色々とトラブルに見舞われまして、自分で納得できるほどの物が書けませんでした。
今回投稿したのは妥協に妥協を重ねた結果の駄文でございます。どうかご容赦下さいませ。
エレベーターから降りて、廊下を歩く。途中で誰とすれ違うこともなく、目的地に到着する。ドアを二度ノックし、了解も得ずにカードを差し込みロックを解除。金属製の冷たい感じのするドアが、エアーの音と共に重さを感じさせない動きで横にスライドし、開ききる。開いたドアから部屋に入り、堂々と部屋の主の前にあったソファーに座る。
「調子はどうだ?」
「……」
敵意と疑惑のこもった視線で見つめられるだけで、返事は来ない。鎮静剤の効果はもう切れているはずだから喋れないということはないだろう。拘束するときにも喋っていたから、喉が潰れているということもない。単に喋りたくないだけ、ということだろう。
喋らないのならバイタルサインや見た目で判断するしかないのだが、バイタルを取るためだけに相手に触りたくはない。AMFが効いていても魔力の放出くらいはできるだろうし、魔力を変換した電気を放出されたら困る。痛みは感じなくとも電撃を食らえば動けなくなるし、下手をすれば心臓が止まるからだ。そういった理由から見た目で判断する。
右手に巻かれた包帯には血が滲んでおらず、出血は治まっているようだが、顔色がやや悪い。敵にとらわれているのだから自然と考えられなくもないが、捕まえるときに派手に地面に叩きつけたから頭を打っていないとも限らない。
「頭からの出血や頭痛、吐き気、視界の異常などの症状はないか?」
「……ないよ」
頭を打ったりはしていないと。考えてみればスカリエッティ自らが貴重な研究材料と言ったのだから、検査はキッチリやっているだろう。そういう所見があれば見逃すことなく発見し、処置をしているはず。意味のない質問だった。
「けど……右手が痛い」
包帯を巻いている右手を抱いて呟いた。それを言われても私の知ったことではない。抵抗されなければ私もあんなことはしなかったのだし。かといって抵抗するなとも言っていなかったから、私が悪いのだろうか……一応謝っておくか。
「それはすまなかった」
「どうしてこんなことしたの? どうして、ヴィータちゃんを撃ったの?」
「スカリエッティに頼まれたから」
スカリエッティの名前を聞いた途端に、彼女はさらに激しく敵意を込めた視線を向けてきた。私はスカリエッティ本人ではないのだが、私が奴に味方しているという事実だけでも気に喰わないのだろう。彼女の仲間を撃って戦場から離脱させたのも私だし、敵意を持たれるだけの理由は十分ある。
「どうしてスカリエッティに味方してるの?」
「妹を治してもらうため」
それ以外に私があいつに味方する理由がない。仇を討たせてもらえたのには感謝しているが、その分はもう十分働いた。エース魔導師を二人戦線から離脱させたのだから、糞五人分の対価としては十分過ぎる。それでもまだ奴の下で働いているのは、一重に妹のため。復讐も終えた今、私に残ったのはそれ一つだけ。妹だけが私の生きている理由なのだから。
「それだけ?」
「それだけと言ってくれるな。前に言っただろう、私の望みはさっさと死ぬことだと。ああ答えたのは妹が治る見込みがなかったから。だが今は違う。あいつが治った姿を見ることができるのなら、それ以上嬉しい事はない」
「……まあ、たった一人の家族だもんね。でも普通の病院じゃ治せないのかな」
「普通の精神病院で治せるのなら、ここには居ない。そして、あいつは技術だけを見れば管理局の何年も先を行っている。さらには法律に縛られず、ミスを犯して糾弾されることも恐れないから、幅広い選択肢がある」
管理局からの資金援助を受けているから、そこらの病院よりも良い設備が整っている、ということは言わないでおく。そこまで言っても困惑するだけだろう。誰しも自分にとって都合の悪いことは聞きたくないものだ。
「じゃあ、管理局が憎いからスカリエッティに従ってるわけじゃないんだね」
「ああ。管理局は嫌いだが、あいつに従うのとはまた別だ」
「……家族のため以外に何か理由がある?」
「無い」
「嘘じゃない?」
「もちろん」
深く頷く。私にはそれ以外何一つ残っていない。家族のため以外にあるはずがない。
「なら、家族のために今すぐスカリエッティの仲間から外れて。今ならまだ管理局に戻れる……一緒に戻ろうよ。今のところは罪もそれほど重くないし、罰も軽いものになるように協力するから。妹さんが治った後に、犯罪者の家族って目で見られるのはきっと辛いと思うよ」
正面から赤い目で見つめられる。その目からは先程までの敵意は感じられず、ただ善意のみが込められた視線。だが、善意はあれども現実が見えていない。私の言っていたことを一つとして聞いちゃいない。こいつの提案は妹を切り捨てて一緒に逃げようというものだ。大事な、大事な大事な妹を。赤の他人ならともかくだ。その妹を見捨ててこんな足手纏にしかならない赤の他人を連れて、この施設から逃げ出し、スカリエッティの追撃を避けながらクラナガンに戻る。できるはずがないし、やるつもりもない。
