オリ主が逝くリリカルなのはsts   作:からすにこふ2世

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原作とは違い、公開意見陳述会の日に襲撃していません。
理由
ハンクが急かしたから
ハンクが相手の戦力を削ったので機動六課のメンバーの留守を狙う必要がなくなった
ハンクとセインという極端に少ない戦力で拉致することでリスクを最低限に抑えられるから

この三つです。
今回は新作も同時執筆していたためちょっと手抜き。


第69話 脱出、再びの死闘

ひとまず潜入に成功したため、怪しまれないため伍長に従って訓練を行う。各種筋トレに走りこみ、射撃訓練等。私が指揮していた時よりも、ほんの少しだけメニューの追加された内容。本当ならこの程度なら簡単にこなせるのだが、あえて少しだけペースを落とし、慣れない訓練に戸惑う新人隊員を装う。その甲斐あってか伍長には少しだけ体力のない新人程度にしか思われていないようで、注意は完全に外れている。二号は事務仕事に夢中で、訓練には一つも口を出してこない。

 そして、その絶好の環境で時はやってきた。施設内に警報が鳴り響き、アインヘリアルが襲撃されたという内容の放送が流れる。壁にかかっている時計をチラリと見ると、予定通りの時刻。一分のズレもない。あちらが準備をしてくれたのだから、こちらも動かなければならない。周囲に居る人間と、監視カメラの位置を確認する。人数は伍長含め五名。カメラの死角で行動するのは無理と判断し、開き直って少しだけ派手に暴れることにする。

 

「訓練中止! 出撃準備! オブライエンはこの場で別途指示があるまで待機せよ!」

「わかりました」

 

 伍長が背を向けたところで羽交い締めにし、露出している首筋に隠し持っていたスタンガンを押し付けてスイッチを入れる。

 

「何をすッ!!」

 

 バチリ、と短い音がして伍長が一度大きく痙攣して脱力し、倒れそうになる。その身体を回して後ろにいる隊員への盾とし。腰についていた拳銃を抜き取る。持った方の親指で安全装置を解除し、一番近くでかつ一番早く反応した男に向かって二発発砲。胴体と太ももに当たり、短い悲鳴を上げて倒れる。それから事態を飲み込み始めた残りの三人に順番に向けてトリガーを引いて、一人だけ弾にあたって倒れた。残りの二人はなんと撃たれる瞬間に身体を射線からずらして回避し、同時に突っ込んできたが、床から現れたセインに殴られて両方共床に沈んだ。こちらも素晴らしいタイミングだ。

 

「お見事。相変わらずいい仕事ぶりだね」

「そっちもよくやった。爆薬は?」

「言われた場所にセットしてあるよ」

「ご苦労様。次の段階に以降する。場所は指定するから連れて行ってくれ」

「トドメは刺さなくていいの?」

「重傷で放置した方が時間と手を稼げる」

 

 死体だと処理するだけでいいが、重傷者は生きているから治療をしなければならない。交戦は避けられないが、加減をする余裕があるのならその方がいい。

 

「急ぐぞ」

 

 あまりゆっくりしていると、銃声に釣られて警備や他の連中がやって来る。監視カメラもあるので私が施設内を移動していては確実に捕まる。戦力的には精鋭ぞろいの機動六課の連中を、片っ端から相手にしていてはキリが無い上に実力差からして無謀なので、ここからはセインのISに頼って移動する。

 抱きつかれた状態で床に沈むと、そのまま水の中を泳ぐように無機物の中を移動し始める。なんとも奇妙な感覚だが、この方法で移動するのは何度も経験しているためもう慣れた。何も言う事はない。せいぜい目標の居る部屋の方向を示す程度。

 壁の中なので誰かの妨害を受けることもなく、何の障害もなく目標の居る部屋の壁に到着した。

 

「索敵頼む」

 

 背中から腹に回されているセインの手を指先で三度軽く叩き、首をできるだけ曲げてから、至近距離でしか聞こえないような声でささやく。念話で伝えないのは傍受される可能性を恐れてのことだ。もし部屋の中に誰か居たら、奇襲で一気に叩き潰す。もしも念話が傍受されれば、それが失敗に終わる。

 

「ん、了解……居るねぇ、二人。召喚士と、槍使いのガキ……部屋の真ん中に、目標を挟んで立ってる。私たちから見たら後ろを向いてるから、今がチャンスだよ」

「槍使いは私がやる」

「オッケー。もう片方は私がやるよ」 

「ああ」

 

 抱きついていたセインの腕が離れ、背中を押されて壁から部屋の中へと押し出される。我ながらうっかりしていて、着地の際に床に散らばっていたゴミを踏んで少し大きな音が出たので、部屋の中に居る人間全員の視線がこちらを向いた。相手は既にバリアジャケットを展開していて、臨戦態勢なのが表情からも見て取れる。背後から撃ってさっさと黙らせる予定が台無しだ。

