オリ主が逝くリリカルなのはsts   作:からすにこふ2世

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グロ注意


第65話 狂気

 背の高い木々の上をかすめる程度の高度を飛び、ある座標の上空に到着したら高度を下げる。木々の合間を縫って地面に降りると、土と草で巧妙にカモフラージュされた入り口が……あるわけでもなく。隠す気が微塵も感じられない鈍く光る金属製の扉があった。その正面にボードを下ろして、扉の隣に据え付けられたテンキーのカバーを外して8桁の暗証番号を入力する。見た目と同じく重い音を立てて扉が開き、ライトで照らされた通路が姿を現す。

 

「おかえりー……うわ、大丈夫?」

 

 通路の床からセインが出てきて、随分とのんびりとした声でそう言った。そういえば返り血を浴びてからずっとそのままだった。乾燥して冷たさもなくなったから忘れていた。

 

「ほとんど返り血だ。それよりも、ウェンディが死にかけのを連れて帰っただろう。そっちはどうなってる」

「ドクターが処置してると思う。とりあえずシャワー浴びて血を落としてきてよ、お化け見てるみたいで落ち着かない」

 

 戦闘機人も化物みたいなものだろう、とはあえて言うまい。今までに何度も言ったことがあるのだし。私は既に化物だ、ともあえて言うまい。こちらも今までに何度も自分に言い聞かせてきたことなのだし。

 大人しく言うとおりにシャワーを浴びてくるとしよう。出てきたガジェットにボードを任せて、自分は通路の真ん中を一人足早に進んでいく。

 

 後ろではディエチとクアットロ、セインの三人が何かを話しているが、私にはどうでもいいことなので放置しておく。そんなことよりも今はシャワーを浴びたい。一度は気にしなくなったが、やはり他人から指摘されると気になりだしてしまうものだ。おそらく、管理局時代に他人の視線を気にしてきた癖が抜けきっていないのだろう。

 

 通路の突き当りにある扉を抜けて、普通の施設らしい通路へと変わる。そこから迷路のように入り組んだ通路を進み、迷うこと無くシャワールームへ。扉の前に立って聞き耳を立てるが、誰かが使っている様子はなし。扉に手をかけて、開こうとしたところで。

 

「おや、ハンク。そんなに血まみれで、治療しなくていいのか?」

「チンクか。セインにも同じことを言われたが、ほとんど返り血だ。これからシャワーを浴びて落とそうとしてたところでな。使うつもりだったなら申し訳ないが後にしてくれ」

「うん、そうしたいのは山々なんだが訓練してたら汗が気持ち悪くてな。一緒に入らないか。背中とかは洗いにくいだろう」

「お前には貞操観念や羞恥心はないのか」

 

 ため息が出る。自分の事ならよくあるが、他人の言動に対して呆れるというのは私にとってはなかなか稀な事だ。

 

「トーレに手を出さなかったのだから、私に手を出すとは思えないな。それともこんな貧相な身体に欲情する特殊な性癖があるのか?」

 

 にやりと意地の悪い笑みを浮かべて私に聞くチンク。当然私にそんな性癖はないのだが、血まみれでこんな小さな少女と一緒にシャワーを浴びるという絵面を想像すると非常に嫌な気分になる。後でスカリエッティに何を言われるかわかったものでもないので遠慮したい。それが元で他の奴らに妙な誤解を抱かれても困る。

 

「そんな趣味はない。私が気にしているのは世間体だ」

 

 まだ色々と言いたげなチンクを放置して、シャワールームに入る。私を追って入ってこようとするチンクの肩に右手で触れ、腕に変えている蛇を本来の姿に戻して全身に絡みつかせて拘束。騒がれないように口にも巻きつけておく。全身を蛇で縛られたチンクを左手で押し出し、ドアを閉め鍵もかける。さすがに爆破して入ってきたりはしないだろう。そこまでして一緒に入りたいと言うのなら、彼女への認識を仲間でなく痴女として改めなければならない。

