オリ主が逝くリリカルなのはsts   作:からすにこふ2世

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六課が忙しい時には決まってスカさん(主人公)陣営はまったりしてる。
あと、トーレさんキャラ崩壊注意。こんな性格だったっけ?と思うんだよね。


第53話

 目が覚めて、まず目に入ったのは、誰かの顔。起きたばかりで頭がぼんやりしている上に、焦点が定まらないので誰かわからない。大きな声で何かを言っているようだが、それもわからない。何度かゆっくりと目を閉じて、開いてとまばたきを繰り返し、だんだんと焦点が定まるようになってきたら、ようやくそれが誰かわかってきた。

 

「……スカリエッティ」

 

、どうも、私はまた死にそこねたらしい。右手で地面を押して起き上がろうとしたら、バランスを崩して起き上がりそこねた。何が起こったのかと思い右腕を見ると、二の腕から先が綺麗になくなっていた。そこでようやく、自分が気を失う前に何をしていたのかを思い出す。

 

 まず海底でサメに襲われた。

 浮上したらシグナムに襲われた。

 どうせ死ぬなら一人くらい道連れにしようと、自爆した。

 

 普通に考えれば三度は死んでいる。しかし今生きているということはトーレが助けてくれたのだろう。後で礼を言っておかなければならない。

 

「……そうだ、ケースは」

 

 今度は左手で身体を起こして周りを見ると、スカリエッティが鈍い銀色のケースを持ちだして、私に見せてくれた。それを見て、私は当初の目的を果たせたのだと、安心して一息つけた。勝手に戦力を引っ張りだし、自身が死にかけた挙句何の成果も得られなかったのでは全く話にならない。

 

「目が覚めて一番にケースの心配か。それより先にまず言うべきことがあるんじゃいのかい?」

「戦力を勝手に持ちだしたことか。すまない」

 

 そういえばスカリエッティには、ケースを寄越せといっただけで何の説明もせずに出てしまったのだった。あの時には急いでいたから、説明する時間もなかったのだが。

 

「まったく。万が一トーレかディエチのどちらかが負傷していたらどうするつもりだったのかね」

「見逃してくれ。結果は最良のものだろう」

 

 トーレとディエチは負傷せず、デバイスも信号遮断のケースに入れて持ち帰ることができ、私も生還することができた。まさしく最良の結果だ。

 

「自身が死にかけておいてどこが最良なんだい」

「高ランクの魔導師に殺す気で襲われて、生きている。十分最良だろう」

「妹の治った姿を見たくはないのかい?」

「それが理想ではあるが、私は魔導師じゃない」

 

 防御魔法は使えない。肉体強化による高速移動以外はできない。砲撃の相殺手段がない。なんだかんだで、私は所詮非魔導師の限界点でしかない。逆に言えば非魔導師でもその気になればこのくらい出来るということだが。

 しかし、そのせいで私はこの一年で何度死にかけたことだろう。一度はチンクに腹の肉を吹き飛ばされ、一度はシグナムに首を切られ、一度は高町なのはになぶり殺しにされかけ、一度は上空からパラシュートなしで降下して、そして今回はサメに襲われて、その後シグナムに腹を突き刺され、自爆して……よく生きているものだ。

 

「しかし、このまま戦い続ければ君はいずれ死ぬ。ただでさえ弱いのに、さらに片腕が無くなったならそめそも戦力としては見れない」

「わかっている。だから、この先戦わなくても済むようにフェイト・テスタロッサのデバイスを取りに行った」

「彼女が素直に応じるだろうかな?」

「応じるさ。人の命が。特に大事な友達が殺されるくらいなら、自分で戦うだろう。それと腕については」

 

 蛇を食いちぎられた箇所から何匹か出してねじり合わせ、腕の形にまとめ。元の腕をイメージすると、見慣れた腕が元通り。噛まれたところに継ぎ目は残ったが、手を握って開いてと、問題なく稼働する。触覚もある。

 

「見ての通り問題ない」

「前々から思ってたんだが、君は本当に化物かい?」

「そうだな……否定はできない」

 

 なぜできると思ったのか。なぜできてしまったのか。そう考えると気味が悪い。

 

「まあ、悪いことばかりじゃない」

 

