オリ主が逝くリリカルなのはsts   作:からすにこふ2世

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一応誤字脱字、推敲を済ませましたが、書いているのが午前1時なのでどこかおかしいところがあるかもしれません。



第20話

 午後3時。病院服から管理局の制服に着替え、持ってこられていた荷物をまとめ会計へ。まさか短期間の間に二度も病院の世話になるとは思っていなかったので、治療費が払えるだけの現金など持っていなかった。なので支払いはキャッシュで。足りないということはありえない。今まで汚れ仕事や危険な任務をこなした経歴と、さらに准尉という階級もあり、なんだかんだで一般市民から見れば金持ちと言っても差し支えない程度の貯金はある。

 といっても、この金は自分のためのものではないのだが。領収書を受け取って財布の中にしまい、会計場に背を向けて玄関へ真っ直ぐ歩く。

 

 病院の玄関から出ると、迎えらしき人物が居たので、声をかける。

 

「こんにちは」

「……」

「そう露骨に嫌な顔をしないでください、八神二尉」

 

 気持ちはわかるが……全員の前で一度に謝罪するつもりだったが、とりあえず謝っておくか。

 

「以前のことは申し訳ありませんでした。あの時は少し錯乱していましたから、許してもらえませんかね」

「……ハンク!」

 

 まるで腹を殴られ息ができない状態で無理やり出したような声だ。しかもなぜ階級なしでファーストネームで呼ぶのか。

 

「貴様のやったことは、許すようにと主から言われている」

 

 珍しい。あの女もたまには自ら進んで良い事をしてくれるのか。嫌がらせしかしないのかと思っていた。あとは、呼び方も命令か。きっとそうだろう、私だって嫌っている相手をわざわざ気安くファーストネームで呼ぼうなんて思わない。

 

「そうですか。ところで、ファーストネームで呼ぶのはやめていただけませんか。階級、役職、以外の呼び方で呼ばれるのは慣れていないもので」

「……私も非常に遺憾だが、主の命令だ」

 

 やっぱりか。あいつは必ず何か一つは嫌がらせをしないと気がすまないのか……あるいは私と六課のメンバーとの距離が遠いことを気にしてのことか。後者ならば、あまり親しくなると私が死んだ時にパフォーマンスが下がるからあえて不要な慣れ合いを避けていたのだが。

 

「それと、主からの命令だ。今後は私達のことを階級ではなく名前で呼ぶように、とのことだ」

「私達、とは六課のメンバー全員でしょうか」

「そうとは聞いていないが、おそらくそうなんだろう」

「了解しました。命令とあらば従います。シグナム……さん?」

 

 一瞬どんな敬称をつけるか悩んだが、さん付けで呼ぶのが一番いいだろう。おふざけと嫌がらせを兼ねて「ちゃん」付けで呼ぼうかとも思ったが、そんなことを言えばこの場で斬り殺されかねない。

 それにしても感情がわかりやすい女だ。嫌という感情が、まるで色のついた靄となって周囲に漂っているような……

 

「……」

 

 本当に、靄が見えるような。そんな筈はないと思い目をこする。

 

「どうした?」

「眼にゴミが入っただけです」

 

 また眼を開くと、靄は消えていた……疲れが出たのだろうか。きっとそうだ、最近はいろいろなことが短い期間で起こりすぎている。部隊の訓練をして、試験小隊としての初の出撃。戦闘機人の襲撃と撃退。機動六課との併合。模擬戦。機動六課との共同出撃。ホテル・アグスタで復讐を断念させられた。その後八神二佐を撃って、シグナム二尉に殺されかけた。その後さらに高町一尉との模擬戦で殺されかけて。

 なるほど、幻覚を見るのも仕方ない。

 

「そうか。なら車に乗れ、六課へ戻る」

 

 病院玄関のすぐ正面の道路に駐車してある車を指して言う。普通の、それほど値段が高くもない人気のある乗用車だ。トランクに荷物を放り込んでから助手席に乗って、シートベルトを締める。

