オリ主が逝くリリカルなのはsts   作:からすにこふ2世

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調子に乗って書き過ぎた。今回出てくるのは腹黒カリムさんです。
原作のイメージが崩れるかもしれませんので、苦手な方はブラウザの戻るを押して下さい。

今回だけいつもの倍くらいの長さなので注意して下さい。
主人公が二人のことをシスターと呼んでいますが、格好から勝手に呼んでいるだけです。


第32話 探りあい

 まぶたの上から差し込む光に脳が刺激されて、目を開く。まず目に入ったのは見慣れぬ天井。まるで水に包まれたような抱擁感のあるベッドから起き上がり、周りを見渡す。一度深呼吸して気分を落ち着かせようとすると、病院特有の匂いはなく、芳しい花の香りが意識を刺激する。

 とりあえず確実に言えるのは、ここが自宅でもなく、病院でもなく、管理局でもないということ。病院なら病院の匂いがあるし、私に見舞いなど絶対に誰も来ないので花など添えられるはずがない。もし管理局ならこんな陽の光で快適に目覚められるはずがないのだ。起こされるとしたら、尋問のためにコンクリートか鉄製の寝心地最悪のベッドに拘束具で縛り付けられた状態で、冷水を顔にかけられるという最悪な目覚めをするはず。

 となると、残るは消去法と気絶する前の記憶で、聖王教会か。ベッドから降りてスリッパを履き、丁寧に椅子の上に畳まれて置いてあった服に袖を通す。あの戦闘でそれなりに汚れていたはずだが、綺麗に洗濯されていて、シミ一つ無い。

 もう一つ、床頭台の上に置いてある拳銃とホルスターのセットを手に取る。グリップから伝わる樹脂の冷たさが、今の状況が夢ではないことを教えてくれる。安全装置がかかっていることを確認し、マガジンを取り出す。弾丸は装填されている。スライドを引くと、キッチリ弾丸が装填されていた。私を管理局に引き渡すつもりが無いことの裏返しのようにも思えるし、私程度なら武器を取り上げずとも脅威にはならないと言われているようにも思える。

 つまり警戒は解くべきではないということ。シャツの上からホルスターを身につけ、それに銃を入れる。

 

 さて、武器を手に入れたところで今の状況を改めて確認しよう。私は教会の騎士、シャッハ・ヌエラに叩き潰されて、眼が覚めたらここに居た。日の差し込む窓に近寄ると、部屋の隅の監視カメラが目に入った。ということは、私が起きたことは既に知られているだろう。そう時間を置かずに誰か来るはずだ。

 視線を窓に戻す。はめ込み式の窓のようで開閉は不可能だが、叩いてみれば厚みはないようで、その気になれば簡単に割れるだろう。だが割って脱走した所で逃げきれるとは思っていない。少し逃げた所でまた捕まるだろう。

 

「入りますよ」

 

 コンコン、と控えめなノックの後にそう宣言され、懐に入れたばかりの拳銃を握り、部屋に一つしか無いドアへと銃口を向ける。警戒しながら開く扉を見守っていると、そこからはブロンドの長髪をたくわえた美しい女性と私を気絶させた張本人が順番に入ってきた。ちなみにシスター・シャッハは頬にガーゼを貼り、それを痛そうに擦っていた。ざまあない。

 

「申し訳ありませんっ!」

「このたびは、申し訳ありませんでした。私はなんとしても保護しなさい、と命令したのですが、私の意図と彼女の理解に食い違いがあったようで……」

 

 鬼気迫る勢いで頭を下げるシスター・シャッハと、それとは対照的に冷静に言葉を吐き出すもう一人の女性。なんとしても、というのは手段を選ばずという意味だ。どういう意図で使ったとしても、それには武力行使も含まれるのだから間違ってない。何が言いたいかというと、責任転嫁はあまり感心しないということだ。

 

「……ひとまず、今の状況についての説明を求めます。誰から私を保護するように頼まれたのですか?」

 

 心当たりは大いにある。どうせあのお節介が好きな八神はやてが私の経歴を眺めて。そして私が管理局によって殺される可能性を見出し、自分が関係を持つ聖王教会の知人に助けを求めた。大体こんなところだろうが、一応確認をしておく。予想は予想で重要だが、それは確実な情報ではない。

 

「その口ぶりだと、保護される理由には心あたりがあるようですね。私の友人である八神はやて二佐に頼まれました」

 

 予想的中といったところだな……彼女は善意の施しのつもりであれこれやっているのだろうが、そのほとんどが私への嫌がらせになっているのは見事なものだ。本当は全て知っていて、悪意を持って私に施しをしている、そう言われても納得できるほどだ。