 そう。あくまでもそう考えた場合は気味が悪いが、考え方を変えればそうでもない。これで私はまだ戦えるのだと考えればそう悪くもない。エリーの心が治った時にちゃんと感覚のある両腕で抱きしめられるのだと考えれば、悪いことではない。エリーには気味悪がられるかもしれないが、それも黙っておけば知られることはない。

 それに、この体でなければスカリエッティの目に止まり、この手で復讐を果たす事もできなかった。エリーの治療をしてもらうこともできなかった……結果でしかないが、蛇は私にとても素晴らしい物を与えてくれている。崇められるだけで特に何をしてくれるでもない聖王などよりも、十分に信仰の対象として値する。

 

「前向きだね……まあ、それに越したことはないか。自分が死んだからといって、いつまでもふさぎこまれていては困る」

 

 一人合点していたのだが、唐突に言われた言葉の意味が理解できずに頭がフリーズする。私はまだ生きているのに、なぜ死んだと言われるのか。こいつから敵意のようなものは感じられないし、これから殺されるということもないはず。だから、なおさらわからずに混乱する。

 

「どういうことだ」

 

考えてもわからないならば、素直に聞けばいい。

 

「言った通りだよ。陸の英雄と呼ばれたハンク・オズワルドは、海上で偶然遭遇した機動六課の八神シグナムに刺され、自爆。その後の行方は不明。死体は確認されていないが、死人として扱われている。ちなみに君が死ぬ前の扱いは、現場に居合わせただけの民間人ということで六課には厳重な処罰が与えられるらしい」

「その情報はどこからだ?」

「レジアス・ゲイズから。ドゥーエに裏を取らせてあるから、情報は確かなはずだよ。障害が少なくなるのは面白くないがね」

 

相変わらず天才の思考は理解できない。物事の判断基準が面白いか否かとは、自分と違いすぎる。

まあそれは置いておいて。機動六課への処分はおそらくかなり重いものとなるだろう。民間人(と思わしき人物)へ警告なしで殺傷設定の攻撃を加えるなど、懲戒免職どころかブタ箱へぶち込まれて然るべき行為だ。そして隊員が問題を起こせば必ず隊長にも責任を負う事になるため、加えられる処罰は……コネを駆使して報道から何からシャットアウトし、民間に情報を一切流させずに全て内々で処理したとしても、しばらく部隊の機能は停止する。そして最悪ー私にとっては最高ーの場合、機動六課は解散し、八神はやては責任を取り降格処分。シグナムは牢屋行き。

私がこれほど素晴らしい結果を生み出せるとは、死にかけた甲斐があったというものだ。ひょっとすると、戦う必要すら無くなるかもしれないし、そうなればあとは妹が治るのを待つだけ。その後はどこかでのんびり暮らす。それはもう最高の結末だ。

そして、今の気持ちを一言で出すと。

 

「楽に終われるか。願ったりだ」

 

これよりも最適な言葉はないだろう。

 

「しかし君は名を失った」

「元々戸籍も名前も偽造だ。執着はない」

 

オズワルドという名を気に入ってはいたが、それが使えなくなったからと言ってどうして気にする事があろうか。都合がいいことの方が多いのだからむしろ喜ぶべきことだ。私が死人として扱われるのなら、これからは完全にノーマークで動けるし、もし事が失敗に終わっても指名手配されることもない。管理外世界で生活していれば管理局と一生関わらずに過ごせるのだから、万々歳だ。

 

八神はやて他機動六課の隊員は私をスカリエッティと組んでいると思っていただろうから、私が死んだと知り気が緩んでいるはず。カラーコンタクトとメガネ、カツラをつけて外見を変えれば、私が生きていると気づかれることもないだろう。ロストロギアについては起動さえしなければ反応は出ないし。痣も肌を露出しなければ問題ない。一体何に問題があるというのか。

 

「そうかい。まあ、君がいいならそれでいいさ。あとトーレが君の事を心配していたよ」

「トーレか」

 

そういえば助けてもらった礼も言ってない。助けられた時には気絶していたから、言えてないのは仕方ないことだが、意識が戻ったのなら言わなければならない。

 

「どこに居る?」

「彼女なら……ちょうどこの部屋の前に居るね。トーレ! 入っておいで」

 

