オリ主が逝くリリカルなのはsts   作:からすにこふ2世

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第83話

 強烈な一撃を持って砕かれ、再生し、限界を超えて既に人の形を留めない四肢。体中が、煮えた油をかけられたように熱く、痛み、脳が発する警告がもう動くなと命令し、立ち上がろうという意志に反してただ痙攣を繰り返す肉体。

 こんな体で、私をここまで追い詰めた相手に一体何ができるというのか。何も出来やしないだろう。だが、それでも、幸か不幸か私はまだ生きている。

 

「まだ、生きてるぞ」

 

 視界が半分消滅しても。体が醜く膨れ上がろうとも。まだ生きている。体は再生している。ならばまだ戦える。一秒でも長く、相手をしてやる。時間を稼いでやろう。何度手足を砕かれようとも、何度全身を潰されようとも、死ぬまで相手をしてやる。悲願のためだ、多少の苦痛は代償として受け入れられる。

 

「……化物ですか。いえ、失礼。正真正銘の、化物ですね」

 

 何も言わず、肉体強化をさらに重ねがけ。相手の速度の前には、射程など合ってないようなもの。実力は離れすぎて、渡り合うなど到底不可能。ならば小手先の技でごまかしたり、相手から離れて蛇で攻撃するようなことは諦める。

 大人しく、いつも通りの方法でやろう。殴られながら、致命の一撃を叩き込む。打たれながら、全力の一撃をためて、打ち込む。だが一回ではとても当たらないだろう。十回でも当たるかどうかわからない。ならば百回挑戦しよう。ああ、しかしあまり時間はない。できれば一度で仕留めたいところだ。

 

「あなたの目的は時間稼ぎ。時間をかけるほどあなたの思う壺。しかし、無視して背を向ければその背に牙が突き立てられる。であれば、全力で、最速で潰すが最善」

「よくわかってるな。ならやってみせろ」

 

 こちらとしても、長引けば長引くほど後に響く。いつ増援がやってくるかわからない以上、いつまでも相手をしている暇はない。早期決着はむしろ望む所。当然結末はこちらが勝つ。

 

「やってみせましょう」

 

 視界から消える。どこを打つかはわかる。あえて、受ける。

 

「ッ!」

 

 衝撃。打たれた部分が消し飛ぶ。構わない。どうせすぐに再生する。再生していない場所を殴られる。またそこが消える。しかし、蛇が隙間を埋める。

 先程よりも一撃一撃の重さは増している。だが、それ以上に、こちらも早く再生する。痛みなど既に有ってないようなもの、無視できる。

 ひたすらに、サンドバッグのように殴られ続ける。殴られて、その部分が消えて、その度に再生する。腸が散ろうと、肉が弾けようと関係ない。相手が殴り疲れるまで、あるいは耐えかねて大技を出す。その時を、ジッと。彼女もそれはわかっているようだ。より激しくラッシュをかけて、再生が追いつかなくなるように殴り続ける。凌げるものは五本の腕で防いで、一本は未だ力を溜めておく。

 

「そうだ! それでいい!!」

 

 大きく叫ぶ。如何に高ランクの魔導師であろうと、こいつは人間だ。無呼吸で殴り続けても、いつかは限界が来る。それを待ち、待ち……待って…………。

 彼女が大きく振りかぶり、私を殴ろうとする。

 

「今!!」

 

 溜めに溜めて。元より有った右腕で、満身かつ渾身の力を込めた一撃。デバイスで防がれる。拳が砕けた。だが、ミシリと、わずかにデバイスが軋んだ。ここで、拳に固めた魔力を前へと指向性を持たせて解放する。

 ボッ、と鈍く爆発音がしたら、双方共に大きく後ろに吹き飛び、私は壁に叩きつけられ。相手は顔を煤けさせながらも、しっかりと床に足をついて減速し、止まった。その顔は心なしか先ほどよりも楽しそうに見える。

 

「「……惜しい」」 

 

 双方共に、そう呟く。キッチリ当てれば必殺の二段構え。初撃で固い防御を抜いて、二段目で確実に破壊する。その位の心構えで放った一撃は防がれてかすり傷で終わる。悪戯に魔力を消費しただけに終わってしまった。

 まあいい。どうせ体と同じように、魔力も回復する。

 

「本当に、摘むには惜しい。ここで仕留めなければならないのが本当に残念でなりません」

「なら今すぐ回れ右して帰ってくれ」

 