 

「ところで、私は許してもらえるんでしょうか……」

 

 シスター・シャッハに聞かれるが、攻撃されたと言っても非殺傷設定だ。痛みを感じない私から言わせてもらうと、極端な話撫でられたのと大差ない。高町なのはに比べれば随分と軽いものだ……尤もアレは私に原因があったから許したのだが。今回も私に原因が無いわけではないが、最初の男たちがあんな物々しい雰囲気で取り囲んでこなければ逃げずに話を聞いていたはず。そう簡単に許すのも、相手がどう思うか。

 

「……」

 

 非常に情けない表情でこちらを見るシスター。見ていると、こんな奴に一方的に叩き伏せられたのかと自分も情けなくなってくる……普通の人間なら、そう思うのだろうか。どんな場面でどんな感情を抱くのか、それは本を読んで理解しているつもりだ。

 そのつもりなのだが、心の傷が癒えるにはまだしばらく時間がかかるようだ。妹のことで感情が発露することはあれども、自分のことにはまだ感情が湧いてこない。

 手首に巻き付く輪の形で蛇を出し、相手の感情を覗く。一人は表情、言動と同じく、申し訳ない、そんな感情が伝わってきた。もう一人からは、黄色の警戒色が見える。

 

「あの?」

 

 トリガーに指をかけたまま腕を下げる。

 

「許しましょう。そして、いきなり銃を向けた非礼をお許し下さい」

 

 謝罪を受け入れ、それから自分も腕と頭を下げる。しかし、頭は下げても目だけは相手に向けたまま離さない。

 

「え、そんな……いいんですか?」

「元々が私の勘違い。であればいいのですがね。こうして手厚い保護をしているのが、謝意の現れであるのか……それとも油断させるための罠なのかにより、許しを撤回することもありえます。その点は、どうなのでしょうか? カリム・グラシア」

 

 頭を上げて、視線を逸らさずに話す。私に嘘は通じない。人が嘘をつくときには必ず感情が揺れる。そして私にはその揺れを見ぬくための目がある。

 私の視線を正面から受けたカリム・グラシアの顔は変わらずとも、靄がわずかに揺れる。

 

「あなたの事ははやてからよく聞いています。ロストロギアを起動している時には、目が蛇のように変わることも……警戒は解いてくれないのですね」

 

 片方の目だけを鏡に向けると、なるほど確かに。本来白いはずの結膜は黄色く濁り、本来丸いはずの瞳孔は縦に裂けていた。だが、そんなことはどうでもいい。私は私。いくら肉体が人のものでなくなろうとも、それには変わりない。私という自我は消えていない。全く皮肉なものだ、一旦必要ないと復讐の時には押さえ込んでいた自我を、今更元に戻す必要があるとは。

 

「あなたは、私達があなたを管理局に引き渡す事を警戒している。そうシャッハから聞きました。確かに聖王教会と管理局は深い関係にあります。それはもはや常識と言ってもいいほど世界に広く知れ渡る事実。よって追われる身のあなたが私達を警戒するのは当然の事です……しかし、私が頼まれたのは管理局ではなく、一個人としての友人からです」

 

 感情の靄に揺らぎは見られない。嘘は言ってないようだが、肝心な情報が欠けている。

 

「そうですか。はやてが……。まあそれはどうでもいいです。私が聞きたいのはそれじゃない」

「っ……」

 

 ……わずかに揺れが見えた。感情を完全に殺して演技のできる相手ならば、すっかり騙されていただろう。もしも私が蛇を手に入れていなければ、すっかり騙されていただろう。巷ではその立ち振舞と美貌から聖女などと例えられることもあるが、その中身は真逆。悪女あるいは女優と例えられてしかるべきものだ。

 

「私が聞きたいのは誰に頼まれたかなどではなく、管理局に引き渡すか否か。管理局との取引で私を利用するか否か。その二点につきます。その他の情報はどうでもいい」

「……」

 

 揺れが大きくなるのを確認したので、下げていた銃を持ち上げる。表情こそ変わらないが、沈黙と靄の揺らぎが全てを語っている。

 

「動くな。口を開く以外の行動をとったら、その瞬間に撃つ」

「……まるで頭の中を読まれているような気がしますね。そのロストロギアの効果ですか?」

「敵に手札を見せるほど私は甘くない」

 

