オリ主が逝くリリカルなのはsts   作:からすにこふ2世

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モブキラー。そして伏線一個回収

注意・人がゴミのように死にます
   またしてもフェイトさんが酷い目に合います

2014/4/22/21時に、ほんの少しだけ編集。



第72話 殲滅

 木の幹を蹴り、枝を蹴り、と派手には移動せず、姿勢を低くして薮に身を隠し、出来る限り森のなかを這うように移動する。相変わらず空の上からは砲撃の音や、魔力弾が炸裂する音が聞こえてきて。けっこうな頻度で撃墜された魔導師が森のなかに落ちてくるので、樹上を移動しても問題ないのではないかとも思ったが。それでも今更動き方を変えるつもりもなく。蛇の眼を使って敵を探していく。普段は獣も多く居るらしいが、見間違う可能性は無い。これだけの異変だ、おそらく逃げ出している。

 

「居た」

 

 そして、ようやく遠くに「色」が見えた。ヒトガタは見えないが、それでも相手の位置はよくわかる。その色に向かって進路を変更し、移動速度を少しだけ上げる。そして、音は極力立てないように。どうしても少しだけ音は出てしまうが、上から聞こえてくる音に比べれば些細なもの。よほど大きな動きをしなければ問題ない。

 地面を這うように姿勢を低くして。そして静かに、速く移動する。相手もこちらに向かって、割りと早めな速度で移動しているので、相手の姿を視認するのにそれほど時間はかからなかった。

 

 相手の構成は予想通り、戦車一両につきライフルで武装した随伴歩兵が数名。それと戦車が十両以上。サーチャーが周囲を飛び交っているので、魔導師も居るのだろう。一人ずつこっそりと仕留めていく予定だったが、分散していないのならそれはできない。ならどうするか、と言うと。簡単な話だ、まとめてやってしまえばいい。

 胸につけた通信機で周辺一帯に潜ませてあるガジェットの大体半分を管制下に置き、集合命令を出す。一分としない間にガジェットが集合してきて、その内の一部が敵のサーチャーに引っかかる。

 

「敵だー!」

 

 そして、銃声が何度か轟き、少し遅れて爆発音が。これでガジェットは管理局の連中を敵として認識したので、もう後は放っておくだけで敵は殲滅される。周囲で浮遊していたガジェットが一斉に枝葉の間を騒がしく移動し上空へ抜け、敵の真上へと移動し。そこからミサイルを雨のように地面へと撃ち込み始めた。何機かは咄嗟の反応で落とされたものの、それでも一機につきミサイルが六発。それが何十機といるわけだから、やられる側からしたら雨が降るようにミサイルが降ってくるのだろう。着弾した端から爆発し、地面が炎に包まれ、その度に見える「色」が減っていく。恐怖の叫び、断末魔の叫びは爆発と炎に掻き消されるが、恐怖の感情。怒りの感情は爆炎のように私の脳内に燃え上がっては消えていく……家族への思い、平和への思い、理不尽に殺されることへの怒り等など。消えていく者達の思念がどんどん雪崩れ込んでくる。自分のものではないのに、まるで自分がその感情を経験したかのような錯覚……あまりの情報の大きさと、自身の経験と他者の記憶との矛盾にちょっとした吐き気を感じたので、一度木に背中を預け地面に座り込む。

 ほとんどの「色」が見えなくなったところで空爆を一旦止める。視界を切り替えて空爆の終わった跡を見れば、周辺の木々は折れ、血肉が飛び散り火の粉が舞い、戦車が燃え上がって。地獄のような有り様だった。

 無人機による空爆。密集している相手に対しての空爆というのは地球では常套手段という話だが、ここまでの効果を発揮するとは思わなかった……それと、残党は狩る必要はないようだ。色は既に遠ざかりつつある。逃げる敵まで追う必要はない、こちらは時間を稼げばいいのだから。別に、吐き気で身動きが取れないというわけでは断じて無い。

 

