オリ主が逝くリリカルなのはsts   作:からすにこふ2世

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仇討
第1話


 

 蛇と呼ばれるロストロギアを腕に宿してから一週間ほど。ようやくいろいろな検査から開放されてわかったことは、こいつは待機状態だと血肉に溶けて宿主と一体化しているため、外科的手術で取り出すのは不可能ということ。実体化させて遠くに引き離したとしても、戻ってくるということ。あとは、宿主の意思に従って形を作る。銃のような複雑な形は無理だが、剣の形を思い浮かべれば剣に。槍の形を思い浮かべれば槍になる。最後に、食わせる感情は激しければ激しいほど強い魔力を吐き出すということがわかった。この特性はどれだけひねり出したとしてもせいぜいDランク程度の魔力しか無い私には非常に都合がいい。感情をコントロールするのは得意だし。あとは、何も持っていない状態からいきなり槍や剣を出して、相手を驚かせて殺すとか。使い道は色々とあるだろう。

 

 まあ、そんなことは過去の話で今現在。賄賂コネゴマすり汚れ仕事等等、何年もかけて多くの準備をし、そして紆余曲折の果て。試験的かつ多くの条件の下、小隊規模の部隊と、陸の敷地内にプレハブの隊舎を持つことを許された……つまりは、今までの汚れ仕事からは解放されて、ようやく公的な立場を手に入れたということになる。

 設立の明文は最近増えているガジェットへの効果的な攻撃手段の確保、非魔導師の有効戦力化による人手不足の解消。頑固な中将についに認めさせたのだ。

 

 

 ……が、配属されたメンバーはたった三人。人員の不足している陸で三人も確保できたこと自体奇跡的なのだが、せめて十人は欲しかった。どこぞの課はエリートまたはその卵ばかりでこの数倍以上の規模だと言うのに、ひどい格差だ。まあ、文句を言っても始まらないしさっさと話を進めよう。時間は無限ではない。この見るからに肉体労働してましたというような筋肉野郎共を指揮するのはきっと楽だろう。脳みそまで筋肉で出来てるなら、シンプルに傷めつけてどちらが上かを認めさせるだけでいい。あとは命令をきちんと聞いて、銃器をそれなりに扱えるよう教育すれば、インスタント兵士のできあがり。

 

「始めまして。私の名前はオズワルド。この質量兵器運用小隊の隊長であり、階級は准尉。諸君には試験的に設立された質量兵器運用小隊のメンバーとして、質量兵器の運用、戦闘、整備方法を学んでもらう」

 

 各自のテーブルに座り、見るからに嫌そうな顔をしてこちらを睨む男が三名。まあ予想通りの反応だ。言うことを聞かないのならば叩きのめしてでも命令を聞いてもらう。訓練をするにも教育をするにも、まずは言うことを聞いてもらえなくては困る。

 

「当然ながら君たちは私の指揮下に入るため、命令には従ってもらう。若造の命令が聞けるか! 自分より若いくせに階級が高いとは許せん! とか、そういう不満がある奴は立て」

 

 そう言ってから起立したのは、三名中三名。つまり全員。これもまあ、予想通りと言ったら予想通り。一人くらい柔軟な考えができる奴が居るかと思ったが、幸い体は大体できているようだから、あとは少し整えて技術を教えて命令には服従するように調教するだけで済む。楽に行こう、この部隊を戦えるように仕上げることが目的ではないのだし。私の管理局での地位をより強固なものとするための足がかりとして設立したのだ。

 

「一人一人かかって来いとは言わない。世間知らずのガキに躾をするつもりで、全員でかかってこい」

「いや、お前のようなガキ一人に何人もいらねえ。俺一人で十分だ…ま、一発なら殴らせてやるよ。かかって来な、クソガキ」

 

 威圧のつもりか、指をボキボキと鳴らしながらこちらに歩み寄る。しかし宣言通り先に一発殴られるつもりなのかとても隙だらけ。ある管理外世界では子供ですら爆弾を抱えたり機銃を撃ちながら敵に特攻する事もあるらしいのに、相手を見た目で判断するとは、全く平和ボケにも程がある。

 間合いに入ったところで、床を蹴り、首へフェイントとして右の拳を向ける。それを掴もうと手を伸ばされるが、本命は違う。直前で踏みとどまり、足を振り上げ股間を蹴り上げる。もちろん相手は将来の部下なので、潰れない程度に手加減はしてある。

 

「!!!!!」

 

そして声にならない悲鳴を上げつつ股間を抑えて地面を転げ回る筋肉ダルマ。いくら図体がでかくても、いくら筋肉の鎧で体を守っていても、人間急所を狙われればこんなものだ。痛みには勝てない。

 

「お前、それでも男か!?」

 

 さきほどの行動を見ていた残り二人の内、髪のやや長い方。隊員Bとしようか、そいつが私のことを非難する。しかしその非難はおかしい、勝つためには手段を選ばないというのが正しいのに、なぜ非難されなければならない。潰れないよう手加減までしたのに。

