オリ主が逝くリリカルなのはsts   作:からすにこふ2世

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正直この話が必要なのか……と悩んだのですが、まあ書いたので投稿。


第33話 会話

 聖王教会の保護下に置かれることが決定してから数時間。それから少しだけ、カリム・グラシアと取引をした。単に私が「自分を管理局に引き渡すな」と脅しをかけるだけでは、一方的な要求でしかない。恐怖で縛れない相手ならば、利益で縛るしか無い。なので、私を単に管理局へ引き渡すよりも、保護しておく方が利益があると思わせるために、私の持つ情報の半分を彼女に話した。

 結果は、曖昧な返事で茶を濁されて終わりとなったが。

 

 そして、今はその後となる。今対面しているのは、先の女優より随分と御しやすい相手だ。シャッハ・ヌエラ。ただし殺し合いだけは絶対にしたくない。その実力は実際に戦った自分がよく知っている……だが戦わなければ、話し相手に丁度いいただの人間だ。カリム・グラシアが管理局と交渉しに行っている今、私は動くことができないのだから、その間の暇つぶしに付き合ってもらっている。

 

「ということは、誰の指導も受けず独力であれだけの実力を身につけたのですか?」

 

 出されたコーヒーを啜り、頷く。さっきから話しているのは、ちょっとした身の上話から派生した私への質問。Eランク魔導師だというのに自分に一撃を入れられたというのが気になったらしく、師は誰かと聞かれた。それに対し師など居ないと答えたら、今の質問をされたのだ。

 

「……はあ、それは随分と沢山の死地を潜ってきたんですね」

「まあ、そうですね」

 

 私の実力の殆どは、実戦経験で育てた判断能力。いわゆる勘によるものだ。それに加えて、ある程度の身体強化能力。

 

「師が居ればもっと伸びていたはず……惜しいですね」

「……伸ばしたくもないですね。カリム氏の交渉の結果によりけりですが、できることなら戦いの才能など必要ない生活をしたいものです」

 

 実際はまだ戦いの記憶も、あるかどうかもわからない才能も、どちらも捨てていいものかどうかわからない。カリム・グラシアの交渉が失敗すれば逃げるために戦わなければならないし。成功してもスカリエッティが私を捨てれば戦わなければならない。捨てられなくても、管理局とは戦うことになるかもしれない。

 だが、先ほど言ったことは私の心からの望みだ。妹が治った後、可能ならば是非妹と共に緩やかな日常を謳歌したい。それはとてもとても、幸せなものになるだろう……復讐だけでなく、さらに平和な日常まで望むのは贅沢すぎるのはわかっているが。

 

「戦いが嫌いなんですか?」

「嫌いですね」

 

 生きる目的のため自ら望んで戦い……もとい殺しに身を投じてはいたが。誰が好きで殺しなどするものか……ああ、しかし最後に殺したアイツらに関しては完全に好きで殺したな。訂正しよう、アレを除けば、嫌々ながらに仕事と割りきって殺していた。次第にそれにも慣れて、何も感じなくなったが。あいつらを殺すときに何も感じなければどうしようかとも思っていたが、完全な杞憂だった。

 

「ならなぜ管理局に……いえ、やっぱりいいです」

 

 何を勘違いしたのか、何を感じたのか。質問を途中で切り、慌てて自らの口を手で塞ぐシャッハ。もちろん聞かれた所で喋るつもりもなかったが、拒否するなら理由の説明もしないといけなくなるし。その手間が省けてよかった。

 

「……」

「……」

「……」

「……」

 

 沈黙が続く。互いに切り出すような話題もないため仕方ない。こういう時にはゆっくり本でも読んで時間を潰すのが一番だが、本棚に目を向けても非常に分厚い歴史書や聖書ばかり。そういったのには興味が無い。私が好きなのはもっと陳腐で、非現実的な三文小説だ。

 

「はぁ……」

 

 椅子の座り心地は最高と言ってもいいが、この空間はため息が出るほど居心地が悪い。カメラ等でコッソリ監視されているのには慣れているが、こうして正面から堂々と監視され続けるのは今まで無かった経験だ。さらに暇を潰す娯楽の一つもないとなれば、ため息が出るのも仕方ないことだろう。逃げ出すにしても相手が悪い。

 

「あの、何か至らぬことでも?」

「いえ、少しばかり退屈してきただけです。お気になさらず」

 

 もう少し自分にコミュニケーション能力があれば、退屈することなく話せていただろうか。あまり人と対等に話すのは慣れてない、と言い訳をするのは簡単だが。

 ……黙っていても仕方ない。適当に話を切り出そう。

 

「しかし、豪華な部屋ですね」

 

 この部屋に通されて、最初に抱いた印象を言ってみる。鑑定眼などないが、置いてある家具全てが高級品だというのは一目見てわかった……言っておいて何だが、客室が豪華なのは当たり前か。本来なら来賓を招く部屋なのだし。それに加えて聖王教会は管理局と対になるほど大きな組織だ。豪華でないはずがないのに。我ながら、随分と馬鹿なことを言ってしまった。

