オリ主が逝くリリカルなのはsts   作:からすにこふ2世

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今回は、前回ハンクが地上で戦っている時。フェイトさんは上空で何をしていたか、です。


第62話 死闘(フェイト)

 雲の上。バリアジャケット越しに、冷たい風が身体を撫でる。その感覚に身を震わせながら、これから始まる……始めさせられる戦いのために、身体に喝を入れ、熱を込める。見つめる先は、ついこの前まで共に戦いの場への移動手段として使っていた、機動六課の輸送用ヘリコプター。と、もう一機。見るからに装甲が厚そうでしかも重武装の、管理局製ではないヘリ。再編成され、機動六課に派遣された質量兵器運用小隊の所有する物……そして、白を基調としたバリアジャケットと、手に持つ金色の穂先をしたデバイスを持つ魔導師。数多の魔導師の所属する管理局でもトップランクの魔導師。機動六課の最高戦力……そして、私の親友である高町なのは。

 バルディッシュを握りしめ、一つだけ深呼吸。戦うために思考を切り替える。私だって本当はこんなことをしたくない。

 

「行くよ、バルディッシュ」

《本当に良いのですね?》

「私はまだ死にたくないし、他の人に死んでもらいたくないから……やりたくなくても、やらなくちゃいけない。わかってくれるよね」

《私はマスターの意思に従うのみです》

「ありがとう」

 

 礼を言って、ザンバーフォームのバルディッシュを振りかぶったまま背中から魔力を放出し最大速度まで一気に加速。そのままなのはの目の前まで接近し、叩きつけるようにバルディッシュを全力で振り下ろす……けれど、ダメージが通った様子はなく、彼女は健在。驚きの表情に顔が固まっている彼女に、一度振り下ろした剣を逆袈裟に切り上げ、そしてすぐに距離を離す。防御魔法も使っていないのに、相変わらずデタラメな防御力。

 

「フ、フェイトちゃん!?」

 

 いきなりの攻撃に驚いたなのは。その言葉に返事はしない。一つでも言葉を交わしてしまえば躊躇いが生まれるから……躊躇いは隙になり、隙は攻撃を呼ぶ。だから、何も言わず。なのはを見つめたまま、デバイスを構え、魔法を使う。

 

「プラズマバレット」

 

 簡単な誘導弾を大量に、広範囲に放って弾幕を張り、視界を潰す。それに混じって移動し、なのはを囲んだところで炸裂させる。視界を眩い電気の光が埋め尽くすけど、彼女の位置はしっかりと把握している。彼女の真下にあたる方位から、切り上げ……ようとして回避する。すると丁度、彼女の得意とする砲撃魔法が真下に放たれてた。ほぼ溜めなしで放たれた砲撃魔法でも、私は一度直撃を受けたら簡単に落とされてしまう。そうすれば彼女は私を回収しようとする……そうしたらハンク君は間違いなく。何の躊躇いもなしに、私の持つ爆弾を起爆させて、私ごとなのはを殺す。だから、当たる訳にはいかない。

 

「……」

 

 一度距離を置いて、またにらみ合いに。彼女はこちらにデバイスを向けて、怒りと戸惑いの混じった表情でこちらに話しかける。

 

「どうして私に攻撃するの? フェイトちゃん」

 

 氷で背筋を撫でられたような、冷たい感覚。表情は、いつもよりも少し厳しい。けれど、言葉には底の見えない深い怒りが込められている。彼と対峙したときとはまた違った種類の恐怖。私は付き合いが長く、深い友人を裏切ったことへの罪悪感を感じ……なのはは裏切られたことへの怒りを持っている。それが恐怖を増幅させる……彼に抱く恐怖が死への恐怖なら、なのはに抱くのは喪失への恐怖……どちらがより怖いか、なんて決められないけど、どちらも等しく恐ろしい。

 

「ねえ、答えてよ」

 

 喉を撫でるよな優しい声。のはずなのに、怖い。身体が震えて、顎がカチカチと音を鳴らす。

 

「……そう、しろって。命令、されてるから」

「誰に」

「は……」

『もし、続きを言ったらどうなるか。わかってるわね?』

 

 ハンク・オズワルド。そう言おうとした瞬間。念話と同時にデバイスの格納スペースから短い音が鳴り、一気に血の気が引いて慌てて口を閉じる。死にたくないから。彼に誰かを殺させないために仕方なく戦ってるのに、ここで殺されてしまっては。命令に従って、嫌々ながらに攻撃した意味が無い。私が死ねば彼が誰かを殺す。そうさせないために、私は戦う。戦わなければならない。戦わなければ、生き残れない。

