オリ主が逝くリリカルなのはsts   作:からすにこふ2世

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よく来てくれた。残念だが主人公とはやては性行為などしていない。

だまして悪いが、原作が全年齢向けなんでな。諦めてもらおう。


人間らしさ
第30話 感情


 結局、食事が終わってもまだ言うことは変わらなかった。むしろ酒が入ったせいでより言動が過激になり、とてもではないがお茶の間には放送出来ないような言葉を吐き出すだけでは飽きたらず、場所も弁えずに服を脱ぎだす始末。とりあえずどんどん酒を注文して。出てきた端から飲ませて酔い潰させ。誤解されないよう店員に説明して後を任せて、はやての財布から金を抜き取り会計を済ませて帰宅した。その後はまとめていた荷物を持ってスカリエッティの拠点へと連れて行かれた。

 説明するとこれだけだ。八神はやてとは一切、何もなかった。酔い潰させた直後には、色々な事を天秤にかけて『そういうこと』をしようかとも思ったが、できなかった。次善の策として、意識がない事をいいことにスカリエッティの所へ拉致しようかとも思ったが、一応彼女には『借り』があるのでやめておいた。

 

「ふむ、案外つまらない男なのだね。君は」

 

 私の口から、事の一部始終を聞いたスカリエッティはそう言った。その後ろには、生体ポッドに入った私の妹が。いつの間に連れてきたのか、と聞くのは無粋だろう。私を縛り付けるなら、妹を人質に取るのが一番手っ取り早い。狂っているとはいえ、たった一人の私の家族だ。見捨てることなど、できるはずがない。

 また、治療の面から考えてもなかなか合理的だ。治療をするなら、患者が一体どのような状態なのか。どのような症状があり、どのような障害があるのかを調べる必要がある。手元に置くのは間違っていない。

 

「反論はしない」

 

 つまらない、という評価に対して反論するつもりもない。そもそも、私にそういうことを期待する方が間違っている。私はコイツの言うとおり、つまらない男なのだ。少し前まで第三者から見る分には滑稽な復讐者だったが、今の私は復讐も終えて抜け殻に近い。妹に関しては、期待はしているが……妹を見て治療よりも先に人質という単語が思い浮かんだことから考えるに、期待もそこまで大きくはないのだろう。

 

「まあ何にせよ。歓迎するよ、ハンク・オズワルド君……本名ではないが、こちらで呼ばれる方が慣れているだろう?」

「まあな。歓迎するなら周りのガジェットと、戦闘機人を退かしてくれるか」

 

 大量のガジェットと、武器こそ出していないものの、私を警戒した目つきで見る数人の戦闘機人。これでは安心して話もできない。

 

「なら懐に入れている武器を出してくれるかい? いくら私でも武器を隠し持った人間が相手だと、怖くて握手を求められない」

 

 言われるとおりに懐へ入れていた拳銃を取り出し、安全装置をかけて地面に置く。 

 どうせ銃を出しても撃つ前に殺されるのだし、わざわざ出させる意味もないと思うのだが。あと銃がなくてもロストロギアがあるのだし、拳銃だけ置いても武装していることには変わりない。それでもこれからの上司だ、意味がわからなくても命令には従うべきだろう。今後のためにも、妹のためにも。

 

「それでいい。さあ、握手をしよう」

 

 差し出された手の内側にキラリと光る物が見えたので、手首を掴んで捻り上げる。その直後に戦闘機人によって地面へ叩きつけられ、さらに身動きができないように腕を掴んだままのしかかられた。

 確認できたのは一瞬だったが、スカリエッティの持っていた物が何だったのかはわかった。光っていた物は、針だ。指の間に挟まれた、とても小さな針。暗殺では針に毒を塗って握手するという手口は割りと有名な部類に入るので、いつもの癖で警戒していなければ見逃していただろう。

 

「トーレ、離すんだ」

「わかりました」

 

 上から抑えられていた力が消えたので、両手を頭の上に上げて敵意が無いことをアピールしながら、ゆっくりと立ち上がる。確かここに居るのは、私の記憶する限り全員細い女性らしい体型だったが、それからは考えられないほど重かった。まるで鉄の塊にのしかかられたような重さだった。

 女性の体重についてどうこう言うのは一般的に失礼と言われているので、口には出さないが。

 

「警戒心もまずまずと」

「テストのつもりか」

「その通り」

 

 随分と温いテストだ。まあ、私にはその程度の役割くらいしか求められていないのだろう。

 

