午前九時のクラナガン。平日なのと都市の中心から離れているだけあり、予想通り人の数は少ない。全くないというわけではないが……だが、ここがフェイト執務官の通るルート上で最も捕獲に適した場所だと経験から判断した。人は人の目が全くない場所に一人で居ると自然と不安を感じるが、逆に言うと少しでも人の目がアレば安心するものだ。つまり、僅かに油断する。そこを狙う予定だ。
まあ、その前にやらなければならないことがあるのだが。幸いすぐに済みそうだ。
「ようハンク。こうして会うのは一年ぶりくらいか。わざわざ会いに来たってことは死ぬ覚悟ができたってことか?」
眼の前の無精髭を汚らしく生やし、ファーストフードをクチャクチャと音を立てながら食う頭髪の薄いやや肥満体の中年男性。本名は知らないので、隊長と呼んでいた。とてもそうは見えないがこの男こそが猟犬の指揮官だ。私に戦術思考を叩き込んだだけあり、やはり私と同じ場所を襲撃位置に選んだようだ。予想通り。
そして、こうして話している間にも私の頭にいくつもの銃口が向けられているのだろう。こいつが乗らなければ、私はきっと撃たれて死ぬ。もしかしたら死なないかもしれないが。まあ、撃たれたらやり返すだけだが。
「違う。取引がしたい」
「一応聞かせてもらおうか。言ってみろ」
「ハラオウン執務官に手を出すな。あれは私が生け捕りにする」
「もちろんタダとは言わないよな。対価は何だ?」
隣に立たせていた名無しの背中を押し、隊長に差し出す。さて、とりあえず交渉のテーブルに立ってはもらえた。あとはこいつの説明をして、取引を受けてくれるかどうか。
「スカリエッティ製、最新型の戦闘機人一体。製作者によると、性能は従来のものよりワンランク上だそうだ。性別は女、性経験は一切なし。戦闘経験もなし。頚動脈を切っても一秒以内に血が止まる再生能力を持っているから、かなり無茶ができるだろう。適性は近接特化だが、仕込めば遠距離もできる。戦力として運用するならしばらく訓練して、経験を積ませるんだな。時間をかければSランクも一対一で打倒できる位の性能はある」
「見た目も悪くない。スタイルも俺の好みだ……さらに将来的には戦力にもなると」
隊長が髭を撫でながら、考えを漏らすように呟く。そして下卑た笑いを浮かべ、名無しの体を隅々まで舐めるように見回し、納得したように大きく頷いた。粘着く視線に晒されていた名無しは、自分がこれからどうなるのかも知らず、視線にどんな意味があるのかもわからず、こちらを見上げている。
……私に良心など存在するはずがないので、その眼を見ても何も感じることはない。
「むしろ釣りをやりたいところだ。上には俺達が殺ったと報告しておこう。もちろんこいつは俺達の好きにしていいんだよな?」
「ああ。だが、壊れにくいと言っても壊れないわけじゃないからな。戦力として使うなら程々にしておけよ。もし壊れたら回収させてもらう」
「おう、せいぜい楽しませてもらうとするさ。野郎ども! 今日の予定はキャンセル、帰って新人の歓迎パーティーだ! 盛大に歓迎してやろうぜ! ガハハハハ!」
名無しが手を捕まれ、引っ張られるが。その場で踏ん張って動こうとしない。そして、首を切られても悲鳴を上げなかった名無しが、始めて声を出した。
「私の所有者はあなたじゃない」
今はじめてこいつの声を聞いたが……ずいぶんと懐かしい声だ。そして、スカリエッティがこいつを私に渡した理由もわかった。こいつは実験に協力した礼なんかじゃない……私を縛り付けるための鎖だ。だがそれでも私のする事は変わらない。
「おいおい、こりゃ一体どうしたことだ?」
「名無し。所有権はそいつに移譲した。そいつに従え」
こんな穏やかな『妹の声』を聞くのは、六年ぶりだ。八神はやてといい、スカリエッティといい。どいつもこいつも私の上司は性格が最高に最悪だ。これは帰ったら一発殴らなければいけないだろう。
しかしあいつは、妹の声をしているからといって私が引き渡すのを躊躇うとでも思っていたのだろうか。少し驚いたが、心が動くほどではない。
「……了解しました」
