く絶望したのを見て楽しくなったのか、笑みを深くする高町なのは。そして、大量の誘導弾が雪崩のように押し寄せてきた。

 異常を察知したのかインカムから助けに行くだの何だのという音声が流れる。しかし、このままでは部下たちが助けに来るよりも私が死ぬほうが速いだろう。逃げるのはやめにして、一回りサイズを大きくした剣を地面に突き刺して誘導弾に対する盾にする。拳大の雹が屋根に当たって砕けるのと同じような音が十数秒ほど続き、ようやく止んだ。

 

「殺したいならもう少し待ってくれるか。具体的には一週間ほど」

 

 左と後ろから誘導弾が飛んできたので、片方を避けて片方を切り裂く。

 

「殺したいなんて思ってないよ。ただ、動かずに私の目を見て話をしてくれたらそれでいいんだよ」

 

 少しでも正気が残っていればと思ったが、ロストロギアの影響で増幅された怒りに飲まれて完全に正気を失ってる。言ってることとやろうとしている事が大きく食い違っているのがいい証拠だ。

 とりあえずマトモに戻すには、パソコンと同じように意識をシャットダウンさせるしか無いだろう……できるかどうかは別としても、このまま何もしなければ殺されるだけだ。糞野郎が死刑になる瞬間を見届けても居ないのにまだ死ぬ訳にはいかない。

 応援が到着するまで残り60秒という声がまた流れる。それだけあれば何回死ねるだろう。

 

 残り2つのスモークグレネードを地面に転がして煙幕を張り、その中を姿勢を低くしながら移動する。あちらの位置と、誘導弾の位置は光っているのでわかる。が、バインドはそうもいかない……残り55秒。スモークが晴れるのはあと5秒ほどだ……なにか生き残るためにいい手はないか。

 

 スモークが晴れるまで残り3秒。ふと自分の腕に住み着いているロストロギアの名前と特性を思い出す。

 ロストロギア、蛇。宿主の望む形に姿を変え、狩りを手伝う……とりあえず頑丈。賭けてみようか。

 

 残り2秒。桃色の光の塊がついさっき自分が居た場所へと極太の砲撃を行う。その余波だけでスモークが消え去ってしまった。相手がこちらに気づいて、砲口をこちらへ向ける。それと同時に、細長い縄の形に変化した「蛇」を相手に投げつけ、巻きつけようとする。回避しながら撃ち落とそうとされるが、それはただのロープじゃなくて、「蛇」だ。撃ち落とそうとする弾を身をよじって避け、避ける彼女を追いかけて、巻き付いて動きを止める。

 そのロープを全力で引き下ろし、相手を地面に叩き落とす。土煙が舞い上がったところで縄を剣に戻し、右側に弧を描きながら突っ込む。

 

 

 空戦魔導師との戦闘の基本。まずすべきことは何とかして相手を地面へ引きずりおろし、視界を封じる。

 砲撃、射撃が得意な相手の場合、相手に気付かれる前に長射程の武器で仕留める。無理な場合はどうにかしてインファイトに持ち込むこと。

 

 

 その基本に則り一息に接近。右側で足を止め、姿勢を起こす勢い乗せた斬撃を斜め下から切り上げるように叩きこむ。が直前に割って入った左腕で弾かれた。左腕のバリアジャケットすら切れていない。

 ならば次狙うのはがら空きの左脇腹。右腕は弾かれて伸びきっているので、やや無理のある姿勢から左の拳を突きこむ。骨の折れる音がしたが、折れたのは相手の肋かこちらの腕か。一体どちらか。

 

「っく!」

 

 相手が少しだけ苦悶の声を上げるが、こちらの左腕は肘と手首のちょうど真ん中くらいで曲がっている。痛み分けというにはややこちらの損傷が大きい。さらに言うなら、彼女はデバイスを持った右腕をまだ使っていない。

 気づけばこちらに向けられた砲口に光が集まる。弾かれた剣を腕力で強引に引き戻し、相手の右腕に叩きつけて砲撃を明後日の方向へ撃ちださせる。ビチリ、とまたもや嫌な音と、腕の中で何かが弾ける感覚。右腕も使いものにならないか。

