オリ主が逝くリリカルなのはsts   作:からすにこふ2世

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若干わかりにくい展開なので、あとがきにて補足を入れておきます。本当なら本文中でわかるようにするべきなんですがねぇ…


第47話 狩り

「……収穫はこれだけか」

 

 ハンク元准尉と一人の女性が写った写真と、車の外にあるボロいアパートを見て呟く。書類によればハンク准尉はこのアパートの一室に住んでいたということで、ここの管理人に行き先を知らないかと尋ねてみたものの、何も知らないとの事。同じアパートの住民たちに聞いても、行き先を知るどころか一言も言葉を交わした事がないという者まで居る始末。彼が住んでいたという部屋も調べてみたけど、残っていたのはこの紫色の髪の綺麗な女性と一緒の写真が一枚。誰かと付き合っているという話は聞いたことがないしとても不自然だけど、それが誰なのかはわからない。恋人だろうか? プライベートについては一切話してもらえなかったけど、はやてから聞いた話だと恋愛とかには一切興味が無いらしいし。もしかしたら違うのかもしれない。

 そういえば自分も恋人は居なかったな、とため息を吐きつつ車のエンジンをスタートし、発進する。

 

「参ったなぁ……」

 

 車を走らせつつ内心頭を抱える。地上本部にある情報に全て目を通して、その結果何も収穫が得られなかったから、僅かな希望を抱いてここに来たというのに。訂正、資料がないということがわかった、それが収穫だった。でも資料がないということは証拠もないわけで、やっぱり収穫はないか。ユーノにも無限書庫で調べてもらってるけど、結果はあまり期待できそうもない。

 

「何かあるはずなのにな~」

 

 シートに体重の殆どを預けながらぼやく。テロリストの拠点の破壊、犯罪者の殺害。そういう普通の任務履歴は何一つ隠されることなく開示されていた。確かに成果はエース級のそれだった。実力も、本気を通り越して殺す気のなのはから数分間逃げ続け、さらには手傷を負わせたことからエースまではいかなくともかなり優秀なことも分かる。それだけ見るならあの階級も頷ける。けどこの組織は管理局。質量兵器根絶を掲げ、魔法を至上とするこの管理局で。いくらあのレジアス中将がトップの地上本部でも、少なからずその考えがある人間は居るはずなのに、質量兵器を好んで使う彼が実力と成果に見合うだけの階級を、たった六年で手に入れられるとは考えられない。必ず他にも『何か』しているはずだ。

 だけど、その『何か』が見つからない。資料に一切残らない任務をしていたのなら頷けるけど、資料に残らないなら追求のしようがない。むしろ彼が無罪であると言われれば、その方がすんなりと受け入れられるくらいに尻尾が掴めない。

 アコース査察官の手を借りれば白か黒か一度でわかるのに、と思うけど、明らかな犯罪行為をしていない。もしくは犯罪の証拠がない人間の記憶を覗く事はできないらしいし。

 

 

 しばらく機動六課のある方向へと車を走らせていると、ふと見覚えのある人が街を歩いていた。荒く切られた茶色の髪に、どこにでも居そうな地味な顔つき。危うく見落としてしまいそうになったが、慌てて二度見して確認したので間違いない。渦中の人、ハンク・オズワルド元准尉だ。

 車を路肩に寄せて止め、慌てて車から降りロックをかけてからその姿を追う。人混みの中に紛れて見失いそうになるが、管理局員が走っているということで人の群れは容易に割れる。

 こちらの足音に気付いたのか、彼と思わしき人が振り返りこちらを見る。あまり感情を感じさせない無機質な茶色の瞳と目が合った。

 

 そして彼は人の流れに逆らって移動し、路地へと潜った。私もそれを追い、彼の入った路地へと飛び込む。けど、そこは袋小路。おまけに人影は見当たらない。

 

「何か用か?」

 

 背後から声をかけられた。威嚇するでもなく、警戒するでもなく。まるで手練のセールスマンのような、適度に距離感を持った声。それと、気のせいかもしれないけど、小さく聞こえた金属の擦れる音。殺意や敵意など全く感じないというのに、冷や汗が止まらない。背筋が凍る用に寒い。久しく感じることのなかった、恐怖の感情だ……でもこれは、彼の持つロストロギアの効果により増幅されたもの。本来の私はそこまで臆病ではない。そう言い聞かせつつ、間違っても敵意を感じさせないように、ゆっくりと振り向く。

 

 笑うでもなく、怒るでもなく、悲しむでもなく、楽しむでもなく。一切感情を感じない、仮面のような表情を貼り付けた顔が、金色の瞳だけを輝かせてこちらに告げた。片手はだらりとぶら下げ、もう片方の手はポケットに入っている。何かを握っているのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