「現状、エリーを治せるのはスカリエッティだけだ。確かにお前の言うようにこのままスカリエッティに協力して治療を継続させれば、犯罪者の家族というレッテルを貼られることもあるだろう。しかしお前の言うように管理局に戻ればエリーは治ることはない。それ以前にあいつを連れて管理局へ戻る事はここの戦力からして不可能だ。帰ろうとすれば、彼女を見捨てるしかない。だが置いていけばまず処分されるだろう」
加えて言うならば、間違いなくこの部屋は監視されている。というか監視されていないはずがない。集音器ももちろんあるだろう。となればこの会話も聞かれているはず。堂々とそんな事を話さなければまだ可能性は億に一つくらいはあっただろうに、おかげでそれもゼロになった。執務官になれるほどの頭があるならそんなことはわかると思うのだが……人間は私が思うほど賢くはない、ということか。隊長も、こいつも。誰も彼も愚かな考えを持つものだ。
そして、私も例外ではない。
「話は変わるが、お前はこれから自分がどうなると思う」
「……わからない。どうなるのかな」
「このままだと、スカリエッティに研究材料として色々とされるだろうな。資料のはじめの方には薬の投与、細胞の摂取、環境への適性……あとは妊娠は可能かどうか、というのもあった。少なくとも人間的な扱いは期待しない方がいい」
「え……いやだよそんなの! まだ誰かと付き合ったこともないのに!」
顔を青くして、自分の体を抱えて私から遠ざかろうとするフェイト。私だってこういうのはあまり口に出したくはなかった。だがこれからする提案を飲ませようと思ったら強烈な脅しをかけなければ、きっと承諾してもらえないだろうと思いあえて口にしたのだ。
今の状況を見ているであろうスカリエッティからは後で色々と言われるだろう。裏切りとまでは言わなくても、自分の望まぬことをしたという事でまた無茶な仕事を押し付けられるかもしれない。しかし、それだけの価値がある提案だ。
「そこで私から提案がある。管理局を裏切って、スカリエッティの戦力として動かないか。優秀な戦力になる人材をスカリエッティの遊びで台無しにされるのは惜しい」
「う……でも、それってなのは達と戦わなきゃならないわけだし」
それは嫌だが、望まぬ妊娠をするのもまた嫌と彼女は言っている。だが、現実は非情だ。残念ながらどちらも選ばないという選択肢など存在しない。
「私の提案に乗るメリットを説明しよう。私は使う武器の特性上、殺さずに相手を倒すというのは難しい。だから機動六課と戦闘になれば今度こそ死人が出るだろう。つまりお前の親しい人間を殺すことになるかもしれない。だがお前が戦力に加われば私は戦わなくて済む。お前の姿を見れば相手は油断するだろうから、そこを突いて非殺傷設定の魔法を撃ちこめば相手を死なせずに無力化できる。あとは望まぬ苦痛と性行為を受けなくても済む、ということ。デメリットは、それが犯罪であるということ。元仲間に敵対するのと、それから来る精神的苦痛位か。受けない場合は元仲間と戦わなくて済むが、親しい人物が死ぬ。望まぬ苦痛と性行為を受けることになる……」
そこまで言ってソファーから立ち上がる。小さな音だが、廊下から足音が聞こえた。それも二人分。おそらくスカリエッティとウーノだろう。実験の準備が整ったから連れて行くために来たのか、それとも予定を狂わさせないために私にこれ以上喋らせたくないからか。どちらにせよ話はもう終わらざるをえない。
「今すぐに決めろとは言わないが、スカリエッティは近々総力戦を挑むつもりで居る。時間はあまりないぞ」
「……」
最初と同じように沈黙してしまったフェイトに背を向け、ドアの方を向く。足音はドアの前で止まったので、私が出てくるのを待っているのだろう。
「良い返事を期待している」
背を向けたまま一言だけ発し、ドアを開いて廊下に出る。真横に立っているスカリエッティとは目を合わせず、そのまま通りすぎようとする。
「案外優しいのだね、君は」
スカリエッティからかけられたのは、文句でもなく皮肉でもなく意外な言葉だった。思わず足を止めてしまう。
「面白くない冗談だな。私が人情で他人を助けるとでも?」
「おやおや、照れ隠しとは君らしくもないね」
「……会話中の様子からして、異常は無かった。頼まれたことはやったから部屋に戻る」
彼女には一度助けられた借りがある。それを返すという形で、今回の提案を行ったのだ。断じて照れ隠しなどではない。
感想であまりにもfate展開を望む声が大きかったから、今書いてやってるぞ。あんなものを書かせて喜ぶか、この変態どもが!
書きました