招かれざる客、というのはいつだって予想できず、唐突にやって来るものだ。
ほんの少し食料品を買いに街のショッピングモールへ出てきただけだというのに、予想だにしない遭遇があった。駐車場の代金をケチろうと数百メートルほど離れた所にある大きな駐車場にバイクを停め、そこから歩いて行こうなどと考えなければこんな事にはならなかっただろう。
「聖王教会の者です。あなたを保護しに来ました」
尾行の気配を感じて道を逸れ、路地に入ると同時に、数人の男に囲まれた。背後からも足音が聞こえるので、おそらく囲まれた。とりあえずロストロギアを起動して相手の感情を覗いたが、猜疑心と警戒心を感じさせる赤色混じりの黄色の靄が男たちを覆っている。保護をしに来たのならば、そんな感情を抱くはずがない。
湧き上がってきた不快感を隠しもせずに、言葉を吐き出す。
「複数人で囲って、保護をしに来たとは到底信じられないな」
いつも通りデバイスを介さずに身体強化をかける。それに気づいた相手がデバイスを起動し、それぞれの得物を手にし、さらに敵意のこもった視線で私を見る。やはり、保護をしに来たというのは嘘だったようだ。おそらくこいつらは、管理局の猟犬部隊。もし本当に教会の人間でも、捕まったら最後。管理局に引き渡されるだろう。
「何が何でも連れて来いという話なので、できれば武装解除して投降してもらいたい」
大人しく投降しても、誰かに情報を漏らしていないか尋問されて、それから殺されるのだろう。しかし抵抗すればこの場で殺されると。私にこの数の差をひっくり返すほどの実力はないので、この場をどう切り抜けるべきか。左右はコンクリートの壁で、前は塞がれているし、後ろも同じく。なら上は? 上を見上げても何も無い。左右の壁の高さは十数メートルほど。多分いけるだろう。ナイフの形で出していた蛇を消して、武装を解除。ほんの僅かだが重量を軽減。
一度しゃがみ込むと、それを投降の意思表明とみなしたのか安堵した表情を浮かべる男たち。折りたたんだ脚をバネにして、全力で飛び上がる。一気に十メートルほど飛べたが、このままでは落ちるだけ。そこで、もう一度壁を足場にして跳ぶ。地面を蹴るのとはわけが違うのでそれほど高くは飛べなかったが、それでも建物の屋上に手が届いた。片手で体を持ち上げて、そのまま屋上に登る。
「逃げられた!」
下から声が響く。とりあえず、屋上を走って隣のビルへ飛び移る。そしてまた助走をつけて飛び。それを繰り返して、先ほど居た場所から一気に離れていく。仕事でもないのにわざわざリスクを犯して戦う必要など無い。私のような弱い輩が生き残るには、苦戦する、あるいは勝てない相手と戦わないことが一番だ。
そしてビルの上を跳ね回り続け、やがては郊外の大きな空き地へと到着した。ここまで来れば大丈夫だろうと足を止めると、急に地面に影が現れたのですぐにその場を飛び退く。すると地面が炸裂した。正確には炸裂したのではなく、上から降ってきた何かの衝撃に耐え切れずにコンクリートが砕けたのだが。動いていなければきっと頭から叩き潰されて行動不能になっていただろう。
「……」
蛇を大剣の形で出して、間合いを掴ませないように後ろへ倒して持つ。さらに身体強化に全魔力を注ぎ、臨戦態勢を取る。煙が晴れると、そこにはトンファーのような武器を構えた女性が居た。纏う靄の色は赤。感情は読めないが、攻撃色だ。どこかで見たことがあるような顔だが、果たしてどこだったか。
とりあえずこいつが新たな追手なのだろう。問答無用で攻撃を仕掛けてきたし……眼球だけを動かして周囲を見渡してみるが、敵の姿はなし。
他に敵が居ないことを確認した後で、敵の戦力を予想する。
単独行動をするのは、実力がありすぎてついてこれる他人が居ない奴か、あるいは実力を過信するあまり連携ができないやつか。おそらくは、前者。実力は私よりもずっと上だろう。この開けた場所で逃げるのは多分無理だ。おまけに攻められたら負ける。なら、ペースに飲まれる前にこちらから攻めていくべきだろう。
拳銃を引き抜いて、同時に発砲。
「っつぅ!?」
顔面に命中するも、有効打にはなっていない様子。だが隙はできた。拳銃を投げ捨て、地面を這うような低い姿勢で前進し、一歩で間合いに入り込む。そして両手で剣を持ち、真横に振って足を狙う。このタイミングで、狙う場所が場所だ。ガードは不可能。