 声も表情も残念そうには見えない。むしろその逆。蛇を通すまでもなく歓喜の感情が溢れでているのがわかる。怒りも少々混ざっているが、それでも愉悦の方が遥かに大きい。

 こういうのをバトルジャンキーと呼ぶのだろうか。

 

「それは出来ませんよ。私も部下を二人殺されていますから、さすがに手ぶらでは帰れません」

「そうだよな。まあ」

 

 自業自得といえばそれまでだろう。お互いに。どういった理由かは知らないが、あちらはこちらの陣地に侵入して暴れまわった。その結果部下が死んだ。自業自得。

 こちらはあちら側の平和をかなりかき乱した重犯罪者。テロリストとも言い換えられる。狙われるのは至極当然。自業自得。

 

「頭を完全に潰せば、さすがに死んでもらえますか? 死なないまでも、気絶くらいは」

「わからんな。やったこともなければ、やろうとも思わん」

 

 さらりと恐ろしい言葉を吐く。しかし、今の言葉は冗談でも何でも無く、本気なのだろう。現に頭の半分を消し飛ばされた。

 

「では、やってみましょう」

 

 閃光が奔り、頭が砕け散るのを自覚する。瞬時に再生。驚く彼女の手を掴み、握りつぶさんばかりに力を込める。

 

「……本当に、どうすれば死んでもらえるんでしょうか」

「知らんな。だが」

 

 さっきと比べれば随分遅くもう片方の手が振るわれ、それを掴む。今度は脚が振るわれるが、こちらの腕は六本ある。さらにもう一本の腕を使い、止める。そして、握りつぶす。簡単に骨が砕け、デバイスが手からこぼれ落ちる。それを脚で遠くに蹴り飛ばし、無力化は完了。

 

「わざわざ隙を晒してくれてありがとう」

「くっ!」

「化物は、人間じゃどうしようもないから化物なんだろうな」

 

 バリアジャケットも剥がれ、教会で見た修道服の格好に戻る。こうなればいかな魔導師と言っても、ただの人間と変わりない。そして私はただの化物。ただの人間と化物が争えば、死ぬのは人間の方だ。

 

「私の負けですね……殺さないんですか?」

「生きていれば色々と使える」

 

 殺さず、しかも後遺症も残らない程度の損傷で捕らえるなど普通ではできるはずがない。こんな時に運が巡ってくるなど……まあ、こちらにとっても、彼女にとっても悪いことではないので良しとしよう。生きていれば肉の盾、人質、身代金と、使い道はいくらでもある。時間があれば洗脳して駒にもできたが、残念ながらその時間はない。

 背中から生えた腕の一本を切り離し、大蛇に変えて彼女を巻く。生きて帰れるのだから、運がいい。

 

「辱めを受ける位なら自殺しますよ」

「暴力シスターを襲う位なら、仲の良い女が他に居る。安心して捕虜になれ。暴れられたらかなわんから、治療はしばらく後になるがな」

 

 巻いた彼女を肩に担いで。蹴り飛ばしたデバイスは蛇に回収させて、来た道を戻っていく。

 

「捕虜になった時点で、安心などできるはずもないのですがね」

「自分の判断ミスを恨むんだな」

 

 実力差を考えればわからなくもない判断だが、最初に撤退していれば部下が死ぬことも、自分が捕虜になることもなかっただろうに。まあ、ともかくだ。望外の結果になったのだし、一応スカリエッティに報告しよう。

 

「スカリエッティ」

 

 念話で話しかける。無線機を使おうとしたが、攻撃を受けたせいでグシャグシャだったので諦める。慣れないからあまり得意ではないのだが。

 

『君か、負けて見逃されでもしたかな。逃走の助言なら不要だよ、もう何もかも遅すぎる』

「逆だ。シスターシャッハに勝って、捕まえた。手足も砕いてある」

『……冗談だろう?』

「冗談なものか」

 

 そう思いたくもなる。私だってそう思いたい。

 

「だが、これで終わったわけじゃない」

 

 一人厳しい敵を無力化したからといってそれで終わるわけでもない。どうせまた増援が来る。外で頑張るナンバーズもいつ限界が来るやらわからないし、そうなったらまた内部に侵入してくる敵と戦わなければならない。

 まだまだ、先は長い。




実は結構前に書き終わってた。仕上げを放っておいて、新作&オリジナルを優先してたら遅くなりました。すみません。

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