オリ主が逝くリリカルなのはsts   作:からすにこふ2世

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スバル退場のお知らせ&主人公ニュータイプ覚醒


第61話 死闘

「面倒なことになったな」

 

 最初から最後まで、想定通りにうまく行くとは思っていなかったが。予想していた中でも最悪の次に悪い展開になってしまっている。ビルの影に隠れたままボードのレーダーから送られてくる情報を見続けたが、降下してきたのは四人。それ以上増えては居ない。そして目視での確認で、その戦力内容は私の予想した通りであるという事が判明している。

 最悪の展開は、上でハラオウンと戦っている高町なのはがこちらに降りてくるということだったが。そうなっていないのはやはり殺されたくないから全力で戦っているということだろうか。見ていないのでなんとも言えないが。

 

『どーするッスか』

「召喚士と槍使いをやれ。残りは私が」

『了解、一度仕掛けた後地上スレスレまで降りるッスから、そこで狙うとイイッス』

 

 

 ライフルのマガジンを抜き、腰につけているポーチのジッパーを開いて放り込み、今度は胸のマガジンポーチから弾丸が全弾装填されているマガジンを差し込みリロードする。対物ライフルでなくとも、普通の魔導師のバリアジャケット程度なら防御魔法を使われない限りは5.56mm弾で抜ける。ということは、奇襲が成功すれば最低でも片方の戦闘力を奪えるのだ。

 問題はどちらから狙うかだが。順番は重要だ。機動力が高く接近戦が強力なスバル・ナカジマと、中距離での射撃が得意なティアナ・ランスター。どちらも非常に厄介で、できればまとめて潰したいのは山々だが。二兎を追う者は一兎をも得ずという諺の通り、欲張ってどちらも無力化に失敗するという結末になっては非常にマズイ。よって優先するのは、一気に距離を詰められ一方的に殴られる可能性のあるスバル・ナカジマにしよう。射撃は、撃ち合いになれば誘導も演算もしなくていいこちらが有利だし。

 

『おらおらー! 私はここッスよ!』

 

 インカムのスイッチを切り忘れたまま、ウェンディが叫ぶ。音量は自動で加減されるようになっているのでうるさすぎるということはないが。インカムのついていない左耳からも声が聞こえてくるということは、よほどの大声を出したのだろう。陽動には丁度いい。

 

『全員食いついた、三秒後前を通るッス!』

「了解」

 

 通信を聞き、安全装置のツマミをフルオートに変えて、表通りに銃口を向けて構え、意識を集中して感覚を引き伸ばす。その直後ウェンディの乗ったボードがそれなりのスピードで突っ切っていく……私の感覚で『それなり』なので、実際はもっと早いのだろう。それを追いかけるようにスバル・ナカジマのウイングロードが伸びていき、術者が上を走っていく。その瞬間に銃口を少しだけ下げてトリガーを引き絞る。エアーの抜けるような音が連続で響き、銃弾が吐出され、銃床が反動で私の肩を叩く。吐出された銃弾の帯に足を踏み込んだ『目標』が、足を貫かれてバランスを崩し、自分の作った道から転げ落ちて破砕音を放ちながら、ビルの隙間から見える世界から消えた。

 

『おお、ナイスキルッス』

「足を撃っただけだ。殺しちゃいな……」

 

 リロードする手と、言葉を放つ口を止める。凄まじく嫌な感じ……ハッキリとした敵意? のようばものを感じたので地面を蹴って飛び上がり、ビルの屋上を目指す。一度の跳躍では減速してしまうので、もう一度壁を蹴って、垂直に飛び上がり、屋上に捕まる。その直後に真下の路地を数発の魔力弾が通過していった。しかしさっきのは勘、というやつなのだろうか。今までなんとなく、という感覚を得て行動に移したことはあるが、今日ほどハッキリと感覚を得たのは初めてだ。右腕を蛇で補っているからだろうか。感情を見抜く能力がさらに進化し、視界内に居なくとも。さらには眼を使わなくてもわかるようになったようだ。例えるのなら、嗅ぎとる、とでも言おうか。今までは忘れていたが、蛇の侵食が進んでいるのだろう。侵食が行くところまで行った時に私の自我は残っているのだろうか。ビルの屋上からぶら下がりつつ考える。

 

「逃すか!」

 

 見るまでもなく、怒りの感情を纏った女が下から上がってきている。それから逃れるために、片手でぶら下がっていた身体を持ち上げて屋上に上がる。当然といえば当然だが、ゆっくり考え事をする暇など与えてもらえないらしい。戦場で考え事をするとは、自分のことながら随分と余裕だ。相手の実力を考えると、そんな余裕は本来あるはずがないのだが……頭を切り替えよう。

 

