訓練という名の指導に疲れたが、部隊を設立した以上やらねばならないことというのは存在する。そう、報告書だ。内容は「部隊は完成し、部下の訓練も非常に上手い具合に進んでいる。現段階では質量兵器の特性と、整備方法。運用方法を身につけさせ、既に実戦が可能となるレベルにはなっている。倫理観の排除も進んでいる。このまま一ヶ月もすれば、十分実用に足る兵士となるでしょう」という感じだ。あと今日は何発弾を撃ったか。どんな道具を使ったか。どういう整備をしたかとか、ありとあらゆることを事細かに。
といっても整備方法などは地球から取り寄せた某合衆国海兵隊のマニュアルをそのまま取り込んで、一応購入したデバイスのツールで翻訳して入れているだけなので、大した労力はかかっていない。
『訓練映像は見せてもらった。経過は順調そうだな』
「でなければ困ります。貴重な人材をもらっておいて、実戦だと役立たずでしたでは笑えません」
全員やる気はあまりないが、とりあえずやらなければ弾を玉にブチ込むと脅しておいたので、見た目の上では真面目にやっているように見える。だが、中将はともかく他所はこの質量兵器運用部隊の存在をあまりよく思っていないようで、急遽明日、設立してから一週間程度しか経っていないのに魔道犯罪者の拠点襲撃に駆り出されることを書類で通達された。模擬戦すらやらずに実戦投入させられるということで、さらにやる気をなくしている。真面目にやらなければ死ぬというのに、やる気を無くすとはどういうことやら。
「それよりも明日のことですが、陸の機動六課以外の部隊から何人かマトモに戦える魔導師を手配していただけませんか。どう考えても人質の救出には戦力が足りません」
最低でもAランクの近接戦魔導師を一人。またはそれに匹敵する人員を寄越して貰いたいが、さすがにそれは難しいだろう。なぜ機動六課以外から、という条件をつけたかというと、同時期に設立された2つの部隊。片方が先に戦果を上げれば、そちらへ注目が行くのは当然のこと。機動六課に手柄を取られてしまえば、『機動六課に比べてあそこはやはり……』という目で見られるのは間違いない。
だが、この任務で失敗しても『やはりあそこはダメだったか』と言われるのも確実だ。しかし成功すれば……より目の上の瘤として扱われるだろうな。どう転んでも嫌な未来しか見えない。
『すまないがそれはできない。私にも立場というものがある。表立って援助をすれば、私にも非難が向くようになる。元より私も、あまり他からはよく思われていないのでな』
それは私がいくら馬鹿でもわかる。この仕事において他人からの評価というのは大いに行動に響く。付き合っている相手の位が高ければ高いほど、影響は大きくなるものだ。中将ほどの付き合いともなれば一体どのような有形無形の嫌がらせを受けていることやら。想像もつかない。
「……では、海と空に、我々がどんな状況に陥ろうと助けに来ないように、と言っておいてください。手柄を奪われてはたまりませんので」
陸が無理なら空と海しかない。そして派遣される奴らの目的は、手柄を横からかっさらうことだ。手柄を取られるくらいなら、単独で叩き潰す。人質の命を考えなければ、ちょっとむずかしい程度の任務だ。
『大丈夫か?』
「失敗したらその時です。迷惑をかける前に大人しく死にましょう。ただし成功したら、命令を出した糞野郎に苦情の一つでも言わせてください」
『まあその位なら構わんだろう。勝算は?』
「狙撃で先手を取り敵戦力を削り、爆発物であぶり出して、狙撃で改めて仕留めます。人質は諦めていただく事になりますが」
相手が居るのは、山中の開けた場所にある廃棄された工場。人質が何人か居るらしいが、どうにも救出するには犯人グループに気付かれずに施設内に侵入し、捜索する必要がある。よって救出は諦めて、砲撃後に生き延びていれば助けるという方針でいく。倉庫には迫撃砲とその砲弾、ロケットランチャーもあったはず。どうせあっても使わないのだし、許可をもらって盛大に在庫処分をしよう。あとは建物の所有者に破壊許可ももらっておかないと。後で文句をつけられては困る。これは私がするよりも中将に頼めばいいだろう。
「そのために、明日の朝までに建物の所有者に破壊許可をもらっておいてください」