 

「このように相手がデバイスを展開していない魔導師なら、先制攻撃で一撃で行動不能に追い込むことが重要だ。正々堂々正面からの殴り合いなんて、馬鹿にやらせておけ」

 

 手段を選ばずに戦って結果負けたら非難されてしかるべきだが。しかしこうして私は立っている。つまり私は正しい。備品に被害も出なかったし、文句無しの成果だと言えるだろう。

 

「さて。他にやりたい奴は」

 

 方法はどうであれ、できる限り一撃で行動不能に陥らせるのが戦闘では正しいのだ。地力による差が大きい斬り合い、殴り合い、撃ち合いは非合理的。奇襲かアウトレンジからの攻撃で相手に準備を整える暇を与えず、初撃で仕留めるか、最悪でも動きを鈍らせ、二撃目で絶対に相手を仕留める。それが非魔導師が魔導師を打ち倒す最も確実な方法だ。

 

「いや、遠慮する。まだ独身なのに子を作れなくなるのはちょっとな」

「まだ若いのに恐ろしいな……」

 

 なんだ、来ないのか。つまらない奴らだ。まあいい、あとは質量兵器を扱うために必要な書類にサインをさせて、それからこいつらの訓練をしよう。銃種類や構え方、撃ち方、弾の込め方、リロード、メンテナンスなどなどを教えなければいけなくなるので、これから忙しくなるはずだ。面倒だが、どれも管理局で奴らに仕返しをする基盤作りのためだ。手抜きはできない。

 

「いい判断だ。無駄な手間が増えるのは面倒なだけでよくないからな……では、まずは自分のテーブルにある書類にサインして印鑑を押してくれ。質量兵器を扱うために必要な書類だ」

 

 質量兵器はほとんどの人間の所持、使用が禁止されている代物だけあり、本来なら面接や精神鑑定、教習や筆記試験などいくつもの面倒な手続きを踏まなければ使用は愚か所持すらさせてもらえない。それを中将に頼んでその権限というか威光というか……そんなもので可能な限り簡略化して、その結果が書類一枚へのサインと印鑑となる。

 

「でもよ、ナイフや鉄パイプならともかく質量兵器なんて俺たち扱ったこと無いぜ?」

 

 ナイフや鉄パイプ。学生くらいの頃には不良でもしていたのだろうか。

 

「誰でも最初は素人だ。そこからの伸びは本人の努力と才能次第。才能がなくても、ある程度は訓練次第でどうにでもなる。死ぬ気で訓練すれば、才能があっても努力しない奴になら勝てるようにはなる」

 

 エースと呼ばれる人達はその名に恥じぬだけの努力をしているらしいが、その他中の上、上の下程度ならあまり努力をしていないことがほとんどと聞いている。努力の量と武器の性能があれば、ある程度のハンディキャップなど埋められるはずだ。無論、努力なんて無意味で、どうしようもない相手も世の中には居るだろうが。

 

「俺たちが質量兵器なんて持ったところで、低ランクはともかく高ランクは落とせないんじゃないかね」

「素晴らしい疑問だ。貴様の言う通りいくら我々非魔導師が質量兵器で武装し、厚い防弾ジャケットを着込んだとしても、そんな防御手段は魔導師から放たれる砲撃や強烈な近接攻撃の前には卵の殻のように脆く頼りない。せいぜい無いよりはマシ程度のものでしかないだろう。銃にしてもそうだ。目で追えるか追えないかくらいの高速で動き回る相手にそうそう当てられるものでもない。そしていくら強力でも当たらなければ意味がない。厚い鉄板よりもさらに頑丈な障壁を張る魔導師には当たっても貫通せず、有効打とはならない。ならどうする、金的」

 

 足下で未だに蹲っている筋肉ダルマに声をかける。さっき卑怯な手段にやられたこいつなら多少はわかるはずだ。わからなければ今度は玉を片方潰す。スパルタ路線で行くと決めているのだし、苦情は受け付けない。

 

「……」

「おい」

 

 頭を何度か軽く蹴るが、反応がない。

 

「なんだ、気絶してるのか。情けない。他にわかる奴はいるか」

「速い奴には当たる物を。硬い奴には貫通力のある物を使う」

 

 今度は左側に座っていた比較的長髪のメガネをかけた美男子。体はやけに筋肉でガチガチのアンバランスさが実にシュールな部下が声を出す。

 

「百点だ。褒美に今日の射撃訓練で、一番に銃を撃たせてやる。あとはそうだな。万一失敗したら一度引いて、他の魔導師連中に任せろ。で、戦闘に夢中になってるところをまたねらえ。それが一番確実で被害も少なく、安上がりで、簡単に手柄も立てられる。美味しいところを持って行かれたと嫌われるだろうが、聞く耳を持つな」

 

 と、一通り言いたいことも言ったので今度は訓練にでも移ろうか。銃はもう用意してある。ひとまずは、それからだ。


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