オリ主が逝くリリカルなのはsts   作:からすにこふ2世

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長らくお待たせしました
やはり執筆中は何かBGMをかけていたほうがいいですね、その方が作業が捗ります。


第35話 手合わせ

 デスクワークで固まっていた体を入念なストレッチで伸ばし、身体強化をかけて両拳を構える。剣は使わない。剣の達人相手に付け焼き刃の剣術で挑むよりかは、比較的使い慣れている拳を使ったほうがまだ長持ちするだろう、と考えた結果だ。

しかし、なぜ今更手合わせなど望むのか。全く理解できないが、単純に試合をした事が無かった。だから今頼んだ。という単純な理由ではないだろう……もっと何か深い理由があるはず。裏があるはずだ。

 それは何だ?

 わからない。

 

 自分に聞いて自分で答える。家にも局の端末にも、スカリエッティやその他犯罪者との付き合いは一切合切残していないはずだ。だから、何かを疑われているという線は薄い。薄いが、ゼロではない。武術の達人は戦いを通して相手の思考を読む、というのを本で見たことがあるが、それを狙っているのだろうか。

 

「準備はいいか?」

「できてる」

 

 剣を向けられる。まあ、戦ったからといって私の思考を読めるわけがない……が、一応警戒しておくに越したことはない。眼の前の相手は敵。そう自分に言い聞かせ、マルチタスク含め思考を戦闘関連の情報で埋め尽くす。

 

「始めよう」

 

 相手との距離は10mほど。非常に近い、とても近い。そのただでさえ近い間合いを一歩で詰めてきて、勢いを乗せた剣を突き出してきた。それを斜め前に歩を進めて避けつつ、右手で剣を持つ手を抑える。相手の左手が私の腹に突き刺さるが、お返しに左手で顔を殴り、拳を振りぬいた瞬間に強化に回していた魔力を炸裂させて吹き飛ばす。

 

 単純だが、それなりに強力。蛇を手に入れる前はこれが私の近接戦闘における切り札だった。のだが、彼女は吹き飛んだ先で何事もなかったように一度宙返りし、足を地面につけて勢いを殺す。

 

「っツツ……まさか、受けながら攻撃するとはな」

 

 ほんの僅かにダメージはあったようにアピールしてくる。アピールした様子と相応に動きは多少鈍らせてくるだろう。今のは全力ではないとはいえ、半分殺すつもりで打ち込んだのだが、改めて上位魔導師のデタラメさに頭が痛くなった。同時に、こういう奴らを殺すならやはり非戦闘状態で狙撃するのが一番楽だとも確信した。

 

「……」

 

 ゆっくりとすり足で距離を詰める。剣の間合いの一歩外側で足を止め、観察に意識を集中する。

 

「手を出さなければ、ダメージが回復してしまうぞ?」

 

 白々しい事を言う。

 

「回復以前に、全くダメージを受けていないだろう」

 

 

 強化した腕力で繰り出した打撃のヒット、腕を振りぬいた直後のゼロ距離魔力炸裂。この二段攻撃の衝撃はそれなりに大きい。並の魔導師でも、防御魔法を一切使わずに受ければ頭蓋骨の中身がシェイクされて、運が悪ければ脳内出血で死ぬくらいには。防御魔法を使われれば、拳で突破して魔力炸裂の衝撃で鼓膜を破壊する位しかできないが。

 彼女のバリアジャケット……ベルカ式だから騎士甲冑か。それの硬さが並の魔導師の防御魔法を上回るということ。これでは突破など、全力を出さない限り無理ではないか。

 

「まあ、なッ!」

 

 低い姿勢からの逆袈裟。初段はフェイント……そう判断し、一歩下がって避ける。さらにもう一歩踏み込んできて、本命と思われる上段からの振り下ろし。振り下ろされる直前にこちらが一歩踏み込み、左腕を頭の上に回してガード、右の肘を鳩尾あたりに打ち込み、魔力を炸裂させる。衝撃は十分伝わったが、ダメージが通った様子はない。その証拠に笑っているし。

 右足を軸にして反時計回りに回転し、左の肘をこめかみに叩きこむと、やっと相手の姿勢が崩れた。

 

 互いの吐息が顔にかかるほどの距離。完全にこちらの間合いだ。それで隙ができたとなれば全力の一撃を叩き込みたくもなるが、あえて後ろに下がって頭を落ち着かせる。。

 

「フゥ……」

 

