『……先の戦闘で、ハンク・オズワルドは最後に魔力を暴走させ自爆。高機動型戦闘機人は爆発と共に反応をロスト。ハンク・オズワルドですが、今のところ死体は見つかっておりません。しかし、先にお送りしました映像記録にありましたように片腕を失い、さらに腹部に剣を刺されて、十分に致命傷と言える傷と、致死量の出血が確認されましたのでおそらく生きては居ないだろうというのが医療班の見解です。それと、フェイト執務官、及びそのデバイス共についてですが、未だにハンク・オズワルドが犯人であるという証拠は見つかっておりません。なお今回の件についてレジアス中将から、直接地上本部に来て説明するようにと要求が来ております。以上で、報告を終了します』
「報告ご苦労様。通常業務に戻って」
部下からの報告を聞いて、ウィンドウを閉じる。
「はぁ……」
「そうですか……ハンク元准尉が」
「そういえばグリフィス君も准尉やったな」
「ええ。僕と違って現場を経験した叩き上げだから、一度話をしてみたかったんですが……結局、一度も話すことはありませんでしたね。その機会も永遠に失われてしまいましたが」
「そか……」
もう、色々な感情がゴチャゴチャになって……ため息しか出ない。病院で治療を受けているヴィータの事を考えると、狙撃した犯人である彼が死んだという報告は確かに嬉しい。他人の死を喜ぶなんて私も随分と酷い考えをするようになってしまったと少し落ち込むけど。けど、喜んでばかりもいられない。フェイトちゃんは未だに姿を眩ませたまま、手がかり一つすら見つかっていないのだから。私たちに何の報告もなく、市街地に車を乗り捨て、路地裏に小さな血痕だけ残して突然姿を眩ませたフェイトちゃんと、その付近のゴミコンテナから発見された『消音器の着いた銃を持った』複数の管理局員の死体。それも死亡推定時刻も行方不明になった時間と重なる。一体何故管理局員が銃を持っていたのかはわからない……単なる偶然? ありえない。この管理局で、しかもミッドチルダで、銃を持った管理局員が警備にあたっているなんて話は聞いたことがない。しかも、消音器がついてるなんて地球の警察でもありえない。あったとしても特殊部隊位……
「特殊部隊……」
考えを一旦その言葉についてシフトする。あの死体が全て特殊部隊だとしたら、銃を持っている理由は当然誰かの殺害になる。その誰かとは誰か……あの時間帯、フェイトちゃんが消えた付近にその対象となるような人間は存在しなかった。ならば、その目標として一番可能性が高いのは、フェイト。彼女の役職は執務官。故に、様々なことを知っているし、調べている。当然知られればマズイ情報だってあるだろう。だが、彼女はここ最近捜査といえばハンク・オズワルド元准尉についてのことばかり……彼の事を深く調べたばかりに特殊部隊を差し向けられたという結末か。しかし、彼女が殺されたにしては現場に残った血痕があまりに小さかったし、彼女が返り討ちにしたのならまず全員非殺傷設定で気絶していて、それに加えて戦闘の痕跡が残るはず。ところが現場には血痕以外に特に痕跡は残っていなかった。魔法を行使した痕跡すらも。
これは姿の見えない第三者が居ると考えていいだろう。ならばその第三者とは誰か。フェイトちゃんに魔法を使わせずに、かつ魔法を使わず、証拠も残さず捕獲できるような化物が……そんなのは、戦闘機人位だろう。
……私のこの考えに間違いがないのなら、彼女をさらったのは戦闘機人。デバイスを回収しに戦闘機人が現れたのは彼女を戦力として運用するため。となれば回収に現れたハンクも加担しているのだろう。一体何が濡れ衣だというのか。調べられて困るような背景を持っている上に、スカリエッティに加担しておいて。濡れ衣ではなく墨染めの衣だろう。真っ黒だ。出来ることなら洗いざらい全部吐かせてから裁判にかけて死刑にしたかったけど、もう死んでいるのだからそれはできない。
「……死?」
そういえば、彼はどうして死んだ? 自爆して死んだ。
なぜ? 致命傷を負っていたので、道連れにするため。
致命傷を負わせたのは、道連れにしようとしたのは誰? シグナム。
「……」
マズイ。非常にマズイ。今になって冷や汗が滝のように流れてきた。彼はヴィータを狙撃した犯人なのだろうが、アリバイがないというだけで彼が犯人であるという事を示す証拠は一切ない。デバイスの信号発信現場に居たものの、先に殺傷設定の剣で腹を突き刺し致命傷を負わせたのはシグナムだ。彼は武器と言えるものも持っておらず、一切抵抗しなかったし、海底で動くなと念話で命令された時には既に腕を食いちぎられ出血している状態だった。その状態で海底でジッとしているわけがない。浮上した後も、降伏勧告も行わず問答無用でいきなり刺した。その後管理局員らしからぬ脅しをかけたのも、全て記録でバッチリ残っている。記録を操作すれば絶対に痕跡が残るから、言い逃れは不可能。おまけに、前にも同じようなことを考えたが、彼は陸の英雄。民間受けも、悪くはない。それをよりにもよって私の部隊の、しかも私の家族が殺したとなれば、それは非常に大きな問題となる。
