オリ主が逝くリリカルなのはsts   作:からすにこふ2世

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大変長らくお待たせしました。最近少しオリジナルの作品に手を取られていまして。手が止まった時間にちょこちょこ書いていて、時間ばかりかかってしまいました。量はそれほどでもありませんし、進展もほとんどありません。


第70話

 チクタクチクタクと、時計の秒針が動く音だけが蛇で作った小さなシェルターの中に響き、意識が覚醒する。他に光のない中で腕を動かし時計を見て、黄緑色にうっすらと光る数字と針先が示す時間を確認する……他にやるべきことも考えるべきこともないので寝ていたのだが、どうも一時間は短い……

 

「助けはまだ来ない、か」

 

 ため息を一つ、しようとして気がついた。少し、息が苦しい。寝ている時は起きている時よりも呼吸数が抑えられるとはいえ、やはりこの小さなシェルターに入る空気はとても少ない。むしろ一時間以上持っていることは奇跡であるとも思える。

 しかしこのままではそう遠くないうちに酸素がなくなり、呼吸ができず苦しみながら死ぬことにだろう。さて、そうなる前に管理局かスカリエッティか、どちらかの助けが来るか、それともこのまま一人で死ぬのか。

 別に、死ぬのが怖いというわけではない。生と死の境界線ギリギリに立った回数を数えると、両手で数え切れないほどある。さすがに生き埋めは初めてだが、だからといって焦ることはない。今まで生きてこれたのは奇跡のようなものなのだし、奇跡はいつまでも続かない。奇跡がもう少しだけ続いて欲しい、という思いはないこともないが、それは無視の良すぎる話。

 こうして何かを考えていても使う酸素の量が増えて死ぬのが早まるだけなので、もう一度寝てしまおう。次に起きるのは、助かった時だけ。助からなければこのまま死んで、二度と目を開くことはない。

 心残りはあるが、悔いたから、あがいたからといって結果が変わるわけではないのだから。この世はなるようにしかならない。これを私の最後となるかも思考とし、目をとじる。

 

「ハンク!」

 

 その直後に聞き慣れた声。どうやら私はよほど運がいいらしい。が、こんなところでツキが回ってきても正直あまりうれしいとは思わない。ここで運が回ってくるよりも、糞野郎達を殺すときにもう少し運があればスカリエッティの味方をすることにもならなかったのだが。

 

「ごめん待った!?」

 

 セインが能力で蛇のシェルターを通り越して、顔だけを出して私に話しかける。

 

「それほどでも」

「意識ははっきりしてるね。じゃあ、この蛇消して」

「わかった」

 

 自分で意識をして蛇のシェルターを解く。するとその瞬間、今まで蛇が抑えてくれていた土砂が一気に開いた空間に流れ込み、全身が土砂に圧迫される。それに押しつぶされるよりも速くセインが私を捕まえてくれたおかげで、そのまま土砂に埋もれて圧死せずに済んだ……それから一つ深呼吸をして、肺にたまった淀んだ空気を吐き出す。まったく便利で羨ましい能力だと思う。

 

「上の状況は」

「アインヘリアルを無事に破壊して、トーレ姉に器を渡して……多分もうアジトに付いてる頃だと思う。時間がかかったのは地上の安全な場所に行くのに時間がかかったからだよ」

「わかった。それと遅れたことは気にしなくていい。私は生きているし、慎重になるのは悪いことじゃない」

 

 白昼堂々地上本部の切り札を破壊して。さらに管理局の隊舎に潜入し、保護している人間を拉致してさらに隊舎を爆破。宣戦布告とも取れるこれは、管理局始まって以来の大事件だ。警戒も厳重になるだろうし、何よりも面子を潰されたことで犯人を捕まえようとやっきになるはず。捕まらず、計画を最終段階まで進行させ、成功させるにはかなり慎重になる必要がある。私や他の戦闘向けナンバーズは欠けても問題のないピースだが、ウーノ、クアットロ、セインといった特殊な能力を持つメンバーは替えが効かないためより慎重さが求められる。だから、少し助けに来るのが遅れたからといって責めるつもりはない。私は死んでも居ないし。そも死んでいたら責めるもクソもないので、どっちにしてもセインが私に責められることはない。

 

「うん、ありがとう。じゃあとりあえず地上に……」

「急がなくていい。地上に出るのは、安全な場所である確認できてからだ。せっかく助かったのに、地上に出たところで包囲されて捕まったら意味が無い。いいな」

「……そうだね。器を引き渡したところまで行くのにしばらく時間が掛かるけど、我慢してよ」

「大丈夫だ」

 

 死ぬまで生き埋めになるかもしれなくとも、寝ていようと思っていたくらいだ。日の光はまた見たいが、出られるのがわかっているのなら焦ることはない。ここまで大きな事をしたのだから、焦って失敗などしたくはない。ここまで来たのなら、確実に成功させる。させなければならない。

