オリ主が逝くリリカルなのはsts   作:からすにこふ2世

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前半過去回です。


第0-2話

 少しばかり昔……そうだ、私が小さい頃の話。確か、12かいくらかの歳の誕生日だった。あの時は何が起きたものかと、自分でも状況が認識できていなかった。両親が誕生日のお祝いの料理を作ってくれている最中に、五人の男たちがドアを蹴り破って入ってきた。お父さんが注意したが、何か光る弾が胸を貫いて、赤い水をまき散らしながら床に倒れた。

 大きな音に様子を見に来たお母さんは、それを見て悲鳴を上げた……そして男たちの興味はすぐにそちらへ向き、まるで飢えた肉食動物のように母さんの元へ向かっていった。母さんはすぐに逃げ出したが、男たちに捕まって組み伏せられ、突然男たちの手に現れた刃物に服を切り裂かれた。その時には、もう色々と『解って』きていた年頃なので、その行為の意味も理解できた。なので、目の前で行われようとする蛮行へ立ち向かおうと、手元にあったナイフとフォークを握り、男たちへ駆け、母を押さえつけているクソ野郎の目にフォークを突き刺した。その後は蹴り飛ばされて、意識が消えたので憶えているはずがない。

 で、家の中のことを覚えているのはそこまで。次に目が覚めたのは、何も見えないような真っ暗闇の中。手足を手錠で縛られているのか、体がほとんど動かない上に鎖がガチャガチャと鳴る。

 

「目が覚めたか?」

 

 声と一緒に突然明かりが灯り、視界が真っ白に染まる。そして視界が元に戻る前に、腹にキツイ一発をもらった。腹の中に何も入っていなかったため嘔吐はしなかったが、胃液が逆流し、喉を焼く。

 

「……」

「おいおい、そんな顔すんなよ。つまんねえな。殴らないで、とか言ってみろよガキ」

 

 光に目が慣れたら、顔が見えた。頭に包帯を巻いて右目を隠しているその男は、他ならぬ自分が眼球を抉った男だった。胃液混じりの唾を吐きかけると、また殴られた。その後も何度も何度も殴り、蹴られ、痛めつけられた。意識が飛ぶ度に体を揺すられて無理矢理に起こされて。そしてまた殴られ、蹴られ、わずかばかりの反抗心すら潰される。僕は何もできない。ひたすらに、一方的に殴られ続けるだけで。それ以外の記憶は、この言葉。

 

「そういえば、お前の母ちゃんだが……あんまり具合良くなかったな。全然泣かないし、つまらないから殺してやったぜ。ヒヒヒ」

 

 この一言で、こいつ。否、こいつらへの復讐を決意したんだった。懐かしい。実に懐かしい話だ。

 

「その目だ……いいぞ、それでこそ殴る価値があるんだよ」

 

 まるで、持っていたオモチャに新しい遊び方を見出したかのような、子供のような顔だった。悪意が固まりすぎて、逆に純粋に見える。否、そうではなく純粋な悪意だったのだろう。でなければあんな醜い笑顔など出来やしないだろう。

 その後は、血反吐を吐くまで殴られ、蹴られ続けた。死にかけるほど痛めつけられると、何かで治されてまた殴られる。どうやらこいつは俺を殺すつもりはないらしい。

 そして死にかけたらまた治される。それを繰り返され、しばらく経ったら飯を出され、犬のように這いつくばって食う。そしてまた殴られて蹴られて治されて、飯を食って。ひたすらそれを繰り返された。まるでそれが今までの日常だったかのように、繰り返された。

 いったい何度繰り返された頃だろうか。十だろうか、二十だろうか、三十だろうか。回数なんて全く覚えていないが、ちょうどいい加減に痛みにも飽きてきた、絶妙なタイミングで、それは起きた。

 

「今日は少しだけ、意趣を変えてみたぞ」

 

 裸の妹が目の前に連れてこられた。暴力は受けていないようで、体に痣は見受けられないが、その顔には……表情が欠片も存在しなかった。呼吸のたびにわずかに動く胸が無ければ、瞬きがなければ、妹の姿形をした人形と言われればそう信じただろう。

 何をされたのかは、大体予想ができる。予想したと同時に、また怒りが湧いてきた。怒りの感情など既に消えたかと思っていたが、消えたわけではなかったようだ。

 鎖を引きちぎろうとしたが、子供の力ではギチギチと鳴るだけで全く千切れるような気配がない。そもそも大人の力でも引きちぎるのは無理だろう。

 

「……よくも……殺してやる」

「こいつはなぁ、よく鳴くぞ? 小さいからか具合もなかなかいい」

 

 言葉の意味は理解できる。だが、妹はその対象となるにはあまりにも若すぎる。幼すぎる。小さすぎる。そもそもこのような、絶対に望まない状況で純潔を奪っただと? 許せるわけがない。殺してやらねばなるまい。

 

「ほれ」

「ぁう……ん」

 