 

「出るぞ」

 

 特に言葉を交わすこともなく、そのまま車を発進させる。

 

 

 車が病院の敷地から出てしばらく。ナビは搭載されているようだが音楽は一切流れず、エンジン音だけがBGMとして六課への道を進む。会話は一切ない。相手の顔を見ることもなく、やや眠気がしてきたのでシートを倒してまぶたを閉じておく。六課まではあと三十分ほどかかるはずだ、その間寝ていよう。

 

「……私は」

 

 寝ようと思ったら、相手が沈黙を破り声を出した。独り言ではないだろう、すぐ隣。どんな小さいこえで呟いても聞こえる位置に人が居るのだし。

 

「主にお前を許すように言われたが、私はどうしても許しきれない」

 

 何かと思えば、あたり前のことを言ってるだけか。どれだけ他人から殺したいほど憎い相手を許すように言われても、許せるはずがない。当たり前のことだ。

 

「裁判が終わった後なら、気が済むまで殴るなり殺すなり。好きにしていいですよ」

「話は最後まで聞け。貴様が過去に味わった屈辱の欠片程度は理解できた……つもりだ。私も、トドメを刺そうとする私を止めに入ったお前の部下を切り捨てようと一瞬思った」

 

 見た目によらず随分と物騒なことを考える。いや、人は誰でも感情に飲まれればそんなものだろうか。それで、一体それがどうしたというのか。

 

「その時に、復讐の邪魔をされるのがどれほど腹立たしいか理解できた」

 

 言ってることはやや的をはずしているが、全く見当違いなわけでもない。一応続きを聞いておく。単純に頭が悪いのと、眠いのも合わさり私の低能な頭脳は複雑なことを考えるほどのリソースがない。思考を拒否している。

 

「厚かましい頼みかもしれないが、お前を許す代わりに、主のした事を許してほしい」

「二佐は義務を果たしただけ。許すも何も無いでしょう」

 

 正直、八神二佐に対してそれほど怒りの感情は湧いていない。あの時もただ広大な海の真ん中に一人放り出されたような、そんな喪失感と虚無感でいっぱいで怒りは湧いていなかった。

 

「邪魔をされて、許せないという気持ちがあったからあんな行動に出たんじゃないのか?」

「それよりも、半生が全て無意味になったショックで自棄になってたのが大きいですね。だから苦しまずに殺してもらえそうな行動を取りました」

 

 それでも結局死に損ねたが。最後まできちんと止めを刺してくれないと困ってしまう。空戦Sランクの立派なエースだというのに、詰めが甘い。いやまあ、トドメの邪魔をしたのは私の部下なのだが。彼らも私を気遣っての行動だ、責めはすまい。

 

「次があるなら、ちゃんと首を撥ねてください」

「……お前はどうしてそんなに死にたがる」

「気が利きませんね……事情を知ってるなら、察してください。仇が死んでも、ずっと治る見込みのない、唯一の家族を見続けないといけないなんて辛いだけじゃないですか」

 

 眠気で意識が朦朧としてきたのか、自制が聞かずに本音が蛇口を捻ったようにポロポロと溢れ出てくる。わざわざ話す必要も無い事なのに。

 

「治らないという保証もないだろう。なぜそう言い切れる」

「少なくとも、私が生きてる間は無理ですよ……」

 

 肉体の医学は発展しても、心の医学が進展する速度はまるでナメクジが這うように遅い。スカリエッティすら匙を投げた妹の心が治せるほど発展するには、果たしてどれほどの時間が掛かるやら。さっき言ったとおり、私が生きている間はまず無理だろう。

 

「それよりも、六課についたら起こしてください。少し寝ます」

 

 これ以上話しているとスカリエッティとの付き合いまで喋ってしまいそうなので、会話を切ってそのまま寝てしまう。次起きるときは機動六課。また、謝罪のセリフを考えておかないとな。起きてからでいいか。


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