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 思っていた中で一番最悪な展開を上回る、さらに最悪な展開。あり得ないと思っていた事を、あっさりとやってのけられてしまった。手酷くやられすぎて、もはや怒りすら湧いてこない。湧いてくるのは自分への呆れだけ。

 

「はぁ……ここまでやられると、いっその事笑えてくるわ」

 

 担架で運ばれていく隊員達と、建物の一部の崩落した機動六課の隊舎。ただ漠然と爆弾を置いて、炸裂させるのではなくちゃんと主柱を折って崩落させているあたり、彼の几帳面さが伺える。そして、連れ去られこの場に居ないヴィヴィオ。計算された行動。こんなところに手を出したりはしてこないだろう、という油断していたところにクリーンヒットした。

 それにしても本当に彼にはやられてばかりだ。偽造された通行許可証を手にした彼の侵入を許し。一度は怪しんだものの、仕事に忙しく結局見逃し。施設内に爆弾を設置し、ヴィヴィオを拉致するための準備時間を与えてしまった。最後には、手の届く距離に居た彼を爆発の衝撃で揺らめいて逃し。外部からの協力者を追撃に出したものの、結局捕まえることは叶わず。

 高ランクの魔導師。あるいは、ランクこそ低いものの才能のある者ばかりを集めておいて、この体たらく。直接戦闘になれば彼に勝ち目など一切ないはずなのに、こうも出し抜かれ続けているのは彼の戦闘以外の能力が高過ぎるのか、それとも私達が戦い以外ではまるで能なしということなのか。あるいは、中将の言っていたようにその両方なのか。

 

「なあ……?」

 

 ハイライトの消えた目で、一部が崩落した機動六課を見つめながら隣に立つなのはに声をかける。

 

「……そうだね。ここまでやられると、さすがに。いくら理由があっても、許せないかな」

「せやけど、捕まえようにもアレはとっくに遠いところに行っとる」

「死んじゃったのかな?」

「それはないと思うわ」

 

 下水道内で生き埋めになった、というのはシスターシャッハの談だけれど、あれは生き埋めになったくらいで死ぬような男じゃない。絶対にしぶとく生き延びているはず……そして私達が彼を捕まえようとし続ける限り、彼もまた私達に害を振りまくだろう。ここまで手酷くやられ続けて、今更面子にこだわるわけではないけれど、彼のことはなんとしても捕まえなければならない。なのははフェイトちゃんの件に加えて、さらヴィヴィオまで攫われて怒り心頭みたいだし、私も役割を放棄する訳にはいかない。結局、こうして被害を出し続けてでも対峙しなければならない。

 

「じゃあ、何処だろうね」

「少なくとも、私らの手がとどく範囲内には居らんやろ。安全圏に一回下がって……次は一体何をしてくるんやろうな」

 

 どうしてヴィヴィオを攫ったのかはわからない。以前も戦闘機人に狙われていたが、結局理由はわからない。彼がわざわざ危険を冒してまで手に入れたからには、かなり重要なナニカなのだろうけど。もしかしたら予言と何か関係があるのか……少なくとも単なる嫌がらせのためでないことは確か。

 

「八神隊長。生き埋めになっていた者の救助が完了しました」

「お疲れ様。今度は悪いけど処置の手助けしたって。手は多いほうがええやろ」

「了解しました」

 

 走り去る隊員と、その先に居るケガをして地面に寝かされている隊員。何人か瓦礫に押しつぶされて重傷。あるいは死の縁に立たされている。ケガをしていない隊員の方が多いけれども、冷静に考えてみれば大勢の人間が死んでいてもおかしくなかった……これは彼なりの警告なのだろうか。これ以上痛い目を見る前に、大人しく引き下がっておけという。立場など捨て、我が身かわいさに手を引けという。

 いや、考えすぎだろう。死傷者が少ないのは持ち込む爆薬の量に限りがあったからと、出撃の準備でバラけていた人間が数カ所に集まったから。負傷者の多くは移動中に崩落に巻き込まれたというのが多い。まあ、それはともかくとして。

 

「しっかしこれからの事を考えると、嫌になるなあ」

 

 多額の予算を投じて建てられた隊舎は潰れて、犯罪者に隊舎に侵入され好き勝手に暴れられ。高ランク魔導師がたくさん居るのに取り逃したとあっては面目も丸つぶれ。中将はこれを聞いたら私達を嘲り笑うだろう。おまけに書かなければいけない書類が山ほどある。これだけデカイ事件……むしろテロか……を起こされたらマスコミも騒ぐだろうからそっちへの対応もしなくちゃならない。なんというか、大変。その一言に尽きる。復讐なんてしている暇がない。仕事なんて投げ出してしまえば復讐をする時間もできる。そうするのは簡単だ。しかし、それをしてしまえば、私は隊長としての責任を投げ出して仕事をやめたただの屑になる。