「それで、私は合格か?」

「合格だよ。戦力に不安があるが、それは君には求めていない。君に求めるのは、機動六課との接点を使った諜報と後方撹乱。そして、切り札としての役目だ。君が彼ら、あるいは彼女らの前に出れば確実に隙を生む。それは非常に大きなものとなるだろう。攻めるときにも、退くときにも」

「なるほど」

 

 相手を殺す、倒すには、隙を突くのが一番安全で確実だ。その隙を作るには動揺を誘うのも一つの手。戦闘の基本だ。そして私はその隙を作り出すための材料と。私の考えていたことと何ら変わらない。

 

「君は普段と同じように生活して、私から連絡があった時に来てくれればそれでいい。ただ、裏切らないように監視は付けさせてもらうがね。セイン」

「そういうこと。まーよろしく」

 

 どうも、彼女が監視役になるらしい。確かに監視するなら彼女が適任かもしれない。地面や壁に潜っていればどこで話を聞いているかわからないし、迂闊なことは言えない。監視が邪魔になって殺そうとしても、一撃で仕留められなければ地面に潜って逃げられる。私が能力を把握している戦闘機人はチンクとセインのみだし、新たに手札を公開せずに済むと。よく考えている。

 しかし私も過大評価されたものだ。妹を人質に取られている時点で裏切れるはずもないのに、さらに監視までつけるとは。

 

「それで、帰っていいのか?」

「まだ話すことがある。君の体……正確にはロストロギアについてだ」

 

 ……この体質も伝わっていたか。まあ、そうだよな。こいつなら病院の端末に侵入してデータを抜き出すことくらい造作も無いだろう。

 

「かなり衝撃的だと思うが、ハッキリと言わせてもらうよ。君自身がロストロギアになっている」

「……」

 

 あまり驚かない。自分の体が変化しているのは度重なる負傷で痛感しているので、今更それがどうしたという感じだ。

 

「驚きで声が出ないのか、それとも前々から自覚があったのか。どちらだね?」

「自覚ならあった」

「なら話は速い。仮設を立ててみたのだが、聞きたいかな?」

「……教えてくれ」

 

 正直どうでもいい、とは言えない。言ってもどうせ説明するだろうから無駄だ。

 

「君の持つロストロギア……『蛇』だったか。それは感情を餌にして活動する。だが君の立ち振舞を見ていると、どうも感情の起伏があまり見られない。全くないわけではないのだが、一般のそれと比べると遙かに少ない。つまりは餌が少ないわけだ」

「それで、腹を空かした蛇が耐えかねて宿主を食っていると」

「そうだ。肉体が損傷しても恐ろしい速度で回復するのは、体がロストロギアと一体化したせいだろう。あと一歩進行すれば感情を生み出す脳まで食われて自我が消えてなくなり、ただ感情を生み出すだけの機械に成り果てるところだった。意識が消えてないのは、食われる直前で食べきれない量の餌を与えられたからだろうね。まあ、それを食べ終わるまで進行することはないだろう」

 

 あとすこし復讐が遅れていたら、私は私でなくなっていたということか。しかし、与えた餌は一体いつまで持つのだろう。妹が治るまでは持ってほしいものだが。

 

「安心したまえ、君が感情を抑えなければ進行することはまず無い。無理というなら私が幸せになれる薬を渡そう。君の替えは居ないのだから、潰れてもらっては困る」

 

 幸せになれる薬。おそらく麻薬か、それに類似した薬品だろう。使えばきっと正気ではいられなくなる。それが嫌なら『人間らしく』感情を抑えず生活しろと……私としてはそれほど抑えていたつもりは無かったのだが、他人から見たら抑えているように見えると。

 まあ、少しとはいえ意識して抑えてきたのだから、意識しなければ問題ないだろう。

 

「それに、マトモに戻った君の妹の気持ちを考えて見給え。兄が正気じゃなかったら辛いだろう? 治した所で喜んでもらえなければ治し甲斐もない」

「……わかった。努力しよう」

 

 人間らしく。人間らしく……人間らしくないとまで言われるようになってしまった事に文句はない。そもそも私の人間性は五年前のあの拷問で大きく抉られたのだから。それから五年も経てば傷もふさがり、回復する。

 だがエリィの記憶はあの事件で止まっている。あの事件のまま傷は癒えずに、あの事件の前の私しか知らない。治ってからきちんと私を兄として認識してくれるだろうか、少し不安だ。

 

 それを不安と感じるのは、自分で感情の制御を止めたから。これからは、今まで考えないようにしてきた事も考えてしまうようになるだろうが、それが人間らしさというものなのだろう。




この章からは主人公の人間らしいところを前面に押し出していきます。これからは主人公が徐々に感情豊かな人間らしい人間に変わっていきます。

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