 

「ごめん。言えない」

「……そうなんだ。でも、フェイトちゃんの意思じゃないんだね?」

「そうだよ! 私だって、本当はこんな事したくない!」

「なら、戻ってきてよ。また一緒に戦おうよ、フェイトちゃん」

 

 できる事なら、そうしたい。今すぐにでも、そうしたい。でも。

 

「それは、できない……私はまだ、死にたくないから」

「……」

 

 デバイスの格納領域にある、銀色の小さな筒。一見、ただの携帯灰皿あるいは印鑑入れのように見えるこれは、中に私一人を殺すのに十分すぎる量の爆薬が詰められた爆弾。これを手離せば、その瞬間に。逃げるよりも速く爆発に飲み込まれ、私は死んでしまうだろう。だから、ここで退くことはできない。

 

「ごめんね! 死にはしないから!!」

 

 二発だけカートリッジをロード。あふれる魔力をすべて電気に変換して、指向性を持たせて放つ。普通の出力の魔力攻撃じゃなのはは物ともしない……かといってカートリッジ一本ロードした程度でダメージが通るとも思っていないけど、元々ダメージを与えるための攻撃じゃなく、目眩まし。文字通り雷の速度で着弾した攻撃は防御を許さず、閃光と音をまき散らす。そう、閃光だけならさっきと変わらないけど、今度は本物の雷と同じく大音量もついている。それは単なる大きな音と呼ぶにはあまりにも破壊的過ぎて、もはや音の爆弾と言ってもいいほど。あらかじめ対策をしておいたのに、こちらも耳もかなり深刻なダメージを受けているようで、耳鳴りがやまず。軽くめまいがする。

 

「……」

 

 そして、それを何の対策もせずに受けたであろうなのははと言うと。意識を失い力なく地面へ落下していった。途中でレイジングハートが制御を奪ったのか、速度を落としながら落ちていったから落下して死ぬことはきっと無いだろうと思う。

 これで、一段落。私は死なず、なのはも死なず。ひとまずは、良い結果が出た……

 

《警告! 3時方向ミサイル接近!》

「ッ!」

 

 安心していたところで、不意打ちのように飛んできたミサイル。それを見た瞬間に、電熱を持った弾をあちらこちらにばら撒きその場から遠ざかる。目論見は見事に成功し、ミサイルはあらぬ方向へ飛んで行く……が、その後爆発し、広範囲に鋼鉄の破片をまき散らし。身体を丸めて少しでも被害を抑えようとしたけど、ほんの少しだけ遅れて飛来した、熱を持った破片は防御をまるで紙のように貫通して身体に突き刺さり、切り裂き、引き裂いて行く。

 

「う、ギッ!!」

 

 昔、本当の母から受けた、殺すつもりの魔法。それと同等か、あるいはさらに強烈な痛みが全身を襲う。歯をくいしばっても、耐えられない。身体が中と外から焼かれ、血が喉元へせり上がり、手足が動かず、視界の片方が真っ赤に染まる。

 それでもなんとか生きていることに。意識があることに感謝しなければならない。どんどん力が抜けていくのに抗いながらバルディッシュをなんとか持ち上げ。頭も上げて、ミサイルを撃ってきたヘリを睨む。と、その下から大量のミサイルが発射されて……機動六課のヘリ、見知らぬ武装ヘリの両方に何発か命中して……煙を吹いて何が起きたのか全く理解できずにいると、インカムから通信を告げる音が聞こえ。

 

『総員撤退』

 

 ハンク君の声が聞こえて、それを合図に耐え難い痛みを耐えつつ魔法を発動。浮かんできたボードがロケットで加速し、遠ざかっているのを見て軌道を少し修正。ボードの進路上に割り込み、血まみれの身体を叩きつけるように着地……そして、彼の腕を掴んで、意識を手放した。




少しだけ設定解放
ハンクの肉体強化は、魔力を大量に突っ込んでいるため通常の魔導師のものより強化倍率が高い。それに加えてデバイスを使用していないため、セーフティがかからず肉体が損傷するほど強化している。痛みがないから、よほど損傷が大きくならないと本人は気付かないし気にしない。
だから模擬戦の時に素手でなのはさんの肋に罅を入れられた。前回もスバルも一撃必殺(殺してないけど)できた。

これからもチマチマと設定を解放していく予定

あと作品には関係ないことだけれども。
実況動画で知ったportal,portal2というゲームの曲が素晴らしく、作業中にかけていました。そのせいで手が止まったり、寝てしまったり。気分はいいのですが、そればかりは困りものです。

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