 

「ええ。でも、私はもう少し落ち着いたところの方が好きですね」

「ほう。有名な騎士ともなれば、それなりの給料も出て贅沢に慣れているものと思っていましたが」

 

 少なくとも管理局では、能力・階級により給料が変化していた。教会でも同じようなものではないのだろうか。

 

「確かに給料は結構出ますけど。贅沢はあまり好きじゃないんです。おかしいですか?」

 

 やや口を尖らせて言うシャッハ。別におかしな事とは言わないが、やや意外ではある。……最近では管理局だけでなく、聖王教会でも汚職や賄賂が話題になっているが。彼女に限っては無縁な話のようだ。

 

「いいえ。むしろ誰もがそうあるべきでしょう。管理局の高官は、高給取りなのに賄賂や汚職が絶えませんからね」

 

 酷い時にはそれに加えて暗殺、謀殺まであるのだから……もう腐っているの一言につきる。だが私もその一端に関わっているから批難できる立場ではないし、一管理局員がどうこう言っていい話でもない……そういえばもう部外者か。なら問題ないな。

 しかし、それに比べて彼女のなんと清いことか。汚職してばかりの連中には、これの一厘でも見習ってほしいものだ。

 

「そういう話は教会でもよく聞きますね。本来あってはならないことなのですが」

「本当に。そうですね」

 

 今となっては管理局の内部事情など、私には関係ないのだが。それでも適当に話を合わせておく。退屈な時間を過ごすよりは話をしている方が有意義だ。

 

「……」

「……」

 

 また会話が途切れる。周りの調度品を眺めるのにも飽きたので、彼女に視線を移すと、居心地を悪そうに視線を逸らした。ひょっとして会話がこうも頻繁に途切れるのは、私と話をしたくないからなのか。

 蛇を出して、相手の感情を覗いてみる。

 

「っ!」

 

 一瞬で警戒色に変化したが、変わる前の靄には、僅かな警戒心以外には嫌悪感などの感情が見られなかった。嫌われているわけではないようだ。純粋に、人と話すのが苦手なのだろうか。それに付け加えて、私が何か行動を起こさないか警戒しているのか。

 

「逃げはしませんよ」

 

 蛇を体の中に戻し、両掌を相手に向けて敵意が無いことを示す。いくら痛みがなくとも、いくら殴られてもすぐ治るとしても、また殴られるのは気分が良くない。

 

「ただ居心地が悪そうにしていたので、嫌われてるのかと思いまして」

「……嫌ってはいません。わかっているでしょうけど、逃げられたら困るから気を張っているんです。あなたは嘘を見抜けるみたいですけど、私は見抜けませんから」

「私は嘘をつけるほど器用ではありません」

「人は誰でも嘘をつく、と言ったのはあなたですよ」

 

 自分で言ったことながら、全く正論だ。それを言われてはどうしようもない。肩を落として落ち込んだフリをする。本職と比べれば拙い演技だが、これが私の精一杯。これで騙せなければもう抵抗はしないでおこう。するだけ無駄だ。

 

「私は、そんなに信用なりませんか」

 

 ため息を吐き、同情を誘うようにわざとらしくない程度に言葉を放つ。

 

「そうやって落ち込んでいる姿も、演技なのか本気なのか区別がつきませんから」

「演技です」

 

 肩を落とし、顔を俯かせたまま堂々と白状する。

 

「……随分あっさり認めましたね」

「まあそうですね」

 

 頭を上げる。嘘をつく時疑われてはおしまいだ。疑われている状態で相手を騙し通せるのなら、嘘を突き通すのもアリだが。残念ながら私にそれほどの技量はないのでここで降参する。

 

「嘘ばかりついてると、本当のことを言って嘘と疑われますよ」

「私もあまり人は信じませんし、問題ありません」

「友達できませんよ……」

「いりません」

 

 少なくとも、今の私には必要ないものだ。友人も、恋人も。単独では大した戦力にならないので、仕事上の仲間は必要だが。それ以上の関係は求めない。

 

「寂しくないんですか?」

 

 孤児にそんな事を聞くとは……家族が妹しか居らず、その妹も正気が無く、話もできない状態だ。寂しくないわけがない。

 心の中で舌打ちを一つして、一応返答しておく。黙っておいても詮索されるだけだ。

 

「ええ、寂しくありませんよ」

「嘘ですね。今のはわかりました」

 

 全くダメだな。家族の事を考えたらどうしても表情に出てしまう。

 

「……余計なことはするものじゃありませんね」

「自業自得でしょう」

 

 今度は心からのため息を一つ吐き出し、席を立つ。

 

「どちらへ?」

「少しお手洗いに」

 

 ついでに外の空気でも吸って、頭を冷やしてこよう。最近どうも後先を考えないで行動するせいで、面倒なことばかり起きているからな。

 今までのように、冷静に考えて動かなければ。今私が立っている位置はそれだけ厄介なのだし。

 


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