 が、バックアップは万全だ。

 

「動かないでくだ、むぐっ!?」

「それはこっちのセリフだよ。少しでも動いたら首ねじ切ってオモチャにしちゃうから、そのつもりで」

 

 こちらに注意が向いた瞬間に、セインが床から現れて片方を拘束。片手で口を抑えつつ、もう片方の手で首を絞めている。戦闘機人の力で首を絞められれば、頚動脈を外していてもそう長くは持たないだろう。

 

「キャロ!」

 

 そして、またそちらに気を取られたエリオ・モンディアルに一歩で詰め寄り、殺すつもりで魔力強化した拳を腹に打ち込む。しかし相手もただやられるわけではなく、咄嗟の判断で槍を間に挟み衝撃を低減させた。それから槍の形をしたデバイスが軋み、元の形に戻る反動をそのままに柄を足元を掬い上げるように振られる。非常に良い選択だ、普通なら避けるか防ぐかで意識をそちらに向けるしか無い。

 だが、私はあいにく普通と呼べるほどマトモな人間じゃない。その槍をあえて足に受けて止め、足元から蛇を出して絡みつかせ、槍を止める。そして相手はと言うと槍が止められたとわかった瞬間に手を離し、バク転で距離で取りつつ蹴りで私の顔を狙ってきたエリオは、素晴らしい判断力と才能を持っていると思う。だが、まだまだ経験が浅い。目の前の敵にばかり気を取られてしまって、護衛すべき対象の事を忘れてしまってはまだまだだ。

 

「あなた……もしかして、ハンクさんですか」

「応える必要はないな」

 

 奪った槍型のデバイスを両手で持ち穂先を落として構え、相手を牽制する。相手もデバイスが無ければ持ち前の才能も完璧には発揮できないだろうから、最低限動きに注目しておけばいい。眼球だけを動かしてセインを見ると、既に気絶したのかもがく様子もないキャロ・ル・ルシエを床に倒し、目標を部屋の隅へと追い詰めていた。スタンガンは不要だったようだ。

 目線をずらした瞬間を狙って飛びかかってきたエリオに対し、構えをそのままに槍をあえて手放し、一歩引いて相手の間合いから逃れる。その瞬間にセインが目標を捕獲し、同時に部屋の扉が開いた。

 

「ヴィヴィオ!」

「ママ? 助けて!!」

「目標確保! 逃げるよ!」

 

 そして、乱入してきた保護者とその他数名。交戦中に念話で呼んだか、騒ぎを聞きつけたか。どちらでも構わない。目的は既に達したのだから、あとは逃げるだけでいい。袖の中に隠してある爆弾の起爆用スイッチを押して爆薬を起爆する。建物が連続した轟音と共に大きく揺れ、近くでガラスが割れる音、遠くでコンクリートの塊が地面にたたきつけられる音が鳴る。彼女らがそれに戸惑った一瞬で、目標を脇に抱えたセインに捕まりまた壁に潜る。

 しかし、高町なのは。奴は哀れというべきか愚かというべきか。最初から自分が護衛についていれば、血は繋がっていないとはいえ娘が攫われることも無かっただろうに。攫った私が考えることでもないが。

 

 

 

 しばらく地中を泳いで、地下の下水道に出た。あまりに目標が暴れるため、このままでは地中に置きざりにしかねないということで、セインが一度大人しくさせようと提案したので、それに賛成して一度この広い場所に出たのだ。

 

「どうしてこんなことするの? 帰してよお……」

「黙れ。痛い目に会いたくないなら、大人しくしていろ」

 

 スタンガンのスイッチを入れ、スパークさせながら顔に近づけてやると、途端に静かに。そしておとなしくなった。暴力は時に物事を最も簡単に解決するので、今のように使いどころさえ間違えなければ非常に有効な手段だ。

 

「……ふぅ、やっと一息だな」

「そーだねー……潜ってばかりで疲れたよ。どうせ潜るなら今度はお風呂に潜りたいよ」

 

 少し妨害や予定外の事があったものの、結果としては無事目標を確保することができた。あとはこいつをアジトに連れて帰るだけ。それさえ済めば、スカリエッティの計画はほぼ成功と言っていいだろう。

 そうすれば、エリーの心は治り。私もこれ以上誰かを傷つける事もなく、緩やかな生を送ることが出来る。求め続けていたものに手が届く瞬間というのは、なんと甘美なものなのだろう。

 

 しかし、私は忘れていた。こういう時にこそ、最も気をはらなくてはならない事を。

 