 敵はBランクの陸戦魔導師。肉体は通常の人間のもの。射撃魔法を主に使用。移動能力、格闘能力は平均的な魔導師のもの。もう片方とセットであれば互いの欠点をカバーし合い、とても厄介な相手と言えたが。片方だけであれば、殺してはいけないという制限があったとしても、時間をかせぐことだけを考えれば簡単な相手だ。とはいえ油断は禁物。こちらの残弾は今装填しているマガジンに入っている分と、未使用のマガジン一本分。それと拳銃。決して無駄遣いできる量ではない。使いどころを選ばなければすぐに無くなってしまう。

 

 そして、その使いどころはまさしく今。

 

 背後から迫り来る敵意に対して、拳銃を右手で抜き、左の脇の下からろくに狙いも定めずに三度引き金を引く。当たりはしなかったが、牽制にはなったらしく敵意は停止した。振り向くと、敵意の主。スバル・ナカジマが左足から血を流しながら立っていた。通常ならば痛みで歩くことは愚か、這いずることすらできないだろうに……いや。通常ではないからこそできるのか。そこは腐っても戦闘機人といったところ。

 しかし、痛みが行動の障害にならないというのなら、銃弾の一発被弾した程度では機能の低下は僅かなもの。主要な血管からは外れているのか、出血量はそれほどではない……が、少なくもない。時間が経てば出血が増えて動けなくなるだろうが、それまでに私が捕まるほうが早いだろう。そしてどうするべきかの判断をしている内に、もう片方がビルをよじ登って背後に立った。

 

「管理局員への攻撃。質量兵器の使用。攻撃には正当な理由になるわ。痛い目を見たくなかったら武器を捨てて投降しなさい!」

 

 状況は一転。若干の有利から、崖っぷちの不利へ。つまりは振り出しに戻る。さてどうするべきか?

 大人しく投降する。却下。考えるまでもない。

 ウェンディに助けを求める。却下。あっちはあっちで忙しいだろう。

 ディエチに支援を頼む。保留。撤退時まであちらの存在は隠しておきたい。余程追い詰められるまではこの決断はなし。

 抵抗する。採用。一対一なら実力は拮抗している。ならば一撃で片方を潰して強引にその状況に持ち込めばいいのだが。この状況でそれをするのは少し難しい。なんとかして引き離すか、上が片付くまで逃げ切るか。逃げ切るのが一番現実的だろう。

 

「……わかった、この通りだ」

 

 いつも話すよりも、ずっと低い唸るような声で、降参の意思を口だけで示す。それから銃のスリングを肩から外し、屋上のコンクリートの上に置く……フリをしてスバル・ナカジマの方へ突っ込む。しかし相手もやはりそれを想定していたようで、迎撃の拳が正面から。無力化するための弾丸が背後から迫ってくる。それぞれを回避するために大きく飛び上がり、空中で体を捻って拳銃を相手の太ももを狙って撃ちこむ。が、貫通はしない。せいぜいがバリアジャケットの上から衝撃を与え、痛がる程度……だが、それでいい。損傷した血管にさらに衝撃を与え、出血を増やすことが目的なのだし。着地と同時に右腕を振り、着地狙いの誘導弾をはたき落とす。どうせ非殺傷だ、受けても痛覚がないからダメージにはならない。

 

「嘘、弾いた!?」

 

 驚くランスターを放置し、さらにもう一度跳ねてビルの屋上から飛び降り、アスファルトで塗装された道路の上に着地。二人の視界からひとまず逃れたことに安心、している暇はない。上からさらに荒々しくなった敵意を纏ったランスターと、スバルが私を追いかけて飛び降りてきた。それも、魔力の弾丸の雨と共に。一発二発ならともかく、十以上となれば弾くのは無理。受けるのも厳しいと思うので、大人しく逃げる。軽く飛ぶだけで十メートルほどは移動できるので、上から垂直に降ってくるだけの弾丸を回避するのは容易。

 ただし、その後突っ込んでくる近接魔導師はまた別。ローラーで地面を滑走し、加速。速度、体重、さらに魔力強化の上乗せされた一撃を、空中に居る私は回避できず、右腕を盾にして防ぐしかできなかった。接触の瞬間に腕の軋む音が聞こえて、さらに結構な距離を吹き飛ばされる。

 

「う、ぐぅ!」

 

