オリ主が逝くリリカルなのはsts   作:からすにこふ2世

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おかしい。当初の予定では50話以内に纏める予定だったのについに60話に突入。どうしてこうなった。


第60話 交戦開始

13時。ミッドチルダ郊外上空にて。

 

 

 アジトから出撃しておよそ二十分。障害の一つもなく目的地に到達したので、ボードに乗ったまま高度を上げて、雨雲の中で滞空する。

 現在の位置は、首都クラナガンから離れた廃棄都市区画。その中心からかなり離れた部分の、さらに上空。ここならば戦闘しても被害は少ないし、目撃者も少ないだろうと考えて選んだ場所だ。天候は雨。地上にも、見える範囲の空にも人は居らず、それほど強くはない風が吹いている。魔力探知されないためにバリアジャケットではなく雨合羽を着用して移動していたが、少しだけ濡れてしまい身体が冷えてしまっている。が、それでもコンディションはベストに近い状態。私が動かなければならない時にはすぐに動ける。

 

「目標地点に到達。これより作戦行動を開始」

 

 赤い色をした、掌サイズの六角形の結晶。莫大な魔力を秘め、かつてこれ一つで空港一つを焼きつくしたというロストロギア。レリック、という物らしい。ケース出したそれを掌に載せ、その掌の中で僅かな量の魔力を炸裂させる。人が至近距離で触れても、蚊に刺された位の痛みしか感じない程度の、ほんの極小の量。たったそれだけの魔力爆発で、まるで大口径のライフルを発射したような衝撃が跳ね返り、真っ赤に焼けた鉄を握っているかのような熱が発生する。このままだと暴走して自分が消し飛んでしまう。そうなっては意味が無いので、すぐに封印機能も兼ねたケースに放り込んで沈静化させる。

 さっきした事の意味は、安定状態であるエネルギー結晶体に衝撃を与えて不安定にし、不安定化した事により発生する揺れを出すため。そしてその揺れを管理局に観測させて、機動六課をおびき出す。この作戦の第一段階。クラナガンからも比較的近い距離にあるこの場所でレリックの反応が出たら、出てこないわけがないのだ。

 

「フェイト・ハラオウン。聞こえるか」

 

 雲の海を突き抜けて、上へ出たところに居たフェイト・ハラオウンに声をかける。レーダーに捕まりかねないからあまり上空は飛びたくないのだが、相手がそこにいるのだから行かなければ仕方が無い。

 

「聞こえてるよ……」

「少ししたら管理局の部隊。おそらくは機動六課が来るはずだ。殺せとは言わないが、全力で戦え。でなければ死ぬぞ」

「……」

「返事は」

「わかってる。だから、今は一人にして」

 

やはり戦うのには抵抗があるようらしい。この程度なら想定の範囲内ではあるが。

さて、これで言われたからと下がるわけにはいかない。逃げるようなら起爆しなければならないし、裏切ろうとした瞬間にも起爆しなければならない。そのためには彼女を目に届くところにおいて置かなければならない。

 

「それは出来ない。お前の監視が私の仕事だ」

「……」

 

諦めたようで、すぐに下を向いた。

 

『本当に大丈夫なの?』

「不味いことになる前にちゃんと殺す」

 

クアットロからの通信。彼女が裏切らないか気にしている風なクアットロを安心させるために、スイッチを握る。あの量の爆薬なら、防御魔法の上からでも確実に殺せる。防御の薄い彼女がゼロ距離での爆発を受ければどうなるかなど、わかりきっている。

 

今度は通信のチャンネルを切り替えて、クアットロ、ウェンディ、ディエチの三人に限定して繋ぐ。その三人は地上で待機しており、撤退時に上がってもらい、一発砲撃を撃って牽制。さらにクアットロの幻影で水増ししたガジェットを出し、その隙をついて撤退するという作戦だ。

 

「ウェンディ、ディエチ」

『問題ないっす』

『準備はできてるよ。いつでも撃てるし、索敵も万全』

「作戦は道中で説明した通りだ。攻撃は撤退時若しくは敵に発見された時に限る」

 

今回の作戦は単純。レリックの反応を探知させ、機動六課をおびき寄せる。そしてフェイト・ハラオウンと戦わせる。彼女とまともに戦えるメンバーはもはや高町なのは以外に残っていないが、だからこの作戦を提案した。高機動高火力と、高火力重装甲。相性は良い。他と連携されれば援護しなければ厳しいだろうが、今残っている機動六課にメンバーの中に空戦可能な者は竜召喚師のキャロ・ル・ルシエと、ウイングロードで限定的に空戦が可能なスバル・ナカジマのみ。連携するには実力が劣りすぎていて、逆に足を引っ張るだけだろう。

