オリ主が逝くリリカルなのはsts   作:からすにこふ2世

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最終決戦

 ゆりかごが土と轟音を巻き上げて、ゆっくりと空へと舞い上がっていく。私の希望が空へと登る。そして、そこに群がる邪魔者達。立体スクリーンに映る外の光景だが、その邪魔者たちは対空システム相手に全く歯が立たず、誘蛾灯に集まる羽虫のように寄ってきては落とされていく。

 この調子で何もなければ、無事に大気圏外まで上がれるだろう。何もなければ……

 

『やあ、調子はどうだい』

「良好だ。どうしたスカリエッティ」

『ガジェットを大量に撃破しつつ、高速で接近する魔導師が二名。宝物を取り返しに来たようだよ』

 

 やはり、何もなしとはいかせてもらえないな。予想よりも一人多いが、想定の範囲内。全戦力で突っ込まれてはさすがに落とされる可能性もあった。一度に来ればいいものを、拠点を落とすのに戦力の分散して投入するのは愚の骨頂だ。

 まあ、こちらも人の事は言えない。重要な防衛目標が二つあって、そのどちらにも戦力を割いているのだから。

 

「機動六課か」

『ご名答。もうじきに到着するよ』

 

 どうするか考えて、考えて。強力なAMFが効果を発揮しているゆりかごの中は、銃火器がメインウェポンの私にとってはかなり有利な状況。とはいえ、あれは私とは別のベクトルで化物だ。万が一をかなり高い確率で起こすエース。できれば戦闘は避けたい。

 

「クアットロ。対空防御はどうなってる」

『困ったことに、薄い所を突いてきたわ。その分ガジェットを回してるのだけど、それも次々壊されてる』

「他の有象無象は張り付かれても問題ない。射程圏内に居るガジェットのミサイルを全部叩きこんで可能な限り消耗させろ。落とせなくてもいいから、ミサイルを抱えたまま落とさせるな。そうすれば後が楽になる」

 

 対空砲火の一番薄いところ、というと。確か装甲も薄かったような。だが、ゆりかごの出入り口はそこにはない……魔力砲撃でぶち抜かれない限り。しかし間違いなくやってくるだろう……かつての空港の件もあるのだし。多分、入り口を探してそこからお行儀よくノックして、入る許可を求めてから。なんてせずに装甲を砲撃で破壊して、入り口を作って侵入してくるだろう。かつての空港での一件もあるし、そのくらいはやって来るに違いない。

 

『……そうしたいところだったけれど。該当区画のガジェットの消耗率は六割を超えてる。これ以上は周りの敵の侵入を許すことになるからできないわ。さすがにこれ以上物量のアドバンテージを失うのは不味い』

「なら仕方ない。中に誘い込め。私が止める」

『そうなったらやってもらうしかないけど。できるの?』

「実は、私は今まで一度も任務を失敗したことがない。数少ない人に誇れる事だ」

 

 一度でも失敗すれば死んだ任務ばかり受けてきて、その全てを成功してきた。

 とはいえ、いくらなんでも今回は不味い。エース級が一人ならともかく、二人ともなると。一人は高町なのはで確定で、もう一人は一体誰になるのか。高町の殺意が強すぎるせいで、どうにもその影に隠れてしまってその感情が見えない。そこまで強い殺意は感じないのがどうにも気になるが、排除目標には変わりない。

 

『はぁ。万が一あんたが勝ったら、借り一つね』

「失敗すれば十割。成功しても九割死ぬ。気にするな」

 

 どちらにしても死ぬのが前提の作戦。これほど無謀な作戦も、猟犬の時には何度もやってきた。かつての報酬は復讐の土台作りだが、今は家族を救うため。相手はどうなのだろう。家族を救うためか、友人の敵討か。まあ、それは対面した時に聞けば分かる話。ゆりかごの外と中ではAMFの効果が段違いだが、対空砲火をくぐり抜けて取り付いたのだ。ここに辿り着く前に死ぬということもないだろう。

 

 そう思っていると、ゆりかごの船体が小さく揺れた。揺れた、といっても船のサイズからして、車に飛びついて揺らすのとはわけが違う。これほどの巨体を揺らすのには、どれほどの質量をぶつけるか。どれほどのエネルギーが必要になるか。それを個人でやってのける化物は一人くらいしか居まい。

 

『外壁損傷。侵入されたわ』

 

 いつもの余裕綽々な態度とは真逆に、少しの不安をはらんだクアットロの声。私にとっては想定内の事だ。対応するための策、という程のものではないが考えてある。

 

「ここまで素通りさせろ」

『は?』

「素通りさせろ、と言っている」

『ああ、とうとう本気で狂ったの』

「馬鹿を言うな。ありったけの戦力をぶつけられて臨戦態勢の奴を前に正面切って殴りあうより、素通りさせて良ければ油断。悪くても警戒態勢の相手を一発で殺すほうが楽でいい」

