オリ主が逝くリリカルなのはsts   作:からすにこふ2世

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かなり短いですが、どうしても必要な場面なのです。長くする余地はあったと思うけど、あまり待たせるのもどうかと思うので。
あと、今回はなのはさん視点。


第57話

 今日のように困った、あるいは寂しい、という気持ちを抱いたのは一体どれほどの昔だろう。胸をベルトで締めあげられるような苦しさ。随分と長い間、こんな思いを抱いた事はないと思う。

 いつもは隣に居る人。私にとってはフェイトちゃんと、はやてちゃん……その二人が隣に居ない。手の届くところに居ない。それはとても孤独で、寂しくて。それがどれほど辛いかを思い出させられて……それを紛らわそうと何かに当たり散らそうにも、原因である当たるべき対象は既にこの世には居ない。仕方がないので、いつもより訓練で使う魔力弾の量を三倍に増やしているけど、弱いものいじめをしているような感じがして途中で辞めた。

 だからと言って、地上本部から派遣されてきている『彼』の元部下二人に当たるわけにもいかない。あの二人と、犯罪者としての彼は何の関係もないのだし。

 

「……」

 

 だから、彼の顔写真を貼り付けた枕を殴る。殴って殴って、ひたすら殴りまくって、このどうしようもない孤独感を怒りに変えて、枕を彼に置き換えて、怒りを彼にぶつけていると錯覚させて紛らわす。一発ごとにボス、ボス、と重い音がしてベッドが軋む。それでもこの胸の苦しみは消えない。殴っても楽になれないのなら、いつものように砲撃で消し飛ばせば楽になるだろうか。

 

「ママ、大丈夫?」

「あ、ヴィヴィオ……」

 

 待機状態のレイジングハートに手を伸ばした所でヴィヴィオに声をかけられ、我に返ることができた。そして、自分がしようとしていたことを思い返し、自分の精神状態がマトモではないことに気付く。それから慌てて笑顔を作って、膝をついてヴィヴィオに視線を合わせて、肩に手を置く。ビクリ、と大きく震えられたので、よほど怖かったのだろう。

 

「ごめんね、怖かった?」

「……ううん、そうじゃないけど」

 

 そう言って、手鏡で自分の顔を見せつけられる……これは、全くどうしてこんなに引きつった笑顔になっているのだろう。仕事をしてるとカメラに映る機会も多くなって、ソレでも恥ずかしくないようにと散々笑顔の練習をしてきたのに、それでこんなひどい笑顔とも言えないような笑顔になるなんて。

まあ、原因はわかっている。その原因に対して対処のしようがないからここまで追い詰められてるんだけども。

 

「大丈夫。怖くないから」

 

 ヴィヴィオを抱きしめて、安心させてあげる。そして私はその温もりで心のスキマを埋める。彼さえ居なければこんな事にはならなかったのに、と思うけど。ヴィータちゃんが撃たれてから時間が経って、少し冷静になった今あらためて考えてみれば、彼だって被害者の一人なのかもしれないのだし、怒りを向けるべき対象が違う。そもそも彼が一連の事件の犯人だという確実な証拠はない。だけれども、はやてちゃんは彼が犯人だと言った……何らかの確信があったのだろうけど。それでもあそこに居たということは、スカリエッティと何らかの関係があるわけで。

 ……仮に彼が、本当に犯人だったとして。彼ははやてちゃんを嫌いだと言っていた。けど、ただそれだけで犯罪を犯すほど、彼は馬鹿じゃないだろうし。だから自分の意志でやっていたとは考えにくい。彼の妹が病院からさらわれた時期と、彼が行方不明になった時期は完全に被る。とすれば彼が妹を人質に取られて仕方なく犯罪を働いていたと考えるのが自然。

 もしあの時シグナムさんが感情に任せて彼を斬り殺す前に、私が止めに入ってちゃんと話をしていれば、説得も不可能じゃなかったかもしれない。説得して、六課に戻ってきてもらって、一緒に戦ってもらうのも不可能じゃなかったかもしれない……。でもそれは所詮ifの話。今更後悔しても、遅すぎる。

 しかし、いくら悔やんでも一度起きたことを無かったことにはできない。だからこそ、こんな調子ではダメだ。あの時シグナムさんを止められなかった責任を取って私がしっかりしないといけない。凹んでいる暇はない。

 

「ヴィヴィオ、明日からちょっと忙しくなるから、構ってあげられる時間が少なくなるかもしれないんだ。いいかな?」

「うん、我慢する」

 

 笑ってそう言ってくれる、血のつながっていない自分の娘を一度離して、頭を撫でてあげる。

 

「よし。いい子、いい子」

「えへへ~」

 

 こうして家族の笑っている顔を見ると、自分まで嬉しい気分になる。けれど、彼は……こんな気分を味わうことはなかったのだろう。家族の笑顔を取り戻すために管理局で人を殺し続け、ボロボロになって治療のための金を稼いで、結局家族が治って笑っている姿を見ること無く死んでしまった。なんとも報われない。

 ソレに比べれば、今の私はずっと恵まれていると思える。




最近の話を時間の順に並べると、
15:00 六課とハンク一同が交戦
17:00 中将からの命令ではやてとシグナム一時離脱
19:00 ハンクが目を覚ます
21:00 ハンクとトーレの夕食、今回の話
24:00 ハンクとトーレのデート終了。夜も遅いのでホテルへGO(嘘)

ややこしくてすんません。


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