さて、機動六課にはいつはやられてばかりだったが。今回ばかりは意趣返しといこう。

 

『観測用ガジェットからの通信。ヘリが2機、隊舎から出撃したらしい。一機は地球製の物と形状が似てる』

 

 ディエチからの通信。なら片方は、再編された質量兵器運用小隊の可能性が高い。相手の取るであろう作戦は、重装甲と質量兵器を装備した地球産の武装ヘリで魔導師にとっては脅威となるAMFを発生させるガジェットをあらかた破壊し、それから小回りの効く本命の魔導師を投入する。おそらくはそれだろう。管理局の歴史の中で、質量兵器と魔法の共同作戦は私の部隊が初めて行ったことだ。たった一度だけ。だからこそそれ以外の戦術、選択肢が存在しないことを理解している。だから、最初の一手を崩す。崩してしまえばソレ以上の手の打ち方を知らないのだから、もう打てない。

 

「レーダー、FCS起動。全武装ロック解除」

 

武器が起動する音が鳴り、各武器の残弾数、ロックオンの状態、レーダー反応が載っているスクリーンが展開される。デバイスが急に増えた情報量に悲鳴を上げ、冷却用のファンをうるさいほどに回転させる。もう少し性能のいいデバイスを使用した方がいい。スカリエッティに頼めば簡単に性能のいいデバイスを作ってくれるだろうが、奴にはあまり借りを作りたくはない。今のでもなんとか使用できるという状態なので、なんとか騙し騙し使っていく。

 

「手は出さないんじゃなかったっけ」

「機動六課の連中じゃない。私が相手をする」

「死人は出さないって、約束したよね」

「そんな契約をした覚えはないがな」

「なら、ここで君を手出し出来ないようにしてみせようか」

 

死にたいならやればいい、という言葉が喉元まで上がってきて音になりかけたが、こんなくだらない事で苦労して手に入れた戦力を失うのはもったいない。なので、仕方なく武装のロックを掛け直す。ボードのテストはまた今度。今回はこいつが戦えるかどうかの観察に徹しよう。

 

「……わかった。今回は下がろう。ただし、私のところに来た場合は自衛のために行動させてもらう。死人を出したくないなら、自分で全部落とすつもりで。全力で戦え」

 

そして、そのままお互い無言で待機する。その状態からおそよ10分が過ぎた頃。レーダーに反応が二つ現れた。距離は十数キロといったところ。あと数分で交戦範囲に入るだろう。

 

「来たぞ。落とされるなよ、回収するのも手間だ」

 

 ボードを傾けて急降下し、ビルの谷間へと身を隠す。そしてデバイスのメモリを、索敵だけ残して後は全てガジェットのオペレーティングに振り分ける。ビルの隙間から空を見上げると、そのまま空に上がっていく8体のガジェットが見え……そして飛んできたミサイルに四体叩き落とされた。その後も一体ずつ何かのせいで爆発していった。飛んできたミサイル四本だが、なぜか八体撃ち落とされた。銃声は聞こえなかったし、魔力弾の色も見えなかった。消音器を付けた狙撃銃だろうか。しかし、ヘリから狙うにはまだ遠すぎる。ということは。インカムのスイッチを叩き、チャンネルを絞って通信する。

 

「ディエチ、伏兵が居る。近くに敵が居ないかスキャンして確認しろ。クアットロは見つからないよう偽装に専念。ウェンディはこっちに来て適当に暴れろ。ただし、相手は対物銃を持ってるはずだ。撃たれてもいいが、当たるなよ」

 

 さっき上から降りてきた時に、私は偽装も何もしていなかった。一応ボードの裏は雲の色にペイントしてあるが……あの時に落とされていてもおかしくなかったと反省。そして、作戦の変更をする必要が出てしまった。撤退時に補足されていない私たちが攻撃をして撹乱し、その隙を突いて回収。撤退という流れになる予定だったのに、私が補足されてしまったのでその前提が崩れた。地上で暴れてしまえば、あちらからも地上戦のできるメンバーが出てくるだろう。全く面倒なことになった。

 

『どうすればいいっすかね』

「殺さない程度に、好きに暴れろ」

『全員殺しちゃえば手っ取り早いと思うんだけど』

「そうしないと上のやつが働いてくれなくなる。色々と制約はあるが、それでもアレの方が私より戦闘力は高いからな」

 