 激しい敵意を感じ、ほんの僅かな時間。コンマ一秒ほども無いだろう時間を置いて思考を戦闘状態に切り替え、咄嗟にセインを蹴り飛ばすと、伸びきった足の上に鋼鉄の刃が降ってきた。その刃は足を切り落とすのではなく叩き潰して足を地面に釘付けにした。そして、その刃を振り下ろした襲撃者は土煙の中ゆっくりと立ち上がると、セインの方を向いた。

 最後まで気を抜くのではなかった。思考が切り替わる一瞬さえ無ければ、蹴りだした足を引っ込めるのもまだ間に合ったはずなのに。基本中の基本を怠った自分に舌打ちをしつつ、襲撃者の足を掴み蛇を纏わりつかせて足止めをする。

 

「セイン! そいつを連れて逃げろ!」

「ちょ、あんたはどうするのさ!」

「いいから行け! 任務を忘れるな!」

 

 私がそう怒鳴りつけると、すぐにセインは目標であるヴィヴィオを抱えて地面へと消えた。

 

「逃がしませんよ!」

 

 それを追うように、襲撃者。シャッハ・ヌエラが蛇を振り払い駆け出そうとするが、私がその背中に拳銃を発砲しさらに蛇を大量に出して伸ばしたことで追跡を中断する。そして、その注意がこちらを向く。

 

「……姿を変えていますが、その声。ハンク・オズワルドですね」

「だからどうした?」

 

 片足でバランスを取りつつ立ち上がって返事をする。足の再生にはしばらく時間がかかるので、時間を稼げるのなら、会話でも何でもして出来る限り稼いでおきたい。

 が、その考えは甘かったようで、彼女は手に持つトンファーをガード越しに私のボディに叩きつけて壁に吹き飛ばし、全身をコンクリート壁にかなり強く打ち付けられる。衝撃が激しすぎて非殺傷設定なのか、殺傷設定なのかどうかすらわからない。

 

「ぐぇ、あはっ……」

 

 地面に四肢を突いて、呼吸のできない苦しみを噛みしめる。このシスター、全く容赦がない……いや、こいつらからしても、スカリエッティ陣営に属する私は敵なのだから、容赦をする必要もないか。

 しかしその割には追撃がない。殺すつもりはないのだろうか……そのおかげで、なんとか息を整えられるのだが。これが強者の余裕ということか。

 

「抵抗しないでください。私も弱い人を積極的に傷つけたくはありません」

「抵抗しないわけにはいかない。なんとしてもここで足を止めてもらう」

 

 一度深呼吸をし、両腕をだらりと下げ。ゆっくりと、フラフラしながら立ち上がる。先ほどのダメージが重く、まともに動けない様を装って。

 そして、今度は拳を構え、身体を強化して砕けた足に蛇を強く巻きつけることで支えとし、戦闘続行の意欲を示す。

 

「抵抗すればするほどに罪は重くなります。あなたは罪ばかりを重ねて、一体何がしたいのです。何度も死にかけながら、何故あなたは止まらないのですか」

「家族のため。それ以外の理由は必要ない」

「それは自らの命を賭してまで成すほどの事なのですか? 関係のない、罪のない多くの人々を巻き込んでまで助けたいのですか?」

「私はただそれだけのために生きている。それ以外はどうでもいい。他人を巻き込むこともどうでもいい」

 

 笑いながら応える。今答えたのは私にとって、たった一つだけの重要な事実だ。

 『眼』を切り替えると、視界が真っ赤に染まる。攻撃色であり、怒りの色でもあり。その中に哀れみの色も混ざっている。しかし、今見たいものはそれではない。セインがアジトへ到着するまでの時間を稼ぐための、道筋。ついこの前第六感とも呼べるあの悪寒。あれを今視覚化して、捉えたい。それさえできれば、勝つことはできなくとも時間は稼げる。

 

「そうですか。では、お喋りもここまでにしましょう。次はせめて一発で気絶してください。苦しいだけですよ」

 

 足の感覚は随分戻ってきた。万全には程遠いが、先ほどは完全に潰れていたのだから動くだけましと思おう。

 赤い世界の中で、線が一本奔る。相手の右腕から私の頭に向かって伸びる線。本能に従って、その線を横から叩くように拳を動かすと。ガツリ、と蛇で覆った拳とデバイスがぶつかり火花を散らして、攻撃を弾くことに成功した。

 

「っ!」

 

 ただし、さすがに高ランク魔導師の一発は重く手がしびれた。もしかしたら骨が逝っているかもしれない。それでも攻撃が来る場所がわかるというのはありがたい。

 