 吐き気が少しマシになったので目を切り替えて、管制下においていたガジェットの制御を元に戻し、空に上げて。周りを見渡すが、まとまった色は見えない。どれも分散していて、今のように一網打尽とはいかないよう。

 空からは相変わらず戦闘音が響いている……耳には入ってこないはずの悲鳴も、頭に響く。

 

「……少しキツイか」

 

 吐き気はおさまらないし、しつこく纏わりついてくる悲鳴も消えるどころかよりその音量を増している。頭を振って追い払ってもまだ悲鳴は絶えない。感情が色で見えるようになったと思ったら、今度は聞こえるようになるとは……蛇の能力は便利なだけじゃ終わらないと。しかも、多くの人間が死んだり傷ついたりする戦場ではかなり強い感情が聞こえてくるためあまりの騒がしさに吐き気がする。先の戦闘で胃の中身を全部ぶちまけたので、吐いてスッキリというわけにもいかない。聞こえてくる悲鳴は耳を塞いでも頭のなかに直接響くので、この声を止める方法はこの戦場から離脱する以外になく。かと言ってここで下がれば施設へ大勢の敵が侵入してくる。それはつまり計画の失敗を意味しているので、結局のところ我慢して敵を排除していくしかない。

 

 いつまでもうずくまっているわけにはいかない。立ち上がって顔を二、三度叩いて、音と衝撃で意識をハッキリさせる。耐え難い吐き気で思考も動きも鈍る。まさしく最悪といえるコンディションだが、ここは耐えて戦わなければならない。空にはトーレが居るが、陸には殲滅力の低い私の他に人員が居ないのだ。私が敵を少しずつでも排除しなければ、アジトへ進入する敵の数がそれだけ増える。責任は重いが変に気負わずいつも通りに、自分にできる事だけをやっていればそれでいいだろう。無理はしない。

 最悪の身体を引きずって「仕事」に戻ろうとしたその時に、インカムから声が聞こえた。

 

『聞こえるかい?』

「ああ……」

 

 口を開くと、胸から胃液がせり上がってきて。その気持ちの悪さに一瞬だけ咳き込んだ。

 

『なんだか調子が悪そうだね』

「用件を言え」

『テスタロッサの術後経過を見たのだがね、なかなか良好だ』

「朗報だな……で、それは今言うべきことか?」

 

 わざわざ戦闘中……ではないが、作戦行動中に言うほどのことではない。もっと緊急の事があるはずだ。

 

『人の話はちゃんと聞くものだよ』

「続きがあるのはわかってる。気分が悪いんだ……さっさと本題に入れ。でないと切るぞ」

『せっかちだね。じゃあ一番最後に伝えようと思ってたことを最初に言おう。彼女がそっちに向かってる』

「応援か?」

 

 だとすれば大歓迎だ。この戦場は私にとってあまりにうるさすぎるし広すぎる。仮に私のコンディションが最高だったとしても、とてもじゃないが一人ではカバーしきれない。体調が悪いのならなおさら。

 

「違うよ」

 

 しかし、そういう甘いことを考えている時に限ってそうならないのが現実というもの。後ろから言葉が発せられると同時に振り下ろされる刃を横に転んで避け、起き上がりざまにショットガンを撃ち散弾を叩きつけようとするが、発射された散弾は木の幹を抉るだけで既に空へと逃れていた通り魔には当たらなかった。

 

「何のつもりだ」

 

 空に浮かぶ、新たな身体に入ったフェイトを見上げながら呼びかける。見た目が十九歳の見た目同様のものから小学生高学年位になっただけで、それ以外に大きな変化は見られない。

 

「私言ったよね。治ったら覚えておいてって」

「ああ、言ってたな。それで、どうするつもりだ」

「さっきもいっぱい人を傷つけて……反省してもらうよ!」

 

 木々の隙間から金色の光が見える。声からは殺意までは行かないものの敵意がハッキリと感じられ。おそらくあのまま上から砲撃を打ち下ろして私を無力化しようという魂胆なのだろう。シンプルだが良い手だ。