中将ならなんとかできるはずだ。多少強引にでも許可をもらってもらう。もらわなくても破壊はするが、後の始末書は少ない方がいい。
『シンプルでいい作戦だ。破壊の許可はもらっておこう、どうせ使われていない工場だ』
「ありがとうございます」
機動六課のエースほどの力があれば、他にもやりようはあるだろう。だが、私にはそれがない。対して機動六課を代表する高町なのはは、デバイスを手にいれてすぐにエース級の魔法を扱うようになったとか。望んでいないのに偶然力を手に入れ、偶然その力を扱うだけの才能を持ち、偶然活躍する機会に恵まれ、好き勝手できるような地位を手に入れた。
……よく考えれば私もそれなりのものか。望んで戦うための力を手に入れ、望んでは居なかったがそれなりに便利なロストロギアを手に入れ。試験的にではあるが部隊を与えられ、嫌がらせを好意的に解釈すれば活躍する機会を与えられているとも言える。力の大きさを除外すれば、それほど大きな差異はないのではないかとすら思えてくる。
『貴様がこれから活躍してくれることを期待している』
「与えられた命令をこなす事こそが軍人の使命です」
『軍人の模範だな。試験課の記念すべき初出撃だ。無事を祈っている』
その言葉を最後に通信を切られる。祈るよりも形のある支援を行ってもらいたいものだ。金とか人員とかヘリとか。そんな事を考えながら空中に浮かぶスクリーンを触れて消し、書類を手に持って目の前に立つ隊員1号に向き合い、発言許可を出す。
「隊長、使用物品の確認と積み込み済んだぞ」
「ご苦労様。それじゃ外に出よう」
椅子にかけてある隊章である二つの拳銃がクロスしたエンブレムの縫い付けられた迷彩服を持ち上げ、じっくりと観察する。今は新品として、アイロンをかけて糊も効かせてある綺麗な服だが。そのうち汚くなるのだろう。それを羽織り、ボタンを止め、プレハブの外に出る。と、そこにはもう既に着替え終わり、整列している三人が居た。その表情はやはり士気が高そうには見えない。薬を使ってしまえば簡単な士気向上が見込めるのだが、それは少々非人道的であり、外部に漏れると色々と騒がしくなるので使えない。あと依存性もある。薬が切れたから戦えませんと言われては困る。
非合法組織では常套手段なのが、公的組織だと途端に使えなくなる手段というのは数多い。だが公的な立場があれば支持も得やすいし補給も安定する。メリットとデメリットが釣り合っているので、やむを得ない事情がなければ今の社会的地位を保持しておきたいものだ。
「諸君、今回は我々の記念すべき初出撃だ。単独出撃で援軍も無く、おまけに死ぬ可能性も非常に高い。その割に報酬は雀の涙という理不尽な仕事だが、我々の栄光の道への第一歩と思い出撃してくれ。作戦は車内で説明するので、トラックに乗り込め」
「隊長!」
「質問は車内で聞く。さっさと乗れ。時間がない」
「……了解」
この一週間で上下関係と、命令遵守の精神は叩き込めたのが幸いだった。命令への反発を理由に三日三晩飯を与えず、水だけで訓練を続けさせたのが効いたらしい。質問を引っ込めすごすごと暗緑色にペイントされたトラックの荷台へ乗り込んでいった。他の二人も乗り込ませて、自分も乗り込む。運転手は自動運転で目的地まで連れて行ってくれるので不要だ。リモコンのスイッチを押し、車を発進させる。
「さて、一号。さっきの質問は何だ?」
一号というのは、反抗者第一号という意味で付けたニックネームだ。ゴリラにするか筋肉ダルマにするかで悩んだのだが、やはりシンプルな方がいいためこういう名前にした。
「たったの一週間の訓練で、しかも単独で実戦に出るというのはあまりにおかしいと思う」
「その通りだ。しかし、周知の通り管理局も管理世界の人間も、そのほとんどは質量兵器をよく思っていない。上にはそういう考えの奴らが沢山居て、当然ながらこの部隊の事はあまりよく思われていない。だからさっさと潰したくて適当な場所に突っ込ませたんだろう」
全く迷惑な事だ。終わっても中将の助けがなければ文句の一つも言えやしない。せいぜいこの部隊の有用性を見せつけて、驚かせるくらいしかできないだろう。しかし手柄を立てたら立てたでさらに危険な場所へ放り込まれ、潰れるまでそれが繰り返されるだろうが。使い潰されない程度に活躍する……難しいな。それを考えるのも隊長の仕事か。面倒だ。
