オリ主が逝くリリカルなのはsts   作:からすにこふ2世

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抵抗むなしく。という奴です。


第76話 抵抗

 状況確認。現在地、地上本部付近の路上。障害はエース級近接魔導師一名、砲撃魔導師一名。援軍の可能性が大。障害の排除は困難。撤退するなら時間をかけるのは論外だが、時間がかかるのは必須。というよりも、不可能だろう。いくら肉体を強化しても空戦魔導士の追跡はあのボード無しには振りきれない。戦おうにも武器は中身の不明なナイフ型のデバイスと、蛇と、豆鉄砲のような拳銃のみ。過去共に多くの任務へ赴き、多くの敵を殺してきた相棒ともいえる私のライフルはもう使えない。長かった銃身は中程で真っ二つに切れ、刃を受け止めた衝撃で残っている銃身もゆがんでいる。狙撃の用途には二度と使えないし弾が出るかどうかもわからない。

 

 デバイスを構えてから一秒で思考を纏めあげて、どうするかを決めようとする。決めるよりも前にするべきことは、愛銃の銃身の長さを半分に切り落としてくれた蛇腹剣の刃節の回避しかない。知ってはいたが、初めて相手にする独特の軌道。まるで生き物のように、全方位から襲い来る刃。ひとまずは右側から襲い来る刃を、四肢を地面につけ伏せるようにして避ける。防ぐのは論外、そこを基点に鞭のように撓る刃がまとわりついて、体を傷つけられた上でさらに身動きを取れなくされる。

 地面についた四肢をバネにし、一気に伸ばして大きくその場から前へと飛ぶ。刃の包囲の中にとどまってはいけない。

 

 

「……どうする」

 

 戦闘用の思考とは別に、これからどうするか、という思考を巡らせる。逃げることは不可能に近い。だが、セインを逃がすことにはあっさりと成功した。最悪の結果は避ける事ができたのだ。ここで抵抗しても無意味というわけではないが、今の武装では手傷を負わせることすら困難だろう。ならばいっそ投降するのも選択肢に入れてもよいのではないだろうか。抵抗をやめて投降すれば、少なくとも殺されることはないだろうし……捕まってもまたスカリエッティが助けを出してくれる、なんて都合のいい話はないだろうが。裁判にかけられても、猟犬での活動記録を交渉のネタにすれば死刑だけは避けられるかもしれない。それに生きていれば、エリーの治った姿をいつか見ることができるかもしれない。

 今は捕まっておいて、後で助かる可能性のある選択をするか。ここで死ぬか。選ぶべきは断然前者だろう。

 

 

 だがその前に、やれることはやっておいて損はない。もう少しだけ抵抗してみる。

 

 戦闘用以外の思考を全て切り捨てて、集中し、感覚を研ぎ澄ます。目で見える範囲は空気の流れまで視認できるほどに。見えない部分は聴力でカバーし、全方位を認識下に置く。今度は地面を這い、足を刈り取ろうと襲い来る刃を跳び上がって避ける。接近戦において、動きようのない空中に体を置くということは自殺行為に等しい。だがあえてそれをする。

 足元を通ったばかりの刃が、一瞬の間すら置かずに跳ね上がり、首を切断しようと迫る。回避のしようがない。迫る刃の先端を、強化した左手で殴るように弾く。そして後に続く節が左腕に巻き付いて、私はそれを二の腕から先ごとデバイスで切り落とす。断面から大量の血が噴き出るがおかまいなし。私の左腕は、右腕と違い一度も切り落とされたり食いちぎられたりしていない生身。しかし、私の身体はロストロギアだ。なら生身もクソも関係ない。

 刃節に絡め取られ、離れていった左腕が何匹もの蛇に変わり、刃に絡みつき、そして根本に向けて登り出す。蛇のような刃節を、蛇が絡みついて遡っていく。持ち主は慌ててデタラメに剣を振り回すが、蛇は離れない。その様子をただ眺めるだけでなく、デバイスを口に咥え、上空から私を見下ろしながら、魔法の発動準備をするもう一人に向けて対物ライフルを右腕で持ち、ただ銃床を肩に当てもせず真上に向けてトリガーを引く。当たるかどうかはともかくとして、幸いにも弾は出た。反動が全て手首にかかったせいで手首はイカれたが。そして碌に狙いを付けずに放たれた弾丸はしかし威嚇程度にはなったようで、魔法陣の光を霧散させた。

 

 が、これまで。正面から殺意を感じたと思ったら、既に遅く。目の前に迫る鞘を避けることも受けることもできず、防御魔法を展開しようにも間に合わず。殴られた頭が首ごと引っこ抜かれるような衝撃を受けて、身体が真横に飛び、さらにビルの壁に叩きつけられる。

