オリ主が逝くリリカルなのはsts   作:からすにこふ2世

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オリジナルの方は一段落ついたので、こちらの執筆も再開。二週間に一回位は、更新できるといいなーって感じで。


第80話 帰還

 無事にクラナガンを抜け、一度郊外に身を隠した。遠くにチラチラと光る炎を目標にしてしばらく走って、戦場のすぐ手前まで着いたはいいが。体がそろそろ限界に近い。少しずつペースを落として、何歩か走ってからようやく止まる。

 

「……ふぅ」

 

 立ち止まり、一つ大きく息を吐き、強化に使っていた魔力を身体から抜く。

 考えてもみれば、一時の感情に任せて脱走したのは早計だった。今更私一人が戻ったところで、トーレが死んだ穴を埋められるわけでもないのだし、むしろ碌な武器が無い以上足を引っ張るだけ。トーレの弔いはそもそも、エリーの所に戻るついで。そう、ついでなのだ。だから急いで戻る必要もなかった。

 

「……」

 

 まあ、ここまで来てしまったものは仕方がない。このまま森の中に入ればそこは即戦場。一旦中へと入れば体を休める暇などありはしない。身体はここに来るまでに酷使しすぎてボロボロだが、少し休めばすぐに再生する。なんとも都合の良い身体だが、今までの無茶のツケを払う時間は目の前まで迫っている……多分。

 何故かって、戦場に入ってすら居ないのにすでに吐き気と頭痛がするし。吐き気はともかく頭痛がするのは、蛇の侵食が進んでるからと見て間違いないだろう。痛みなんて久しく感じたことがなかったのに。

 だが、まあ。痛みがあっても無視はできる。この頭の中に響くような感覚も、余計な荷物が一つ増えた程度の認識でいい。身体の何処かに欠損があるわけじゃないから、動くことに支障はない。

 

「……よし」

 

 意を決して、戦場である森の中へと足を踏み入れる。それと同時に多くの断末魔が頭の中に木霊し始める。予想よりも、ずっと激しい。

 五月蝿い。吐き気がする。頭が痛い。

 それを気力で抑えこみ、さらに一歩。全身に怨嗟の念がまとわりつく。身体が重い。断末魔が頭に響く。死者の思いに足を引かれる。目を閉じても瞼の裏に死者の手が伸びる。

 

 だが、いくら積み重なっても所詮は死人の念。質量を持たないそれに足を引かれることなどありえない。おまけにその念の中身は、生者への嫉妬などという下らないものだ。そんな思いに私の渇望が引かれて動きを鈍らせるなどありえない。

 

 瞼の裏に伸びてくる死人の手を弾き飛ばし、目を閉じて索敵を開始。近くや遠くから刃のような鋭い殺意がいくつも感じ取れるが、私に気付いている勘のいい奴はほんのわずか。そして、殺意の他に一つ色の違う念を見つける。こちらに向けられる殺意には蛇を向かわせ、私はたった一つ、森の奥に見える色の違う死者の念に向けて足を進める。

 

 草を分け、木を避けて、森の奥へと進んでいく。何度か管理局の連中と鉢合わせしそうになるが、気付かれる前に足を止め、身を潜めて通りすぎてからまた動く。私に気付いていた連中は蛇が絞め落としてくれたようなので、もうこの森の中に私のことに気付いている人間は居ない。誰にもばれないように、さらに奥へと進んでいく。

 

 

 

 そして、また何事も無く目的地に到着した。

 月明かりの中に、胴体を二つに分断され、血と臓物と機械の破片をまき散らした美女が一人。上から差し込む月明かりに照らされながら、眠っていた。というよりかは、死んでいたが正しい。

 状況とこいつの能力から考えて、高速機動を止めた瞬間を補足されて落とされたか。人には死ぬなと言っておきながら、ずいぶんと自分勝手なやつだ。

 

「……はぁ。馬鹿野郎」

 

 深い溜息と共に、思いを吐き出す。怒りは湧いてくるが、怒鳴るほどじゃない。悲しいが、泣くほどじゃない。

 ぼんやりと、月明かりに照らされてた死体から輪郭の定まらない靄が立ち上る。

 

『すまんな。ハンク』

 

 その声が聞こえた瞬間に手をのばす。だがそこには何もなく、伸ばした腕は虚しく空を切った。

 これはきっと幻聴だ。極度の疲労が引き起こした幻聴。蛇の創りだした死者の念。いくらトーレの声に似ていても……死人がしゃべることはない。

 ……そう、思い込めれば楽なのに。

 

「……」

 

 目を閉じる。こんな時に涙の一つでも流せれば、弔いにもなるんだろうが。こんな悲劇とも呼べない喜劇じゃ悲しくても泣けはしない。昔泣きすぎたから、涙はもう枯れてるんだろう。

 

「薄情者ですまんな」

 

 二つに別れた死体を、蛇に飲み込ませる。泣けないのならせめて、この死体を親の所へ持って帰ってやるべきだろう。持って帰って、きちんとした墓を作って埋葬してやれと言えば、そこまでやって初めて弔いになる。

 

 遺体を蛇に丸呑みにさせたら、その蛇を連れて森の中を進む。幸い隠しハッチの周りにまで敵は来ておらず、暗証番号も変えられていなかったために、あっさりとスカリエッティのアジトの中へ戻れた。暗い通路に電灯が灯り、こちらに銃口とミサイルを向けて待ち構える多数のガジェットが照らされた。

 

「……」

 

