私を狙った地上本部襲撃事件から三日。返り討ちにして捕獲した襲撃犯が逃走したという知らせを、電話でさっき聞いた。尋問しても頑として口を割らず、薬をぶち込んでも耐性があったのか口を割らず。おかげで結局奴らの本当の目的がなんだったのか、それはわからなかったそうだ。ただ、身体検査でやつらが戦闘機人という、いわゆるサイボーグというやつだったらしい。それを聞いて道理で身体能力も高いし、骨は硬いわけだ。と一人納得した。あと地面に潜ったりナイフを爆発させたりするのも、そいつらの固有の能力だったとか。どういう原理かよくわからないが、レアスキルも同じようなものか。
「しかし、どこから情報が漏れたんだろうな」
普通ならどこの部隊がどういう戦力と交戦したとか、そういった情報はその部隊を保有する本部……私たちならば地上本部が厳重に管理し、広報するか否かを決定するものだが。広報しないとなれば、どこにも漏れるはずがないのだが。レジアス中将からは入院初日に、今回の戦闘は広報しないという意向を知らせに来てくれた。しかし、なぜか入院二日目には鬱陶しいマスコミが飴にたかる蟻のようにワラワラと病院へやってきた。しかもなぜか私のことを、地上本部に襲撃をかけた犯罪者を単独で撃退し、名誉の負傷を負った、地上本部新部隊の若き隊長、非魔道士における希望などという扱いで取材に来た。静かに寝たいということで院長に直訴して全員お帰り願ったが、顔は撮られるし今日の新聞にはそのことが一面にデカデカと貼られていたし。おまけに今度は騒ぎを聞きつけたあの機動六課の隊長が会いに来た。非常にうれしくない。
「それで、一体何をしに来たんでしょう」
私のベッドの横に座り、ニコニコと非常に楽しそうな笑顔で馴れ馴れしく接してくる八神はやて。今までただの一度も、直接的にも間接的にも接触を持ったことはないのに、この馴れ馴れしさは一体なんなのか。演技でも初対面の人間とこれほどフレンドリーに話せるものなのか。
「まあまあ、そう言わんと。同じ時期に立ち上げた部隊の隊長同士、仲良くせえへんか?」
天然なのか狙って言ってるのか。こいつは地味に腹の立つ事を言ってくれる。。私の質量兵器試験運用部隊と機動六課、予算額の差と、部隊員の数の差も半端じゃないのに、仲良くしろというのはさすがに無理があるだろう。どうせ私の交戦した相手の情報が目的なのだろうし、話す気もなければ話す許可もないので、さっさと帰ってくれないだろうか
「どうせ情報が目当てなんでしょう。中将に聞いてください。私には話す権限がない」
「もう行って頼んだわ」
「なるほど。それで拒否されたから私のところへ来たわけですか」
中将は機動六課を嫌っているからな。嫌っているのは私もだが。頭を下げて頼み込んで、却下される様が目に浮かぶ。しかし同情はしない。嫌われるようなことをする方が悪い。
「まだ拒否されたとも何とも言っとらんけど」
「許可が出たのなら本部で情報を閲覧して今頃隊舎に戻っているはずでは?」
「……まあその通りや」
「ここに来るまでの時間を無駄にしてしまい申し訳ないですが、相手が戦闘機人であり、私を拉致しに来たという事以上はわかりません」
背後に居る人間についてはだいたい予想できる。この広い次元世界といえど、あんなモノを創りだしてさらには管理局に喧嘩を売るような奴といえば、数は非常に限られる。
ジェイル・スカリエッティ……確か、生命工学を研究し、違法な実験を行い、違法なモノを創りだして指名手配されている。管理局が本気を出して捕まえようとすればどこへ逃げようと数日で捕まえられるはずだが、それでも長い間逃亡・隠遁生活を続けているところを考えるとスパイでも居るのだろう。もしくは上のほうがわざと捕まえず、泳がせているのか……そんなことは一兵には関係ないか。
「せやな、無理強いはせえへん。無理言ってごめんな」
「いいえ、構いません。せめてものお詫びです、玄関まではお送りしましょう」
シーツを持ち上げ、ベッドの端に座ってシューズを履いて立ち上がる。傷自体はもう塞がっているが、組織の修復に一週間はかかるということで安静にさせられているだけ。歩くくらいは問題ないだろう。痛みは元から無いからもし傷が開いてもわからないが。まあ、その場合は入院期間がすこし伸びるだけだ。問題ないだろう。
「立っても大丈夫なん?」
「痛みがないので大丈夫でしょう」
きっと大丈夫だと思い、ドアを開いてエレベーターまで連れて行く。エレベーターまでは会話はなかったが、エレベーターに乗ってから話しかけられた。視線は交わさない、隣に立っているだけ。