となれば、次に取る行動は回避に絞られる。後ろに跳んで避けられたが、瞬時に長い槍の形を思い浮かべる。
「シィ!」
足を踏み出し、呼気と共に喉を狙った突きを繰り出す。その瞬間には蛇が鋭い槍に変わり、相手の喉元に迫る。
「くっ!」
ガン、と固い物を叩いた音が響く。トンファについた広い刃の腹で受け止められてしまった。すぐに腕を引き、ニの突きをその持ち手へ打ち込むも打ち払われ、今度はしっかりと間合いを置かれる。あの一瞬で、驚きながらもガード、追撃を叩き落すのは相当な技量の証拠。奇襲くらいしか勝つためのカードが無い私に勝てる相手ではなさそうだ……しかし、私の思い出す限り猟犬部隊にはこんなに腕の立つ人間は居なかったと記憶する。そうそう新人が追加されるような部所でもない、もしかして、こいつは本当に聖王教会の人間なのだろうか……
「……思い出した」
むしろなぜさっきまで思い出せなかったのか不思議に思う。これだけ特徴的な武器を持つ人間なんてそう居ないはずなのに、どうして思い出せなかったのだろう。それなら、いくら抵抗したとしても私が勝てる道理はないはずだ。蛇を体の中に戻し、腕をだらりと下げておく。
「何ですか? 急に武装を解除して」
だが、安心はできない。できようはずがない。聖王教会と管理局は深い関係にあるのだ。管理局が教会に私の始末を頼んでも、別におかしいことではない。それに教会には記憶を覗けるということで有名な査察官が居る。管理局の弱みを握るために記憶を覗かれたら、ついでに私がスカリエッティと協力関係にあるという事実まで知られるだろう。そうなれば、犯罪者として処刑されるのは間違いない。
もし本当に保護が目的だとして、保護という名の拘束をされればスカリエッティの望む諜報活動はできない。
「勝てないとわかりきってる相手と、なんで戦わなきゃならない」
逃走に必要なのは、追いつかれないための足。そして一瞬の隙。足を手に入れるには、より強い身体強化が必要になる。そのためには多くの魔力が必要になる。幸いにも復讐達成時の感情はとてつもなく大きく、まさにロストロギアと呼ぶにふさわしい魔力を蛇は蓄えている。
だが、こんな下らないところで使うべきではない。もっと使うべき時がいずれ来る。なので、今は新しく感情を作り出し、陸戦Dの限界程度の強化に留めておく。
「……はぁ、なら最初から抵抗しないでください。それ以前になんで逃げたんですか」
「屠殺場へ送られる豚が、自分が死ぬとわかっていて大人しくトラックに乗り込むだろうか」
「シスター・カリムの命令で、あなたを保護するために来たんです。殺そうなんて思ってません」
「保護という名目で安心させて捕まえて、その後に管理局へ引き渡すつもりだろう。汚い金か、地位と引き換えでな」
死ぬのは怖い。理不尽な殺され方をするのは腹が立つ。治った妹を見られないのは悲しい……無理に創りだした感情なので純度は低いが、量としては十分。生み出された魔力を片っ端から身体強化に回す。後は会話で挑発し、隙を作り出して市街地に再度逃げ込めば追ってこれない。
「侮辱しないでください、私はそんな卑怯な真似はしません」
「そうするよう上司に命令されたらどうする。拒否したら処罰されるとわかっていても、拒否できるか?」
「騎士カリムはそのような事を命令する方ではありません」
「それを話された所で、信じるか信じないかは私次第だ。いきなり攻撃してきた相手の言うことを信じられると思うか?」
だが、これは参った。隙が全く見当たらない。それどころか……やや不機嫌そうにも見える。少し挑発が過ぎたようだ、これはまずい。
「信じてもらえないなら、信じさせればいいことです!」
先ほど私がしたように一歩で懐へ潜り込まれ、そのトンファーを私の胸に向かって突き出してきた。。
おそらく相手は、殺すつもりはないだろう。情報を引き出す前に、あるいは管理局に引き渡す前に殺してしまっては意味が無い。従って、攻撃は非殺傷。当たっても問題ないが、戦闘能力の低下は避けられない。
「スネークバインド!」