 ウェンディとクアットロからの通信にそうとだけ答え、ボードの上につけてあるガンラックからアサルトライフルとハンドガンを取り、それぞれにサプレッサーを装着。マガジンを挿入して初弾を装填。安全装置を解除。それからボードから地面に、音を立てないように降りる。ボードの上部に装着した馬鹿でかいミサイルコンテナのおかげで、本来このボードの機能の一つとしてあった盾としての機能が完全に潰れている。元々盾を使うような距離での戦闘を想定していなかったせいだが……まあ今後こういうことがあるかもしれない。手を使わなくても動かせるようにスカリエッティに改造を頼もう。借りはできるだけ作りたくなかったが、必要なことだ、仕方がない。

 スカリエッティに頼み事をした際に要求される対価が面倒なものでなければいいのだが、と思いつつ魔法を使って感覚を強化。壁を背に、ボードを正面に立て。目を閉じて音を拾うことに集中する。

 

 まず聞こえるのは、ビル風の音。ヘリのエンジンと、ローターの風を切る音に混じりコンクリートを砂利が叩く音。さらに集中すると、靴底の擦れる音。銃とスリングが擦れる際に起こる不快な音まで聞こえるようになった。正確な数こそわからないが、三つの部隊に分かれて行動しているようだ。相手が猟犬なら五人一小隊。そうでないなら最低三人一小隊。それぞれの位置こそ離れているが、だからといって油断していてはおそらく居るであろう狙撃手に撃ちぬかれる。

 殺るなら一気に。かつ派手に動きながらでないと反撃されるおそれがある。感覚の強化を解除し、今度は肉体強化に魔力を回す。

 

『よし、全部このあたしがやっちゃうッスよ!』

 

 そして、遠くで聞こえる爆発音と発砲音を合図に、私も銃を構えて路地から飛び出した。目視で発見したのは五人。格好は管理局の標準的なバリアジャケットだが、手に持っているのはデバイスではなく本来ならば禁止されているはずの質量兵器。アサルトライフル。おそらく所属は猟犬。距離は二十メートルかそこら。

 その情報を一瞬で判断し、弾丸をフルオートで横一列にばら撒く。しかし相手もそれに反応して防御魔法を使用し、弾丸は全て弾かれた。ならば、と今度は銃を手放して肉体強化に費やす魔力をさらに増やし、地面を蹴って突撃。相手から放たれる銃弾の射線に入らないように、左へ弧を描きながら接近しつつ、ナイフ二本を両手で抜く。数歩で距離を詰め、一番手前に居た奴の両肩にナイフを突き刺す。何の変哲もないただのナイフだが、それでも高速で突き出せば銃弾と同じ。バリアジャケットを切り裂いて突き刺さり、刺された男の顔が苦痛にゆがむ。

 いつもなら心臓に刺すのだが、今回は殺してはいけないという制約があるためそうしない。

 

 ナイフをすぐに手放して、あとはもう敵の集団の中に潜り、一人ずつ強化した拳で殴り倒していく。全員倒したら立ち止まらず、建物の中に入り眼を切り替え、狙撃手を探す……が、視界内には居なかったので、一息ついて落ち着く。腕時計を見ると、この間およそ十秒ほど。勘は鈍っていない。むしろ以前よりも冴えている。

 安全を確認したら隠れていた建物から出て、殴り倒した奴ら、一人ずつ腕を踏み折っていく。反撃するにも腕が使えないとどうしようもないだろうし。

 全員分の腕を踏み折ったら、ボードを呼んで飛び乗り、場所を移動する。上空では既に戦いが始まっているようで、上を見上げれば雲の合間から桃色と黄色の魔力光が見え隠れしている。

 

『よーし、二班と狙撃手一人倒したッス! 残りは何処ッスかー!!』

「もう一班は私が潰した。次は六課の魔導師連中が来るはずだ、備えておけ」

『了解ッス!』

 

 予想される敵戦力は、ティアナ・ランスター、スバル・ナカジマ、エリオ・モンディアル、キャロ・ル・ルシエの四名。あとは私の元部下の部隊だが、非魔導師では降下時が隙だらけなのでおそらく来ないだろう。

 

 ライフルをリロードして、再度上を見上げると、スバル・ナカジマの得意とする魔法。ウイングロードがいくつか伸びてきて、廃ビルに突き刺さり瓦礫と粉塵をまき散らした。

 

『第二ラウンド、もとい本番の始まりッスね』

「油断するな。相手はさっきの雑魚とは違うぞ」

『わかってるッス』

 

 一旦建物に隠れ、そのウイングロードから降りてくる四つの人影を見守った。ウェンディの言うとおり、これからが本番。さて、殺さないようにという制約の下で、私はどれだけ持ちこたえられるだろうか。

 




やられ役が板についてきた猟犬の皆さん。なんでこんなところに居るのかですが、転移魔法で本命の到着まで持たせるため送られてきたということで。
今回は前哨戦。次回は本番です。

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