「隊長、拒否はできなかったのですか」
「三号。お前は拒否できると思うのか?」
記念すべき私の三人目の部下。少し線は細いが、様々な状況に適応できる冷静な判断能力を持っている。事務もできるし、戦闘は遠近どちらも適性があるようなので過労死しない程度にこき使っていく予定。
「……いいえ」
「では作戦の説明に入る。前情報では、確認されている犯人は六人。陸戦魔導師が4名。戦闘タイプは近接2名と中遠距離射撃型が2名。空戦の砲撃魔導師と、その護衛の格闘戦主体の魔導師が1名。対してこちらは4人。しかし今回の作戦は2組に別れて攻撃を行う。一号と二号は迫撃砲とロケット弾で砲撃を加えて炙り出せ。出てきても近寄られるまでは砲撃と機銃による弾幕で抑え込め。近寄られたら地雷をばら撒きながら逃げろ。三号は私と来い。夜明けまでに狙撃でできるだけ削る。砲撃後は出てきた奴を……空戦型を最優先で狙撃する」
立体表示ディスプレイを荷台の床に置き、工場周囲の地形を映し出す。工場は郊外の山中にある。そのため、遠慮のない砲撃を加えても何の問題もない。派手に解体工事を行えば、きっと耐え兼ねて出てくるに違いない。出てこなければ瓦礫の下敷きになるか迫撃砲の砲弾の爆発に吹き飛ばされるだけだからな。人質ごと殺されるとわかれば、たまらず飛び出してくるだろう。だれだって死ぬのは怖い。
「一号と二号は工場南の道路で待機。三号と私は南西の台地に移動。しかし狙撃に失敗することも十分に考えられる。その場合はすぐに撤退命令を出すから、追ってきたら地雷と機銃で弾をばら撒きながら逃げろ。最悪空戦魔導師に追い回される可能性もあるから、その場合は死ぬ事を覚悟しろ。以上。質問は」
「無し」
「同じく」
「死なないためにはどうすればいい」
「殺られる前に殺れ」
「素晴らしいアドバイスをありがとうよ。隊長」
正直、それくらいしか手がないのが現実。方法はどうでもいいから、とにかくこっちが死ぬ前に相手を殺す。模擬戦じゃないんだ、相手は非殺傷設定なんて使ってくれるはずがないのだし。
「日の出まではあと5時間。それまでに配置につくこと。配置についたら攻撃指示があるまで待機しろ」
三人とも頭を縦に振ったので、話を続けることにする。3Dスクリーンの映像の中に手を入れ、指で狙撃地点と砲撃地点を指すと、そこに赤い点が出る。
「次は撤退時のルートを確認する。狙撃班はこの台地から攻撃するが、空戦魔導師の排除に失敗し400m以内に接近されたら撤退開始。森の中に引っ込んで……」
台地にある赤い点に触れ、指を森の中へと動かす。指の動きに合わせてラインが引かれ、そのラインが少しずつ蛇がのたうつように曲がりくねり波のような曲線を描いて撤退経路を表示する。
「このラインに沿って撤退する。このラインは数年前まで使われていた古い林道で、今は誰も利用していないからかなり道が荒れている。だが何もないところを走るよりかは動きやすいはずだ。それに木のおかげで上からは見えないから、比較的安全に撤退できるだろう。2時間ほど歩けば普通の道に出るから、そこで合流する」
「了解」
そして今度はもう一つの赤い点に触れ、また指を動かして線を引く。
「相手が200m以内になったら、砲撃班は車に乗ったまま、地雷と弾丸をばら撒きながら道を走って逃げればいい。魔導師でも当たったら死ぬ弾丸が雨霰と飛んできて、踏めば重傷確実の地雷があれば敵もそこまで執拗には追って来れないだろう」
「追ってきたら?」
「陸戦なら挽肉になるだけだ」
「了解」
撒いた地雷は指向性を持って爆発するから、道路はあまり傷まないし、リモコンで一斉爆破できるから処理には困らない。ベアリングが沢山転がることにはなるが。
「さて、それじゃ到着まで好きにしていいぞ。寝るなり、酔わないなら本を読むなり、雑談しても構わない」
私は寝る。到着まではしばらく時間があるし。自動操縦で、林道入口についたらそこで一旦停車するように設定してある。レポートの作成のおかげで仮眠すら出来ていないので、非常に眠いのだ。よって寝る。起こしたら殴る。