 撃たれないので、そのままガジェットの前を通ってエレベーターホールに繋がるドアを開こうとする。すると、肩に誰かが触れた。振り返ると、そこには見慣れた水色の髪が。顔は、もうぼんやりとしていて見えない。

 いや、まだ手は伸ばされていない。そうしようという考えを拾って、それを触られたと錯覚したのか。

 

「……おかえりなさい」

「こう言っていいのかどうかはわからんが……ただいま。トーレの事は、すまない」

「ハンクは関係ないよ。君が居ても、居なくても。きっと……」

 

 重い声。怒りと、悲しみと、憎しみと。多くの色が混ざり合って、彼女の姿を隠している。だから、彼女が今どんな顔をしているのか、わからない。泣いているのか、怒っているのか、それとも笑っているのか。

 

「ッ……!」

 

 家族を殺された時の気持は、私もよくわかる。それをぶつけたいが、ぶつけるべき相手が私ではない事を理解しているから、感情の行き場を失っている。私が傍にいるせいで、その気持ちが余計に増幅されている。このままだと遅かれ早かれ壊れてしまう。そして、私と同類になってしまう。世話になった相手が『そう』なってしまうのは、私は望まないし、彼女も望まないだろう。憎しみだけに囚われて生きるのは人の生き方じゃない。私が言うんだから間違いない。

 こういう時に落ち着かせてやる方法は、一つしか教えられてない。

 

「お前の気持ちは俺にもわかる。俺もお前と同じように、家族を殺された。だから、そういう時にどうすればいいかも知ってる」

 

 親が子をあやすように、背中に手を回して、優しく抱きしめてやる。そうすれば多少は落ち着く。一度落ち着けば、それも蛇が増幅してくれる。蛇は悪いことだけじゃない、こういう使い方もある。

 

「……そんな、困るよ。離してよ……」

「我慢はするな。泣きたいなら泣けばいい。怒りたいなら怒ればいい」

 

 私は頼る相手が居なかったから、仇を憎むことでしか心を保てなかった。唯一残った家族もあのザマ。心の拠り所にはならず、私に義務を負わせるだけの重荷でしかない。だが、こいつは違う。一人減ってしまったが、他に十人もの『マトモ』な姉妹と、少し頭のネジが外れているが、一人の親が居る。それでも、どうしても私と同じ道に走るのなら、あえて止めることはしない。

 

「あたしは……我慢なんか」

「強がらなくてもいい。お前はまだ子供なんだから、少しは年上を頼れ」

 

 だが、勧めもしない。他にもっといい道があるのに、わざわざ茨の道を進む必要はない。そう私は思う。

 

「……い。憎い……あたしは、管理局の奴らが憎いよ!! あたし達もたくさん殺してきたけど、そんなのは知ったことじゃない! 皆殺しにしてやりたい!!」

 

 心からの声。セインの本心。聞き出したかった言葉。我慢することをやめて暴れだしたセインを腕力で無理やり抑えこむ。戦闘機人を抑えこむのは文字通り骨が折れるが、それでも強化魔法を使って、蛇の再生能力も合わせればなんとか。

 

「ああ、俺もそうだった」

「ねえハンク、復讐って苦しいの!?」

「苦しい。あんまりに苦しくて、何度も死にたいと思った」

「殺したら、スッキリするの!? 全部解決するの!!」

「復讐で得られるのは一時的な満足だけだ。何かの解決にはならない」

「復讐、終わったらどうなるの……」

「何もない。人殺しの罪と、全部終わったって虚無感だけが残る」

 

 吐き出すものを吐き出したら、大分落ち着いてくれたようで。なんとか暴れるのはやめてくれた。

 

「……復讐、した方がいい?」

「自分で決めろ」

「ハンクは、どうしてほしい?」

「始めるのに他人の助言を求めるくらいなら、やめておけ」

 

 復讐の道を選んだ私に彼女を止める権利はない。だから助言にとどめておく。

 

「……」

 

 それに、さっき話していた時は忘れていたが。もしセインが復讐を始めるにしてもまずは目の前の、試練、というよりはもはや戦争になっているが。を突破しなければならない。これを終わらせなければ復讐も何もないだろう。

 そこまで言って、しばらく抱き続けてやる。五分か、十分か。するとようやく泣き止んでくれた。

 

「落ち着いたか」

「うん……ありがと。そろそろ離してくれるかな、恥ずかしい」

 

 言われたとおりに離してやる。顔は少し赤いが、さっきまで纏わり付いていた靄は綺麗に晴れた。

 

「なら、スカリエッティの所へ連れて行ってくれ。散々頭を殴られたせいで中の構造が思い出せない」

 

 武力という面ではもう力になれないが、それ以外のことなら手伝えることもあるだろう。私には私の戦いがある。

 

「……わかった。ところで、あの蛇は? やけに膨れてるけど」

「知らない方がいい。少なくとも今のお前は」

 

 もし中身を知ったら、折角落ち着かせたのが全部台無しになる。見せるのは、何があっても動じないであろうスカリエッティと、ウーノだけにした方がいい。ドゥーエは見せる見せない以前にここには居ないし。とにかく、その他の連中には見せたらどういう反応が返ってくるか予想がつかないから、見せずに持っていく。

 

「ひょっとして……嫌なもの?」

「さっき落ち着かせたのが全部台無しになる位には」

「……じゃあいいや。こっちだよ。ついて来て」

 

 さて。私が捕まっている間に、状況はどの位悪くなってるのやら。




今回の話でハンクの一人称が「俺」となっている部分があるのは誤字じゃありません。

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