 もし彼がはやての言ったとおりヴィータちゃんを撃った犯人だとすれば、同じ勢力である私も邪魔なはず。つまりはここで殺される可能性がある。

 おまけにこの路地、人一人通るのがやっとな狭さ。彼はその入口を塞ぐようにして立っている。さっきの金属音が銃の発射用意だとしたら、おそらくデバイスを起動する瞬間に撃ち殺される。実際、同じ手口で犯罪者を何人か殺している……つまり私は、罠にはめられた。増幅されている恐怖を飲み込んで、言葉を吐き出す。

 

「どうして、あなたに用があると?」

 

 自分で言っておいてなんだけど、もう少し他の言葉はなかったのかと。

 

「最近私のことを調べて回っているみたいだからな」

「……どうしてそんな事を知っているの?」

「何故だろう。当ててみたらどうだ」

「誰かと連絡を取っている、とか」

「そのとおりだ」

 

 予想通りの答えだけど、予想とは違い、挑発するでもなく、牽制するでもなく。ただ当たり前のように肯定した。その言葉からは表情と同じく何の感情も感じられない。彼の言葉が真実だとして、一体誰が情報を流しているのか。それは聞いても答えてくれないだろうし、帰ってから……帰れたら、じっくりと調べることにする。

 

「……ハンク・オズワルド。あなたに聞きたいことが有ります」

 

 やましいことがある人間ならまず拒否するだろう。拒否すれば黒とし、拒否しなければ情報を聞き出せるだけ聞き出す。当然警戒はしておく。いつ彼の気が変わってこの命を断たれるかわかったものじゃないので、ポケットの中に入れた写真を取り出しつつ、袖の中に待機状態のバルディッシュを押しこむ。

 

「話せることは話そう」

「ありがとうございます。では早速……この写真の女性は誰ですか?」

「子供の頃の友人だ。街で会って、懐かしかったから食事に誘った。その時に撮った写真だ、無くしたとばかり思ってたんだがな」

「友人?」

「私もあの事件の前までは普通の子供だったからな。友人の一人や二人位は居る。いや、居た……が正しいか」

 

 表情が全く崩れない。声も相変わらず平坦で、嘘か真実かの見分けがつかない。だけど嘘であると断言もできない以上食い下がることはできない。彼の過去を思い出して同情するし、彼の交友関係は不明だ。でもそんな事をするようなタイプには見えないので多分嘘だろうと思う。次の質問をする。

 

「そうですか。では次の質問を……あなたは今どこに住んでいるんですか?」

「回答を拒否する」

「……」

 

 とりあえず収穫一つ。今住んでいる場所は話せない=住居を知られると不都合な事がある、ということ。思わぬ収穫に、うっかり手に力が入り、写真を握りつぶしてしまったが、構わず次の質問をする。表情も変わらなかったし、大事な物ではないのだろう。

 

「なぜ話せないのですか?」

「決まった住居がないから回答のしようがない」

「……」

 

 これは間違いなく嘘とわかる。決まった住居がない人間には必ずあるはずの不潔さが全く感じられないから。どうにも、遠回しな質問は意味がなさそう。なら、正面からぶつかってみよう。そうすれば何かわかるかもしれない。地雷をつついたら、最悪死ぬかもしれないけど……それでも彼は異常なまでに理性的だ。自分が殺されかけても相手を許せるほど。地雷を踏む可能性は極めて低い。

 そう思って、ストレートに聞いてみる。

 

「質量兵器を使ってたのに、どうしてたった六年で准尉にまで昇格できたのですか? 周りからの妨害もあったはずですよね?」

「だからこそ。質量兵器を用いて出した成果は管理局のイメージダウンにつながるため公表しづらい。魔法を使って出した成果ならば華々しく報道し、英雄気分を味わわせることで飼い慣らせるが、それができないからさっさと階級と給料を上げて重用し、首輪をかけた」

 

 正面から行った結果、収穫なし。この回答には納得がいかない。それもあると思うけど、絶対にそれだけじゃない。何かあるはず……なのに、それがわからない。尻尾の先すら掴ませてもらえない。軽くあしらわれている事に対してイライラしてきた。

 

「遠回しな質問をされてもお互いに時間の無駄だ。本当に聞きたいのは、そんな事じゃないだろう?」

「……確かにその通りだけど」

 

 ああ、ダメだ。自分でも焦っているのがわかる。自分のペースに持って行けないのと、この危険な状況への僅かな恐怖……冷静さを失わないようにしていても、どうしても焦ってしまう。一秒でも速くここから抜け出したいという気持ちが先走り、引っ掛けることもできやしない。でも、彼の言うとおりこのまま延々と遠回しな質問を繰り返していても、飄々と躱されて確信を掴めないまま無駄に時間を過ごす事になる。