 そして、あろう事か全裸の妹を、そのまま、僕の目の前で辱めた。許せない、絶対に許せない。

 

「ほれほれ、こいつも見られて喜んでるぞ?」

「殺す! 殺してやるから今すぐ解放しろ!!」

 

 いくら怒り喚き散らしても、鉄の鎖は千切れることなく、その役目を存分に果たし、俺を捕らえ、繋ぎ留める。ギチギチと、耳障りな音を立てる。いっそこの手足が無ければ、芋虫のように這いつくばってでもその首元へ辿り着き、首を食い千切れってやれるのに。これほどまでに自分の無力を怨んだことはない。悔しくて、悲しくて、涙が出るが、その光景を叫びながら見続ける。この屈辱を忘れないために。

 

 この時僕は相手が何を言っていたか、相手に何を言ったのか、全く覚えていない。ただ許せない。相手のことが許せないからこそ、自分のことが許せない。殺してやりたいが、殺せない。その葛藤だけが頭の中を塗りつぶし、単一の思考だけが僕を支配していた。

 

「子供がそんな汚い言葉使っちゃいけませんよぉ? ママに教わらなかったんでちゅかぁ?」

 

 頭が沸騰する。もう腹が立つとか、そういう次元じゃない。もはや何も考えられない。確かに教わったことだが……

 

「殺したのはお前だろう! それでも人間か!」

「ああ、お前と同じなあ」

 

 長い舌を出して、妹の頬をべロリと舐める。醜い顔だ。今すぐにでも殴り殺したくなる、嫌な顔だ。だが自分には何もできない。

 

「そうだなぁ、お前には何もできない。ほれ、そろそろ出すぞ」

「うぁあ……」

「……!!」

 

 そこで記憶は途切れている。つまりは、覚えていないのだ。その後はまた以前と同じことが繰り返された。殴られて、蹴られて、治されて、また殴られて、蹴られて、治されて。

 それが何度も何度も繰り返されてやっと、全く知らない奴らがやってきて、クズを片手で引きずって……何か言っていた。覚えていないが、とりあえず俺たちを助けに来たという内容だったのは覚えている。

 

 

 

 

 

 

 ……視界が白く染まり、次の瞬間には真っ青な空が。あたりを見渡せば、自分がさっきまでいたがれきの山の中だった。

 今見ていたのは、この何年かで忘れかけていた、俺が管理局へ入る理由となった事件。懐かしい? いや、忌々しい。だが、初心に帰ることができたのは嬉しいことだ。

 今まで汚れ仕事ばかりやらされてきたから、すっかり忘れていた。

 

「こちらスズメバチ。任務完了。迎えを寄越せ」

『了解。すぐに送る』

 

 スズメバチ、というのは今回の任務をするにあたってのコードネームというか、暗号名みたいなもの。特に名前に意味があるわけでもない。そこらにある瓦礫を立てて狙撃を凌ぐための壁を周りに作り、その中に座り、カップ麺が出来上がるくらいの時間を待つ。すると魔導師が空から降ってきた。ただそれだけ。

 

「ご苦労だった。それで、蛇は?」

「やけに偉そうだな。階級下のくせに」

「非魔導師なんかに敬語を使う必要はない。さっさと出せ」

 

 ああ、嫌になる。どいつもこいつも魔法最高って、魔法が使えない奴は自分より下に見る。AMFが濃いエリアだから私に声がかかったというのに。ここで俺がライフルを撃てばこいつは死ぬ。

 

「残念ながら、寄生されてしまったから渡せない」

 

 服の袖をまくり上げて、腕の痣を見せる。手首から肩にかけて、鱗模様のついた黒い線が巻き付いている。これは蛇に寄生されたものの特徴だ。安易に触るんじゃなかった。

 

「ここで切り落とせばいいだろう? 一発で落としてやるよ」

 

 デバイスの剣を抜かれたので、靴底に鉄板の入ったブーツで顎を蹴り上げる。高濃度AMF下ではバリアジャケットを維持するだけで精一杯のはずだ。こんな軽い打撃でも十分ダメージは通る。揺らいだ脳は体の姿勢を保持することで精一杯で、防御など出来るはずがない。無防備な顔面に銃床を顔面に思い切り叩きつけた。クリーンヒット。受身を取ることもなく地面に倒れる。口から結構な量出血しているので、歯が何本か折れたのだろう。

 さらにライフルの安全装置を解除し、ボルトを引いて戻し、銃口を額に突きつけて引き金を引いた……が、弾は出なかった。そういえばリロードをしていなかった。

 

「じょ、冗談だ……」

「剣を抜いて腕を切り落とす、と上官に向けて言ったんだ。冗談では済まない」

 

 一応、襟についている階級章を見てから蹴った。こいつの階級は三曹で、私は准尉。部隊こそ別だが、上官に対し暴言を吐いたという指導への大義名分は存在する。よって私の行いは間違っていないのだ。

 

「さて、それじゃさっさと連れて帰ってくれ」

 

 


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