 少し考えが足りないが。通信機の周波数を変更して仕掛けを作動してやる。

 

「管理者権限発動。バインド」

 

 飼っている鳥が逃げる可能性があるなら、逃げられないよう紐をつけておくのは当然のこと。飼い主から逃げたり、飼い主に歯向かったりするようなら紐を引っ張ってやれば地に落ちる。

 

「へ? きゃああああ!?」

 

 フェイトが悲鳴を上げながら、木の枝葉に何度か身体を引っ掛け落ちてきた。体中を自分のバインドで縛られた状態で。

 

「どうして、バルディッシュ……なんで!?」

「一応こうなるかも、と思って仕込んでおいた。お前に本気でかかって来られたら、私は手も足も出ないからな」

 

 強制はしてないが、本人の意志に反して戦わせるわけだから離反の可能性は十分に考慮していた。だからバルディッシュを拾ってきた後に、スカリエッティに中身を少しだけいじらせておいた。厳重と言えるレベルのプロテクトがかかっていても奴にとっては解除するのにさほど苦労する代物ではなかったらしい。やけに自慢気に話していたのを覚えている。その結果が、この眼の前で蛇を前にした蛙のように怯えて動かない……いや、動けないが正しいか……少女だ。

 

「歯向かったからには、覚悟できてるな?」

「……こ、殺すの?」

「いいや、そんな勿体無い真似はしない」

 

 せっかく海の底まで潜ってデバイスを取ってきて。せっかく死ぬところを助けて新しい身体まで用意してやって。それで大した活躍もせずに殺処分ではあまりに勿体無い。かなり大きな投資をしたのだから、見合った成果を出してもらわなければ困る。

 だから、こうなる事を考えてもう一つ種を仕込んでおいた。それを起動させるために、無抵抗……というか抵抗ができない彼女を仰向けにし、馬乗りになり、首を絞める。

 

「うっぐ……かっ」

 

 恐怖で顔を真っ青にし。息ができずに口を開いて舌を伸ばし。ひたすらに喘ぐだけ。私がもう少し力をいれれば簡単に首が折れ、死んでしまうだろう。もう少し働いてもらうのでもちろん殺しはしない。しばらく締め続けているとわずかな抵抗もしなくなったので、一度手を離して、指先で優しく首筋に触れる。脈はある。次に口元に手をかざし、呼吸を確認。気絶してるだけで、死んでるわけではない。

  

「しばらく操り人形になって暴れてもらおうか」

 

 意識がないはずのフェイトの肉体が立ち上がり、空に舞い上がってどこかへ飛んで行く。本当は本人の意識があっても使えるのだが、無い方が彼女が裁かれることになった時の判決で少しは良い結果が出るだろう。それと動きに障害もなくなる。あとは放っておけばデバイスが身体を動かして敵を探し、リンカーコアから魔力を絞り出して魔法を行使して。少し攻撃力の高いガジェットのようなものとして、私の代わりにしばらく戦ってもらう。戦闘力も機動力も私よりはるかに上なのだから、排除する効率も上がるだろう。

 

『いやあ、すまない。いきなり暴れ出すとは思わなくてね、つい取り逃がしてしまったよ』

「わざとなんだろう。嘘を言わなくてもいい」

『……まあね。そっちに行ってもどうせ戦力になるだけだしいいかなと思ったんだよ』

「それより、一度戻る。地面を走り回るよりガジェットに空爆させて、あとはアレに任せた方が効率がいいだろうからな」

『了解。必要な物はあるかい?』

「いらない……空爆させておけば時間は稼げるだろう。その間、少し休みたい」

『珍しいね、君が弱音を吐くなんて』

「私だって人間だから、一応な」

 

 吐き気はきっと疲れのせいもある。それにしても、結局銃は一発しか撃たなかったし持ってくる必要はあったのだろうか。いや、彼女が出てこなければ使っただろうし、持ってきたこと自体は悪いことじゃない。ただ少し間が悪かっただけだ。

 

 


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