オリ主が逝くリリカルなのはsts   作:からすにこふ2世

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やや短めです。ややシーズン遅れの花見のために急いで書き上げため、見苦しいところもあるかと思いますが。


第67話

『猟犬の噂を聞いたことがあるか?』

 

 昨日中将との交渉で見事に行動の許可を勝ち取ってから、数時間。彼への対策のためゲンヤ三佐に情報の提供を求めて電話し、まず最初に聞いた言葉。猟犬。その言葉が表すのは、猟師。つまりは飼い主の命令に従い、獲物を追い詰め。時には喉笛に噛み付き獲物を仕留める犬。犬が猟犬と呼ばれるのはまだわかる。猟「犬」なのだから。

 

『ハンク・オズワルドは、その猟犬だったかもしれない』

 

 しかし、人間がそう呼ばれると悪い予感しかしない。だから、私は聞いた。猟犬とは何かを。そして、一つ納得した。最悪の予想で、できれば外れていてほしいと願っていた物だ。

 

『管理局にとって都合の悪い人間を、内外問わず殺して回る極秘の部隊……らしい。詳しいことは俺も知らん。そういう事にしておいてくれ』

 

 表に公開できないような仕事をしている、していたとは思っていた。でなければ、いくら優秀でも魔導師とも呼べないような人間が、あんなスピードで出世できるはずがないから。それでも、いくら狂人でも。そこまで非道ではないと、思いたかった。

 これで、彼を殺さなくてもいい理由が無くなってしまった。

 

「彼は、ずっと前から犯罪者だった、ということですか」

『証拠が一切ないから、過去のことで犯罪者扱いはできない。罪に問えるのはスバルの件だけだな』

 

 ……確かに。過去の経歴では、彼は担当する犯罪者のほとんどを殺害して捕獲する以外はまさに模範的な管理局員であった。戦闘機人の一件を差し引いても英雄視されても問題ない位。

 それが全て、復讐のための土台作りのための演技だったというのだから恐ろしい。そして、直前で私の妨害があったにも関わらず結果見事六年越しの復讐を成し遂げた。恐ろしいほどの執着心。恐ろしいほどの達成力。

 

「しかし、娘さん。スバルがその被害にあったんですよね。彼が憎いとは?」

『そりゃ憎い……だが、スバルも最前線で働く以上こうなる覚悟はしていただろう。殺されなかっただけマシとも言える。少なくとも奴は殺す気がなかったはずだ』

「復讐したいとは、思わないんですか」

 

 自分でも、下衆な質問だとは思う。下衆な考えだとはわかっている。自分の手で殺せないなら、せめて他人の手で殺す。そんな考えを抱いてしまうほど、私は歪んでしまった。憎しみは人を狂わせる、とはよく言ったものだ。以前彼に「復讐は何も産まない」なんて言ったが、今の私にはそれをいう資格はない。

 

『憎いからって理由で一々復讐してたらテロリストと変わらん。俺達の仕事は法の範疇で犯罪者を捕まえる事だろう』

「……」

 

 ぐうの音も出ない。これが、大人の対応というやつだろうか……そして、今言われたことは、私たちを否定している。ゲンヤさんは、シグナムのしたことを。私のやろうとしていることを知っているのだろうか……顔が広いから知っていても何ら不思議ではないが、だとしたらこれは警告なのか、それとも叱咤か、あるいは、失望か……

 

『もちろん、奴が管轄内に現れれば拘束する。事情はどうあれ、あいつのしたことは犯罪だし、娘の件もある。絶対に逃がさん』

「あの……三佐」

『お前も奴を追うなら、家族の仇、友人の仇という考えは捨てろ。奴に復讐したが最後、お前も復讐される側になるぞ』

「……」

 

 やはりバレていたらしい。いや、それなりの付き合いなのだしバレていないほうがおかしいか。それはともかく、三佐の言っていることは極めて正しい。そのことは私もよく理解している。

 

「わかってます」

『ならいい。せっかく今まで援助してやったんだ、犯罪者として処罰されるような末路は許さんぞ。それじゃあ、俺もそろそろ仕事に戻る』

「ええ、お時間を取らせてしまいすみませんでした」

『構わねえよ。じゃあな』

 

 電話が切れる。

 

「はぁ……」

 

 自分の浅はかさに思わずため息を吐く。家族を傷つけられたら、誰だって復讐の道へ走るに違いない。そう思って電話をかけたのに、逆に警告をされる始末。が、確かにゲンヤさんの言っていたことは的を射ている。

 ずっと忘れていた事だが、私たちが働いている管理局とは、この次元世界において警察の役目を担っている組織。そして警察とは、治安を維持し、犯罪者を捕まえるという役割をこなす。犯罪者もただ黙って捕まるわけではなく、多くはかなり抵抗をする。それを制圧する過程には大きな危険が伴い、その際に重傷を負ったり死亡したりすることも決して珍しいことではない。だからこそ、前線ではたらく職員には高額の給料が支払われ、各種の手当がつき、さらには死亡時の手当まである。働き始めの時にちゃんと説明もされていたはずで、私はそれも了承してこの仕事についた。

 

 その時には、今のような事態など想像もしていなかったに違いない。自分たちは高ランクの魔導師で、それを簡単に傷付けられるような人間はそう居ないと、完全に慢心していた。だから、こうして家族が傷つけられたことに対して怒り狂っている。つまり私には、ゲンヤさんの言うところの『覚悟』ができていなかったのだろう。家族が傷つき、死ぬ覚悟。友人が傷つき、死ぬ覚悟。自分が傷つき、死ぬ覚悟。

 

 ならば彼はどうなのだろう。少なくとも自分が死ぬ覚悟だけはできていたはずだ。魔法という鎧も盾もなく、質量兵器という剣一つだけ持って、鎧と、盾、剣を完備した魔導師に圧倒的不利な戦いを挑むのだし。機動六課に居た頃でも、何度も殺されかけたのに、その度に復帰してきた。まるで死を恐れていないかのように。

 

 私はああはなれないだろう。なりたくもない。私と彼は違う。彼と同じにはなりたくない……復讐してしまえば、彼と同じになるのなら、やはり復讐はすべきではない。いや、やり方さえ変えれば、同じにはならないだろうか。そのまま、やられた事をやり返せば……家族を傷つけてやれば、私の気持ちも味わってもらえるだろうか。




週に二回更新したいのに、一度が限界。現実って厳しいねん。

ちなみに、ハンクの家族である妹をうっかり殺しでもしたら怒りが天元突破して冥王を超える存在が降臨して世界が滅びます。主人公はソレくらい家族を愛しています。

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