今回から数話ほど後始末編が続きます。
かぜをひきました。咳が出て体がだるくて気分が悪いです。下書きが尽きたら、また少し休もうかと思います。
第25話 呼び出し
復讐は終わった。がしかし、その代償として私はヘリを一機と部下を二名失った。死者は一名、三号ことサイファー・シース。兵員室の右側に座っていたため、右翼武装の爆発により内側に吹き飛んだ外部装甲に頸動脈と多数の臓器を傷つけられ死亡。部下が一通りの蘇生措置を試みたが、効果がなく十二時二十五分。死亡が確認された。
再起不能者一名、二号ことパトリック・ジグ。爆発した計器のカバーガラスが右目に刺さり失明。割れたキャノピーが右腕を深く切り裂き神経を切断されていて、右腕はもう使い物にならないだろうという話を先ほど病院からの電話で聞いた。意識はまだ戻らないそうだ。出血と、私が無茶をさせたせいかヘリを不時着させた直後から意識がなかったらしい。再起不能と決まったわけではないが、おそらく困難だろうというのが医者の話だ。
一号と四号は軽い火傷と裂傷、打撲。軽傷なので今後も訓練や任務もできるだろうが……しばらくは訓練中止。出勤はさせるが、休ませるつもりだ。私の処分がどうなるかもまだ聞いていない。
ヘリは左翼に吊るされていた無事な武装のみを取り外し、あとはスクラップとして廃棄処分することになった。
「……なあ、隊長」
「……」
一号が、冷たいアルミのベッドに横たわる三号を前にしてつぶやく。
「サイファーはな、良い奴だったんだ……訓練が終わって飲みに行ったらいつも彼女とのノロケ話を聞かせてくれてた」
「私の判断の招いた結果だ。責めたければ責めろ」
「ああ、じゃあ!」
巨大な拳が私の顔を正面から殴りつけ、体が床に倒れる。怒る理由は尤もだ。誰にも教えていないが、奴らが脱走したのは私がスカリエッティと取引したから。奴らを脱走させ、私に復讐の機会を与えてくれる代わりに奴の頼みを聞く。つまり、私が全ての原因。殴られるだけの理由はある。
二メートルに迫る巨体に体を持ち上げられ、睨みつけられながら呪いの言葉を吐かれる。
「あんたがあそこで追わなけりゃサイファーは死なずに済んだ!」
「その通り。私の責任だ」
「やめなさい一号! 隊長は管理局員として当然の事をした、それを責めるのは間違いだ」
「それでもあいつが死んだことには変わりねえ」
「いいかげんにしろ! 責任は犯罪者をむざむざと逃した奴らにあって、隊長に非はない!」
事情を知らないというのは素晴らしい。素直に批難を受け入れる他ないのだが。さすがに犯罪者と取引をしてあの糞野郎を逃させたとは言えないので黙っているが、責められるのは当然だ。
「スマン隊長……取り乱した。隊長はキッチリ仇も討ってくれたのに」
「気にするな。仲間が死んだんだ。動揺するのは仕方ない」
今まではずっと裏方で雑用をしていたそうだし、仲間の死とは無縁だったろう。始めてのことを前にして冷静ではいられる人間は少ないから仕方ない。そう思いつつ、私を持ち上げる手を叩いて離させる。
「隊長は、随分落ち着いてるように見えるが」
「家族を皆殺しにされたからな」
それに加えて、ここに来るまでにやっていた仕事が仕事だ。部下が死ぬのは始めてだが、仲間の死というものなら何度も経験している。もちろん辛さも多少はあるが、それよりもまだ仇を討てたことに対する幸福感の方が強い。顔にも声にも出さないが、まだ蛇は魔力を吐き出し続けている。
「……そういや、そうだったな」
「私は書かなければいけない書類がある。壊れたヘリの分と、二号三号の分。三号には葬式の用意だ……本部の偉いさんにも何人か出てもらうから、それも頼んで回る。忙しいんだ」
遺体安置所から、一人だけで出て行く。重苦しい雰囲気とは裏腹に、シュッと軽い音を立てて開いたドアを潜る。その先には、八神はやてとその他数名。全員深刻な顔をして、こちらを見ている。
「……今回の件は、残念やった」
無視して廊下を進む。形式だけの挨拶ならば、三号の慰めにもならないだろう。それにやることもある。今夜の内に終わらせなければ、明日の葬式は間に合わない。
