オリ主が逝くリリカルなのはsts   作:からすにこふ2世

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八月八日は発破の日。というわけで爆弾無双回……ではないのです。


第18話

 周りがほぼ真っ暗な中で目を覚ました。月の光だけが視界を確保できる唯一の光源。

起き上がろうとしたが、首に輸血の点滴が刺さっているのがわかったのでやめておく。起き上がるのはやめて、服の裾を捲り上げて傷口に触れてみる。

 包帯が巻かれているせいでどうなっているかはわからない。だが、それに滲んだ血が固まっているのを考えると、気を失ってから一日も経っていないのだろう。おそらく血はもう止まっていて、傷も塞がりかけといったところか。近頃ロストロギアのおかげか傷の治りがおかしいくらいに速い。包丁で指を切った程度なら数秒で跡形もなくなる。

 その分速く仕事に復帰できるのはありがたいのだが、自分が人間じゃなくなっているような感じがして少し恐ろしくもある。ロストロギアに寄生されている時点でマトモな人間とは言い難いが。

 

 それにしても、本当に私は運が良いのか悪いのか。並の魔導師よりもはるかに強いといわれる戦闘機人と戦って一度は勝利。上司に二度殺されかけて、二度とも生き残れた。しかも、二度目は本気で殺す気だった高町なのはを相手にして、だ。こう何度も死にそこねると、死神に嫌われているのではないかと思ってしまう。

 死にたがりなのに死に損なって安堵するのもおかしいな。

 

 自嘲の笑みを浮かべて改めてベッドに体を預けると、天井から指一本が突き出ているのが見えた。幻視ではない。前に見たことがある。

 そういえば捕獲した戦闘機人二人に逃げられた、という話を聞いたな。お礼参りで殺しに来たか、それともこれを機に拉致して洗脳してスパイにしようという魂胆か。

 

「ども、こんばんは」

 

 頭だけを出して挨拶される。しかも笑顔で。どうも殺しに来たとか浚いに来たとか、そういう物騒な雰囲気は感じられない。

 

「何しに来た?」

「お見舞い。高町なのはに腕骨折と肋二本に罅を入れたのに生きてるって聞いたからさ」

 

 顔だけだと思ったら、全身天井から滑り出て空中で綺麗に一回転。十点満点の着地を見せてくれた。その後許可してもいないのに面会者用の椅子に座られた。そして月明かりが彼女の持つ白い紙に反射する。

 

「で、調子はどう? カルテには右前腕の筋断裂が複数箇所。左尺骨橈骨単純骨折。胃、小腸、肝臓、大動脈損傷、胸椎、肋骨損傷、その他軽傷多数って書いてあるけど……」

 

 そこまでひどい傷だったのか。本当によく生きていたな、自分。そしてわずか二発の直撃だけでそこまでやられるとは。やはり魔導師というのは恐ろしいものなのだ。そんな魔導師という化物を相手に何の防御手段もなしに接近戦を挑むなんて、私はきっと慢心していたのだろう。この負傷は、慢心、思いあがりの結果以外の何物でもない。

 

「医者の腕が良かったのか、傷はもう塞がってきてる」

「どれだけ医者の腕が良くても普通そこまで速く治んないから。あたし達みたいにナノマシンでも入ってるの?」

 

 「蛇」の事は知られてないのか。ひょっとして単純なデバイスとして見られているのだろうか……いや、スカリエッティの事だ。内通者から情報を引き出して、既に知られているだろう。知られていなくてもいずれ知られる。だから今話しても問題無いだろう。

 既に治ってしまった右腕を上げる。最近は両腕にも痣が現れてきているのだが、左腕はギブスが巻かれているので見えない。

 

「痣?」

「生体ロストロギアが寄生してる証だ。これが肉体の回復力を上げてくれてる」

「……ああ、もしかしてチンク姉のIS食らったのに突っ込めたのってそのせい?」

「違う。痛みを感じないから何も考えずに突っ込んだだけだ」

 

 今思えばなかなか無謀な判断だった。一歩間違えば死んでいたかもしれない。あの時から既に死に急いでいたのか。

 

「あんたも大概化物だねー、普通は痛くないからって戦闘機人相手に戦い挑んだりしないよ?」

 

 戦闘機人という本物の化物に化物と言われるか。別に体を弄ったりはしていないのに、体が変わっている自覚があるから妙な気分だ。

 

「あの時は相手が戦闘機人だなんて知らなかった。知ってたらあんな無茶はしてなかっただろうな」

「書類では陸戦Eの魔導師とも呼べない人間に、あたしとチンク姉は負けて捕まっちゃったのか。傷つくなー」

 

 陸戦Eなのは、魔法が身体強化しか使えないからだ。いくら戦果を上げても、射撃魔法が少しも使えないとなると、Dにさえなれない。質量兵器を使った試験は認められていないので、それも原因の一つだ。質量兵器込なら多分、陸戦Cくらいの実力はあると思う。これもまた思い上がりか。

 それにしても、こいつは見舞いに来たと言うよりも、ただ話しをしにきたようだ。会話をしていて実に楽しそうに見える。

 

「私たちは所詮不意打ちでしか勝てない弱者の集まりだ。気を落とすな」

「不意打ちでも格下に負けたっていうのが結構効くんだよ……怒られちゃったし」

 

 格下扱いか。まあずっとそう思ってくれていたほうがこちらとしてはやりやすい。油断している相手を始末するときにこそ、質量兵器は真価を発揮する。

 

「次があったら、絶対油断しないから」

「次があるかはわからないが、死にたくないならそうするべきだな。私だったら見逃してやるが、私の部下は当てる」

 

 というのは嘘。私でも見逃さず、隙を見つけ次第一発で撃ち殺すつもりでいく。ここではもしもスカリエッティと組むときになった時のためと、敵として対峙したときにのため。両方の場合を想定し、警戒心を削ぐためにデタラメを言っている。

 

「まあそれはともかくだ。見舞いに来てもらっておいて、何もなしに帰れとは言わない。そこにある菓子は全部食っていいぞ。持って帰ってもいい」

 

 誰が置いていったのかも知らない菓子を指さして持って帰るように言う。どうせ置いていても私は食べない。

 

「あ、いいんだ。じゃあもらっていくよ。なんだか悪いねぇ」

「礼はいい。代わりにスカリエッティに自首した方が罪は軽いぞと伝えておいてくれ」

 

 中将が怪しい動きをしている中で、さらにスカリエッティのことまで気を使わなければいけないのは面倒極まる。だが、スカリエッティさえ自首してくれれば近頃世間を賑わすガジェットドローンも出てこなくなり、仕事がなくなってとりあえずミッドは平和になって、私は部隊を設立する前と同じようにとても危険な暗殺・潜入・工作任務であちこち奔走することになるだろう。

「一応伝えとくね。じゃあ、また近いうちに会いに来るから」

 

 できれば来ないでほしい、という願いを口に出すよりも速く、床に沈んで消えていった。もしも私がジェイル・スカリエッティとつながりがあると六課の面々に知られれば、間違い無く面倒なことになる。せめて……裁判が終わるまでは会いに来ないことを祈ろう。

 




戦闘が無いとやはり短くて済みますね。物足りない気もしますけど。
あと何話か入院回が続きます

・ストックが尽きました、更新速度は少し低下する予定

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