 血まみれの服を脱いでゴミ箱へ放り込み、裸になってシャワーを頭から浴びる。少しだけシャワーを浴びながらじっとしていると乾いて固まっていた血がお湯で溶かされ鉄臭い臭いが浴室に充満しだす。鼻を摘みたくなる臭いだが、我慢する。髪に指を通すと血と湯が混ざったものが流れに従って落ちていき、よりいっそう臭いがキツくなる。軽く指を通しただけで落ちないものは、ガシガシと乱暴にかき乱しながら落としていく。肌についた血なら軽くこすれば落ちるのだが、髪についたらなんとも面倒くさい。命には変えられないが、これだから近距離での戦闘はしたくない。

 

 髪についた血を洗い流したら、今度は身体を軽く洗って浴室から出て、タオルで身体を拭き、普段着を着て浴室から出る。蛇に巻かれたままのチンクを解放して、スカリエッティの待っているであろう治療室へ向かう。

 

「やあ、遅かったじゃないか」

 

 顔からはどうなったか読み取れない。処置が失敗したとも、成功したとも、成功したものの不安が残るとも取れる。助かっていてほしいと思うが、果たしてどうなったのやら。

 

「蘇生はできなかったよ。手は尽くしたのだが、やはりダメージが大きすぎたようだ」

「……そうか」

 

 やはり現実というのは思ったとおりにならないのが当たり前だ。望んだことが叶わないなんてしばらく前まで当たり前だったのだし、これも想定の範囲内。さほどダメージはない。が、気になることが一つだけある。

 

「その後ろに浮かんでる脳みそはなんだ」

「心肺蘇生が無理だとわかったから、頭だけ抜き出してみた。適当な素体に移植して、君の妹の蘇生のための練習でもしようかと思ってるよ」

「……」

 

 驚きのあまり声も出ない。こればかりは全くの想定外。というよりも、想定できるはずがない。蘇生させられないからといって脳を摘出して保存するなんて、フィクション以外で聞いたことがないのだから。

 

「大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ。脳へのダメージが最小限になるよう迅速かつ精密に手術したし、この後についても最高評議会という前例がある。彼らは肉体が滅んでからずっとこの方法で生き延びているからね」

 

 最高評議会。存在そのものは知っていたが、今のフェイトのように脳だけで生き延びているというのは初めて知った。ともかく、スカリエッティは前例があるから大丈夫だろうと判断してやった、ということでいいのだろう。私も前例があるのならその方法に関して何も言うつもりはない。

 

「ふむ、脳波に変化が出たね。目が覚めるみたいだ。あとは任せるよ、私は移植用素体の選別をしてくる」

「移植に使える素体があるのか?」

「プロジェクトFは私が基礎を作った技術だ。人造魔導師。戦闘機人もそれをベースにして完成したものだから共通する点は多いし、今の技術なら移植の生体拒絶反応は問題にもならない。それじゃあ、私はこれで失礼するよ」

 

 そう言って出て行くスカリエッティを見送ってから、脳の収められた透明なケースに向き直る。機動六課相手にどれほどの戦力となるか見極めてから運用する予定だったのに、予定が大きく狂った。こうなった彼女にもはや戦力としての価値はない。スカリエッティのオモチャにされる前に、死なせてやった方が彼女のためでもあるだろう。

 

 拳を握り、筋肉を弓のように引き絞り、限界まで張り詰めたところで勢い良く拳を付く出す。

 

『うわわわわぁ!? 何、何!!』

「……」

 

 一発で叩き割るつもりで全力で殴ったはずの透明な筒には罅どころか傷すら入らない。なかなか頑丈に作られている。そして、殴った衝撃で彼女が完全に目覚めてしまった。まあ、起きてしまったものは仕方がない。起きてしまったのに叩き壊せば、無用な恐怖を与えてしまうことになる。苦しまずに殺してやろうと思っていたので、恐怖で苦しむことになるのならやめておく。

 まあ、今のままでも現実を受け入れることにより新たな恐怖に苦しむのは確定している。そうなった原因の一端である私に責任はないが、管理局へ送り返すときに発狂していては、事が失敗に終わった後の処罰が重くなる。

 

「おはよう。身体を失った気分はどうだ」

 