 息を吐く。こちらの攻撃は威力のほとんどが殺されるが、相手の攻撃はすべて素通りする。状況はこちらが非常に不利。不意打ちの形で後の先を取りダメージを与えることはできたが、もう通用しないだろう。おそらく次の交差で落とされる。それもわけがわからない内に。

 となれば、ここで切っておくのが一番いい選択だろう。

 

「参った」

 

 両腕を頭の後ろで組んで早々と降参の宣言をする。これ以上続けても意味は無い。

 

「どういうつもりだ? そちらが優勢だったはずだが」

「魔法を使わず、手加減に手加減を重ねられた上での優勢だ。実戦ならガードした左腕ごと胴体を二つに斬られてたし、このまま続けたとしても結果は見えている」

 

 ダメージが通らないなら通るだけの強化をすればいい。ダメージを受けるなら受けなくなるまでまで強化すればいいわけだが、そこまですると本気になった相手のうっかりで殺されかねない。こんな所で命を落とすなんて馬鹿らしいこと、たとえ冗談でもする気にはなれないし、今後の事を考えれば限界を晒すのは避けたい。こうして和気藹々と模擬戦をしているが、相手は敵なのだから。

 

「そちらも手加減をしているだろう?」

 

 人聞きの悪い。私は私〈陸戦E〉の枠内に収まる全てを出し切っただけだ。

 

「なぜ手加減する。何を隠している?」

 

 達人は戦いの中で相手の思考を読む。というのは本当だったらしい。あえて読ませないよう頭を空にして戦っていたが、その選択は正解だった。うっかり読まれていたら最悪を通り越す事態になっていたに違いない。

 

「今のが私の実力だ。手加減なんてできるわけないだろう」

「確かに魔導師としては妥当だ。だが、貴様は魔導師というよりは戦士だ。戦士としての実力はもっと上のはずだ! でなければ、戦闘機人と戦い捕獲するなどできるわけがない。本気を出してみせろ!」

「あれは運だ。武器もあったしな」

 

 嘘は言ってない。あの時チンクが本気で殺しに来ていたら絶対に死んでいたし、部下の弾丸が防御をギリギリで貫通したから。最初のナイフがもう少し心臓に近い位置に刺さっていれば死んでいた。私の実力など、ほんの僅かでしかない。

 

「本気を出したくないのなら、出したくなるようにしてやる」

 

 彼女の魔力が熱に変換され、熱された空気が風を作り、顔を炙る。蛇を出すまでもなくわかる。これは本気で怒っている。そろそろ止めなければマズイだろう。

 

「交戦の意志を無くした相手、しかも民間人に本気を出して斬りかかるのか?」

「誰が民間人だ」

 

 冷静なようでそうでない指摘。やはり頭に血が上ったきり全く降りてないようだ。

 

「私はもう管理局を抜けている。犯罪者でもないし、それ以外で今の身分を何と表せばいい」

 

 相手の一番嫌がる言葉を選びつつ、相手自身の意志で自らの行動を縛らせる。一歩間違えれば逆上して襲い掛かられる危険もあるが、このままでも襲い掛かられる危険はある。いざとなれば逃げればいいと判断した。

 

「ぐぅ……なら、せめて何を隠しているのか教えてくれ」

「教えたら私が死ぬから無理だ」

 

 もし教えたら、私は管理局とスカリエッティ、敵に回すとこれ以上ない程恐ろしい二つの勢力に狙われることになる。いや、スカリエッティは管理局と繋がっているわけだし、一つの勢力と言っても問題ない。片方ならまだしも、両方を敵に回して生き残れる可能性はゼロだ。奴らはきっと無人世界の果てまでも追いかけてきて私を殺すだろう。

 

 監視の目はそこら中に潜んでいる。スカリエッティの手下のドゥーエも窓から覗いているし、集まっている野次馬の中にも管理局の手の者が居るだろう。八神はやてがその一人かもしれない。

 一度疑いだすとキリがないのでここらで思考を切り上げて、眼の前の事を意識する。

 

「……そうか。そういう事なら私も引こう」

 

 剣を消し、管理局の制服姿となったシグナムに頭を下げられる。こちらも強化を解いて頭を下げる。一度の模擬戦で、手加減されていたとはいえ収穫はあった。やはり格上との戦闘は、自分の実力を知るのにちょうどいい。

 

「またいずれ、手合わせして欲しい。その時は全力でな」

「気が向いたら」

 

 次に戦うとすれば、そこは戦場だ。その時には全力で逃げさせてもらうとしよう。私では勝てないとわかったのだし、無駄に負ける必要もない。


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