「なあ、君。管理局の人に助けられて入局したんやろ?」
「……ええ」
助けられたから管理局に入ったわけではない。復讐するための力を手に入れる手段として、管理局に入った。その力を元手にして、私はさらに大きな力を手に入れようとしている。今の部隊も、少しずつ人員を増やし、予算も獲得していくつもりでいる。分の悪い賭けだ、途中で見つかり、蟻のように踏み潰される可能性も高いというのに。我ながら、よくもここまで分の悪い賭けをする気になったと思う。折角部隊を立ち上げたからには最後までやるつもりだが。
「でも、魔導師やない」
「ええ」
「辞めろとは言わへんけど、前線からは引いた方がええと思うで」
何も知らないくせに、よく言う。いや、何も知らないからこそ言えるのか。私がどんな気持ちで管理局に入ったのか、なぜこうして働いているかなど。才能に恵まれ、力に恵まれ……そして強大な部隊と多くの予算を分捕っていった、何もかもに恵まれているこの女にわかるはずがない。
「なぜ?」
「死ぬで。家族や友達を悲しませたくないやろ?」
「家族に友達……エエ、ソウデスネ」
「何や?」
家族は居るが、友人は一人も居ない。おまけにその家族も……昔に比べれば随分と回復してきたのか、最近会う度に「死ね」だの「殺してやる」と言って首を絞めてくる。枯れ果てた木のようにやせ細った腕なのに、首を絞める力だけは力強くて。痛みは無いはずなのに、痛いと感じた。瞳孔は夜中の猫みたいに開いて、眼球は激しく動いて……とてもとても、正気とは呼べない。
私にとっては家族でも、彼女にとっては私はもう家族ではないのだろうか。きっとそうなのだろう。自分が目の前で辱められているのに、助けてくれなかったのだから恨むのも当然だろう。確か願いを叶えるロストロギアがあったと思うのだが、どうにかして奪えないだろうか……それがあれば、もしかしたら心も治るかもしれない。手に入れるのが無理か。
「いいえ、何でもありませんよ」
「……もしかして、家族居らんの?」
鼻のよくきく嫌な女だ。これ以上話したくないな。ボロを出して弱みを握られたくはない。
「居ますよ……ちゃんとね。しかし、これは今話さなければならない事でしょうか」
「それはまた別の機会にゆっくり話し合いたいって事? 嫌やわあ、そんな急にデートの誘いをされても困るんやけど」
あえて言おう。うざい。半端じゃなく、うざい。妹のことを思い出して落ち込んでいるところにこのうざさ。殴りたいけど殴るとマズイ……理性と激情に挟まれて心が折れそうだ。拳を握り締め、深呼吸を一回することで心を落ち着けて耐える。
「……はぁ、馴れ合いをするつもりは無いですよ」
「そうそう、馴れ合いで思い出したわ。危なく忘れるとこやった。今度、部隊同士の交流戦せえへんか? もちろん報酬は出すで」
交流戦? ……拒否しようか。いや、しかし考えてみればなかなかこういった機会はない。実戦に勝る訓練はないが、実戦形式の訓練も対応できる状況を広げるのに役立つだろう。だが、問題は銃だ。非殺傷設定なんて便利なものは無いし、常に急所を狙うように命令してあるから、ヘタをすれば死人が出る。それはまずい。
「私の部隊は目標の殺傷が基本となる部隊ですから、テロリスト役にはちょうどいいかもしれませんね。しかし、模擬弾がないのでひょっとすると怪我人、下手をすれば死人が出るかもしれません」
「模擬弾くらいなら、余った予算で調達したげるけど」
模擬弾くらい? 余った予算? こっちは予算がなくて倉庫の中の使用期限が切れてる弾丸を暴発しないかヒヤヒヤしながら使ってるのに……羨ましいことだ。
「そうですか。なら退院して体の調子が戻ったらお願いします」
「あ、受けてくれるん?」
「生きた的を提供してくれて、さらには模擬弾まで用意してくれるのに、拒否する理由がありませんよ」
エレベータが止まって扉が開き、その先に正面玄関が見えた。ついでにマイクを持ったマスコミの姿も。
「では、私はここまでで。またお会いしましょう、八神二佐」
「ほなな。模擬戦、楽しみにしとるで、オズワルド准尉。あと、はやてって呼んでもええんやで?」
「遠慮させて頂きます」
背中を押してエレベータから押出し、すぐに『閉める』ボタンを押す。目をつけられた以上これから長い付き合いになるだろうが、必要以上に慣れ合うつもりはない。互いに適切な距離を保って、部隊は違うが同じ隊長同士として付きあっていくつもりだ。