 私に今できる事は素早く現実を認識させ、それを受け入れさせるということ。最初は絶望の方が大きいだろうが、僅かにでも希望を見せた瞬間にロストロギアを発動して、その感情を全力で増幅させる。そのために、一旦目を切り替える。

 

『え? 起きていきなり何を言って……え?』

 

 一瞬で視界を埋め尽くすほどに広がった、真っ黒な絶望の色。その絶望の深さに、一瞬だけ過去の自分を幻視した。

 そして思った。実に哀れだと。情報を探っている最中に、探っている対象に何もできないまま無力化されて拉致され、己を見失い、友人と戦うように意識を誘導され、嫌々ながらも従った結果がこれだ。哀れすぎてかえっておかしいが、笑えない。

 

『なに、何なのこれ……』

「落ち着け」

 

 無茶な注文だとは理解している。私が彼女の立場であっても、確実に戸惑うだろうから。

 

『落ち着けるわけ無いよ! なんなのこれは!! 私の身体はどこ!? ねえ、ねえ!!』

「……」

『黙ってないで答えてよ!』

 

 腕を組んで、目を瞑って声。いや、スピーカーから発されているから声ではなく音か。を聞く。今のところ希望は見えないが、絶望が怒りに変わりつつあるのはわかる。悪い傾向ではない。絶望は己の内側へと貯まるもので、怒りは他者へと向けられるもの。絶望が貯まれば、それはいずれ狂気へと姿を変える。一度変化してしまえば、二度と元に戻ることはない。私は絶望を怒りに変換して辛うじて狂気を逃れたが、エリーは男に犯され狂気に犯され、あの有り様だ。狂うよりかは、私のように歪んだほうが幾分マシというものだ。

 それはともかく。

 

「そうだな。確かに説明は必要だ。どこまで覚えている」

『全部説明して!』

「……わかった。今日の昼に出撃し、お前はミサイルの破片を全身に浴びて致命傷を負った。応急処置をして延命を試みたが、それでも心肺停止。脳にダメージが行くとマズイと判断したスカリエッティが脳を摘出した。これが全部だ」

『どうして私が、私だけこんな目に……君のせいだよ。君さえ居なければ!!』

 

 やはりこいつも私を責めるか。今の状況では別に構わないのだが、やはり納得がいかない。自分の意志で戦場に出ておいて、いざ被害を受けたら他人のせいにする。まるで自分でイタズラをして怒られて、怒られた責任を他人になすりつける子供のようだ。

 ……まあ、責任はなくともそうなる原因を作ったのは私なのだが。

 

「死ななかっただけ良いと思わないのか」

『思うわけ無いよ! ずっとこのままなら、いっそのこと殺してくれたほうがまだいい!』

「ずっとそのまま、という訳じゃないぞ。スカリエッティがちゃんとした肉の入れ物を用意してくれている。それも嫌というのならこの場で死なせてやってもいい」

 

 希望と、怒りを向けるための案山子を同時に提供してやる。すると、すぐに希望の色が見え出した。ここですかさず蛇を出して、その希望を捕まえてやる。

 

『元の体に、戻れるの?』

「元の体には戻れないが、元と同じように肉体を持って動けるようにはなる」

『……動けるようになったら、覚悟しといて。こうなったのは君のせいなんだから、仕返しはさせてもらうよ』

 

 さきほどまで色濃かった絶望はすっかり鳴りを潜め、今は赤い怒りと鈍く光る希望が見える。目論見は成功したと見ていいだろう。

 さて、仕返しをするということだが。もしも彼女が動けるようになったとして。デバイスは私が持ったままなのだから彼女には何も出来るはずがない。魔法が使えず、銃も持たない非力な少女に追い詰められるほどやわな訓練はしていない。

 

「その時は好きにしろ」

 

 捨て台詞のように言葉を吐き捨てて、部屋から出て行く。任されたものでも、発狂する心配がなければ放っておいても大丈夫だろう。

 




フェイトさんが脳みそだけになっちゃいました。死んでは居ないけど死ぬよりひどい有り様。身体がないのに意識だけはある、なんという地獄かと思います。それに耐えて自我を保つ最高評議会は案外すごいのかもしれません。
ちなみに脳を摘出した身体はスカさんがオモチャにしてます。
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