 

「また外しちゃったよ」

 

 腹に一発、砲撃ではなく魔力弾を撃ち込まれる。痛みはないが、どす黒い血反吐を地面にぶちまける。胃がやられたようだ。

 

「ねえ、どんな気持ち? 痛い? 痛いよね? はやてちゃんはもっと痛かったんだよ?」

「申し訳ないが、痛みを感じない体なんです」

 

 傷はどうも、かなり深いようだ。腹筋が壁になってくれたはいいものの、衝撃は内臓を十分に痛めつけてくれた。立てたとしても録に動けはしない。筋が切れて動かなくなった右腕から、骨は折れているが筋は繋がっている左腕に剣を移す。動かすための筋さえ繋がっていれば、強化して無理やり動かせる。だが、もう何もできることはない。既にあちらは立ち上がって私を見下ろし、デバイスの先をこちらへ向けていた。杖の先には先ほどの貯め無しより遥かに大きい魔力が集まっていて、既にそれを撃つための準備が整っていることを知らせる。遠くにヘリの飛ぶ音が聞こえるが、今からではとても間に合わないだろう。

 

「スターライト……」

「まるで、悪い夢だ」

 

 圧倒的な力を前に、手も足も出ずにやられる。結局は昔と何一つ変わっていない。復讐のために死に物狂いで力をつけてきたつもりだったが、やはり自分はこの程度なのだろう。そもそも自分なら魔導師を相手にしても勝てるなんて、思いあがりが過ぎたのだ。

 自分の身を弁えなかった結果がこれ。大人しく二佐の提案を受け入れていればよかった、と今更後悔する。

 

「ブレイカー!」

 

 閃光、爆風、轟音、そして光の壁が迫る。ここまで来れば、もう何もできやしない。大人しく運命を受け入れ、眼を閉じる。

 

 が、体が光に焼き尽くされる事もなく。別の何かに担がれて災害から逃れられてしまった。目を開くと、金色の髪が風に揺られて舞っていた。

 

「ごめんね。もう少し早く来ようとしたんだけど。割って入るのが遅れちゃった」

「……いえ、助かりました」

 

 助かった……のか。いや、また死に損ねたとも言える。

 

「高町一尉はどうなりました」

「皆が押さえ込んでる。傷は大丈夫?」

「……さあ?」

 

 痛みは感じないが、とにかく全身ボロボロなのはよくわかる。多分、右前腕筋断裂と左前腕骨折。背中を広い範囲で損傷。腹部にも一発直撃をもらって、内臓も多少傷ついているだろう。

 よくもまあ、生きているものだ。

 

「……さあ? って……血がたくさん出てるけど」

「痛みだけは一切感じない。便利な体です」

「だからそんな平気な顔してるの!? シャマル!」

「はいはい、居るわよ。傷はかなり広いし、このの出血量だと結構深さもあるわね」

「つまり?」

「意識があるのがおかしいレベル。応急処置も必要だけど血が出過ぎてる……できるだけ早く輸血しないと危険だわ」

 

 なんだ、そこまで来てるのに死んでなかったのか。今回もまたギリギリで生き残ってしまった。死の淵まで叩き込まれるのは慣れてるが……今月に入って三度目だ。戦闘機人との戦闘で一度、自殺未遂で二度目。今回で、三度目。

 ここまで来て死んでいないのは不幸なのか、幸運なのか。

 

「……なのはは、一体どうして急にこんな」

「私のロストロギアの効果ですよ。起動してると周りの人の感情を増幅させるんです」

 

 便利なものを拾ったと思えば、とんだ災難を呼び寄せる。拾うんじゃなかったな。

 

「怪我してるなら静かにしてて」

「痛くないから大丈夫でしょう……まぁ、そろそろ限界です。あとは、お願いします」

 

 戦いが終わって、気が抜けた。戦闘中はハイになってたおかげで意識を保っていられたが……終わってしまえば興奮状態も冷める。おかげで眠い。痛いと寝られないって話もあるが、痛みを感じないのはこういうときに便利だ。


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