『自分が負けたら後が一つしか無いって事、わかって言ってるのよね』

「わかってる」

『逃げたり、降伏して命乞いする気じゃないでしょうね』

「私の妹は、次元世界の安定よりも。私自身の命よりも重い」

 

 何度も命をかけて戦った。何度も命をかけて任務を果たした。捕まっても自分の意志で逃走し、スカリエッティの下へ戻ってきた。その行動を省みて、クアットロはどう思うか。逃げようとすればいつでも逃げられた。裏切ろうとすればいつでも裏切れた。それをしなかったのは何故か、妹のためだ。それがわからないほど馬鹿なら、爆弾を抱えて特攻してでも私の意志を示してみせる。

 爆弾ならもう抱えてるが、な。

 

『……信用していいのね』

「任せろ」

『隔壁一部解放。全ガジェット待機モードに移行。あとは念話でも送って、ここに居るって宣言すれば勝手に来るわよ……あとは任せるわ』

「そうさせてもらう」

 

 敵意の方へと歩き出す。この策が功を成せば、勝機もわずかに増す。だが、その勝機をさらに増やすために、それを賭金にして博打をする。既に相手は殺る気に満ちあふれているが、それでも顔を見た瞬間に問答無用で砲撃をぶち込んでくるほど危険人物でもあるまい。こちらから攻撃を仕掛けなければ、対話の足がかりはある。

 対話をして、あわよくば説得……は無理だろうからその最中に一撃叩き込めばなんとかなる。そう信じて、大量の爆薬、武器をもたせた蛇を連れて殺意のやって来る方へと進んでいく。障害物もないし、なかなかのスピードで向かってきている。このままなら五分とかかるまい。

 

 そして、そう考えてから三百秒ちょうど。殺意の塊が目の前に現れた。通路を曲がり、中空を飛行し。殺意に濁った目でこちらを見据えて、停止した。次いで現れた赤い少女も同じように。

 

「……」

 

 向けられた金色の矛先の杖。真っ白なバリアジャケット。栗色の髪。そして質量を持たないはずなのに、体を押しつぶされそうと錯覚するほどの魔力量。それよりも強烈な殺意を私にぶつけてくるのは、高町なのは一等空尉。

 その隣にいるのは、小さな体躯に見合わぬ錘を手にし、片腕を無くした少女。八神ヴィータ。こちらからは感情が読み取れない。

 

「招いた覚えはないが、ようこそ。ゆりかごへ」

 

 いきなり砲撃を受けるということはないらしく、まずは挨拶。銃口を降ろし丁寧に、礼儀正しく。

 

「探さなくても、出てきてくれたんだ」

「招かれざる客でも歓迎は必要だろう。できることなら入り口から帰ってもらいたいが……まあ、それができるわけもないか……ああ、ちなみに、私を通り抜ければ聖王の間はすぐそこだ」

 

 ひとまず、自分の背後に蛇の網を張り巡らせる。これ以上先には進ませない、という意思表示の代わりだ。

 

「なら、そこを退いてくれないかな」

「無理だな。申し訳ないが」

「私が君を退かせるのなんて、簡単だって、わかるよね」

 

 ひとまずは網にかかってくれた。おまけにこいつは私のことを完全に下に見ている。たやすく飲める相手だと、油断している。それがどれだけ危険なことか、わかっていない。だが問題はもう片方。何を考えているのかわからない。蛇の眼を持ってしても、感情が読み取れない。

 まあ、片方の殺意が強力すぎるからだろうが。

 

「退かすか。それはまたどうやって」

「実力で」

「痛みで気を失うほどヤワな訓練はしてないぞ。少なくとも、死ぬまでここを退くつもりはない」

 

 挑発的に微笑んでやる。

 

「まあ、そのほうが願ったりかなったりだろうがな。娘を奪還するついでに、私も殺しに来たんだろう?」

「……」

「認めろよ。化物。認めろよ。殺したいって。家族を奪われて、友人を傷つけられて。怒ってるんだろう? 一度は私を殺そうとしたじゃないか」

 

 人の感情を操る話し方は、猟犬の頃に散々仕込まれている。ましてや相手が冷静さを欠いているのならば、誘導はたやすいことだ。面白いように殺意が膨れ上がっていく。

 

「ふふふ……まるで、悪党みたいだね」

 

 殺意に凍りついた顔が、愉悦の顔に歪む。心の底から憎い相手を殺せるという喜びを目の前にして、自分を抑えきれないのか。きっとそうなのだろう。

 

「そうとも。私は悪党だ。大勢の人を殺して、傷つけて、お前の家族を攫った悪党だとも」

「じゃあ、そうしてもいいよね」

「ああ、殺したいなら殺せばいいさ」

 

 殺意を向ける対象からの許可を得て、魔力が固まる。

 

「だが、人殺しを友人や家族がどう見ると思う?」

「ッ!?」

 

 その一言に殺意が揺れる。憎しみばかりが膨らんで、未だ覚悟が固まっていないようだ。後のことを考えていない。

 