「がはははは、よろしくな嬢ちゃん。しかしこれだけもらっておいて執務官一人ってのは、やっぱり釣りを渡さないと気がすまねえ。受け取れや」
隊長がそう言うと同時にナイフを突き出してきて、それは寸分違わず『私』の頭に突き刺さった……ように見えたが、次の瞬間には『私』が消えて、無防備に突き出された腕だけが残った。
「もう少し賢い選択をすると思っていたんだがな」
そう呟きながらお返しにと額にナイフを一本プレゼントして、崩れ落ちるよりも速くこめかみに鉄板入りの靴で蹴りを叩き込む。ナイフによる脳の破壊と、蹴りによる頭蓋骨破壊。まず生きてはいないだろう。ちなみに先ほど隊長が刺した私はクアットロが私の立ち位置をずらして見せていた幻影だ。そして私はその一歩後ろに立っていたから、隊長のナイフは一歩分届かず、安全に反撃することができた。
『左右に三名ずつ。武装は拳銃』
そして隊長を殺した直後。クアットロから警告が入ったと思うと、左側で銃を取り出した奴らに向けて名無しが走りだし、適当に一人捕まえて振り回すだけで制圧してしまった。もう一方はセインが。さすがに仕事が速い。
「クアットロ、セイン、名無し。よくやってくれた」
『どういたしまして~』
「制圧完了。いや~、君に比べたら弱いねこいつら!」
「戦闘機人に襲われてまともに応戦できるほどの実力があれば、猟犬には回されない」
猟犬はそれほど強くもない犯罪者と、欲が強さと実力が釣り合っていない管理局員の集まる場所だ。そんな化物が居るような場所じゃない……と、いうことは私も化物になるのか。まあ、もう人とは呼べないし化物扱いが丁度いいか。
「さて、クアットロ。幻影はキッチリ張ってあるな?」
「もちろん。周りからは何事もなかったようにしか見えないわよ」
「ならいい」
一応確認してから隊長の死体を引きずって路地へと運ぶ。クアットロがちゃんと仕事をしてくれているのなら、犯行を目撃した人間は居らず、カメラにも映っていないはず。血液の出るような傷は脳天に一発突き刺したナイフだけ。そのナイフも刺したままなので垂れていない。つまり、証拠は死体以外残らない。
路地に入ると丁度いいところにゴミを入れるコンテナがあったので、鍵を叩き壊して中に放り込んでからナイフを回収する。続いてセインと名無しが同じように死体をコンテナに放り込んでいく。これで証拠はこいつらが見つかるまで気にしなくて済む。
「最初から少しだけ予定が狂ったが、まあ想定の範囲内だ。ここからは元通り。最初のプラン通り事を進める。私が捕獲に失敗し、逆に捕獲されそうなときには遠慮なく殺してくれ」
「あのさ~、そう言われるとかえってやりにくいというか、なんていうかさ……そういうマイナスなこと言うのはやめない?」
セインが気まずそうに頭をかいて呟く。しかし、そんな甘い考えでは困る。世の中何もかもが自分の思い通りうまくいくとは限らないのだし。現に今回も最初は名無しを引き渡して穏便に事を収める予定だったのに、結局は荒事になってしまったし。失敗した時のことも考えておかなければならない。
「ならクアットロ。その時は頼む」
『あら~? あなたはこんなところで失敗するような無能な人間なのかしら?』
「可能性はゼロじゃない。それに私の望みは妹の精神の治療。私自身がそれを邪魔するなら、死んだ方がマシだ」
私が生きて捕まりアジトの情報を漏らしてしまえば、機動六課は直ちに攻撃を開始するだろう。そうなればスカリエッティの計画は頓挫、私の妹の治療もできなくなる。そうなるよりは、情報を漏らす前に永遠に口を閉じる方が百倍マシだ。
猟犬について
管理局にとって都合の悪い人間や、余計なことを知りすぎた人間を、民間、管理局員問わず犯罪者の犯行に見せかけて殺す暗殺部隊。変装などを駆使して標的に近づき、一撃で仕留めることを得意とする。ただし正面から戦うと非常に弱い。
『存在を知らなければ』非常に厄介。知っていたらただの殺られ役。
正面からの戦いなら
猟犬<モブ魔導師<ハンク(武装&強化)<<<原作キャラ
この程度の実力
関係ないけどどっかにアーマードコアとガンダムのクロスオーバーSSってないですかね