 気絶こそしなかったが、デバイスは口から離れ、ライフルも手放してしまった。目に血が入って視界が霞んだ上に、さらにチカチカと明滅する星が舞っている。腕からの出血もそろそろマズイ域に達している……ので、バインドをかけて止血。

 戦闘続行は可能だろうか。力の抜けていく身体に喝を入れて立ち上がろうとするが、バランスが悪い上に目の前がぐるぐると回って、立ち上がる前に崩れ落ちた。

 しかたがないので、上体だけ起こしてビルの壁にもたれかかったところを、バインドをかけられて完全に行動不能に。

 

「……」

 

 予想通りの過程に、予想通りの結末。手も足も出ずに負けてしまって悔しいとか、そういう感情は一切湧いてこない。ただ事実をありのままに受け入れる。

 

「あれだけ強く殴ってもまだ意識があるか」

 

 声がした方を見上げれば、息も切らさず余裕の表情すら見せるシグナムが居た。銃が壊れていなければ、あるいは完全な白兵戦を仕掛けてくればまだ勝機は欠片位にはあったかもしれない。しかし今の状況でもしもの話をしても仕方がない。あるのはこの状況という結果だけ。

 

「ハンク・オズワルド。貴様を管理局員への攻撃と質量兵器の不法所持で現行犯逮捕する。不満はあるか」

「……いや」

 

 ノコノコと近寄ってきた彼女へ、神経の伝達ではなく己の意志だけで動かす蛇を飛びかからせるが、全て鞘で叩き落とされる。それとは別にあと二匹を出し、一匹はライフルを持たせて、撃たせる。完全に背後から放たれた弾丸を彼女は簡単に避けてみせ、外れた弾が私の後ろのビルに当たってコンクリートの欠片をまき散らす。

 もう一匹はデバイスを持たせて、こちらに持ってこさせる。もちろん見逃されること無く踏み潰されるが、右腕を蛇に変えて伸ばし、デバイスを確保。

 

「なっ!」

 

 デバイスの補助を得て、身体を縛るバインドの術式に割り込んで破壊する。

 これでもう動ける。血は多少足りないが、さっきの数秒で意識は完全に戻った。身体に強化をかけて、これからすぐに始まる戦闘に備える。

 

「くそ……意識を断っておくべきだったな」

 

 右手に持ったデバイスを顔面に迫る鞘に沿わせ、逸らす。蛇のお陰でどこを狙っているかはわかる。そして視力の強化のお陰でどう振られるのか、軌道もわかる。なので防御に関しては先ほどのように避けられないタイミングで当てられなければなんとか防げる。来るとわかっている所にナイフを置いておけば防げるのだから、楽なものだ。そのまま二度三度と攻撃を防ぐと、相手もただ鞘で殴るだけでは無駄とわかったのか一度手を止めてきた。

 

「逃げられないのがわからないのか……それとも勝てないのがわからないのか。貴様はどっちだ」

「……」

 

 敵と話す舌など持たない、というわけではない。単純にナイフを口に咥えたから喋れないのだ。間合いを置いたところを今度はこちらから詰め寄り、一瞬で再生した左腕を突き出す。驚かせはしたが、それでもしっかり反応して拳の間合いから離れるのは、魔導師ランクは伊達ではないといったところか。そして下がったついでに一度は投げ捨てた自分のデバイスも回収している。私も口に咥えたナイフを手に持ち直して、相手と向き合う。

 

「参った、投降する」

 

 デバイスを待機状態に戻し、バリアジャケットも解いて私服に戻る。やれるだけのことはやろう、という思いで戦って、やれるだけのことをやった。文字通り身を削っての奇襲も失敗したし、これ以上打てる手はない。魔法戦でこいつに手傷を負わせられるとも思えないし、大人しく投降する。

 

「…………は?」

「もう一度言うぞ、投降する。これ以上抵抗はしない」

 

 ナイフを傍に放り投げて、両手を頭の上で組んで降参の姿勢を取る。強化魔法も解除する。

 

「さっきまで抵抗していただろう。信じられるか!」

「倒せる可能性があるなら抵抗するが、文字通り手も足も出ないんだ。抵抗する意味もない」

 

 このまま続けていても、いずれこちらの体力が切れてやられるだけ。最悪殺される可能性だってある。無意味な抵抗を続けて死ぬより、大人しく投降した方が賢い。

 

「……」

 

 敵意は消えない。警戒心も消えていない。しかし先程よりは薄れている。投降の理由に納得してくれたとみていいだろう。

 

「バインド」

 

 魔力で編まれた縄がまた身体を縛る。破ろうと思えば簡単に破れるそれを、今度はそのまま何もせずに受け入れる。

 理想ではないが、最悪でもない結果だ。文句は言わず、ここは一度捕まっておくとしよう。もしかしたら、万に一つ位の可能性で助けが来るかもしれないし。死ぬよりはマシだ。

 


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