 銃を撃たないのは、撃ったら最後。目の前の二人の内どちらかが私を殺しにかかるだろう。もし死なずに済んだ、あるいは奇跡的にこの場から逃れられたとして、聖王教会の人間に手を出したとして管理局は公的に犯罪者として指名手配するだろう。管理局だけでなく、教会も本腰を入れて私を追う。そうすれば、スカリエッティの望む活動は不可能になる。つまりは利用価値がなくなり、切り捨てられる。結果、教会と管理局、二つの組織に追い回されることになる。バックアップなしで逃げきれる相手ではない。

 

「勘違いであれば謝罪する」

 

 これは弁解のチャンスを与えるということ。仮に全てが私の思い込みであれば、それに越したことはない。だがその可能性は低い。勘違いであればこれほど感情の靄が揺らぐことはないだろう。

 

「はぁ……隠し通せればと思っていたのですが、仕方ありません。確かに管理局からは、あなたを引き渡すように要請が来ています」

「そんな、聞いてませんよ騎士カリム!」

 

 自らの地位も重要だが、友人を裏切りたくはない。もはや隠すこともなく、靄からそういう思いが伝わってくる。欲と私情の間に挟まれて、どう動くか迷っているところだろう。

 

「それで、どうするつもりだ?」

「仮定の話ですが……あなたを管理局に引き渡す。と答えたら、どうしますか?」

「このまま引き金を引いて、逃げるだけ。逃げられるかどうかはともかく」

 

 この距離なら外すことはまず無い。デバイスを起動する動作をした瞬間にトリガーを引き、視認不可能な速度で吐き出される弾丸は外れること無く頭蓋を貫通し、脳を破壊。確実な死をもたらすことだろう。

 その直後に、激昂したもう一人が襲い掛かるだろう。初撃をしのいだとして、同時に部屋の外で待機している者達が突入し、拘束されるか。逃げ切るのは不可能に近い。

 

「では、引き渡さなければ?」

 

 銃を向けられているのに笑顔で質問をするその度胸は、数々の修羅場を超えてきた証拠だろう。傍観者として見るなら賞賛に値するものだが、取引の相手となればこれほど厄介な者はない。

 

「ある程度の自由を約束してもらえるのなら、大人しくしていましょう」

 

 保護を頼んだのが八神はやてだとすれば、遠からず保護されたという一報を聞き私の無事を確かめにくるだろう。諜報活動はその時にすればいい。問題はあるが、それはこの場を切り抜けてから考える。今はこの駆け引きに全霊を込めなければ。管理局に引き渡されては、妹の姿を二度と見れなくなる……それはなんとしても避けたい。いや、避けなければならない。絶対に。

 

「……わかりました。私も、友人を裏切るのは心苦しいものですから。聖王教会はあなたを責任をもって保護します」

「口だけなら何とでも言える」

 

 感情の靄は揺らがない。だが、人は誰もが嘘をつく。そう、本当に口先だけなら何とでも言えるのだ。正式な書類を交わしたわけでもない。時には書類を交わしてもそれを無かったことにすることもあるのだから、言葉などどうして信じられようか。感情の揺れも、ほんの数度揺さぶりをかければ慣れてしまうだろう。

 

「この場で適当なことを言って切り抜けて、後で引き渡す。そんなことをされたら、さすがの私でも怒らないでいられる自信はない」

 

 嘘をついたらただでは済まさないと警告する。復讐達成時の歓喜は蛇が食いきれないほどのものだった。最高の純度の感情。途方も無い量の歓喜。その全てを魔力に変換し、その殆どを使わずに温存している。爆発させれば辺り一面を更地にするくらいならできるだろう。

 

「もちろん。嘘はつきません」

 

 揺らぎはない。信じるに足る材料はまだまだ足りないが、打てる釘は全て打ち込んだ。後私にできるのは、相手を信じることだけ。

 

「ならいいんです」

 

 銃を胸にしまい、上っ面だけの笑顔を浮かべて、安心したような声を出す。安心などできるわけがないのだが、安心したフリをしておいた方が好印象だろう。

 

「……はやてに聞いたとおり、警戒心の強い方ですね」

「でなければ生き残れませんから」

 

 互いに交わすのは笑顔だが、内側に秘めるのは笑顔とは真逆のもの。シスター・シャッハが苦い顔をしているのは、この不穏すぎる空気に慣れていないからだろう。




一応釈明
カリムさんは(見た目は)とても若いのに少将。いくらレアスキルを持っているからといって、マトモな手段を使ってそこまでの階級になれるわけがない。きっと何かあるはずだ、と勝手に想像。しかし原作にはそういった取引の描写はないので、表に出ないよううまくやっているのだろうと勝手に解釈。

結果、腹黒キャラとして落ち着きました。


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