館内放送のスイッチを入れ、マイクを握りしめ、息をめいいっぱい吸い込んで……
「シグナム二尉! 今! すぐ! 私のところに来なさい!!」
叫んだ。それはもう、力の限り叫んだ。隣に座っていたグリフィス君が驚いてコケてメガネがどこかに転がっていく位の声量で叫んだ。
「や、八神部隊長? どうされたんですかいきなり」
「さっきの報告は聞いとったやろ……」
「え、ええ。一応聞いていましたが。戦闘機人と交戦。その場に居たハンク・オズワルドをシグナム二尉が切りつけ、致命傷を負った彼は自爆して死んだ、ということですよね?」
「その通り。その通りなんやけど……」
説明しようとしたところで、部屋のドアが開いて飛ぶような勢いでシグナムが部屋に入って来たと思うと、正面でピタリと停止し、私の方を不安そうな顔で見る。些細な問題ならこの場で胸の一つでも揉ませてもらえば始末書位で有耶無耶に出来るが、今回ばかりはそうはいかない。なのはが砲撃で廃棄都市区画のビルを一つふっ飛ばしたとか、ヴィータが経費でアイスを買ったりとか、シャマルが手料理を隊員に振る舞ったりとか、そういうのとは次元が違う。
「主はやて、お呼びでしょうか」
「うんうん……シグナム二尉。呼ばれた理由はわかる?」
「も……もしかしてハンク・オズワルドの事でしょうか」
「正解。随分とんでもない事をしてくれたなぁ……」
「あ、あの時は、その……なんと言えばいいのでしょうか……怒りで我を失っていたと言いますか」
ああ、ダメだ。自分のことばかりで全然事の重大さがわかってない。前々からなのはと負けず劣らず脳筋だとは思ってたけど、ここまでとは思ってなかった。
「あのなぁシグナム。うちは前々から中将に睨まれとるんよ。戦闘機人を撃退して、英雄とまで呼ばれるようになった中将のお気に入りを引っこ抜いたせいで余計に嫌われとるし、おまけにそのお気に入りを二度も殺しかけとる。これだけでも潰されてないのが奇跡と言ってもええ位や。そこにさらに、現場に居合わせただけかもしれない非武装で、抵抗もできない状態のそのお気に入りを、英雄を……今度は殺した」
「しかし彼は!」
「うん。彼はヴィータを撃った犯人かもしれん。せやけど証拠がないんや。彼が犯人っていう証拠は何一つなく、そう思うのは全部私の妄想。あの場に居たのも、彼は妹さんを人質に取られて連れだされただけで、管理局に敵対する意志はなく、投降を呼びかけられればそうしていた可能性のほうが高い。海も、空も、陸も……一般の局員も多分そう思うやろな」
彼が武装していたなら、まだ言い訳もできただろう。彼が抵抗したなら、まだ弁解もできただろう。彼が先に手を出していたのなら、責任逃れもできただろう。最悪でもシグナムが非殺傷設定で攻撃していたのなら、と後悔を挙げればきりがない。だが悲しいかな、彼は致命傷を負わされてから反撃した。言い逃れはできない……他人ならまだしも、家族をトカゲの尻尾切りには使えない。聖王教会も、シャッハやカリムと友達であるという事だけで私たちの肩を持ったりはしないだろう。はっきり言って、限りなく詰みに近い状態だ。
「……地上本部へ、一緒に説明しに行こうか。シグナム」
肩に手を置いて、できるだけ優しい口調で命令する。拒否権が無いことくらいわかっているだろう。
「はい……」
「それじゃグリフィス君。ちょっと出かけてくるわ」
後ろ盾はもう期待できない。けどどうにかして部隊を存続させなければ、せっかく援助してくれた人たちに申し訳ないし、何より予言を実現させてしまうのは非常にマズイ。中将はあの予言をまるで信じてないし、私たちが居なくなれば一体誰が予言実現を防ぐというのか。
「ご武運を。良い結果を期待して待っています」
「ははは、ありがと。できるだけ頑張ってみるわ」
ゆるめていたネクタイを締め直し、シグナムの襟首を掴んで引きずって部屋から出て行く。気合を入れなければならない……機動六課の存続は私の肩にかかっているのだから。
どうでもいいけどどうしても書きたかったこと。
ハンクはツンデレ。普段から他人に対して興味の欠片もない振る舞いをして、人を遠ざけているけど、優しくしてもらったり、親切にしてもらったら簡単にデレる。
前話でハンクがトーレに対し、『感謝する。幸運を』と言ったのはハンクなりのデレ。
男のツンデレとか本当、誰得だよ。