 ダメだとわかっている。それでも、彼の誘いに乗って、口が滑りだす。

 

「じゃあ、聞くけど。この前ヴィータ三尉が攻撃されて、重傷を負ったことは知ってるよね?」

「他ならぬ八神はやてから聞いた」

「撃ったのは、君?」

 

 ……この質問で初めて彼が表情を変えた。一瞬だけ驚いたように目を見開いて、すぐにいつもの無表情に戻り、それから数秒間、顎に手を当ててどう答えるかを考えているようだった。

 その驚いた顔は、まさか自分が犯人扱いされるとは思っていなかったというものか。それとも図星を突かれて驚いたのか。

 

「私がやったという証拠は?」

「ありません」

「証拠もなしに犯人と疑うとはな」

 

 目を閉じて首を横に振り、さらにため息と。呆れたという感情を示すありとあらゆるジェスチャーを交えて心外だと言われる。

 

「だが正解だ」

 

 気がつけば金色の瞳が私の目を覗いていた。まず感じたのは、わずか一瞬の間に顔が触れそうなほど接近されたことへの驚愕。その金の瞳に心を覗き込まれると、恐怖を抑えこんでいた殻が決壊し、死への恐怖が蛇口を捻ったように溢れだす。

 一気に雪崩出てきた恐怖という感情の濁流は、私の意識を一瞬だけ押し流し、とても大きな隙を作ってしまった。それは彼の間合いにあっては、まさしく致命的とも言える一瞬だった。

 

『マスター!』

 

 長く連れ添ってきた相棒の声で我に返り、手の内に握ったバルディッシュを起動しようと力を入れても、その時にはもう遅い。首を捕まれて壁に叩きつけられ。バルディッシュは私の手ごとナイフで刺し貫かれ、地面に落ちて。

 

「はな……して!」

 

 

 首を強く絞められているせいで掠れた声しか出ない。そのまま片手で持ち上げられて、天地が逆さになったと思うと、首を掴まれたまま地面にたたきつけられた。

 

「くっ、ぐぇっ!」

 

 衝撃で肺の空気を吐き出し、さらに胸に膝を落とされて残っていたわずかな酸素すらも吐き出してしまう。ただでさえ足りない酸素がさらに不足し、苦しさに意識がまるで息を吹きかけられた蝋燭の火のように消えかける。それでも手の痛みのおかげか、なんとか意識を飛ばされずに済んだので、彼の腕を振り解こうと酸欠状態のまま暴れる。それでも腕は剥がれず、締め付けがより一層強くなった。 

 

「か……ぁぁ」

 

 彼は黙ったまま、私の苦しさなど知ったことかと言うように表情を変えずにひたすら首を絞め続ける。そろそろ抵抗する力も消え、視界が暗くなってきた所で腕にチクリと痛みを感じ、喉を開放された。

 

「がはっ、ケホッ……?」

 

 必死に息をして、酸素を吸い込もうとするが、今度はうまく呼吸ができない。呼吸ができないだけじゃな

 

い、体がうまく動かない。なぜかと思ったが、ぼやけた思考でもすぐに結論に辿りつけた。彼の手に空の注

 

射器が握られていたから。きっと何かしらの薬を打ち込まれたのだろう。

 

「鎮静剤だ。しばらく大人しくしててもらおうか」

「わ、私を……どうする、つもりなの?」

 

 かすれた声しか出ないけど、質問はできた。打たれたのが毒ではないことから少なくとも殺す気はないというのはわかったけど、これからどうなるかと思うと怖くてたまらなくなる。

 

「私は知らないな。セイン、アジトまで連行しろ」

「はーい、最近こんなのばっかだな……まあいいけどさ」

「はらして(離して)……おれがい(お願い)」

 

 後ろからいきなり現れた水色の髪の女の子に抱きかかえられても、力が入らないどころかろれつすら回らない。

 

「ま、そういうわけで一名様ごあんなーい」

 

 そして、地面に引きずり込まれた。その後のことは、覚えていない。

 




主人公を追って路地に~背後に出現
路地に入ったように見えたのはクアットロの創りだした幻影。

急に目の前に接近
これまたクアットロが幻影のハンクを作り、さらに本物を幻影の風景で覆います。ハンクが至近距離に接近した所で幻影解除。相手からしたら急にハンクが出現したという感じになります。
風景を幻影にしてかぶせるのはオリジナルですが、ガジェットの大編隊を幻影で出せるほどの処理能力があるならできるでしょう。


ご存知ロストロギア蛇さんの効果。感情の急激な変化、増幅で混乱しました。


前回といい今回といいクアットロ大活躍。本当にクアットロさんは裏方が似合うお方です。セインは原作とあまり変わらず荷物運び。そして着々と追い詰められる機動六課。はやての心配したとおりになってます。

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