「待ってや」
「忙しいので、始末の話は後にしていただけますか」
「そうやない。また違う話や。ちょっと気になる事があってな。今日の正午に逃げ出した犯罪者五人は全員あんたの仇。ほんで、あんたはその五人が出る前……ちょうど昼前にヘリを飛ばして、刑務所のある西へ進路を取った。まるで脱走することを知っとったみたいに」
「……二佐」
襟首を掴んで引き寄せて、言葉を浴びせかける。彼女の言ったことは事実だが、それでも嘘を突き通すためには取り乱したフリをしなければならない。ここで知っていたと暴露できればその手間も省けるが……どういうルートで知ったとか、誰から教えてもらったとか。そういった事はどんな細かい事でも聞かれるだろう。
だから、ここは感情に任せて暴走するフリをして嘘をついた方が事が楽に済む。
「……確かに逃げ出した犯罪者五名は私の家族の仇だった。確かに私はヘリを昼前に飛ばし、北西へ進路を取った。だがそれは偶然だ。第一、あのクソどもが脱走するなんて事を私がどうやって知ったっていうんだ。証拠はどこにある。それともあんたほどバックに力がある人間なら、無茶な言いがかりも許されるのか? そうなんだろう? そうなんだな? 権力に物を言わせて、自分たちよりも活躍する奴らに嫌がらせをするのは楽しいか? 嫌がらせをするくらいなら最初から部隊を併合するなこのクソアマ」
外見も内面も怒りの炎が轟々と燃えているように演技をして、相手を批難する。私は悪くないと、そう主張する。我ながら迫真の演技だ、普通の生活を送っていたなら俳優にでもなれたかもしれない。
さすがに八神はやての言ったことが言ったことなので、取り巻き三人も止めはしない。
「……そうか、それならええんや。ごめんな、辛いところに変なこと言って」
「もう用事がないなら、これで失礼する」
掴みあげていた彼女を降ろして、彼女に群がる他の奴らを放って廊下を進む。ある程度離れて、多少声を出しても聞こえないくらいの距離に着いたので、通信用の端末を取り出してレジアス中将につなぐ。事が終わってから真っ先に詳しい報告を刷るべきだったのだが、一応私も病院にかかっていたから報告をする暇がなかった。
「こんばんは中将」
『先に報告は届いている。貴様の部下のことは、残念だったな』
いつも通りの低く平坦な声。本当に私の部下の死を悼んでいるのだろうか。それとも換えの効く戦力の、換えの効く人材が欠けたという認識なのだろうか。
どちらにせよ、もう私には関係がないことだ。今回の件で、責任を取らされて辞職へ追い込まれるのは目に見えている。これで私も晴れて追われる身になるのだろう。
「はい。その事で、明日の葬式には中将にも是非参列していただきたいのですが」
『ああ、元からそのつもりだ』
「ありがとうございます。では、これで」
『待て。こちらからも用事がある。海と空の奴ら、陸が活躍したことがどうも気に食わないらしくてな。犯人を皆殺しにした件についてと、現場に残っていたSSランクに匹敵する魔力残渣について質問するらしい。まあ、形式上は呼び出しての質問だが中身は尋問だ』
「……いつからでしょう」
『今晩だ。すぐに地上本部へ来い』
「書類は」
『急がなくとも構わない。葬式の手続きはこちらでしておく』
「わかりました。では、これからそちらへ向かいます」
通話を切り、今度は駐車場へ向かう。ほんの短い期間だが、この機動六課での戦闘経験は非常に大きな収穫だった。勝てる相手と勝てない相手の見極めもついたし、それぞれの精神面の弱点もある程度把握できた。実際の戦闘時と模擬戦時の映像データも一応デバイスに移してある。スカリエッティへ渡す手土産としては、悪くないものだろう。
まあ、渡す前に殺される可能性もあるのだが。これまで公表されたら管理局が傾きかねない情報を握った人間を何人か処分してきた。そういう奴ら同様に、私も色々なことを知りすぎている。そんな人間を首輪も付けず野放しにはできないだろう。今まで私がしてきたように、追手を差し向けられる可能性は非常に高い。果たして、それまでに合流できるのだろうか。