両手の間に蛇を出して一瞬だけ受け止め、その一瞬で膝で相手の顔を蹴り飛ばす。が、こちらも衝撃を受け止めきれずに後方へ吹き飛ばされる。痛みはないが、肺の空気をほとんど吐き出してしまった。息を吸う暇も与えられずに、追撃がかけられる。まず左から顔を狙った一撃。それを蛇を巻きつけた腕で受け止め、さらに蛇を巻きつかせて自分の腕と固定する。右から来る剣は相手の上腕を掴んで強引に止める。一発二発ならなんとか凌げる、この状態を崩してはいけない。今までのはただの様子見だ、本気を出せばもっと恐ろしいスピードのラッシュが待っている。
「なかなか、やりますね!」
「……」
一息吸込み、歯を食いしばり、腕に力を入れ続けて膠着状態を保つ……復讐の時なら、押し切るどころか身体能力だけで圧倒できただろうに。歯がゆいところだ……だが、このままの状態が続いても増援が来たら終わる。いつまでもこの状態ではいられないか……セインを呼べば逃げられるだろうが、それではスカリエッティと繋がっていると公言するようなもの。それこそ最後の手段だ。
「でも私には勝てませんよ!」
蛇が引きちぎられ、それと連動するように腕の肉がちぎれる。戸惑った一瞬を突かれて掴んでいた左手も振り払われ、完全に無防備な状態になる。
「これで!!」
「炸裂しろ!」
右手で顔をかばい、強化に回していた魔力の一部を単純な魔力爆発として私と彼女の間で起こす。だがそれにも怯まず、爆発の中を剣が突き出て、衝撃だけが胸を貫く。
「っ!」
「おしまいです!」
さらにもう一発が左から私の頭を、野球のボールのように叩きつけ、その衝撃で地面へ体が投げ出される。
「ぐぁっ!」
非殺傷とはいえ、デバイスは金属の塊。そんなもので全力で頭と胸を殴られれば、脳が揺れるし、呼吸ができなくなる。痛みはなくとも、体を動かせない。
「っ……」
腕は動かせるが、視界が歪んでいるし、足に力が入らず立ち上がれない。落ちている拳銃に手を伸ばすが、その銃も拾い上げられる。苦し紛れに蛇を出して捕らえようとするが、踏み潰されておしまいだった。
「まだ意識があるのですか…ですが、そのダメージではしばらく動けないでしょうし。丁度いいでしょう」
……やはり、最初から逃げておけばよかった。能力に差がありすぎる。単純な肉体能力も、技術も……おそらくは、踏んできた場数も私を超えているだろう。勝てる道理もないのに挑んで、このザマか。情けない。
「私達は、あなたを管理局に引き渡したりはしません。この腕に誓います」
「……信じ、られるか」
ようやく息を吸うことができた……全く、この体質は便利なものだ。もう少ししたら動けるようになるだろうが、逃げられはしないだろう。
「人は皆嘘つきだ」
「嘘はついてません」
ゆっくりと起き上がる……足元がわずかにふらつくが、戦闘続行は可能。勝率はゼロ。だが、私にも意地がある。どうせ殺されるなら、できることを全てやってから殺される。
「嘘つきは皆そう言う」
「嘘つきでなくてもそう言います……次で気絶してくださいよ、私も人を傷めつけて喜ぶ趣味はありませんから」
相手が構えを取ったので、私も蛇を拳に纏わせて、強度を上げる。その拳を引いて、構える。
「……」
「……」
目が合った瞬間には、もう相手は眼の前で、剣は眼の前。防ぎも避けもせず、それに合わせて体をひねりながら全力の拳を相手の顔に打ち込む。私の拳が一瞬だけ速く当たって、肉を打つ感覚が伝わってきた。
だがその直後にお返しと言わんばかりの鉄塊が顔面に衝突し、そのまま意識を刈り取られた。
そういえば、設定とか何も出してなかった。今更ながらに適当な事を出しておこう。
主人公
ハンク・オズワルド
容姿 金に近い茶髪、茶目。容姿は並。褒める所もないが貶す所もない。
身長170cm程度。非常に引き締まった肉体をしている。
魔導師ランク 陸戦E
保有魔力量 E
使用可能魔法一覧
身体強化
爆発(威力皆無。閃光と音によるめくらまし)
戦闘方法
形状変化させた蛇、または拳による白兵戦
遠距離からの狙撃
中~近距離での銃撃
その他の魔力はデバイスがなければ一切使えない。しかし肝心のデバイスには戦闘用の魔法はインストールされていない。事務処理特化型になっている。
備考
戦闘経験多数
質量兵器運用許可証保有
質量兵器運用能力有
ロストロギア保有