 何度かバウンドして転げまわった末に、地面を蹴りあげ体勢を立て直す。すると今度は眼前にローラーブーツの足底が迫り、首を曲げて避けるももう片方の足で鳩尾を蹴り上げられ、胃の中身をぶちまけながら体を浮かせられる……それでも、ボクサーのガードスタイルを取るくらいはできた。そこへさらに容赦を感じさせない追撃が来る。両の拳と、遠距離からの精密な誘導弾に、顔、腹、足、腕、胸。ガードは最初の五発で崩れ、その後はともかく全身を打たれ、痛みこそ無いもののその衝撃に意識を揺さぶられる。打撃を受けたところが熱を持つ。呼吸すらもできない……が、意識はまだある。意識があるのなら、なんとかできる。歯をくいしばって耐えて、耐えて、連打の隙を待つ。いずれは相手も息が切れるはず。そのうち、解放される。それまではひたすら殴られる。

 

「あああああ!!」

 

 雄叫びの後に、今までで最も重い一撃。右ストレートを顔に受けて、またフットボールのように転げまわる。が、ひとまずこれであの連撃からは解放された。転げまわって、両足を地面に立てて。靴底をすり減らしながら減速。停止。眼を開く。平衡感覚は失っていない。背負ったライフルをちらりと見るが、銃身が歪んでいてまず使いものにならない。左腕はほぼ潰れていて、細かい動きはできそうにない。あれだけの連打を右腕は、さすがにロストロギアをそれにしただけある。あれだけ殴られて撃たれたのに、全く違和感がない。足も、まあなんとか動く。強化しておいてよかった……が、一番の問題は地面で頭を打った時マスクが破れてしまったことだろう。おかげで、私の生存が知られてしまった。

 

「……え? オズワルド、准尉?」

 

 一瞬の戸惑い。それなりの距離があるのに顔を見分けられるとは、さすがは戦闘機人。では、生半可な攻撃では活動不能には追い込めないだろう。

 口の中からあふれる血を飲み込み、四肢の強化に使う魔力をさらに増やす。そして、猛然とスバル・ナカジマへ突進。数十メートルの間を二歩で詰める。そして戸惑いから未だ復帰出来ていないのに迎撃の蹴りが正確に飛んできたのは、普段の訓練の賜物か。しかしそれは無意味。刃に変えた腕で太ももを刺し貫いて止め、腹にえぐり込むように左腕を突き出す。バリアジャケットを貫通し、貫手が腹に突き刺さる。腕が血で真っ赤に染まるが、さらに押し込む。皮を破り肉を裂き柔らかく生ぬるい臓物をかき分け、背骨に手が届いたところで、それを握りつぶす。

 

 ガクリ、と。機械の人形が電源を抜かれたかのように膝から崩れ落ち、バリアジャケットも解除され、管理局の制服姿の少女の腹から腕を抜く。支えを失った彼女は地面に倒れ、血の水たまりを作る。

 

「あ……う、そ……なんで、准尉が……」

「……」

 

 問いかけに答えず、左腕を振って血を払い、ティアナ・ランスターの方を向く。目の前で起きたことが信じられず、呆然としていながらも、今の現場を作った私に恐怖を抱いているようだ。

 

「そこの女!」

「っ! あんた、スバルをよくも!!」

 

 私に呼びかけられて正気に戻った彼女が叫ぶ。銃の形をしたデバイスを構え、こちらに恐怖と殺意を向けてくる。

 

「すぐに治療すれば助かる見込みはある! 上の連中と撤退するか、このままこいつを見殺しにして戦うか! 好きな方を選べ!」

 

 戦闘機人はどこまで損傷を与えれば無力化できるか、というのは私も知らないので脊髄を潰して強制的に動けなくした。途中で動脈を確実に傷つけているが、管理局の医療水準ならなんとか……なるだろうか? まあ戦闘機人だしそう簡単には死なないだろう。トドメは刺していないから、ハラオウンとの契約にも違反しない……

 私の問いかけに対し、ランスターはデバイスを降ろした。敵意は依然消えていないが、それでも戦闘態勢は解除されたと見ていいだろう。

 

 上から聞こえる音が消え、雲越しに見えていた魔力光も収まった。念話で戦闘の停止を頼んだのだろう。ちょうどいいので、ボードを呼び出して、その上に乗る。

 

「アンタ……どうして生きてるのよ!! シグナムさんにやられて死んだんじゃなかったの!?」

「貴様とは面識がなかったと思うのだが」

「この……嘘を!」

「嘘かどうかはさておき。さよならだ、貴様らがまだ我々の障害となるのなら、また会うこともあるだろう」

 

 質問には答えず、積んでいたミサイルを上空のヘリに向け発射し、空になったコンテナをパージ。それから高度を上げつつ加速。

 

「総員、撤退」

 

 たったそれだけ、全員に通信を送る。それからブースターに点火し、一気にその場を離脱した。




奇襲>傷口狙って攻撃>しばらくボコられ>足串刺し>腹パン>脊椎潰し
書いといてなんだけど、主人公のやることじゃない。あと、右腕はロストロギアなので基本何にでもなります。

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