「私を殺したその後だ。晴れて娘を奪還したとしよう。私達が負ければ、フェイト・テスタロッサも元通りとは言えないが返ってくる。私の妹は助からないが、お前らにとっては万々歳の結果だ。だが、お前は私と同類になる。殺した人数は違えど、殺したという事実は変わらない」

「なら殺さずに捕らえるだけだよ」

「そうだな。そうすれば私は裁判を受けて、大量殺人と破壊工作、テロの罪で死刑になるだろう。しかしどちらにせよ結果は同じだ。死ぬのが早いか遅いか。直接殺すか、間接的に殺すかのどちらか」

 

 そこまで話すと、彼女は言葉に詰まる。

 

「フェイト・テスタロッサは私のことをひどく嫌っていたよ。汚い人殺しだとな。ヴィヴィオ、だったか。あの子も怯えていたよ。自分も殺されないかとな……お前も同じ目で見られることを考えてみたら、どうだ?」

「……」

「私を倒し、スカリエッティの企みを挫く。そうすれば妹も死ぬ……何の罪もないのに心を壊された私のかわいい、それでいて哀れな妹は、この方法以外では助けられない! つまり心が死んだまま生き続ける! 助かる命を切り捨てるのは、殺人と同じじゃないのか!? 無辜の民を殺すのが正義なら、そうするがいいさ!」

 

 それはとてもとても悲しいことだ。私が今まで殺してきた全ての人の死が無意味になる。全ての罪が無意味になる。

 

「あなたは自分の家族にそういう目で見られてもいいっていうの!?」

「良くなければこんなことはしないさ。それに、家族を助けるために罪を犯す気持も……ヴィータ。お前もわかるだろう」

 

 さっきから黙っている彼女にも話を振る。できれば注意をこちらにも引いておきたい。そうすれば周りの仕掛けにも気付かれない。

 

「わかる……けどさ。他に方法は無かったのか、お前は」

「ああ。探したとも。幼い頃からずっと考えてきた。どうしたら彼女を助けられるか、常々考えて。精神病院に入院させて、ずっと、あらゆる法律で許される治療を受けさせてきた……だがそれじゃダメだった。それで見つけた最後の希望が、この方法だ」

 

 復讐のための土台作りと、家族の治療。その同時をこなして、心の内を他人に知られないようにするのは全く大変の一言では片付けられないほどの苦労だった。

 

「要は、スカリエッティに『私なら治せる』と言われて従ってんのか」

「その通り」

 

 事実に若干前後はあれど、概ねその通り。復讐の機会を与えてくれるというのもあったが、今従っている理由はそれのみ。

 

「……家族のためなら、自分はいくらでも手を汚すって?」

「さらに付け加えるなら、自分の命を捨てるのもためらわない! その過程で人を殺した事を知られる覚悟も有る。正気に戻った彼女が死ねと言うのなら、それに従う」

 

 そして、最後に一息。思考を切り替え、本音を吐き出す。

 

「僕は、エリーのために生きている。そしてエリーのために死ぬ」

 

 一瞬だけ心の仮面を外し、幼少の頃殺した本当の自分を曝け出す。そして、また仮面をかぶせる。

 

「さて、改めて聞こう。私を殺して先へ進むか、諦めて元に戻るか。高町なのは、八神ヴィータ」

「私は、無理だ。お前のことを殴る権利はねえ……昔、お前と同じように家族のために、殺してはねえけど沢山の人を傷つけた」

「いい子だ」

 

 だが。その立ち位置では巻き込まれるのは確実。戦う意志がないのに死ぬのは哀れだが、ここまで来たのだ。覚悟はできているだろう。

 

「……君なら、家族のためにどうするか。わかるよね」

「ああ。そうだな。残念だよ」

 

 会話での時間稼ぎはもう終わった。爆薬をつけた蛇の配置はもう終わっている。一歩前に出て、一言。

 

「135番、136番を除く全隔壁閉鎖」

 

 通路の奥から勢い良く降りてきたいくつもの隔壁が、ガンと音を立てて床にぶつかり、そして私と彼女たちだけの個室が出来上がった。戸惑う様子もなく、ただ敵意だけが変わらず向けられる。

 彼女らは、このまま決戦を行うつもりなのだろう。

 

「AMF最大出力」

 

 体にかかっていた肉体強化の術式が妨害を受け、強制的に解除され、砲身が一瞬だけ下がる。それを筋肉で支えていると、あちらも同じように飛行術式が解けたのか、宙に浮いて私を見下していたところから、地面に落下する。これで同じ目線だ。

 

「起爆」

 

 体勢を立て直す暇も与えず、総量百キロを超える爆弾の一斉起爆スイッチを押す。そして、視界が太陽のような光に包まれる。

 さあ。いくら不死身の体と言っても、体の全てが消えてしまえば死ねるだろう。心残りはあるが、これでエリーが助かるのなら……それでいい。




次回へ続く
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