 

「はやてちゃんは、自分の仕事をしてくれればいいよ。出てきたら私が捕まえるから」

「頼もしいなぁ。けど、やられんといてな? なのはちゃんまでやられたら、もうどうしようもないでな」

 

 戦力として数えられるのはたくさん居る。けど、これ以上親しい誰かが傷付けられたら、私はもう耐えられない。辛くて辛くて、周りに当たり散らして、仕事なんて手に付かなくなる。そうしたら今までやってきた事をつきつけられ、良くて懲戒解雇。最悪晴れて犯罪者の仲間として牢獄入り。それは嫌だ。

 

「大丈夫。戦えば負けることはないから」

「……アレが素直に戦ってくれるやろか」

 

 彼は自分の実力が低いことを理解している。だから正面から戦うことは極めて稀。彼がそうするときは決まって、どうしてもそうしなければならない時か、あるいはすでに至近距離まで近寄られているときのみ。そうでない時にはほとんど手の届かない距離か、死角から。こちらから出て行くのは極めて危険だけど、彼にはもう、障害を排除する以外で私達を相手にする理由がない。よってこちら打って出るしか無い。けどそうなると、罠を張って待ち構えられても仕方がない。

 

「……それも、そうだね」

「まあ、もしアレと戦うことになったとしたら、絶対に外さずに初撃で仕留めるようにな。下手にいたぶろうなんて考えたら逆にやられるで」

「うん? それほど強かったかな、彼」

「強い……てわけやないけど。毒蛇みたいな奴やな」

 

 戦闘だと一撃で倒さずに隙を見せた結果スバルが容赦の欠片も感じさせない一撃をもらい、完全に動けなくなって戦線離脱。ヴィータはそもそも戦いすらさせてもらえずに、戦線離脱させられた。相手がセッティングを済ませてある土俵に入ると、オシマイだ。

 そして私はというと、今まさに毒が全身に回りつつある状態。一発で確実に無力化しなかったから、反撃に手酷く噛まれてこの有り様。肉体的な死ではないが、社会的な死が迫ってきている。もうすでに手遅れに近い状態だけど、それでも速く捕まえればまだ助かる見込みもある。が、捕まえようにも相手はよく逃げる。それに加えて6年越しの復讐を完遂した、恐るべき執念深さ。

 

「油断したらあかんで」

「大丈夫。戦えば私は必ず勝つから。それから、今まで自分がやってきたことを反省してもらう」

「……アカンわ。ちょっと頭冷やしいな」

 

 確かに、アレとなのはが戦えばどのような状況でも、まず間違いなくなのはが勝つ。それは前の模擬戦の過程と結果から見ても明らか。なのはが全力で防御魔法を使えば手持ちできるような武器では貫通するのはまず不可能だから。共倒れ覚悟の自爆でさえきっとなのはは防ぎきるだろう。

 けど、アレの本領は防御・回避・反撃などあらゆる抵抗を許さない不意打ちにこそある。今回のように変装して……いや、変装にかぎらず、アレはきっと多くの殺害のための手段を知っている。頭に血が上っていて冷静さを欠いた今のなのはを殺すことなど造作も無いだろう。

 

「私は冷静だよ」

「そんな嘘すぐにわかるわアホ。鏡見てみい」

 

 ポケットから手鏡を取り出して、なのはに突きつける。笑顔を作ってはいるつもりなのだろうが、引き攣っていてとても恐ろしい。まるで般若面のよう。怒りの矛先がこちらに向いていないことはわかっていても、それでも恐ろしい。

 

「……な? 今の状態で倒しに行っても返り討ちにされるだけやで」

「ならどうしろって言うの? このまま黙って、事が終わるまでじっとしてればいいの!?」

「落ち着かんか阿呆! 下のモンが頑張っとんのに上司がうろたえとってどうするんや!」

 

 胸ぐらを掴み、私でも珍しく怒鳴る。なのはには冷静になってもらわないといけない。さっき言ったこともあるけれど、私もせっかく落ち着けた気分が昂ってしまいそうだったから。

 

「……そう、だね。でも、これからどうすればいいのかな」

「とりあえず負傷者の手当やな。追撃はその後や」

 

 

 何を考えているのかわからない以上、下手に動くべきじゃない。焦って対策をせずに行けば、それこそいいカモだ。相手が動

 

いてから、何を考えているのか見極めて、対策を練って。それから打って出る。速さも大事だが、これ以上被害を受ければ隊と

 

しての機能を維持できなくなる。相手を道連れに出来るならともかく、こちらだけがやられるのは割に合わない。

 もし被害を出すのなら、確実に仕留める。もしくは道連れにするときだけ。それ以外で出してはならない。


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