スカリエッティが大きな声で呼ぶと、部屋のドアがスライドして開き。そして入って来たのは、スカリエッティの言っていたとおり不安そうな顔をしたトーレ。いつもの毅然ときた態度の彼女から考えると、全く逆の雰囲気だ。

私の顔を見るなりすぐにいつもの無愛想な顔に戻ったが。

 

腰掛けていたベッドから立ち上がり、トーレの目を見る。目を逸らされたが、構わずそのまま礼を言う。

 

「助けてくれてありがとう。おかげで死なずに済んだ」

 

一言だけ言って、頭を下げる。

 

「私はただ戦力が減るのが嫌だっただけだ」

 

相変わらずこちらを見もせずに、私のためではないから礼は要らないと言い放つトーレ。それなら最初から礼など必要なかったか。

 

「礼は素直に受け取るべきだよトーレ。それとも照れ隠しかい?」

「ち、違います!」

 

顔を赤くして、頭をブンブンと振りながら必死になって否定している。私のためではない、と口ではいいながらも、本当はその逆……はて。こういうのを本で読んだことがあるような。何と言うのだったか。

 

「そうかい。ハンク君、言葉の礼だけでは不足なようだ。傷は治ってるし、腕も問題ないんだろう。食事にでも連れて行ってあげたらどうかな?」

 

あと一息で思い出せそうといったところで、スカリエッティの言葉に思考を中断する。

確かに命を助けてもらっておいて礼の一言だけではあまりに軽すぎるか。食事でも軽いが、それ以上の対価は今のところ用意できない。

 

「そうだな。トーレさえ良ければ、いい店があるんだが。どうだ?」

 

今は亡き隊長に何度か連れて行ってもらった店。値段は張るが、味は確かだ。私の作るものとは比べ物にならない。

出るならついでに変装用の道具も仕入れておこう。

 

「礼など必要ない」

「そうか。残念だ」

 

強制するつもりはないので、拒否されればそれで止める。まあ、買い物くらいは一人で行ける。メガネだけでもかけていれば、誰も私とはわからないだろうし。

 

「し、しかし……どうしてもと言うなら。行ってやってもいい」

 

こちらに背を向けて言っているので、どういう顔をして喋っているのか全くわからない。感情を覗けば何を考えているのか一発でわかるが、あまり多用すると不信感を招くのであまり使いたくない。

なので、言葉からの情報のみで判断する。彼女は行きたくないのだろう。

 

「無理にとは……」

 

無理にとは言わない、と口に出そうとしたところでスカリエッティに肩を叩かれ、振り返ると念話を送られた。

 

『彼女は素直じゃない。口ではああ言ってるが、誘って欲しいんだよ』

「……」

 

面倒な性格をしていると思いながら、態度には出さずに改めてトーレに向き直る。

 

「頼む。一緒に来て欲しい」

「……わかった、そうまで言うなら仕方ないな。いつ出るんだ?」

「……」

 

そういえば、今が何時かわからない。腕時計は腕ごと海の底だし、私の持っていたデバイスは気絶した時に落としたようで見当たらない。さらにこの部屋には時計がない。自分が何時間寝ていたのかがわかれば時間もわかったのだが。

 

『今は午後6時半だよ。他の者の夕食はウーノが作ってくれるから、安心して行ってきなさい』

 

それを察してくれたのかスカリエッティが念話で時間を教えてくれた。デバイスがないので返信はできないので、頭だけ軽く下げておく。

 

「1時間で用意できるか?」

「もちろんできる。むしろその半分でもいい」

「いや、そんなに急がなくてもいい。ゆっくり準備してくれ」

 

それに、そこまで急がれるとむしろこっちが困る。シャワーを浴びて血と血の臭い落として。バレないよう髪型を変えて、私のイメージに合わない服を着て。銃を持って。そこそこ時間が必要になる。

 

「そうか? フフッ、頼みなら仕方ないな」

 

頼んでいるわけではないのだが……まあいいだろう。顔は見えないが楽しそうなのはよくわかるし、あえて水を指す事もない。戦闘機人にも、偶には息抜きが必要だろうし。




トーレさんツンデレ回でした。当初はセインがヒロインになる予定だったのにどうしてこうなった。

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