 その後すぐに新しい線が走り、また同じように殴り、弾く。弾いた瞬間に魔力を炸裂させて相手により大きな衝撃を与えるのを忘れない。 

 弾いたらまた同じように線が現れ、それを弾く。それを一度、二度、三度四度五度六度と、数えるのも面倒になるほど繰り返す。線が現れては消え、現れては消え。ひたすら防御に徹する。自分でもよく捌けるものだと思うほど重く、早い一撃が、機関銃の弾丸のように押し寄せてくる。来る場所がわかっていて、それを弾くことができても、それを全て弾き続けるのは至難の業。反撃しようにもその隙もなく、絶え間なく続く綱渡りのような駆け引きはいつまでも続けられない。拳と打ち合うごとに加速し、重みの増す攻撃は格の違いと、、才能の重要さという奴を教えてくれる。対する私は五感と肉体能力の強化で底上げして、経験から来る勘とロストロギアによる反則に支えられてこうして立ってはいるが、才能に嫌われているために、そう長くは持たない。

 そして、張り詰め。それでも引き続けられる糸が切れるように、ガードをすり抜けた一撃が額に直撃した。首が引っこ抜かれるかと思うほどの衝撃で吹き飛ばされ、そのまま何度かゴムボールのようにバウンドしてから無理矢理に距離を離された。かなりの強さで脳を揺らされたので、視界が安定しない。身体も思うように動かない。

 

「思ったよりも持ちこたえましたね。」

「……いっ、あぁ」

 

 身体が動かず舌も回らないし、平衡感覚がいかれて立つことすらできない。蛇を這わせて精一杯の抵抗をしようとするが、あくびが出るほど遅いスピードで飛びかかる非力な蛇など簡単に振り払われ、警戒を緩めぬままトドメを刺しに寄ってくる。

 言うことを聞かない身体に力を込めて腕を上げ、腕時計を見れば、接敵からもう既に二分も経っていた。この位時間を稼げればもう言う事は何もない。最初から勝てるとは思っていなかったので、あくまでも時間を稼ぐという方向性を持って戦ったのが功を奏したのだろう。これだけ時間を稼げれば、いくらセインと同じように壁に潜れるとしても追いつくことは困難に違いない。

 

「もう一人は逃しましたが、あなたを捕らえられたのは大きいですね。当面の脅威が減ります」

「まだ……捕まるわけには、いかない。な」

 

 壁に寄りかかりながら、今度は演技でなく本当に重大なダメージを負って。膝がガクガクと震えるのを堪えつつ、ゆっくりと立ち上がる。あと少しで六年越しの願いが叶う……その瞬間を目の前にして、どうして捕まることができようか。

 だが、現実は厳しい。視界が定まらず、足が砕けて再生の最中。身体は思うように動かない。加えて相手はトップクラスの魔導師。この状況で無事に逃れられる可能性は、奇跡が怒らない限りはゼロに近い。それでもまだ、命があるのならチャンスはゼロではない。遠のく意識を気力でつなぎとめ、言うことを聞かない身体に喝を入れ。願いへの執着を蛇に食わせて魔力を生み出し、手のひらに集める。壁と手のひらの間に魔力の塊である球体、スフィアが生み出され、真っ黒な魔力の色が壁と手の隙間から漏れる。

 

「最後の抵抗ですか……ですが、無駄です!」

 

 その光景を見て、私が何をしようとしているのかわかっていないシャッハが私の腹に刃をめり込ませる。だが、私のやろうとしているのは何も彼女を倒すためのものではない。

 内臓をかき乱される最悪な感触に顔をしかめ、もはや何も入っていない胃から空気だけを吐き出し。そして準備は完了する。逃げられる可能性がないなら、他の可能性を作ればいいのだ。

 

「……!」

 

 トンネルの壁に強力な爆薬をセットし、爆発させればどうなるか。そんなのは子供でもわかる。壁の中を移動できるのなら瓦礫も、破壊したところから流入する大量の土砂の中も移動できるだろう。しかし、その前に私を捕らえるのは間に合わないだろう。

 大量の蛇を一瞬で召喚して撚り合わせ、球を作り、それに全身を包んで襲い来るであろう何十トンという瓦礫と土砂に備えて、その中から右腕だけを出して魔力を爆発させる。少々込めた魔力が多すぎたのか、壁に当てていた右腕が消し飛んだが。どうせ一度千切れたものを蛇で元に戻したものので、また生やせばいいと考えて蛇玉の中で身を小さくする。土砂さえ入ってこなければ酸素の続く限りは生きられるので、あとは助けが来るまで待てばいい。




主人公は不意打ちを封じられ、さらに強力な武器も持っていない場合、それほどの脅威ではありません。近接戦闘能力は低めです(ただし当たれば一撃必殺。当たれば)

今回生き埋めとなってしまった主人公ですが、先に言っておきますと退場はしません。

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